第600話 釣りとめぐみ
ミーシャも一晩ゆっくり寝られたのでだいぶ回復したようだ。ここなら気も遣わないだろうし。
「ミーシャ、海に行こうか?」
「えー、さすがにまだ無理ですよぅ」
「大丈夫だと思うよ。焼き肉と海鮮バーベキューしようと思ってるんだけど、留守番しておくか?」
「行きます」
現金でよろしい。
「じゃあ、今日の夕方に行くから一応ザックに報告をしに行くよ。食材も仕入れないとダメだし」
マリアにひとしきりアバアバしてからザックの所へ。
「え? ミーシャちゃんだけでなく、マリアまで連れて行くんですか?」
「置いていっても良いけど、お前一人でマリアの面倒を見れるか?」
プルプルと顔をふるザック。
「マリアはちゃんと俺が面倒見てやるから。お前もたまには一人でのんびりしたいだろ? それにお前が寂しくなる前に帰ってくるから心配すんな」
「い、いいんですか?」
そう、嫁が子供を連れて実家に帰ってくれると旦那は楽なのだ。お互い疲れてると些細な事で喧嘩になるからな。飯も旨い店が近くにたくさんあるから問題ない。
「3、4日で帰ってくるからな。浮気すんじゃねーぞ」
ザックは海に行くのに3、4日で帰って来れるのか疑問に思ったようだけど、股間を隠しながらお気をつけてと苦笑いした。
次はドワンだ。
「あれはいつから始めるんじゃ?」
「息抜きしてから。今日の夕方に釣りに行くから用意しておいて。俺は他にも声を掛けてくる」
そう、キキとララも連れて行こう。
ジョン、アル、マルグリッドはお留守番だ。北の街のことや結婚式場やら屋敷の改装やらでバタバタしてるからな。ミグルは休めないだろうから、次回ちゃんと予定入れてからでいいだろう。
「えっ? 私達も連れて行って下さるのですか?」
「あそこは隠れる所ないから食べられなかっただろ? 一緒に食べよ」
ホロホロっ。
泣くなよこんな所で。俺がなんかしたと思われるだろ?
「一生、お供致します」
いや、釣りだけでイイヨ。
ゴールデンタイム前に出発!
俺の部屋から釣り公園に到着。
みんな驚くけど、ミーシャは楽チンですねぇと笑うだけだ。
早速釣りを開始する。ミーシャはマリアを抱いて海ですよー、とか教えている。双子は釣りのセンスも良い。ダンはタコ釣り。俺は3ハイほどイカを釣った後に魚屋と化す。
まずは刺身三昧とミーシャの為に肉を用意。ミケには塩焼きだな。シルフィードにはご飯を炊いてもらってと。
「さ、食べようか。おやっさーん、食べるよー」
「うるさいっ! いま良い所なんじゃっ」
「潮止まってるから無駄だって。食べ終わる頃にちょうど良くなるから先に食べなよ」
まだ釣れてないドワンはしぶしぶご飯を食べに来たが、酒を飲むとご機嫌だ。
ミーシャが食べてる間は俺がマリアを抱いている。
「ゲイル様。赤ちゃんって本当に可愛いですよね」
ツインズもマリアにアバアバしている。この二人は家族愛というものに縁が無かっただろうからな。
「二人ともいい人が居れば結婚しろよ。そしたらこんな可愛い赤ちゃんも生まれて来るからな」
ボッと赤くなる二人。
俺は知っているのだ。キキはフンボルトと、ララはホーリックと楽しそうに話しているのを。
フンボルトとホーリックは貴族だ。ツインズは王家の隠密だったけど、身分は平民だ。もし、あいつらの実家が身分差を気にして反対するなら、ツインズは俺の養子にしてもいいと思っている。本気で悩み出したら提案してみよう。
「ぼっちゃま、ありがとうごふぁいまふ。おっふぁいあげてひまふ」
ミーシャは部屋に授乳をしに行った。
さ、食べようかと思った時にめぐみにもお供えしてやるかとふと思う。しかし、お下がりって味が薄いんだよね・・・ といって捨てるのも勿体ないしな。
こっちに食いに来てくれる方がいいな。このメンバーならめぐみが来てても問題ないか。
ちょっと電話を掛けてみる。
「もしもし。めぐみです」
おおー、ちゃんと出れるじゃん
「この前はごめんな。間違えて送っちゃって」
「何よっ。あんなのお供えしておいて。ケーキなんかで誤魔化されないんだからねっ」
ちゃんと電話に出れたんじゃなくて怒ってたのか・・・
「いや、ちょっと飯でも食いにくるかなぁて思ってな。刺身と海鮮バーベキューやってるんだけど来るか?」
「そう思うんならお供えすればいいじゃない」
「あっそ、目の前で焼きながら食べた方が旨いかなと思って電話掛けてみたんだけど、それならいいわ。じゃなっ」
「ちょっとぉぉっ! お供えしなさいよっ」
「お前にお供えしたお下がりは俺が食わなきゃなんないんだよっ。だから食いたいなら直接来いっ。で、自分で好きな物を選んで食え。焼いたりするのはやってやるから」
「え? やってくれんの?」
「それぐらいしてやる」
「じゃ、行くっ♪」
こういう所は可愛いんだよな・・・ 例えこっちが悪くてもいつまでも拗ねられたらだんだんムカついてくるのだ。なんかですぐに機嫌直してくれる方がいい。
ポンとめぐみが顕れて俺の横に座る。
「で、何から食いたいんだ?」
「あれは何?」
「イカの刺身だ。辛いのとか平気か?」
「わかんない」
「じゃ、まずはこの醤油というのを少し付けて食べる。で、この緑のはワサビといって鼻にツンとくる辛さがあるから少しだけ付けて食べろ。後は好みで好きな食べ方をすればいい」
「わかったわ」
パクっ。むぐむぐ。
「うんまっ」
いや、一応女神なんだから美味しいとか言えよ・・・
「これがワサビね。少しだけ・・。くっ! 鼻が・・・ ・・・ 癖になるわね」
(なぁ、ダン。ゲイルは誰と話しとるんや? それに刺身が宙に浮いて消えていきよる・・・)
(さっき神様を呼んだんだろ。この前マリアの使用済みオムツを間違えてお供えしたとか言ってたからな)
(詫びの為に呼んだんか?)
(そんなとこだろ。あんまり見んなバチあたんぞ)
「お前は酒も飲むのか?」
「ゼウちゃんにお供えしたやつ? ちょっと貰ったけど、なかなか美味しいわよね。あれもお供えしてくれんの?」
「なら、ここで飲め。刺身ならこれが合うぞ」
「きゃーっ! 本当だ。ぶちょーやるじゃないっ」
そう言って俺の背中をバンバン叩くめぐみ。もう酔ったんじゃないよね?
それからもキャッキャとはしゃぎながら飲んで食うめぐみ。
俺は少食の女性より旨そうにたくさん食う女性の方が好きだ。こうやって見てる分には可愛いんだけどな。
そんな事を思ってるとマリアを抱いたミーシャが帰って来て俺の隣に座ろうとする。
「ミーシャ、そこには神さんが座ってるから反対側に座れ・・」
と言いきる前にめぐみの所に座った。
わっ、めぐみがミーシャに入ったっ!
えっ?と驚く
なんだよ。ミーシャにめぐみが憑依したかと思ってびっくりしたじゃないか・・・ まぁ、めぐみは霊体じゃないから憑依するわけないか。
そんな事を思ってると座ってるめぐみがこっちを向いて・・・
「どうしたんですか? ぼっちゃま」
えっ?
まさか入れ替わった・・・
・・・
・・・・
・・・・・
「なーんてね、びっくりした? ねぇ、びっくりした?」
こいつ・・・殺すっ
「何してくれてんだテメーはっ!」
「ちょっとぉ、そんなに怒んないでよぉ。ちょっとした冗談じゃなーい」
「そうですよ、ぼっちゃま。女の人に怒鳴っちゃダメですよ」
えっ?×2
「あんた私が見えるの?」
「初めまして。ミーシャです。ぼっちゃまのお友達さんですか?」
「あ、はい。初めまひて。めぐみで・・・す」
(ちょっと、ぶちょー。なんでこの娘、私の事が見えんのよ?)
(俺が知るわけねーだろっ! お前がなんかしたんじゃねーのかよ?)
(知らないわよっ。ちょっと限界突破してるか
めぐみにミーシャを
(限界突破なんてしてねーぞ)
(ならどういうことよっ)
(お前が分からないのに俺が分かるわけないだろうがっ)
「さっきは気付かずに座っちゃってごめんなさい。反対側に座りますね」
「ミーシャ・・・」
「はい?」
「お前、めぐみが見えてるんだよな?」
「はい。とっても可愛い方ですね」
やっぱり見えてるのは本当だ。
ミーシャは刺身を食いたいみたいなのでマリアは俺が抱っこする。
マリアはめぐみを見てもだぁーだぁーと手を出す。マリアにも見えてるんだ・・・
(ちょっとぉ、どうすんのよこれ? この赤ちゃんにも見えてるみたいじゃない)
(めぐみ、ちょっと人差し指をマリアに出してみ)
(こう?)
めぐみが人差し指を出すとマリアがその指をきゅっと小さな手で掴んだ。
キュン
(な、何これっ。可愛い)
うん、マリアもめぐみが見えただけじゃなく触れるんだな。
(ちょっとちょっと、ぶちょー)
(なんだよ?)
(ねーねー、この赤ちゃんお供えして)
「あほかーーっ! マリアを天に召そうとすんじゃねーっ」
俺はめぐみに大声で怒鳴ってしまった。
何がお供えだ。マリアをなんだと思ってるんだまったく。
「ぼっちゃま、大きな声を出すとマリアが怖がりますよ」
「あ、あぁごめん」
「めぐみさん、お肉焼けましたよ。これタレで食べるととっても美味しいんです」
「ア、アリガト・・・。きゃー、めっちゃ美味しいー。ねーねー、これなんなの?」
「牛肉のお腹の所です。こうやってご飯に乗せて食べるのがおいひんでふよぉ」
「ふぉっ、ふぉんほぉだ。もっふひょーだひ」
「ふぁい、ほぉんほぉんやひてまふよぉ」
おいっ、俺を挟んで二人で頬張りながらしゃべんなっ
(なぁ、ゲイルがどんどん米粒だらけになってんで)
(しっ、見るなっつってんだろ。ほっとけ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます