第605話 ドラゴン配置

年が明けて俺は14歳になった。今年で未成年は終わりだ。


年明け早々に王城へドラゴンを討伐した報告をアーノルド達としにいく。エイブリックはまず実物を見せろと命令し、再びディノスレイヤ領へ戻る。


まったく面倒な手順を踏まなくてはならないものだ。


闘技場に保管してあるドラゴンにダンとシルフィードは乗り込み、俺は背中の首もとに作ってある操縦席に乗る。アーノルドは俺の後ろに。


ドラゴンの首には俺の紋章を下げておく。テイムした魔物にはこれが必要なのだ。


「父さん、ここは結構動くから落ちないでね」


「心配すんな馬と変わらん」


いや、違うぞ。


電話機を改造したインカムでダン達と通信する。


「ダン、飛ぶよ。ゆっくりめに翼をはためかせて。高速飛行はしないから」


ぶぁっさぶぁっさと羽が動いたのでゆっくりと浮上。満員の観客席からは拍手喝采だ。


馬で1日掛かる王都への道のりもドラゴンならあっという間だ。


一応王都中に今日ドラゴンが飛来するとお触れを出してもらっているが、空を見上げた住民達は恐怖におののいていた。サービスで空から鳴き声をお見舞いしてやる。


ン ギャァア


ひやぁぁぁぁぁっと逃げていく人々。ちょっと面白い。


王城の中庭に舞い降りて、貴族や騎士達を威嚇してみる。


ひぃっ


腰を抜かす貴族と武器を構える騎士達。震えてるよ君たち。


エイブリックが出て来て俺達を褒め称える。



で、今年の社交会でこのドラゴンを御披露目するためにここで行われる事になってしまった。


それまではドラゴンをお休みモードに切り替えておいた。うずくまって時々お腹がふっと膨らむのだ。


それに背中の操縦席はちゃんと見えないようにしまえるからどこから見られても問題はない。



ー社交会当日ー


「アーノルド・ディノスレイヤ、ならびにドワン・ハーデスにドラゴンスレイヤーの称号を、ゲイル・ディノスレイヤにはドラゴンテイマー、アイナ・ディノスレイヤにはドラゴンヒーラーの称号を与える。尚、ゲイル・ディノスレイヤにはこのドラゴンに東の砦の防衛任務を行うよう指示を出すことを命じる」


おぉー。


英雄に続いて称号を貰った俺達に拍手喝采が起きる。このドラゴンが国を守る守護神として君臨することになったからだ。



「ゲ、ゲイル様。お願いがございますっ」


イバーク・ゴーリキーが俺の所にやって来た。


「どうした?」


「このドラゴンに私も乗せていただけませんかっ!」


土下座する勢いで頭を下げるゴーリキー。


こいつを乗せると背中の操縦桿がばれてしまう。


「ごめん、こいつは乗せる人を選ぶんだよ。自分より強いと認めた者しか乗れないんだ」


と、もっともらしい嘘を吐く。


「そ、そうですか・・・ 残念でなりません」


泣きそうなゴーリキー。何かいい方法はないかな。飛行機もバレたくないし。


あっ、篭を作ってそれを持ち上げてやればいいかも。


「ゴーリキー、ドラゴンには乗れないけど、お前が乗った篭を持ち上げてやることは可能かもしれん。ちょっと危ないけどそれでもいいか?」


「かっ、構いませんっ」


ということで、篭というか牢みたいな物を作ってやる。それと腕をワイヤーでくくりつける。万が一落っことしたら悪いからね。


何が始まるのかとざわめく貴族達。


「じゃ、中に入れ」


ゴーリキーが中に入り、しっかり掴まってろよと言いつける。かなり揺れるだろうからな。


俺はドラコンの背中に乗り、ダンとシルフィードにインカムで指示を出す。


「ゆっくりと立ち上がって」


ドラコンの目が開き、のそっと立ち上がるドラコン。


「シルフィ、篭を持てる?」


シルフィはドラゴンの腕を操作して篭をガツッと掴む。


「ヒッ」


中にいるゴーリキーは鋭い爪が篭に食い込むのにビビって声を上げた。


「ダン、飛ぶよ」


ぶぁっさぶぁっさと始まったのでゆっくりと上昇する。


「うわわわわっ」


篭に乗ってたらさぞ怖いだろうな。


そのまま上昇を続けて王都の上をぐるっと一回りして元の場所へ着地した。



下に降りると篭から出てきたゴーリキーは泣いていた。


「ゲイル様、一生付いて参りますっ!」


いや、敵対しないでいてくれたらそれでいいから。



社交会終了後にアーノルドと共に東の砦に飛んで行き、ドラゴンが鎮座する土台を作った。後は結界魔法陣の設置だな。しかし、闇雲に置いて全部に反応していたらキリがないな。戻って皆に相談しよう。


ダンとシルフィはドアで屋敷に戻し、俺とアーノルドはバイクで戻る。ドアを使うと辻褄が合わないからね。


まだ魔道具発表会は行ってないが、ドワンの言う通り、バイクも発表すればこそこそと乗る必要もなくなるからもうバレてもいいだろう。


アーノルドにはダンのバイクに乗ってもらってツーリングしながら帰ったのであった。



戻った後はスカーレット家の王都邸で防衛の打ち合わせを行う。


結界魔法陣をどこに置くのか相談するも正確な地図がないので話が進まない。


しかも、セントラルとウエストランドの国境線というのも明確にはないそうだ。


「じゃ、間の土地はどこも有してないことになるんだよね?」


「そういうことになりますな」


「じゃあ、国境線を作ろうか」


「大丈夫か? 勝手にそんなことをして」


「少なくともダンの国より向こうがセントラルの土地だとするじゃない、だったら、ダンの国からこっちをウエストランドの土地だとしてしまえばいいと思うんだけどね」


「出来るのかそんなこと?」


「壁作って看板立てて置けばいいんじゃない?」


「それ、エイブリック様に相談した方がいいんじゃねぇか?」


「じゃ、そうするか」


と、エイブリックに相談する前に、航空写真を撮っておくか。



ダン、シルフィ、ミケ乗せて航空写真を撮りに出掛ける。ミケはめっちゃ嬉しいみたいでキャッキャッと喜んでいる。東の砦付近から写真を撮り出してダンの国だった所まで行った時に異変発見。


ダンがギリッと歯軋りをする。


「セントラルの奴ら・・・ あの丘に砦を作ってやがるのかっ」


あの丘とはフランの剣を埋めた秋桜の丘だ。セントラル王国はそこに砦建設を始めているようだ。セントラル王国に滅ぼされた元、エレオノローネ王国。ミケフランが魂を天に還した事により、アンデッド兵士がいなくなったことが仇になってしまった。


鬼の形相を浮かべるダンの横ではしゃいでいたミケのしっぽも膨らんでいる。魂に何か感じる物があるのだろう。


「ダン、王都に戻ってエイブリックさんに報告するぞ。どうするかはそれから決める」


ダンは怖い顔したまま頷いた。



ー王城別室ー


航空写真を見せてエイブリックと相談する。


「砦を築いてやがるのか・・・」


感情は別として、この世界のルールは奪った者勝ち。エレオノローネ王国を滅ぼしたセントラル王国があの場所を自分の土地だと主張しても問題はない。


「どうするの?」


「ここで止まるならまだ問題ではない。東まではまだ距離があるからな。しかし、ここを足掛かりに侵攻を予定してるなら今のうちになんとかする方がいいな」


「何とかするとは?」


「まず、手紙を送ってみる。ゲイル、すまんが使者をやってくれんか?」


「俺がやるの?」


「身分的にちょうどいい。それに何かあっても逃げれるのはお前達しかおらん」


「それはそうだけど・・・」


「それとアルを同行させる」


「え?」


「こちらは本気だというところを見せねばならん。戦うのではなく、和平を望むという態度をな。で、今砦を築いている場所は互いの和平の地点として不可侵地域にする提案をする」


そうだよな。あそこは滅びたとはいえ元ダンとフランの国だ。戦場にするより安寧の土地としてあげたい。


「わかった。使者を引き受けるよ。いつに行けばいい?」


「すぐだ。砦が完成してしまえば向こうも提案は飲めんだろう」


マジかよ・・・



結局、すぐに出発する事になってしまった。王家の馬車にアシスト機能を付け、馬の疲労を最大限に下げられるように改造。


メンバーは俺、アル、ジョン、ダン、ドワン、シルフィード、ミグルだ。ダンとジョンは御者兼護衛。ミグルはセントラル王国の案内役として同行してもらう。


数台の馬車でぞろぞろと行く事も検討したが、相手を刺激しないようにとあり得ないぐらいの少数精鋭だ。


ドワンとシルフィードはドワーフ、エルフの代表として参加になった。こちらの同盟が強固であることを示すためだ。



ドワンとシルフィードを連れて行くのに、グリムナとバンデスの許可を貰いに行く。


まずはグリムナの所。


「ふむ、事前に戦いを防ぐ為の手紙を渡す使者か。ならば俺からも手紙を書こう」


ついでに座標を設置する小屋を作ってもらった。


次はドワーフの国。


ここも同じように手紙を書いて貰うのと座標を設置する。


ふと、思い付く。せっかく手紙を書いてもらったけど、いっそのこと連名の方がいいんじゃない? ということになり、王都に集合して打ち合わせる事になった。


これで戦争回避出来るなら万々歳なのだが・・・


良い方法だと思うと共に、一抹の不安がゲイルの心に過るのであった。


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