第607話 いざセントラル王国へ その2
「バホォンガ・セントラルである」
セントラル王国、西辺境伯領主は王家の一員であった。みるからに嫌いなタイプで、シルフィードをドズルと同じような目で見る。歳は結構いってるだろうが好色に歳は関係ない。ダンからも殺気が少し漏れている。
「この度、使者としてウエストランド王国から参りました、ゲイル・ディノスレイヤです」
と挨拶を行い、アル達を紹介する。ここに長居は無用だ。嫌な予感がする。嫌な予感といっても俺がぶちキレる予感なのだが。
「ふん、使者とはそのような亜人どもを連れておるのか?」
ふー ふー
落ち着け、落ち着け俺。
「辺境伯殿、いささか言葉が過ぎるのではございませんか? 各国の王子と姫に対する言葉とは思えませんな」
「ふんっ、所詮は亜人の王子や姫なぞどうでも良いわ」
ひっひっふー ひっひっふー
「まぁ、こちらも辺境伯程度はどうでも良いのでこちらで失礼する。一応挨拶はしたので、それでは」
「待て、誰がこの領を通って良いと許可した? ワシの許可が無いと通るのは許されんぞ」
「ほう、ここを通さないと言われるのですね? セントラル王国は国を代表する正式な使者にこのような理不尽な事をされる無礼な国だとは驚きですな」
「ここを通るにはそち達が信頼出来るものかどうか判別せねばならん。なに、簡単な事だ。ここに一泊して食事でも共にすればおのずと分かるであろう」
そう言って嫌らしい顔でシルフィードを見るバホォンガ。
こいつ・・・
(おいっ、始めに言うたじゃろ。そう殺気立つな)
ミグルに制止されてその場は収めた。
取りあえず一泊せざるを得なくなり、夜の晩餐会に出る事に。
バホォンガは上機嫌だ。
「先ほどは申し訳ない態度をした。使者と言われてすぐに信じられなかったものでしてな。これも防衛を預かる辺境伯としての役目として御理解頂きたい。さぁさ、突然で大したもてなしも出来ませぬが食事を楽しみましょうぞ」
威圧的に振る舞った後の優しげな態度。こいつはこういう手口を使うやつなのか。
口にするものは全て鑑定する。
やはり飲み物に眠り薬が入っている。しかし、眠り薬は欲しいので、こっそり魔道バッグへ。睡眠薬は麻酔とかに使える可能性があるからな。
ミグルも気付いたようでワインには手を出さない。ダンとドワンは飲んだがこの二人には効かないだろう。睡眠薬も微量みたいだからな。
シルフィードには伝える事が出来ず、軽く口を付けてしまった。それを見てニヤッと笑うバホォンガ。すっかり上機嫌になり、セントラルはいかに素晴らしく偉大な国であるかを自慢気に話し出す。
料理には薬が入ってないようなので少し食べる。不味くは無さないがそう旨くもない。ウエストランドの食事よりは上だが。
シルフィードの目がトロンとしてきて頃合いを見たバホォンガ。
「おやおや、長旅のお疲れが出られているようですな。これ、部屋へご案内しろ」
「ゲイル、ごめんね。なんかとっても眠たくて・・・ 先に休ませてもらうね」
兵士が護衛に付き、メイドがシルフィードを寝室に連れて行こうとする。兵士は俺達と同行していた奴だ。
俺はその兵士に忠告するフリをしてバホォンガに聞かせる。
「おい、丁寧に扱えよ。シルフィード姫はエルフの秘法で守られているからな。下手な事をするとドラゴンがやって来るぞ」
「ほう、伝説のドラゴンが姫を守られておるのか。それは凄いですな」
と、バホォンガは鼻で笑う。俺が牽制で脅しを入れたと思ったのだろう。
俺は集中してシルフィードがどこに連れていかれるか気配を探っていく。護衛とメイドの気配も同時に覚えておく事を忘れない。バホォンガの気配はインプット済みだ。
その後も上機嫌で自慢話をするバホォンガに苦笑いを浮かべつつ食事を終えた。
案内された部屋はそれぞれ離されている。
部屋に入るとカチャと鍵を掛けられたのは聞き逃さない。
ピンクのドアを出して、ダンと唱えてダンの部屋にいく。
「わっ、脅かすんじゃねーよ。それよりシルフィードは大丈夫か?」
「俺がなんとかするから下手に動かないでくれ」
その後に作戦を伝えておく。これをドワンとミグル、ジョン達にも伝えておいた。
そしてシルフィードの部屋に行くとネグリジェみたいな服に着替えさせられて既に寝ていた。なんちゅう格好をさせてるんだよっ!
気配を探り続けていたので、着替えさせたのはメイドだからいいけどさ。
さて、準備開始。マリアの為に作ったビデオはプロジェクター機能を持たせてある。時々自分の部屋で上映して楽しんでいるのは皆には内緒だ。
こいつでドラゴンを作った時に映画みたいに出来ないかなと撮影もしておいたのだ。
映像を確認すると脳内で再生される音楽。ドラゴンなのにBGMはあれだ。
デデデン デデデン デデデデデデン♪
鳴き声の魔法陣をここで描き、カーテンにプロジェクターを合わせてスタンバイ完了。
気配を消してバホォンガが来るのを待つ。
まずは知らない気配が近付き何やら扉の前の護衛と話した後に護衛が離れていく。それからしばらくすると来やがった。やはりシルフィードに何かをするつもりなのだ。
カチャと鍵の開く音がした後にバホォンガが入って来た。漏れそうになる殺気を必死で抑える。ここで問題を起こすわけにはいかないのだ。
そっーとシルフィードのベッドに近付くバホォンガ。
プロジェクターオンっ!
初めはどアップから始まるので黒い影が窓のカーテンに写し出されるので気付かないが、次に赤い目が光る。
「ん? なんじゃ?」
次にドラゴンの顔のアップがこちらを向く。
「ヒッ」
今だっ!
ン ギャァァァアっ!
部屋中に鳴り響くドラゴンの鳴き声。
「ギャァァァっ」
バホォンガは腰を抜かしながら逃げて行った。
「うん? なに? 今の声・・・?」
ムクッと起きたシルフィードは寝ぼけた感じで俺に聞いてくる。
「夢だよ。夢。さ、ちゃんと寝ろ」
薄いネグリジェみたいな服は胸元が大きく開いている。しかもひんぬーとはいえノーブラだから破壊力抜群だ。暗いけどうっすらと見えてしまうのだ。
14歳の血気盛んな身体は反応しそうになる。
「なんだ夢かぁ。じゃあ抱きついちゃお」
やめて・・
動悸かドキドキか区別が付かない俺のおじいちゃん精神。
いかん、身体に悪すぎる。このままでは俺の魂が天に登ってしまう。
ひっひっふー
ひっひっふー
心を落ち着かせ、シルフィードをそのままベッドに寝かせて布団を掛けて寝かしつけた。
さ、誰かが来る前に戻らなくては。
ピンクのドアを開けてダンの所に行く。
「ぼっちゃん、顔が真っ赤だぞ」
「あ、うん。バホォンガがやっぱり来たから頭に血が登っちゃってね」
そう誤魔化すしかないのだ。皆にも作戦成功を伝えに行って部屋に戻る。
バホォンガ屋敷はドラゴンの鳴き声でてんやわんやしているのが気配で丸分かりだ。しかし、誰もシルフィードの部屋に入ろうとしないので俺は寝る事に。
だが、動悸が続いているので眠れそうにない。ずっと寝ないのもまずいから魔道バッグに入れた睡眠薬入りのワインを一口舐めた。そして、そのまま眠りについたのであった。
翌朝、激しく落ち込む。
俺は天に登らず大人の階段を登ってしまったのだ。
こっそりと自分のパンツにクリーン魔法を掛けたゲイルであった。
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