第618話 予定は未定
王都の祝いにはエイブリックは通路を使って、ドン爺は馬車で来てくれた。屋敷の者達は大慌てだ。そりゃそうだろう。二人ともここに泊まって明日ドラゴンシティを見に来るとのこと。
「ゲイルよ、もう成人か早いものじゃのう」
ドン爺は歳のせいか涙脆くなっている。ぼっちゃぼっちゃと言うマリアを見ても泣いていたのだ。
しかし、ドン爺と会うのも物凄く久しぶりだ。俺が一時的に死んだ時以来に会う。エイブリックが療養中といってたがどこか悪いのだろうか?
宴会が終わってドン爺達が部屋に寝に行った後にこそっとナルディックに様子を聞いてみる。
「体調がというより、感情の起伏が激しいのです」
「どういうこと?」
「宝物庫でディノをずっと眺めているのは毎日なのですが、急に怒り出したり、泣き出したりですね。あとはボーッとされていることも増えて来られました」
もしかしたら急に暇になって認知症とかになってるんじゃなかろうか?
「エイブリックさんのお姉さんはどうしてるの?」
「それが穏やかになられましてね、こちらもエイブリック陛下から注視せよと言われておるのですが拍子抜けしておるのです。大公爵陛下の所によく遊びに来られております」
アランティーヌが大公爵邸が出来てからドン爺の所に出入りしてるのはゴーリキーから報告を受けて聞いていたが、ボケかけた親を心配してるのだろうか?
「ドン爺は特にすることないんだよね?」
「そうですね。実権はほぼ全てエイブリック陛下に移りましたので」
エイブリックがドン爺に軍を預けっぱなしなのは全部仕事を取り上げたらまずいと思ってるのかもしれないな。
「ドン爺を時々外に連れ出すことは出来る?」
「視察ということであれば。しかし、頻繁には無理かと」
ちょっと刺激を与えておかないとまずいんだよな。御老公の世直し旅でも出てくれるといいんだけど、今問題になってる領がないんだよなぁ・・・ 釣りに連れて行くとかだけでもした方がいいかもしれん。
「春になったら釣りに連れて行こうかと思うけどいいかな?」
「長旅はお疲れが出るやもしれませんぞ」
「いや、そこは心配なく。こっちでなんとかするから」
その後に歌劇とかお忍びで見せてあげて欲しいとナルディックに頼んでおいた。
ー大N王国ー
「ちっ、最近魔物が急に増えやがったな」
「ウハハハハっ 消し飛べ魔物どもよっ!」
「ルーラがあんな感じでバンバンやっつけるから大丈夫よ。魔物が増える周期なんじゃないのっ。よっと。でも本当に多いねぇ」
「リタ、くっちゃべってないであとどれぐらいいるか見てこい」
「ハイハイ」
季節を問わず咲き、甘い匂いを放つ秘草の中、銀の匙パーティーは増えた魔物を倒していくのであった。
この魔物が増える現象は大N王国各地で発生しているが国民達は毎日楽しそうに暮らしていた。
何も恐怖心を持たずに・・・
ーセントラル王国ー
「あのドラゴンが偽物というのは本当なのであろうな? アルディナ殿?」
「この地下遺跡に本物が寝ているから間違いない。あれが火竜であれば本物かもしれんが、脅しにやって来たのは黒龍。すなわちエンシェントドラゴンを模した物。エンシェントドラゴンはこの世に1体しかおらん」
「あのドラゴンを起こして本当に大丈夫なのであろうな?」
「我が同胞が何年テイムの魔法を掛け続けていると思っている。目覚めると同時にエンシェントドラゴンが我が魔獣と化す。それももうすぐだ」
そう言って冷たく笑うハイエルフのアルディナにセントラル王は背筋がゾクッとしたような気がした。その寒気を振り払うように軍の開発担当に聞く。
「飛行挺は進んでおるな?」
「はっ、順調に進んでおります」
あともう少しの我慢か・・・ 見てろよあのくそ生意気なゲイル・ディノスレイヤめ。
ードラゴンシティー
「おぉ、ゲイル。これは凄いのぅ。ドラゴンには乗れんのか?」
「これは有事の際にしか飛ばないよ。飛んだらみんな驚いて街の開発どころじゃなくなるからね」
「なぜじゃっ!」
理由を説明したのにいきなり怒りだすドン爺。
「父上、今ゲイルが理由を説明したでありませんか」
「うるさいっ。王になったからとワシに説教でもするつもりかっ」
エイブリックも言い返そうとしたので止める。
「ドン爺、俺がバイクに乗って街を案内するよ。スピード出るからちゃんと掴まってられる?」
「魔道具か?」
「そうそう。馬よりも速いよ」
ドン爺は嬉しそうにゲイルの後ろに乗った。
「おぉ、これは速いのう」
「だろ、春になったら海に釣りに行こう。船に乗って鯛を釣ると面白いよ」
「おぉ、いいのう。今からか?」
「今はあまり釣れないからね。それに鯛は春の方が美味しいんだよ」
「そうか、それは楽しみじゃのう」
やはり、少し会話が噛み合わないな。エイブリックさんにも対応の仕方を教えておこう。しかし、関係が近かった親子ほど上手くいかなかったりするんだよな。
ぐるっと街を一回りしたあとに飯を食いながらこれからの予定を話していく。
ここを3年後を目処にウエストランドに編入をするので、それまでに街としてちゃんと機能させるのを目標にする。その後に軍施設を作る予定だ。
「今すぐに軍施設を作って配置すればいいではないか」
「食料の問題もあるし、すぐは無理だよ。一応今は他国だしね」
「食料は王都で軍の分をここに持って来ればいいのであろ? ゲイルのドアを使えばすぐじゃ」
「父上、あのドアは皆には秘密ですよ」
「秘密にする必要ないじゃろうがっ」
まただ・・・
「ドン爺。あれは魔力も相当必要になるし、それに俺達だけの秘密とかあった方が楽しくない?」
「おぉ、ワシらだけの秘密か。それはそれで悪くはないのう」
「そうそう。そういうのもあっていいんじゃない」
「そうじゃ、そうじゃ。ゲイルはやはり賢いのう」
エイブリックにはすぐに怒るドン爺は俺には昔のまま優しいドン爺だった。王家が許すなら大公爵邸で過ごすより俺の屋敷に住んだ方が穏やかな老後を過ごせるかもしれんな。
成人したらすぐに遺跡探検に出たかったけど、ドラゴンシティの事もあるし、しばらく無理だな。
日暮前にはダン達を残して屋敷に戻った。
屋敷に到着後、ドン爺は名残惜しそうに涙を浮かべながら帰って行った。
「ゲイル、父上の扱い上手いな」
「こういうのは近しい親子より他人の方がいい時もあるからね。ドン爺が怒った時は話題変えたりして言い返さない方がいいよ、もっと怒るから。あと、水分をたくさん取るようにしておいて」
「なぜだ?」
「喉の渇きとかに鈍くなってくるから水分取らなくなるんだよ。水分が不足するのは良くないから毎日これくらいは飲ますようにして」
だいたい1.5リットル前後は水分を取った方が頭にも良いと聞いたことがある。エビデンスがあるかどうかは知らないけどね。
「あとさ、大公爵邸にいてもすることないならここに居てもらってもいいよ。俺が面倒見るからさ」
「いや、それはありがたいが、立場上無理だろうな」
そうだろうね。
「じゃ、なんか理由付けてここに来れるようにしてあげてよ。多分怒りっぽくなったりするのマシになると思うから」
「わかった。その時は頼む」
エイブリックは急激に老いた父を俺にあまり見せたくなかったのかもしれない。しかし、それが逆効果だったと理解しただろう。俺はドン爺の介護ぐらいしてやるさ。さんざん世話になってるんだから。それに本当の爺さんみたいに思ってるからな。
エイブリックもまた来ると言って帰って行った。
翌日、フンボルトとホーリックに話をする。
「フンボルト、お前に西の街の領主代行を命じる」
「は? どういうことですか?」
「もう、ここで何をやるか俺の指示がなくてもわかるだろ?」
「そ、それはそうですが・・・」
「だからお前にここを頼む。俺は他にもやらんといかんことがあるからな。後、ホーリックさん、ここの衛兵隊長の任務も終わりだよね。この後決まってるの?」
「いえ、このまま衛兵隊長に志願しようと思ってますが」
「ここはお陰でとても安全になったし、後任も育ってるだろ? 他で力を生かしてもいいんじゃないかと思うんだよね」
「他に何かあるのですか?」
「新領の領主やらない?」
「は?」
「フンボルトとベントと協力してこの地域一帯を磐石な体制にしたいんだよね。ほら、魔道具とかポーションとか秘密を守れる人じゃないと任せられないんだよ。新領には魔道具とポーションを量産する工場とか作るから」
「ゲイル様がこのまま領主であれば問題ないのでは?」
「ダンの所も手伝わないとダメだし、やりたいこともあるんだよ。キキとララに魔道具とポーション任せてるからちょうどいいと思うんだよね。二人とも付き合ってんだろ?」
そう言うとボッと赤くなるフンボルトとホーリック。
「キキとララの身分に問題あるなら二人とも俺の養子にするから決まったら相談して」
「あ、あの、ゲイル様・・・」
「詳しくは話せないけど、俺はあの二人に物凄く世話になったんだ。だからちゃんと幸せにしてやって欲しい。それに領地持ちなら収入にも困らないだろ?」
は?
「俺はレシピや魔道具とかの利権持ってるから領地収入とか不要なんだよ。二人に領地を任せたら領地収入はそのまま二人に渡す。対外的には俺が領主のままの方が便利だから二人とも代行って身分になるけどね」
アワアワする二人だったが多分引き受けてくれるだろう。ソドムは両方のアドバイザーとして宰相のような役目をやって貰うつもりだ。
ドラゴンシティが辺境伯領になる頃には正式に領主になってもらうか。
俺が自由になるのは3年後だな。その時にはドン爺も軍の仕事もなくなるだろうし、飛行機とかであちこちに連れてってやろう。
それまで寝たきりとかになるなよとか願うゲイルであった。
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