第606話 いざセントラル王国へ その1

連名の手紙を預り出発する。


一応、酒の樽やら食料等を大量に持っていく。向こうへのお土産は俺の作った特製ブランデーとシャンパンとそれぞれのグラスを用意。相手への敬意を示すと共にこれだけの技術力がありますよとの力を見せるのだ。


飛行機で行けばあっという間の距離でも馬車だと時間が掛かる。王家の馬車も新型にしておいてもらって良かった。


外は寒いけど客車はエアコン完備。御者もしなくていいので、楽チンなんだけどね。



俺のポケットにはマリアを抱いたミーシャの写真が入っている。ミーシャがマリアを連れて遊びに来る度にぼっちゃま、ぼっちゃまと教えた甲斐があって、喃語の次はママ、ぼちゃの順だった。ザックよ、パパより先ですまんな。


この使者の旅は3ヶ月は掛かるだろう。その間マリアに会えないのはとても寂しいが、戦争回避はマリア達の未来にもつながる。是非とも成功させなければならないのだ。



東の領都で一泊させてもらって、砦の町を通り過ぎていく。


「なぁ、ミグル。セントラル王国ってどんなところなんだ?」


「まぁ、行けば分かる。人族最優先の国じゃから、ドワンはともかく、ワシとシルフィードへの態度は想像がつくじゃろ。他国はそんなもんじゃと納得しておけ。くれぐれもキレるんじゃないぞ」


ミグルにそう言われたけど、あまり自信がない。記憶はおじいちゃんだけど身体は14歳。血気盛んなのだ。所謂キレる老人みたいなものだ。



馬車は魔道アシストがあるおかげで馬の足取りは軽い。王家の馬に懐かれても困るので、アルから時々回復水と黒砂糖をあげてもらっている。


ここまでの夜営は土魔法で小屋を作っていたが、明日からはテントに切り替える。どこでセントラルの奴らと出くわすかわからんからな。


夜に偵察飛行に出る。そろそろ元エレオノローネ王国のはずだ。


海がない平野の冬は寒い。雪も無いし風も強い。飛行機もめっちゃ風に煽られる。シルフィードを連れて来なくてよかった。


少し飛ぶとあの丘が見える。この前から建設は進んでいないようだ。この寒さなら無理も無いだろう。建設再開は春からだろうな。



翌日の夜に建設中の砦近くを通過しようとすると見張りの兵士に止められた。


「何者だ? これより先はセントラル王国である」


ダンが口上を述べ、ウエストランド王国の使者である王家発行の証明書を見せる。


「こんな物いくらでも偽造出来る。怪しいやつらめ全員馬車から降りろっ」


中にいても声が聞こえて来たので俺が出る。


「やぁ、セントラル王国の兵士の皆さん。今の無礼な振る舞いは見なかった事にしてやろう。しかし、次はないぞ。お前達の振る舞いが両国の和平を阻害し、戦争するきっかけを作る事になることを理解せよ。俺はゲイル・ディノスレイヤ。中にいるのは各国の王子と姫だ。さっさとここを通せ。心配であれば早馬を出して先触れを出して、俺達に同行しろ」


「いい加減なことを・・・」


「次はないと言っただろ?」


俺はまだ何かを言いかけた兵士の一人の首に魔剣を当てた。


「最後のチャンスだ。ここを通せ。俺達は揉め事を起こしに来たわけではない」


ゲイルは威圧を放ちながら凄んだ。


「しっ、失礼致しました」


「よし、そういう態度に出るなら許してやろう。今日はここで夜営をする。さっさと早馬を出しておけ」


他の兵士が走って行ったので俺の言う通りにするのだろう。


シルフィードとミグルにはドレスを着せてある。ちゃんと優雅に出てこいよ?


まず、アルが降りてきてミグルをエスコート、俺がシルフィードをエスコートし、最後にドワンが出てくる。めっちゃ怖い顔をして兵士をにらむからそれを見ていた兵士達は一発でびびってしまった。


ほんと、バンデスに似てきたよな。


馬車のライトを点け辺りを煌々と照らす。これに驚く兵士達を見るとまだここまで明るい魔道具はセントラルにはないのかもしれない。



早速バーベキューの用意だ。


馬車からコンロを取り出すフリをして魔道バッグから出す。


ここの兵士達はろくな物を食わせて貰ってないのだろうけど、遠慮なく焼き肉を始める。シルフィードとミグルはお姫様設定なので、手伝わせない。シルフィードは本当のお姫様なんだけどね。


寒いので皆に薄めの蒸留酒のお湯割りを出してやる。俺だけ未成年なので飲めないのはやるせない。


じゅわ~という音と煙、それに焼き肉の良い匂いがセントラルの兵士達に襲いかかる。ヨダレを垂らしているけど分けてあげない。



男はテント、女は馬車で寝る事に。


気が張ってる俺は眠くない。暇なので見張りの兵士に話しかける。俺が首に剣を当てたやつだ。


コーンスープを温めて二人の兵士に渡しながら話しかけた。


「こ、これは・・・」


「寒いだろ? これ飲んで温まれ」


いや、我々はと言うけど、空きっ腹にコーンスープの甘い匂いには抗えないようで受け取った。


「慌てて飲むなよ。口の中を火傷すんぞ」


ズゾズゾっ


「めちゃくちゃ旨い・・・」


「王家のスープだからな。お前ら何人位いるんだ?」


「はっ、先ほど2名早馬で出ましたので我々を入れて14名です」


うん、普通はそういうの答えちゃダメなんだよ。


残りの者達のコーンスープも温めてやり鍋ごと渡した。


「他の者にも分けてやれ。うちのはみな寝ているからお前一人で見張ってても問題ないだろ?」


「しかし、そういう訳には参りません」


「いいから持っていってやれ。俺達は使者にしては人数も護衛も少ないだろ? これはどういう事か分かるか?」


「は?」


「お前ら位何人いてもどうとでもなるからだよ。さっき首に剣を当てられた時も何されたかわかんなかっただろ? 俺達は全員同じぐらいに動ける。今さら一人がここから居なくなっても一緒だ。わかったらさっさと持っていってやれ」


「か、かしこまりました」


見張りの一人がスープの鍋を皆の者に持っていったので、俺もテントの中に入った。空間拡張してあるからめちゃくちゃ広いのだ。


「ぼっちゃん、奴らに優しくしてどういうつもりだ?」


「あいつらの何人かはずっと一緒に付いて来るだろ? 殺気立たれているのが近くにいるとイラつくからな。これで少しはマシになるだろ」


しばらくしてコーンスープを飲んで落ち着いた兵士から殺気が消えたことで俺も寝る事にした。



朝になり、テントの外は殊更寒い。テントも馬車の客車もエアコンが効いているからな。


シルフィードとミグルには外に出るなと言って、朝飯の準備をする。


寒い日には豚汁だ。ご飯も炊いて朝から豚汁定食を食らい、兵士達にもご馳走しておいた。


「さ、お前ら出発するぞ。何人付いてくるんだ?」


「6名同行させて頂きます」


セントラルの兵士6人を引き連れて出発。見張りの奴もそのうちの一人だ。


馬車からそいつの馬の後ろに飛び乗ると物凄く驚く。そりゃそうだろう。しかし、移動しながら話を聞きたいのだ。


「お前らはセントラル王国、西の辺境伯の領軍か?」


「はい、その通りです」


「西の領主はどんなやつだ? あまり良い噂を聞かないんだが。まずはそこに向かうんだろ?」


「は、その・・・」


言葉を濁す所を見るとやっぱり嫌な奴なんだろうな。


「もし、ウエストランド王国と戦争になったらどうする? お前らが真っ先に戦わされんだろ?」


「そうなると思います」


「俺達は戦争を回避するための使者なんだがな、回避出来んかもしれん。その時はどうする? 俺達に剣を向けるか?」


「命令が出ればそうなります」


「家族はいるか?」


「はい、妻と子供、両親がおります」


「戦争になったらお前だけでなく、家族全員巻き込まれるぞ。それでもやるのか?」


「・・・・我々は軍人です。その覚悟がないと勤まりません」


「なんで戦争するんだ?」


「我々にはわかりません。命令があれば従うのみです」


やっぱり戦争になったら真っ先に被害に合うのは命令された兵士だ。こうやって話すと悪いやつじゃない。でもそういうやつら同士が殺し合い、恨みの連鎖が続く。


「もし、戦争になったら逃げろ」


「いえ、軍人たるものそういうわけには参りません」


「そうか。なら、俺の言うことはよく覚えておいてくれ」


「どのようなことでしょう?」


「ウエストランド王国はドラゴンをテイムしている。ドラゴンを見掛けたら逃げろ。人が戦って勝てる相手じゃない」


「そんな事があり得るわけないです」


「いや、事実だ。俺はテイム能力があるからな。ドラゴンをテイムしたのは俺だ。もし、戦争になっても命令に従ってるだけのお前達は殺したくないし、うちの国民も殺して欲しくない」


馬に乗りながらこちらを振り向いたので、真剣な顔をしてそう伝えるとごくりと唾を飲んだ。



休憩時に一緒に飯を食えと命令して、先ほどと同じ話をする。帰ったら軍の仲間にもその話をしておけと。


ドラゴンは攻撃前に3回鳴く、3回目の鳴き声は攻撃が始まる合図だから、それまでに逃げろ。全員がその場で武器を捨てたら領主にしか攻撃しない。住民には攻撃しないからと約束をする。


もし、それで家族共々セントラルにいられなくなるようなら、ウエストランドで家族ごと引き受けてやると言っておいた。


後は戦争にならないように祈っておけ。めぐみに祈っても無駄だけどな。



数日掛けてセントラル王国の西辺境伯領に到着するころにはゲイルは兵士達とすっかり打ち解けていたのであった。



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