第611話 都市計画
フランの丘にドラゴンを停めて逃げて来た人達に挨拶する。
「俺はゲイル・ディノスレイヤ。ここの領主になるものだ。一から住む所を作るのは大変だろうけど、力を合わせて頑張ろう。普通の生活が出来るようになるまでは手助けをして一緒に開発をするから」
ざわざわとお互いに話をする人々。
「まだ領地に残してきた者達がおりますっ。その者達はどうなるのですかっ?」
「今呼びに行ってもらってる。移住希望者は全員引き受けるから安心しろ。あと、元の領主はここを攻めた責任を取ってもらったからもういない。戻りたければ戻ってもいいぞ」
「えっ?」
「あいつ悪い領主だったろ? ドラゴンで捕まえて王城に捨てて来た。まぁ、次に領主になるやつはどんな奴か知らんけどな」
ざわざわ
「戻っても大丈夫なのですか?」
「いいぞ。ただ、今はここに何もないが、数年で前の所より豊かになるとは思う。作物も育て放題だしな。種はうちの所から提供するし、家畜とかも増やしていく。ウエストランドの王都の庶民街、ダンの領地、ディノスレイヤ領に移住希望ならそこでもいい。ただここから自力で移動してもらわないとダメだけどな」
「ここだとどうなりますか?」
「一応土地は領直轄にするけど、作物を作れるだけ作れば自分たちの収入にしていい。最初の5年は税を免除するからその間に生活基盤を整えてくれ。住むところはちょっと味気ないけど土魔法でみんなの分を作ってやる。スライムを捕まえられる奴は協力してくれ。下水道管理に必要になるからな」
「井戸とかはどうなりますか?」
「住宅には水とお湯の魔法陣、調理は魔道コンロを提供する。一度には無理だから、初めは共同で薪や井戸とかになるけどね」
「魔道具を提供して下さるのですか・・・」
「俺が作ってやるから心配すんな。かなり高性能だから魔石の消費も少ない。畑は川から水路を作るし、井戸も掘ってみる」
何もないところから街を作るのは大変だけど、都市計画が立てやすいのがメリットだ。将来性を見越して未来都市みたいな物を作っていこう。防衛拠点にもなるからそれも考慮しないと。
ここは水路が流れる街にするか。北の方の大きな河から水路を作って木材とか切り出して流せば楽だし、街中に水路作って水の都市とか良いな。大雨で洪水にならないように溢れそうな時はセントラル方面に溢れるようにと。どうせ、壁の向こう側は何もないから問題ないし。
都市の真ん中は商業区域に、畑はここでとかどんどん理想の都市を描いていく。
壁近くは戦場になる可能性があるから中心地はもっと西よりだな。ここを起点に西へ西へと開発していけばいいか。
皆にこういう街作りをするよと説明していく。なんとなくセントラルから移住者が増えるような気がするのだ。
「あの・・・ 貴族街とかはどうされるのですか?」
「貴族街って必要?」
「え?」
「貴族って俺達しかいないし、セントラルの貴族は受け入れるつもりないからね」
「そうなのですか?」
「貴族に来てほしいならウエストランドの誰かに声かけてみるけど?」
「いえ、必要ありませんっ」
「だろ? 集めた税金は街の為に使うから安心しろ。なんなら自分達で防衛出来るならお前達の国にしてもいいぞ。ウエストランド王国と不可侵条約を結ぶのが条件だけどな」
「ゲイル様が王様になられるのですか?」
「まさか。誰かにやってもらうよ」
ざわざわして、領地でとのことだった。
ここはセントラルと隣接するから辺境伯領になるのかな? だとしたらスカーレット家に任せてもいいんじゃ・・・
作るだけ作って誰かに丸投げする事を考えるゲイル。
「ぼっちゃん」
「なに?」
「王都隣の領地だけどよ、あそこ返上できねーか?」
「出来ねーよ」
間髪入れずに返答をする。
「なんでだよっ」
「あそこなら簡単に運営出来るだろ?」
「そりゃ、そうなんだがよ・・・」
「なんか理由あんの?」
・・・
・・・・
・・・・・
「ここを俺にくれないか?」
え?
「ダンがここをやるの?」
「ああ。祖国は滅びたが、セントラルの奴等にここをまた荒らされたくねぇ。ここを守りたいんだ」
そういうことか。
「じゃそうするか。正式な決定はエイブリックさんの判断になるけど、そう進言するよ。じゃ、あとどんな都市にするか考えてね。俺は整地でもしてくるから」
良かった。後はダンに任せよう。
「待て待て待てっ! 待ってくれ」
「なんだよ? 自分でやるんだろ?」
「もっと後でいいからっ!」
「自分に任せろって言ったじゃん」
「それは防衛と運営の話だ。ぼっちゃんが手伝ってくれなきゃこんな何もない所を一から開発出来るわきゃねーだろうがよっ」
なんだよ、せっかく楽になると思ったのに。まぁ、運営を任せられただけでもよしとするか。
陽が暮れる前に皆の家を作っていく。窓無しだけど我慢してね。
ぞろぞろと西へ移動してディノスレイヤでやった住宅をバンバン立てていく。ここは仮設住宅だ。共同トイレ、風呂、炊事場とかいつものやつを作っていく。何人くるかわからないからいくつものブロックに分けて建設だ。
初めて見る俺の魔法に皆口を開けて見ている。
ここに来た人達の職業を聞いて行くと結構色々な職種が集まってる。大半が農民だけどね。
3日間の飯はなんとかなりそうなので、ダンとミケ、シルフィードにここで待機しててもらう。俺は数日かけて仕入れに行くことにした。
バイクで少し移動してからドアで屋敷へ。そこから王城へ向かった。夜だけど緊急と言うことでエイブリックを呼び出す。
「どうなった?」
エイブリックに顛末を説明する。
「宣戦布告と同じじゃないか?」
「警告だよ警告。で、あそこに領地作ったけど、辺境伯領になる?」
「防衛機能を持たせるならそうなるな」
「東は?」
「ジョルジオと相談だな」
まぁ、この辺はエイブリックに任せよう。
「でね、その領地はダンに命じて欲しいんだ。王都横はまだしばらく俺が見るから」
「ダンにやらせるのか?」
「故郷があった土地を守りたいんだって。軍の指揮も取れるだろうしちょうどいいんじゃない?」
「そうだな。そう考えると適任かもしれん。いつ頃になりそうだ?」
「そうだねぇ、街作りは手伝うけどまだ何もないから1年後ぐらいでいいかな」
「金はどうする?」
「取りあえず俺が出しておくよ」
「それなら、領地として立ち上がった時に軍の拠点をそこへ移す。軍の経費は国で持とう」
「貴族街は作る予定ないよ。軍関係者は貴族もいるよね?」
「気にすんな。軍人は軍人だ」
それならいいけど。
翌日にロドリゲス商会に食料や種とかこちらが困らない程度に買い集めていく。倉庫に用意してもらった物を順次俺が運ぼう。
ドワンにも報告し、業務用の魔道ノコギリや角材を切り出す大型機械を作ってもらう。予定に入れてあったものだ。楽器作りのドワーフ達にも手伝ってもらおう。
鉄が大量に必要になるじゃろ? と言われたので取りにいくことに。
ミスリル鉱山の近くまで行ってあちこち掘りまくると鉄の鉱山も見つけたので、どぼどぼとインゴットにしていく。ついでにミスリルや銅、その他金属もインゴットにして持って帰ることに。
残念ながら金と銀は無かった。金鉱脈を探せる魔法陣作れないかな? そうすればエイブリックに頼んでバンバン金貨作れるのに。
インフレとかがまだ無いこの世界。金貨の価値イコール金の価値だからね。どっかに大量に見つけたらヤバいかも知れないけど。
ツインズにライト、水、コンロの魔道具を大量に作っていってもらう。魔道具発表会は延期だ。先に新しい領地の生活基盤を作らないとダメだからな。
ディノスレイヤ領に移動してマットと魔法陣用紙をフル生産するように言っておく。
夜はアーノルド達に今までの事を報告。
ダンが辺境伯になるのかと感慨深そうだった。そして連れて行けとのことだったので、翌日連れて行ったのであった。
「あれ?アーノルド様も連れて来たのかよ?」
「よっ、ダン辺境伯」
「やめてくれよ・・・」
「ダン、出世したわよねぇ」
「アイナ様まで勘弁してくれ・・・」
「ゲイル、何もないな」
「全部一からだからね。父さん達はここにいる人達と狩りでもしてきて。あ、ミノタウロススポットがあるから全部狩って。もう結構貯まってるかも」
「ミノタウロススポット?」
という事で狩りの出来る者達を3人連れてミノタウロススポットに。
「うじゃうじゃいるじゃな」
「ここ、ミノタウロスが生まれてくる場所なんだよ。毎日2匹出るから狩って食料と魔石取って」
「なるほど。こうやりゃ安全に狩れるしいいな。ほれ、お前達やってみろ」
予備の剣を渡してやる。柵の外からだから安全だ。サクサク倒して柵を一部解除。土の扉を付けてこれからは自分達で出入り出来るようにしておいた。
ミノタウロスを魔道バッグにしまって皆の所で解体をしてもらう。
その間に食料倉庫を作成。常温と冷蔵室だ。
ドサドサとそこに仕入れて来た食材に保存魔法をかけて保管。
少し離れた所に製材所、魔物解体所等を作っていく。今日仕留めたミノタウロスは皆で解体してもらった。ここの人達にもポピュラーな食材らしい。ウエストランドのオークみたいなものだな。
焼き肉のタレは数がまだないので塩胡椒で食ってくれ。
農機具置き場はここでいいな。第一段の農機具を出していく。そのうちボロン村の馬とか連れて来よう。
アーノルド達はスライム捕獲とかも手伝ってくれて3日程滞在して帰った。
続々と移住希望者が来たので住民同士で説明をしてもらう。シルフィードはせっせと野菜や小麦、米を育てて種を増やしてくれている。
ダンは木を切り木材の確保。運ぶのは浮遊石を使った荷車を作ってやった。スイッチオンで少しだけ浮く優れものだ。
続々とやってくる住民達はありがたい事に家畜を連れてくる。もう引っ越しと変わらんな。
兵士達は移住を阻止しようとする者達と戦いになることもあるらしく、領都とここまでの道のりの警護をやってくれている。怪我もするだろうから治癒水を大量生産して持たせた。そろそろ王都軍がお出ましになるかもしれないと警戒していたがそれは出て来なかった。静か過ぎるのも不安だな。
住民達に少し話を聞く。
「ここで誰とも顔見知りじゃないものはいるか?」
それぞれが顔を合わせて見たことがないやつを教えてくれる。
「温玉!」
なるほど、汚れた魂のやつばっかりだな。犯罪者かセントラルの奴等がここに紛れ込ませた奴かもしれん。
住民達を集めて集会を開くことにした。
「えー、今から指を差した者はこちらに出てくるように」
ざわざわざわざわ
全部で20名程を呼び出す。
「君たちはどこのものだ?」
「西の領都だ。ここは希望者全員引き受けてくれんだろ?」
「そうだ。但し、犯罪者以外な」
ざわめく住民達。
「今から質問をする。お前ら今まで何人殺した?」
「はっ? なに人を疑ってくれてんだよっ?」
「ここで犯罪を犯したわけじゃないから素直に答えてセントラルに戻るなら見逃してやる。だが下手に嘘をついたら結構辛い目に合うぞ。どうする?」
「とんだ領主様だぜっ! 罪も無い俺達を疑ってんだからな」
「分かった。なら今から魂の浄化を行う。下手すりゃ魂が壊れて死ぬけどいいか?」
「何訳をわからん事を言ってやがるんだっ」
「えっと、じゃあ、そこの3人も前に出ておいで」
えっ?と驚く普通の住人。
「今からお前達に掛けるのは魂を浄化する魔法だ。人を殺した事のない綺麗な魂には何も影響しない。汚れた魂のやつは恐らく死ぬほど辛いと思う。最後に呼んだ3人は綺麗な魂をしているから安心しろ。苦しむのは初めに呼んだやつらだ。で、疑われたと言ったお前。恐らくお前の魂は壊れて死ぬ。どろどろに汚れてるからな」
「はっ! 何を訳のわからん事を!」
「最後の警告だ。どうする?」
「なんでもやってみやがれってんだ」
ゲイルは全員に魂のクリーン魔法を掛ける。
「うっ ぐぎぎぎぎぎっ。やっ止めてくれ・・・」
思った通りだ。汚れた魂を洗浄するのは相当苦しいみたいだ。瘴気に犯された魂も同じように浄化されると苦しいだろうな。
魂を浄化をされてる者達から黒いモヤが出てくる。
食い入るように見ていた人々からヒッと悲鳴が上がる。これは皆見えてるのか・・・
汚れがマシだったやつから浄化が終わり、その場で泣き崩れていく。
最後に残ったこいつはぐしゃっと魂が壊れて溶けた。その時にこの世の者とは思えない断末魔を上げ死んだ。
「浄化完了」
シーンとなる人々。
「おい、生き残ったお前ら。今までやった事を話せ」
魂が綺麗になったやつらは素直に今まで人殺しをした事を白状し、泣いて懺悔した。
「本来は死罪に相当するが、元々は他国の人間だからな。ここから追放するだけにしておいてやる。死ぬまで自分が犯した罪を懺悔してろ」
こうして、殺人を犯した者をこの領地から排除したゲイルであった。
明るい都市計画に殺人者は不要なのだ。
これらを住民に見せたことで、ダンに任せる新領地は極めて犯罪の少ない街になっていくのであった。
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