第617話 ゲイル成人

金のインゴットをエイブリックに渡して数日後に通貨に換金したからと呼び出される。


「おまえ、あれ純金じゃねーか」


「そうだよ」


「もしかしてあれで金貨作ったのか?」


「そうだよ。ジョルジオさんにも言われたんだけど、ウエストランドのは純金じゃないんだってね」


「当たり前だ。純金は作るのに手間も掛かるし、柔らかくて通貨に使うのは不向きだからな。まぁ、短期間しか使わん金貨だからそう問題にならんだろとは思うが」


ということで、今回は通貨を両替したのではなく、純金のインゴットを王家が購入したという形を取ったらしい。なので、2割増しくらいの金貨と交換したようなものだった。ジョルジオの言った5割増しは市場レートだったらの話みたいだ。



感謝祭シーズン近くになったのでドラゴンシティはダンに任せて王都の仕事をする。


ポットカフェはまた良い雰囲気に戻って人が順調に育つようになった。来年には2号店とか店を増やせと指示しておく。


歌劇団も好評らしいので、一度ちゃんと見にいってみることにした。


今は <小さな恋の物語> というのを上演しているらしい。


・・・・・・・・・・・・なんで、俺がミーシャに恋してて、他の人と結婚した事に号泣した事になってんだよっ


ねじ曲げられた事実に1人憤慨するなか、観客達は報われなかった小さな子供の恋に号泣していた。


板芝居は魔女っ娘の新作がどんどん出来ていて、グッズも売れ続けているようで何より。ステージは日替わりで演奏と板芝居を交互にやっているようだ。



「ゲイル様、お久しぶりでございます」


「おう、そうだなマンドリン」


「実はご相談なのですが、ステージを増やされるご予定はございますか?」


「増やした方がいい?」


「はい、出来れば板芝居と演奏を分けたいのです。日々入りきれないお客様や、日替わりを知らずに来られたりとか・・・」


「じゃぁ、演奏用のを別に作るか。劇場みたいにちゃんとしたやつの方がいいよね?」


「はい、そうしていただけると助かります」


マンドリンにフンボルトと相談して場所とどんな建物を作るのか相談して進めて貰おう。


「必要な魔道具があれば言ってくれ。資金は好きなだけ使っていいぞ。満足のいくものを建ててくれ」


ついでにマンドリンパレスも2号店を出したいとのことで許可しておいた。



屋敷に戻るとアル達とゴーリキーが居た。


「ゲイル様、あの夢のような一時をありがとうございました」


ゴーリキーはあれから北の街をどうやって行くのかをアルと取り組んでくれていた。働くものも増えてずいぶんと環境が改善されたとのこと。


「ゲイル、相変わらず忙しいみたいね」


マルグリッドも来ている。


「いま、ダンの国作りを手伝ってるからね」


とざっくりとしか知らない皆にどうなっているのかを説明した。


「そんな事になってるのか・・・ 一度見に行ってもいいか?」


アルはドラゴンシティに興味を示す。


「私も見てみたいですわ」


マルグリッドもゴーリキーも行きたそうにしている。ドアで行くのはまずいので飛行機を出すか。このメンバーなら秘密を漏らさないだろうし。


「じゃ、明日出発ね」


「もうすぐ感謝祭なのに行くのか?」


「それまでには戻る」


は?


となった皆だったがスルーだ。


翌日、壁の外の誰も居ないところで飛行機を出す。


「さ、乗って」


「ゲ、ゲイル様。これはまさか・・・」


「いいから早く乗れって」


皆にシートベルトをさせてゆっくりと浮かび上がる。


わっ わっ


「完成していたのですねっ」


「これ、内緒な。他の国にバレるとまずいから」


このまま飛んでドラゴンシティまで到着。


「ゲイル、ここはウエストランドとセントラルの間の所だよな? こんなに早く到着出来るのか?」


「空を飛んだらこんなもんだよ」


「ゲイル様、これは移動と流通に革命がおきますね。凄いですっ」


「いや、魔力がめちゃくちゃ必要だから無理だよ。俺にしか飛ばせない」


「そ、そうなのですか・・・」


「遊びで飛ぶ物はそのうち作ってやる」


「え?」


「物を運んだりは出来ないけどな。ただ飛んで遊ぶだけの物だ。それが完成したらゴーリキーに運営を任せてもいいぞ」


ガバッと俺に近より、ぜひっぜひやらせて下さいとゴーリキーは懇願したのでこいつに任せよう。


新領に考えていたアドベンチャーワールドは誰も魔物なんて見たくないだろ? と皆に言われたので断念。代わりの目玉アクティビティとして新領から南に向かって飛ぶパラグライダー施設を作る予定にしているのだ。アスレチックとかワイヤーで飛んでいくようなやつも作ろう。


ドラゴンシティ手前で飛行機を停めて徒歩で到着。ほんの数ヶ月で街が出来ている様に驚く。


「こんな物を作っていたのか。北の街と比べ物にならない・・・」


「ここは魔法を使いまくって作ってるからね。参考にはならないよ。防衛拠点にもなるから通常のやり方では間に合わないしね」


ちゃんと完成しているのは壁だけなので、観光するところは何もない。アクティビティ代わりにドラゴンゲートを通らせてみたけど鳴らなくて良かったと思う。


ダンに感謝祭は戻るかと聞いたらここで住民達と過ごすとのこと。年が明けたら俺の成人祝いをディノスレイヤ領と王都でやってくれるらしいので、それには参加するから迎えに来いだって。


「ダン、金貨はどれぐらい使った?」


「金貨はそれほど使ってねーぞ。移住者は庶民だから金貨なんか持ってねーし、牛や馬をまとめて売りに来てくれた奴に払ったくらいだな。個人への支払いで金貨なんか滅多に使わんだろ?」


「了解。なら良いんだ」


「なんかあったのか?」


「いや、金貨って純金じゃないらしいんだよ。俺知らなくてさ」


「問題あるのか?」


「まぁ、エイブリックさんがウエストランドの通貨と同等の価値があると通達出してくれてるから使えないとかじゃないんだけど、こっちの方が金の含有率が高くて少し損になるんだ」


「それは勿体なかったな」


「いや、それぐらいは良いんだけど、柔らかいから耐久性がないらしい」


「でもウエストランドの通貨と交換になるんだろ? これ使うのも数年の話だろうから問題ねぇんじゃねぇか?」


「そうだよね。じゃ、問題無しということでいいね?」


「ゲイル、いいかしら?」


「なに?マリさん」


「このままこの金貨流通するのかしら?」


「数年間だけどね」


「私の金貨と交換して頂ける?」


「どれぐらい?」


「1000枚くらいは用意出来ますわ。お父様の分と合わせたら3000枚くらいになるかしら」


「純金のインゴットで渡そうか?」


「いえ、金貨のままで結構ですわ。というより金貨のままで頂きたいの」


ということでダンから金貨3000枚を預かって屋敷に帰宅。マリさんはスカーレット家の王都邸にそのまま向かった。数日中に金貨を用意しますわといって。



感謝祭は今年も盛況で大いに盛り上がる。宿も増やしたけどやっぱり人が溢れた。ピークに合わせて宿を作ると年間の稼働率が悪くなるから仕方がない。


マリさんは僅か1日できちんと金貨3000枚用意してホクホク顔で交換した。



年が明けて俺は成人し、ディノスレイヤ領でまずお祝いしてもらい、ドワンから大人用の魔剣を貰った。リッキーからは装飾が施された大小の刀だ。実用はドワンの剣を使うだろうからと、飾っておくようの物を打ってくれたのだ。炎のような見事な刃紋がはいり、それはそれは見事な刀だった。


ドワンの魔剣は俺には大きいがまだ背が伸びるじゃろということだった。子供の頃に貰った魔剣と対で使おう。あの剣は短いけど取り回しもいいし慣れてるから使いやすいのだ。


で、ようやく自分で作った蒸留酒を皆で飲んでみた。


「ゴフッ エッホエッホっ」


15年ぶりに飲んだ酒にむせてしまった。それに成長途中の身体にはやはりきつい。この一口でフラフラになったので、ポーション研究所で売り出した二日酔いのポーションを飲んでおく。ターメリック、つまりウコンパワーを最大限に引き出したものだ。


「ぼっちゃん、人には飲み方を注意してた癖に自分でむせてりゃ世話ねーぞ」


「わかっててもなるんだよっ。母さんそっちのリンゴのやつちょうだい」


むせてはしまったけど、自分でせっせと作った酒は旨かった。


迎賓館での公の祝いは終わり、翌日は小屋で私的なお祝い。俺のリクエストで鴨鍋と焼き鳥にしてもらった。


調理はブリックとチュールがやってくれるので楽チンだ。


「ゲイル、焼き鳥は俺が焼いてやる」


「よっ! 新領主」


俺は成人になると共にディノスレイヤ領の後継ぎを辞退したので正式にベントがアーノルドの後継者となったのだ。アーノルドは今すぐにでもベントに任せたいみたいだけどね。本当に引き継ぐのは数年後になるのだろうか?



「ぼっちゃま、やっぱりここで食べるご飯が一番おいひぃでふね」


俺にマリアを任せて焼き鳥にかぶり付くミーシャ。いくつになっても変わらんな。この前見た小さな恋の物語の事は黙っていよう・・・


俺はすっかりミーシャよりも背が高くなっている。順調に背が伸びているし、声も低くなっている。マリアに話し掛ける時は高い声を出すように心掛けているけどね。


今もマリアはぼっちゃ、ぼっちゃと腕の中でじたばたしてる。


「こんな熱いもの食べられないだろ? フーフーしてやるから待ちなさい」


何かしてほしい時はぼっちゃと言うマリア。今のはごはん、ごはんと言う意味だ。


鴨肉のつくねを割り、フーフーしてからマリアに食べさせると口いっぱいに頬張り両手をほっぺたにやる。ミーシャの真似をするのがとても可愛くて仕方がない。


俺がマリアに餌付けしているとドワンがしみじみと語りだす。


「しかし、坊主が成人か。時が経つのは早いもんじゃのう。どんどんアーノルドに似てきよったわい」


「いや、ゲイルは母上似だと思う」


いや、アーノルド様だとかアイナ様だとかいつものように皆がそれぞれにどちらに似ているか言い合いだす。


そう、俺はどっちにも似ているのだ。成長と共に容姿はアーノルドっぽくなってるけど、笑いのツボとかはアイナと同じだからな。


異世界に来て成人するなんて、なんか不思議な感覚だな。


そう思いながら楽しくご飯を食べたのであった。



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