第619話 春の訪れは春に

冬の間に新領を一人でもくもくと開発。王都からディノスレイヤ領に抜ける街道に向けて領地を広げ、さらにボロン村方面にも広げていく。スンドウにここをホーリックに領主代行をさせて、スンドウには領の宰相のような役目を任命するからなと伝えておいた。それと王都横に作った領地と繋げて巨大領にするからと。


主な産業にする予定は麦、米、餅米、トウモロコシ、小豆、綿花、家畜、ワサビ、マスの養殖、魔道具とポーション工場や布工場だ。それに加えてパラグライダーとアスレチック、マスの釣り堀等のアクティビティ。そこにはバーベキューなんかを楽しめるロッジ風の宿泊施設を建設しよう。


魔石充填用の魔力スポットも2箇所開発したので、魔石部隊は3箇所を管理する。


そしてボロン村に行き、味噌職人をドラゴンシティに派遣してもらうことになった。ディノスレイヤ領からは醤油と酒の職人を派遣してもらうことに。ボロン村とディノスレイヤ領を繋げるのはベントに相談してからやるか。


俺はこっちの仕事を優先し、時々ドラゴンシティに行っては作物を育てをして冬を過ごした。



ー3月下旬ー


「ゲイル様、以前お話し頂いた、キキとララの養子の件をお願いして宜しいでしょうか」


ホーリックとフンボルトが俺にそう申し出て来た。


「決心は固まったのか?」


「はい、実家との話もまとまり、ゲイル様の養子ならばぜひにとなりました。心より感謝申し上げます」


「ゲイル様、本当に私達を養子にして下さるのですか?」


「もちろん。ずっとお世話になってたから、義理とはいえ家族になるのは嬉しいよ」


二人は泣きながら俺にしがみついて来た。


「ありがとうございます。ありがとうございます。こんな幸せを頂けるなんて夢のようです」


「ちゃんと二人とも幸せになるんだよ」


「はいっ」


二人を養子にした知らせはすぐにエイブリックの耳に入ったようで、秘密通路を使ってやって来た。


養子にした理由と今後の予定を説明する。


「それは正式に領地を譲渡するということか?」


「ちょっと迷ってるんだよね。名目上は俺の領地にしておいた方が他からチャチャ入らないかなぁとも思うんだけど、もうゴーリキーもこっちサイドだから問題もないかとも思うんだよ」


「そうだな。まぁ、しばらくはゲイルの領地にしとけ。また色々やらかす予定なんだろ?」


やらかすってなんだよ・・・


「確かに他にはない仕組みを作ってるけどね。ダンが辺境伯になる頃までは俺の領地にしておくよ」


「わかった。こちらもそのつもりにしておく。で、頼みがあるんだがな」


またなんかさせられるのか?


「なに? めちゃくちゃ忙しいから他の仕事は無理だよ」


「いや、仕事じゃない」


ん?


「なら何?」


「ミグルをお前の養子にしてくれ」


「は? なんで?」


「アルがミグルと結婚を考えているらしい」


「えっ?」


「お前との婚約は正式なものではないだろ?」


「あぁ、うん。ミグルが勝手に言ってるだけ。でもエイブリックさんは許可するの?」


「仕方があるまい。今、貴族の中から王子の嫁候補を選ぶのは大変でな。スカーレット家がこちらに付き、ブランクス家もなくなった事で派閥というものがなくなった。そこから嫁取りするとどこが一番王家に近いとかなりかねん」


なるほど。


「で、二人はその気あるの?」


「とっくにそうだったみたいだぞ」


確かになんやかんや言いながらあの2人は仲良かったからな。アルはずっとミグルをかまってたし。ミグルもそれが嬉しそうだった。


「わかった。それは俺からミグルに言ってやった方がいいんだね?」


「あいつはお前と結婚すると言ってた手前言い出せんだろうからな。頼めるか?」


「いいよ。明後日に話をしてみるよ。アルには意思確認しなくて大丈夫?」


「それは俺がしたから大丈夫だ」


了解と返事をしておいた。


ツインズの時は反対する訳がないと思ってアーノルド達には何も言わなかったがミグルは別だ。義理とはいえ王家と義理の親戚になるわけだがらな。


ドワンを誘ってアーノルドの所へ移動。小屋で飯を食いながら相談することに。


「はぁ? ミグルがアルと結婚? 本当かそれ?」


「らしいよ。だからミグルを俺の養子にして身分を釣り合わせるらしい」


「じゃあ、ミグルが義理の娘になるの? 嫌だわ・・・ まぁ、ゲイルのお嫁さんじゃないからまだいいけど」


アイナは勘違いをしている。自分よりはるか歳上の元仲間が娘ではなく孫になるのだ。ミグルにお婆ちゃんと呼ばれたら発狂するかもしれんから黙っておこう。


「坊主はその話を受けるじゃろ?」


「二人もその気みたいだからね。元々一緒に住んでるから家族みたいなもんだし受けようと思ってるよ」


「なら決まりじゃの」


「ベントも結婚を考えてるみたいだからこういうのは続くもんなんだな」


「え? 誰と?」


「サラだ」


「えーーーーーーーっ」


「そんなに驚くか?」


当たり前だっ。


「サラっていくつなの?」


「30過ぎじゃないか? ベントが生まれた時にここに来て、当時13か14歳とかだったからな」


おう・・・ 元の世界なら驚かんが、15~6歳で嫁にいったりするこの世界では驚くぞ。


「あ、うん。おめでとうと言っておいて。婚約の儀とかするの?」


「いや、サラの歳もあるし、今年の冬あたりに結婚することになるだろう。ついでに俺もその時に引退するわ」


は?


「早いんじゃない?」


「もうベント中心で動いてんだ。構わんだろ」


「父さん達はなにすんの?」


「ダンの所を手伝ってやろうかなと」


「何を手伝うのさ?」


「まぁ、色々だ」


嘘だ。あそこは将来車とかを走らせる予定で街作りをしているからバイクを自由に走らせる事が出来る。遊ぶ気満々なんだろうな。


「ベントに相談してからやるつもりだったんだけどボロン村とディノスレイヤ領を繋げようかと思ってるんだよ。そうなりゃ仕事増えるよ」


「大丈夫だろ」


こいつ・・・


もうベントに仕事を丸投げする気満々だから何を言っても無駄か。仕方がないのでアーノルド達にこれからやることを話しておいた。


「もう領を明け渡すつもりか?」


「本当は今年にするつもりだったんだけど、ダンの所の事で予定が狂ったからね。あと3年は頑張るよ」


「その後は何をやるんだ?」


「遺跡探検。おやっさんとそれをやるつもり」


「おっ、いいなぁそれ。ドワン、あいつを倒しに行こうぜ。ゲイルがいるならなんとかなるだろ?」


「歳を考えんかっ。あの頃より衰えておるじゃろがっ」


「そりゃあ、体力的にはそうかもしれんがその分錬度は上がってるだろ? なんとかなるって」


「そうね、私も逃げっぱなしで終わるのは嫌だったのよ。ゲイル、なんとかしなさいよ」


あー、俺は親同伴で探検しに行くことになるのか・・・ しかもリッチーと対決か。


あと、近々ドン爺を連れて海釣りに行く事を伝えると一緒に行くと言い出した。まぁ、そうだよね。



翌日、屋敷に戻ってミグルと話をする。


「いや、その・・・」


ミグルは気まずそうだ。


「俺とは元々そんな関係じゃなかったし、何も気にすんな」


「わ、ワシはゲイルに裸も見られておるし・・・」


「そんなこと言ったら父さん達にも見られてんだろ?」


「やかましぃわっ! あれは不可抗力じゃっ」


「なら俺が見たのも不可抗力だ」


ミグルはあれからまた成長して、15~6歳に見えるようになり、なかなか魅力的な少女のようになっている。魔力は残念ながら6999で止まってそこから伸びてないのは笑えるけど。


「お前にディノスレイヤの家名が付いたのはこの為だったのかもしれんな」


「どういうことじゃ?」


「ほら、養子縁組したらお前は俺の家族になるだろ? そうすりゃミグル・ディノスレイヤだ」


「ワシがゲイルと家族・・・」


「そうだ。俺とも家族、アルとも家族だ。良かったな家族が増えるぞ」


「ワシが二人の家族になるのか?」


「そうだ。まぁ、ここに一緒に住んでるからもう家族と変わらんがな」


ボロボロと泣くミグル。


「なるっ! ワシはゲイルとアルの家族になるのじゃっ」


俺に抱きついて喜ぶミグル。王妃になるとかそんな事より、正式に家族と呼べる人が出来た事が嬉しかったようだ。


後はアルをミグルとジョンで支えてやってくれ。アル1人でエイブリックと同じ事をするのは無理だろうからな。



春の訪れは春と共にやってきた。この3年間はクソ忙しくなるだろう。


そうだ。出産する場所をたくさん作らないとな。ミーシャの出産の時に作ったやつは産婆さんもやりやすかったと言ってたから街にたくさんあった方が良いだろう。


こうしてゲイルは益々やらないといけないことが増えていくのであった。

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