第608話 いざセントラル王国へ その3

誰とそんな夢を見ていたのか全く思い出せない。それはそれで罪悪感があるが、心の中にしまっておくことに。


朝食の準備が出来たと呼ばれたので食堂へ。バホォンガは体調が優れないとの事で朝食には来なかった。しかし通過の許可は出したとのことで出発することに。


領軍もしばらく同行し、途中で王都軍とバトンタッチするらしい。


「ゲイル様、昨夜の咆哮はドラゴンの・・・」


「誰かシルフィードに悪さしようとしたんじゃないか? 良かったな、1回目の鳴き声でみな引いて」


「はっ、ご忠告が無ければ皆で戦闘体制に入らなければなりませんでした」


「領主に伝えられるなら伝えといてくれるか? ドラゴンは領主の臭いと顔を覚えたとな」


「はっ はい」


俺は領主の屋敷に座標を設置しておいた。これでいつでもなんとでも出来る。


その後、数日王都に向けて進んだ後に王都軍と交代した。そこそこ上の奴だろう。プライドの高そうな奴らだ。


「出迎えご苦労。少々予定より時間が経ってしまっているので飛ばしてもらえないか?」


「飛ばすとおっしゃられても馬車ではしれているのではありませんか?」


「いや、そちらの馬のスピードに合わせてくれて問題ない」


道は結構整備されてるし、魔道アシストがあるから問題ないだろう。


王都護衛軍の奴はカチンと来たようで馬を飛ばした。しかし問題なく付いていける俺たちの馬車。


5日程の道のりを3日で走破しても平気な馬と馬車に驚いていた。そうそう、田舎者と侮っていると痛い目に合うのだよ。


さすがにセントラル王国の王都。めちゃくちゃデカい。少なくともウエストランド王都の倍はあるだろう。街の作りはよく似ていた。現代の国の成り立ちはセントラルから始まったというのもあながち嘘じゃなさそうだな。


ふと嫌な予感がする。


「ダン、アル、ミグル、魔剣と杖を普通のに交換するぞ」


「なぜじゃ?」


「恐らく王城に入るときに預けろと言われる。魔剣とその杖は返って来ない恐れがある。あと、治癒魔石のアクセサリーも全部貸して」


「魔道バッグに入れておったら同じじゃろうが? それも預けろと言われるじゃろ?」


「これはダミーとして渡す」


「どういうこったぼっちゃん?」


「魔道バッグはもうひとつ別に作ってあるからそこにしまう。いつもの魔道バッグに入れるのは食料と酒のみにしておくよ」


魔道具関係は全て胸ポケットに仕込んだ小型魔道ポケットにしまった。魔石をポケットの中に仕込める特別仕様だ。魔石への充填もイメージするだけで自由に出来る秘密ポケット。魔道バッグと馬車の魔道アシストはもし調べて魔法陣を見ようとばらしたら魔法陣が崩れるようにしてある。恐らく鑑定持ちに色々と調べられるだろうが、新型魔道インクも魔道インクとしか俺には鑑定えないから相手も同じだろう。


王城に付いたら案の定、全ての魔道具と武器を預けろと言われたので、魔道バッグからお土産の酒とグラス、手紙を取り出して渡す。


「これは王様への土産だ。他にもお酒の土産があるけど、それはどこに出せばいい?」


「ではこちらにお願い致します」


各種酒を大樽でどんどんどんと出していき、それぞれの酒の説明をする。


小さな魔道バッグから大量の酒樽が出て来たことに驚く兵士達。


「こ、この酒はどの方へのお土産であられるか」


「誰でもいいよ。誰がいるか知らないから。渡す相手に困るようなら兵士達で非番の時にでも飲んでくれ。酒精が強いから一気に飲まずに味見しながら少しずつ飲めよ」


そしてそのまま言われた通りにバッグと武器を渡した。



兵士に周りを囲まれながら王城の部屋へ。


さて、胸ポケットと指輪は気付かれなかったようだな。指輪は俺の紋章模様だからアクセサリーと認識されたようだ。


予定より早く着いたので別室で待つようにと案内される。


なるほどなるほど。ここで鑑定されるのか。微かにだが嫌な感じがする。かなり優秀な鑑定者だな。グローナクラスなら気付かなかったけどね。


これで、シルフィードとミグルは俺と夫婦か婚約者並びに二人がハーフエルフとバレたな。


で、俺の名前にエルフとドワーフの家名が付いてる事で使者になった事も解るだろう。問題はダンだな。


(ダン、名前を聞かれたら本名を名乗れ。鑑定されてる)


唇を動かさずに微かな声でダンに伝えるとフッと気配を強めて来た。聞こえたよって返事だろう。


部屋には攻撃魔法が使えないようにする魔法陣が施されている。魔力が見える俺には隠されてあっても発動していれば丸見えだ。内容を覚えておこう。


あれは盗聴の魔法陣か。ここで話した声はあちらに聞こえているのだろう。さっきの声は大丈夫だと思う。文言に音を増幅する内容は含まれてないからな。


そう思っていると盗聴の魔法陣が消えた。そろそろお出迎えがあるんだな。


コンコンっ


ドアをノックして騎士が入って来た。ほう、鎧に攻撃魔法無効化の魔法陣が刻まれている。対物理攻撃への防御力も高そうだな。動きも軽やかだからミスリル合金かな。下手に鑑定したらヤバそうだからやめておく。なんせ俺の魔力は0で見えたはずだから。


「こちらへ」


言葉少なめの騎士に案内されて王の元へ


あちこちに攻撃魔法無効化の魔法陣が設置されている。等間隔だからこれでだいたいの有効範囲が解るな。この有効範囲の隙間に立ってる騎士は攻撃魔法を出せるのか。微かに赤く光ってるからいつでも魔法が出るようにスタンバイしているのだろう。ということは発動さえすれば攻撃は効くわけだ。種明かしすればあっけないものだな。


王の前まで来たので跪いて頭を下げる。


「よくぞ参ったウエストランド王国の使者よ。また各国の王子並びに姫がお越しになられた事を我がセントラル王国は歓迎を致す」


まずは敵対的な言葉でなかったことに一息付く。


「此度の連名の親書は読んだが、元エレオノローネ王国の土地は我が国の物。不可侵地域とせよというのは虫の良い話だとは思わぬか?」


「セントラル王よ、あの土地はエレオノローネの英霊達が数年前まで守っていたことはご存知のはず。あの土地の英霊達を天に返したのはここにおりますベアトリア・ダンクローネ、並びにその妻にございます。彼の地をセントラル王国の土地とおっしゃるのはいささかお間違いなのではありませんか?」


「魂を天に返しただと?」


「ベアトリア・ダンクローネは彼の国の元騎士にございます。現在はウエストランド王国に籍はございますが、あの土地出身。その者が彼の地を解放したのでございます。と言うことはこちらの土地と申し上げても問題はないはず。が、今はその国はなく、お互いの不可侵地域として最もふさわしい土地かと存じます」


「ふん、薄汚いアンデッドを始末したぐらいで何を偉そうな事を言うのだ。それが事実であったとしても防衛しておらなんだのはそちらの不手際である。話にならん」


こっちを完全に下に見てるから条件を飲む訳がないか。エイブリックの想定通りだな。


「そもそも、貴様とウエストランド王国の王子はともかく、亜人が姫や王子を名乗る事から気に食わん。しかも純粋なエルフではなくハーフエルフとは汚らわしい」


どんどん本性が出て来るな。それともこっちを怒らせて戦争の火種をこっちのせいにする気なのかもしれん。


「では、セントラル王のお返事は提案を飲めないとの事で宜しいですかな?」


「それ以外に何がある?」


「いえ、国が違えば理解の仕方が違うかもしれませんので確認させて頂いたまで。ではこれにて失礼させて頂きます」


皆に帰るぞと合図をする。交渉は全てゲイルに任せろとエイブリックから皆に指示が出ているのだ。


立ち上がって帰ろうとする。


「待て、使者として何も成果を果たせずに帰るつもりか?」


「いや、成果はありましまたよ」


「何?」


「セントラル王国とは分かりあえないという成果だ。我々はどこの国とも争う気はない。それを証明するために同盟国の王子と姫、元エレオノローネ王国の者を連れて来た。俺を鑑定した者から報告があったろ?俺は各国それぞれの王族でもある。俺の意見は3国の意見と言うことをそちらは理解した方がいいな」


「ふん、ちんけな国が集まってセントラルに敵うとでも思うておるのか?」


「争う気はないと伝えたはずだ。だが、そちらが仕掛けて来るなら防衛はする」


「ほう、我が国に対して防衛するか。なかなかに勇ましいな。確かイーストランド王国もそのように申しておったな」


そうか、東は既に落とされているのか。ならば挟み撃ちになる可能性はないから遅かれ早か攻めて来るつもりだったのだろう。


「防衛側の方が圧倒的に有利ですからね。ではまた会える事を楽しみしておりますセントラル王よ。出来れば酒のお付き合いが出来る来年にお会いできるとありがたいですけどね」


「ほう、使者殿は若いと思っておったが未成年であったか。それは残念な事をした。酒の味も知らずに天に帰らねばならんのだからな」


あー、俺の使者は失敗だな。まぁ、想定はしてエイブリックと対応は決めてあるけどどれにしようか。


1:謝る

2:脅す

3:王の暗殺

4:逃げる



俺は少し迷った挙げ句に、コマンドを選んだのだった。



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