第602話 ゲイルの誤算

翌日朝に釣りをして屋敷に戻った。そのままミーシャとマリアはザックの元へと帰り、俺達は昼から仕事に取りかかった。


「そうだ、おやっさん。あのバイクは売ったらいくらくらいになる?」


「あれを売るのか?」


「イナミンさんがどうしても欲しいんだって」


「ならいっそのこと一般的に販売したらどうじゃ? それなら坊主もこそこそせんと乗れるじゃろ?」


「あれ、危なくない?」


「どうせ買える奴なんぞほとんどおらん。金貨100枚ぐらいに設定すればええ。魔石もたくさん使うでの」


ということで、近々他の魔道具を含め新魔道具の発表会をすることになった。板芝居のステージでやるか。


ドワンにドラゴンとはどんな物を作るか絵に描いて説明していく。羽ははばたくように、しっぽも動き、口も開くとか全身可動するのだ。基本は操作するが、門番に置いている時は寝ている感じにして、お腹が時々ふわっと膨らんで呼吸しているように見せる必要もある。


「こりゃ難儀じゃわい」


稼働するのはモーターとワイヤーでやるしかないよねと説明し、俺は新しく開発した場所に建設工場を建てにいった。


工場は箱だから簡単に出来る。後は周りに木を生やしてカモフラージュ。よし、雑木林に見えるな。


繋げた土地も誰かが入り込まないように全部壁で囲いをしよう。


限界突破してるとはいえ、広範囲なので壁を作るのに一週間ほど費やした。



屋敷で飯を食いながらミグルに話し掛けるとなんか拗ねてる。


「なぜ誘わんかったんじゃ」


「お前忙しいだろ?」


「行けぬとも誘うぐらいしてくれてもいいじゃろうがっ」


面倒臭え・・・


「次はちゃんと予定組んでやるから拗ねんな」


ミグルに結界の魔法陣とかを教えて貰っていく。なかなか面倒な魔法陣だけど、不要な文言を削って行けばもっとシンプルになっていきそうだ。


メカドラゴンを操作するのは手動になるけど、結界に誰かが入って来たら顔を持ち上げるとかの動作はさせたい。上手く組めるかなぁ・・・


ツインズには魔道具家電の魔法陣をせっせと描いてもらっておこう。ドワンはディノスレイヤ領の職人を呼び寄せ魔道具家電の量産を始めた。


俺とドワンはメカドラゴンに集中して開発することに。これの製作は極秘事項なのでほぼ二人で開発していかねばならない。


ドワンの工房とメカドラゴン工場に座標を置いて、工房で何かをしている風を装う。ダンには工房の見張りをお願いし、シルフィードにはスパイスの栽培に注力してもらおう。



「こいつは攻撃を受ける事は想定しておるのか?」


「魔法攻撃は受けるかもしれないね」


「なら対魔法も対物理攻撃と両方の防御を上げにゃならんのか・・・」


「骨組みは軽く丈夫にしないといけないし、皮はゴムかなと思うんだよね。伸縮性が必要だから。その上にその防御力のある鱗を付けたらいいんじゃない?」


「それはそうなんじゃが・・・」


「何か問題あるの?」


「素材が足らんのじゃ」


「何の素材?」


「主にミスリルじゃな。そいつをベースに合金を作るのが一番いいんじゃが、これだけデカイとミスリルが大量に必要になるの」


「ミスリルか・・・ 鉱石自体はそこまで珍しいものじゃないんだよね?」


「それはそうなんじゃが、王都にはミスリル鉱石自体が入ってこんからの」


「探しに行ってみる?」


「そうか、坊主がおると早いかもしれんの。王都からだと北の鉱脈から出るかもしれん」


その晩からシルフィードも連れて4人でバイクに乗り北を目指す。


途中で何泊かして鉱山らしき所へ。


「これ、王都の管轄なのかな?」


「そうかもしれん。王都の管轄なら勝手に掘るのはまずい。まだ奥の山に行かねばならんのぅ。何日掛かるかわからんぞ」


食料は大丈夫だけど、道のない山を越えて行くのはかなり大変だ。しかも魔物を倒しながらになるしな。


夜営しながら相談してみる。


「飛んでみる?」


「は? どういう意味じゃ?」


「浮遊石の実験も兼ねて飛んでみてもいいかも。夜だと誰も見てないし」


まず浮遊石を4つ作り、車のボディみたいな箱の4角に取り付ける。


それに魔線を繋いで両手でそれぞれに魔力を流せるようにしてみた。

4つ同時に魔力を流すと垂直浮遊すると思う。移動は風魔法だ。


先ずは俺だけ乗って実験してみることに。俺だけなら浮けるから落ちても大丈夫なのだ。


「よしっ、まず俺が乗ってみるから待ってて」


じゃ、やってみるぞー。


魔力を均等に流して・・・


バビュンっ!


グキッ グキッ グキッ


カクン・・・


ゲイルは浮遊石を作るのに指輪をはずしていたのを忘れていた為、いきなり1万倍の魔力が浮遊石に流れたのだ。


ロケットのように打ち出される車もどき。あまりのGにゲイルの骨があちこち折れ、大ダメージを受け治癒の魔石を一気に消費する。


ゲイルの傷は瞬時に完治するも気絶したままだ。


「お、おやっさん・・・ あんなもんに俺達も乗せられるのか? ぼっちゃんいきなり見えなくなったぞ?」


「坊主は星になったのじゃ・・・」


ゲイルを勝手に殺すドワン。


空高く打ち上げられた車もどき。ゲイルが気絶した事によって魔力の流れが止まり、だんだんと上昇するのが止まり今度は落下に転じる。


そこでゲイルは目を覚ます。


あれ? ・・・・・・俺、飛んでたんじゃないのかよっ? 何で落ちてんだよっ!


慌てて魔力を流す。


バビュンっ


ゴキッ ゴキッ ゴキッ


落下からいきなり上昇へと転じた事でより強いGが襲い瀕死になるゲイル。治癒魔石が空になって完治する。


今度は落下が始まる前に目が覚める。


酸素が薄く、気温もマイナス何十度の世界。それでゲイルは遥か上空にいることに気が付いた。


何でこんな所にっ!


はっ!


指輪してないじゃん。


落下しながら指輪をはめて魔石を徐々に流して行くも落下速度が勝り、そのまま落ちて行く。夜でどれぐらいの高さかわからない。


もう地面かもしれないと思い魔力を強めるとやっと落下が止まった。


ウゲゲゲゲケっ


身体中の中身が落下Gで内臓がおしりから出そうになってしまった。


徐々に魔力を弱めてゆっくりと落下をしていった。



「大丈夫かよぼっちゃん? いきなり消えるみたいに飛んでったけどよ」


「指輪はめるの忘れてたんだよ。本当に死ぬところだった・・・」


身体中が痛いので自分に治癒魔法をかける。そして空になった治癒魔石にも充填しておいた。


作り直した腕輪は10回くらい致命傷に耐えられるようにしてあって良かった。

前の腕輪をゴーリキーに渡してなかったら死んでたなこれ・・・



今のは失敗だと皆に伝えて、リトライ。


今のでボディにダメージがあるかもしれないので、浮遊石を取り外してボディを作り直した。


浮遊石を又セットして魔線も繋ぎ直す。


「指輪よーし、浮遊石よーし、魔線よーし」


車の仮免を取る時を参考に、全てを指差し確認をしていく。やはり飛行には危険が伴うな。自分の安易さを反省する。


今度は徐々に魔力を流すとふわっと浮くがなかなかバランスを取るのが難しい。

自分で運転というか浮いてて酔いそうだ。


浮いては降り、浮いては降りを繰り返して魔力流し方の感覚を覚えておく。



「ごめん、今日飛ぶのは無理だわ。明日の夜にちゃんと飛べるか試すからもう寝ようか」


という事で飛行は翌日に持ち越しとなった。



昼間も寝て、日が暮れてから飛行の練習を重ねていき、ようやくバランスよく魔力を流す事が出来た。次は少し前を浮かす、後ろを浮かす、左右と練習を重ねていく。それをしながら風魔法で進む、止まる、前を少し上げた姿勢で風魔法を使って上昇、下げて下降、旋回等の練習だ。一番難しいのは止まるだった。


イメージとしてはエアホッケーの丸い奴だ。浮いてる物を風のバランスで狙った所に止まるのが本当に難しい。


「ごめん、しばらく練習に時間が必要だから、自信が持てるようになるまで待って」


「ぼっちゃん、走った方が速いんじゃねぇか?」


「いや、どっちにしろ、ドラゴンの操縦もしないといけないから、この練習は必要になるんだよ」


ドラゴンはこの飛行技術に加え、羽を動かしたり、頭を動かしたりと複数の動作が必要になる。重いから慣性の法則や羽がある分、より強い空気抵抗も考えないとダメだろう。


本当に空を飛ぶ事をナメてたよ。イメージとぜんぜん違うじゃないか・・・



その後、飛行技術をマスターするまで10日を費やしたのであった。



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