第616話 金と肉
ファンタジー世界って人のやる気を奪う事もあるんだな・・・
「坊主、何をぶつぶつ言っておるんじゃっ、さっさとやらんか」
ハイハイ
ガション ざらざら
ガション ざらざら
元の世界で100万円の価値がある金貨が1回ガションとするだけで1000枚出来る。これで10億円か・・・
金貨はこんなもんでいいか。すでに1兆円分くらい作った。もう良いだろう。
次は銀貨か。
ガション ガション ガション
一番面倒な銅貨は機械化してドワンが調子をみながらガショガショガショと大量生産だ。銅板と銀板は面倒だから作らなかった。ウエストランドでもあまり使ってないからな。
一般市民が一番使うのが銅貨と銀貨。これは大量に作らねば。
ガション ガション ガション
時々息抜きにドラゴンシティに戻ってシルフィードを手伝ったりしながら造幣局を続けたゲイル。
「ぼっちゃん、今は戻って何やってんだ?」
「もう色々だよ・・・」
「それにしちゃなんかやる気なさそうだな?」
「そんな事ないさ。あっはっはっは」
空笑いするゲイル。君達にはこの虚しさは理解出来ないだろう。
ドラゴンシティは相変わらず人が増え続けているのにセントラルから全く動きがないのは気になるけど防衛は万全に仕込んである。これだけ人が増えたのだ。壁を乗り越えられたら被害が出るから壁にバルカン砲を仕込んだのだ。魔石から魔線で繋いであるだけだから数は撃てないけど、第一陣を牽制するだけでもずいぶんと違うからな。
増え続ける住民には肉類が足りなくて申し訳ないけど、家畜が増えるまで辛抱してくれ。連れてきてくれた家畜を食べてしまうと行き詰まるからな。ウエストランドから肉類を買い付けるのも限界だ。
肉の代わりに豆類をバンバン育てる。味付けを工夫して肉の代わりに食べてもらおう。農民の仕事は収穫と種蒔き。育てるのはシルフィードだ。段々とシルフィードも追いつかなくなってきてるので種蒔きだけはしておいてもらって俺が時々一気に育ててるのだ。
さて、戻ってお金作らなきゃ。
ガション ガション ガション
やっと終わった。これで足りなければまた作らないとな。
「ダン、これは開国記念だ。俺とおやっさんからのプレゼント。誰か管理出来るやつを見付けて運営宜しく」
「は? 何言ってんだぼっちゃん?」
「ここは新領地になる前に国になる。これは国の通貨だ。各国と通貨基準を合わせてあるから他国への支払いに使える」
「意味がわかんねぇぞ?」
俺はエイブリックと話した事をダンに説明する。
「なるほどな、一時的な国か。黙ってそんな事をやってたのかよ・・・ で、この金はどうしたんだ? 本物だよな?」
「未開発の金脈を探して作った。大変だったんだぞ」
「作った? どういうことだよそれ?」
「ウエストランドは金を通貨にするのはエイブリックさんの一存では出来ないらしいから金脈を見付けても通貨にならないんだよ。だからダンの国の通貨を作った」
ダンクローネ王国(通称:ドラゴンシティ)通貨デザイン
銅貨:猫/猫のしっぽ
銀貨:熊/熊の肉球
金貨:ドラゴン/炎
子供銀行のオモチャの通貨みたいだけど、分かりやすくていいだろう。
「なんだよこのデザインは?」
「分かりやすくていいだろ」
「なぁ、この銅貨はウチがモデルなん?」
「そや。初代国王夫人だからな。通貨のデザインになってもおかしくないだろ」
ミケはめっちゃ嬉しそうだ。
「ぼっちゃん、これいくらぐらいあるんだ?」
「もうわからん。文官雇って数えさせてくれ。これで支払い出来るからな。で、今住民が持ってるセントラルの通貨と同じだと説明してやればいい。ウエストランドでも同じ価値で使えるからな」
「ぼっちゃん、こんなに返せねーぞ」
「開国記念だと言ったろ? 返さなくていい」
そんな訳にはとか言うけど、ホントにいらない。必要な時は作る許可だけくれたらいい。
せめて個人で投資してくれた分だけでもと言うので、その分の金を作る許可だけ貰った。
エイブリックにこの通貨を渡して交換してもらおう。多分金のインゴットでいいと言うだろう。どうせ溶かして作り直すだろうからな。
ダンは早速移住者に声を掛けて役所を作って行くようだ。住民登録を急がないとダメだからな。
金の管理が始まったら仕事のやり方をみてやろう。どうせディノスレイヤ領の役所と似たようなやり方だろうからな。
「ドワーフの国に行って来るよ」
「何しに行くんだ?」
「剣や防具を仕入れてくる。兵士のとかセントラルの支給品だろうから、それは返させるわ。備品泥棒とか言われたくないしね」
屋敷に戻ってドワンを連れてドワーフの国へ。
バンデスにドラゴンシティの事を説明して武器や防具を買い漁った。セントラル王国の商人を出入り禁止にしたので在庫がだぶついているらしいからwinwinの取引だ。
「通貨と金のインゴット。どっちで支払えばいいかな?」
「インゴットでいいぞ。どうせ作り変えるからな」
じゃ、これで。とインゴットをどんどんと置いていく。
「開国したばっかりなのに景気がいいな?」
「新しい金脈を見付けて来たんだよ。ウエストランドの金貨だけじゃ足りないからね」
「そいつぁすげぇな。他にも何か見付けたのか?」
「ミスリル鉱脈も見付けたよ。ミスリルいる?」
「い、いや・・・ ゲイルよ、お前物の価値はわかってるよな?」
「知ってるけどね。ほら、俺は錬金魔法使えるからけっこう簡単に抽出できるから・・・」
ドワンは光の消えた目で俺とバンデスのやり取りを見ていた。
「ダン、武具を買ってきたから兵士に好きなの選ばせてやって。で、むこうの装備品は全部返却させて」
ドワーフの国の良質な武具に喜ぶ兵士達。今までの装備とは比べ物にならない物を支給されて、セントラルの装備品は喜んでバフォンガ領に捨てに行ったのであった。
屋敷に戻ってから王城に行き、通貨の事をエイブリックに報告した。
「どれぐらい金貨を作ったんだ?」
「100万枚くらい」
「は?」
「100万枚だよ。銀貨も同じぐらい。で、俺が投資した分は20%の利益を乗せて返してもらった。これ、ウエストランドの金貨に交換してくれる? 溶かすならインゴットのままでも渡せるけど」
「お前、どんな金脈見付けたんだ?」
「遥か遠くの海に浮かぶ島だよ。これはどこかはエイブリックさんにも秘密。あまり取りすぎると金の価値が暴落するからね」
「そんなにあるのか?」
「まぁ、それなりに」
ほぼ無尽蔵で出るとは教えない。
「なら、インゴットでよこせ。こちらの通貨に交換してやる」
無事に自分のお金はウエストランドの通貨に戻った。また、ドラゴンシティの通貨もウエストランドで使用できる旨を各地に通達してもらったのであった。
「ジョルジオさんとの話はどうなったの?」
「あぁ、息子に引き継いだ後は伯爵領になる。南と同じ扱いだな」
「領軍で働いていた人達は余るよね?」
「ダンの所で雇えるか?」
「大丈夫だと思う。ダンには言っておくよ」
後日、スカーレット家を訪問し、ドラゴンシティは西に向けて開発をしていくので、ずっと先になるだろうけど、ほぼ隣接するような状態になることを説明。あとは家畜類を売れるだけ売って欲しいと頼んでおいた。
「ダン殿が治める領地はどのようなものになっていく予定ですかな?」
「未来都市という感じかな。一から作ってるからやりやすいけど大変だよ。作物はなんとかなってるんだけど、肉類が全然足りなくてね。セントラルとの国境線は全部壁で仕切ったから魔物もあまりいなくて、家畜を増やすのが当面の課題かな」
「トウモロコシのお陰で家畜はたくさん育ってますからな。どんどん売るように言っておきましょう。資金はどう調達を?」
「ウエストランドの領と認められるまでは独立国にしたんだよ。だから通貨も独自の物を作ったんだ。王室から近々正式通貨として認めると通達があるよ。ちなみにこんなやつ」
「ほう、面白いデザインですな。しかも良い金をお使いのようで・・・。もしかしてこれは純金ですかな?」
「そうだよ。ウエストランドのもだよね?」
「いえ、純金相当。つまり22金だったはず。これはドラゴンシティの通貨の方が価値がありますな」
え?
「24金まで精度を高めるには非常に手間が掛かるのです。ですから金の含有量以上に価値があるのです。およそ1.5倍くらいになるのではないですかな?」
そうだったのか。知らなかったよ・・・
今からまた溶かして22金にして作り直し・・・・
うん、聞かなかった事にしよう。
今の俺達にとっちゃ22金も24金もただの金属だ。うん。どうでもいいや。
ゲイルは金より良質な肉の方が価値があると思ってしまったのであった。
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