第609話 いざセントラル王国へその4
選んだのは2の脅すだ。
「いや、酒の味は知っていますよ。お土産のお酒は俺が作ったものですからね。酒精の強い酒ですので老後の楽しみとしておいとけますよ。まぁ、その老後があればの話ですけどね。では、お互い忙しい身なのでこれにて」
セントラル王が合図をするとザッと騎士達が槍と剣を構えて俺達を取り囲む。
「おや、変わったお見送りですね?」
「ふん、そのまま地下牢へ案内しろ」
「無駄な抵抗はなさいませぬように」
「お前、騎士だよな?」
「そうですが何か?」
「セントラル王国の騎士はなんの為に剣を抜く?」
「何を言い出すのだ?」
「ジョン、セントラル王国の騎士はなんの為に剣を抜くのかわからないそうだから教えてやってくれ」
「騎士とは守る為に剣を抜く」
ジョンが俺の問いに答える。
「だ、そうだ。ウエストランド王国の騎士は何かを守る為に剣を抜く。それが騎士としての道であり、誇りだ。セントラル王国の騎士にはそれがないのか?」
「我々も同じだっ!」
「なら、なぜ俺達に剣を向ける? 今のやり取りを聞いていただろう? 俺達は戦争にならないための使者としてやって来た。それを受けなかったのはセントラル王国だ。お前達は戦争をするために剣を抜いたのと同じだ。もはや騎士ではなく兵士だ。何かを守るとか嘘を吐くなっ!」
「なっ・・・」
「いいか? 戦争になったら真っ先に死ぬのは兵士達だ。そこに大義があるならそれは兵士の役目だろう。しかし、セントラルが仕掛けてくるのは侵略戦争だ。そして犠牲になるのは一般の人々。誇り高き騎士たるお前達はそれすらわからんのか? お前は何を守る? これは人殺しに加担する行為だとは思わんのか?」
「そ、それは・・・」
「えぇいっ、敵の言葉に惑わされるなっ。さっさと連行せぬかっ」
「侵略してくるやつらは自分の利益の為に襲ってくる盗賊と同じだ。我がディノスレイヤ家は冒険者の家系でな、盗賊はゴブリンと同じと教えられている。すなわち、お前達はゴブリンの王の命令を受けているのと変わらん」
「なっ、我が国王をゴブリン扱いするとは許せんっ」
「同じだろ? 人と人ならお互い話し合って解決する事は可能だ。セントラル王はそれを放棄して、自国の利益の為だけに戦争しようとしているのだからな」
騎士達に動揺が走っているのが良く解る。こっちの方が正論だからな。
「誰でも良いわっ、さっさとこいつらを連行せよっ」
「素直に連行され・・・」
「では、こちらも防衛行動に移させてもらう。覚悟はいいか?」
「この状況で覚悟をするのはそちらの方ですぞっ」
「王子や姫を連れてこの人数で来ている事にもっと疑問を持った方がいいぞ」
「何っ?」
「普通は護衛団と共に来るだろ?」
「油断したそちらの落ち度ではございませぬかっ」
「いや、護衛団なんて必要ないからだよ。俺達は強いからな」
そう言って騎士の鎧を錬金魔法で溶かした。
ボタボタっと液体になって下に落ちる騎士達の鎧。
「うおっ!」
「お前達の鎧に施されている魔法陣は攻撃魔法を無効化するもの。錬金魔法は攻撃魔法じゃないから防げんぞ」
「やれっ! もう人質など考えずともよいっ。ここでは攻撃魔法もつかえぬし、この者共は丸腰だっ!」
「丸腰?」
パパパッと胸ポケットから皆の武器を出して手渡す。
「王よ、攻撃魔法が使えないと安心するのは良くないぞ」
攻撃魔法無効の魔法陣に指輪を外して一気に魔力を流し込んでやる。
ボフッという音と共に魔法陣が壊れる。普通の魔道インクで描かれた魔法陣は一気に大量の魔力が流れると壊れるのは実験済みだ。
「さて、セントラルの王よ。これで攻撃魔法も自由に使えるから思う存分やりあえるぞ? 王らしく俺とやりあうか? 犠牲はお前だけで済むぞ」
「この小癪な奴め・・・」
「俺達は戦争をしに来たんじゃない。戦争にならない為に来ただけだからな。このまま俺達に何もせずに帰して、そちらが仕掛けて来なければ誰も死なずに済む。どうする?」
騎士達は既に裸同然。事前の鑑定でシルフィードとミグルの魔力は理解しているだろうからここで戦いになれば王の命が危ういと理解しただろ。強大な魔法の前に兵士達が何人来ても無駄だ。ダンとアルは既に魔剣に炎を纏わせているし、ドワンから出る威圧感も半端ない。ジョンの構えは凛として美しさを感じる。騎士達はそれだけで強さが理解出来るだろう。
何も答えないセントラル王。
「じゃ、俺達は失礼する。あ、そうそう。元エレオノローネ王国はちゃんと防衛して取り返すからそのつもりで。それ以上はそちらが何もしてこなければこちらもするつもりはない。それでも仕掛けてくるなら
俺達はそのまま王城を後にした。
外で兵士達が構えているが、無駄死にするなと諭す。
「預けた物返をして」
やはり魔導バッグと馬車の魔道アシストの魔法陣は壊れていた。はじめっから俺達を帰すつもりはなかったんだな。
ノーマル馬車に乗ってその場を離れる。隠密達が尾行しているけど気にしない。
王都の外に出た所を見計らって強烈なライトの魔法を放つ。その隙に皆を馬車から出して馬車をポケットにしまい、ドアでドラゴン工場に戻ったのであった。
(ぐっ、なんだこの強烈な光はっ! なっ消えた・・・)
隠密は光が消えた瞬間に使者の馬車を見失ったのであった。
ーウエストランド王城ー
「そうか、やはり決裂か」
「イーストランドは既に落とされているみたいだから、遅かれ早かれ攻めてくるよ」
「そうだな。こちらの軍は父上に預けたままだから指揮を取ってもらうか。東の領都軍と合流して砦に軍の施設を作らねばならんな」
「わかった。俺は今から元エレオノローネ王国に行って土地を奪還してくるよ。で、あそこにドラゴンを配置するから攻めて来れないとは思うけどね」
しかし、油断は禁物。こっそり温玉して見たセントラル王の魂は汚れまくってたからな。俺が好戦的になったり、殺意が沸くのは汚れた魂に反応しているということが分かった。国運が掛かってるから理性で抑え込めたけど、内心はあそこで王を暗殺をしようとしていたのだ。
ドラゴンで元エレオノローネ王国に飛来する前にドアで近くまで移動し、バイクに乗ってダンとフランの剣を埋めた丘に向かう。
「あっ、あなた方は」
「よう! ちょっと報告に来た」
領軍の兵士に交渉が決裂したことを伝える
「では戦争に・・・」
「その内になるだろうな。で、うちはここの土地を取り戻す事にしたんだ。明日、ここにドラゴンが飛来するから逃げろ」
「そ、そんな・・・」
「で、領都に戻ったお前達にはドラゴン撃退の命令が下るだろ? そしたら全軍で対応しないと勝てないと進言するんだ。しかも軍だけでは無理だと言って知り合いも全員連れてこい。こっちで全部引き受けてやる」
「え?」
「希望者全員でウエストランドに移住しろって言ってるんだ。うちがそっちの領を占領してもいいんだが、そしたらそこが戦場になるだろ? 家族を犠牲にする事になるぞ」
「そんな事が可能なんですか?」
「俺達がここを取り戻したら国境を決めて壁を作る。その壁からこっちはウエストランド王国だ。そこにお前達の住む場所を作ってやる。土地はたくさんあるから作物も育て放題だ。初めの間は家の建設も畑の開墾も手伝ってやるから心配すんな。初めは土地開発した俺が領主になるから。あの領主と俺が治める領地、どっちがいいか選べ」
「初めはとおっしゃいましたが・・・」
「あぁ、領地が落ち着いたら出来る奴に領主を任せてもいい」
「は?」
「俺は別に領主をやりたいわけじゃないからな。今の領地も手放す予定だから気にすんな」
「領地を手放す・・・? なぜですか?」
「面倒臭いからに決まってんだろ」
「ぼっちゃんは既に領地のひとつを俺に押し付けやがったからな。今のは事実だ」
俺の言うことが信じられない兵士達。
「ま、取りあえず明日ドラゴンが来るからな。攻撃してもいいけど、武器も魔法も効かないからさっさと逃げてくれよ」
じゃ、と言って俺達は帰った。
エイブリック、グリムナ、バンデスに航空写真を見せながら、作戦を伝えていく。
「セントラルの奴らを引き込むのか?」
「向こうの西辺境伯領の人を丸々貰うって感じかな。未開発の土地は広いし、人を増やすのにちょうどいい。セントラルの国力も落とせるしね」
「落としてどうする? それでもまだ向こうの方が上だろ?」
「イーストランド王国を解放しに行く」
「は?」
「イーストランド王国を解放して、うちと同盟を結べばセントラルは動けなくなるだろ? うちとイーストランド王国は離れているから、セントラルの牽制以外利害関係もないし。こうやって3国がバランスよく成り立てば未来に戦争が起こる可能性が低くなると思うんだよね」
「なるほどな・・・ ゲイルだからこそ可能な手段ってやつか。分かった。お前に任せよう」
グリムナとバンデスをそれぞれの国にドアで送る。ドワーフの国はセントラルと戦争になることを想定しておくとのこと。エルフ達は開墾した土地の農作物を育てるのを手伝ってくれるようだ。
俺はここを離れても安心出来る世界を作らなければならない。そうしないとずっと何かをやらされるからな。好戦的な国は壊滅するか抑え込まないとダメだ。壊滅はやりたくないから抑え込む方法を取るしかない。
「ぼっちゃん、本当にやるつもりか?」
「勿論。ダンの故郷を取り返さないとダメだし、フランの丘はまた花だらけにしてやらないと」
「いや、そっちじゃねぇ。イーストランドの解放だ」
「イーストランドが元々クズみたいな国なら考えるけどね。そうじゃなかったらやる」
気になってるのは奴隷制度だ。それと獣人達の解放。セントラルにも獣人の奴隷らしき者を見かけた。罪もなく奴隷になってるのなら解放してやりたいと思う。
ゲイルはさっさと楽になりたくて働いて来たが、それがまた次のやることに繋がっていることに気付いていないのであった。
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