第598話 戦争の備え

エイブリックの所に行って瘴気の森の浄化に成功したこと、ディノも討伐したと報告する。


「ミグルから一応報告を聞いた。ご苦労だったな。これでディノスレイヤ領も安泰だな」


「いや、魔物はこれまで通り出るよ。詳細を調べる事は出来なかったけど、魔物の凶暴化は瘴気によるものと推測してるから、単に強い魔物が生まれてくるだけというのはあるけどね」


「なるほど。で、そのディノはお前が持ってるんだよな?」


「ドン爺とエイブリックさんのお土産というか研究所に寄付しようと思ってる」


「なら、王城に正式報告をしに来てくれ。そこでディノを出してくれた方が対外的にやりやすい」


「わかった。あともうひとつ」


「なんだ?」


「これ、念動力の魔石でね、浮遊石っていうものなんだ」


「浮遊石? なんだそれは?」


「魔力を流すと浮くんだよ」


「ほう、面白いな」


「これ、他にも知ってる人がいるみたいなんだ・・・」


「ん? 何が言いたいんだ?」


「これを使うと空を飛ぶ機械が作れる」


「おぉ、いいじゃないか。早速作ってみてくれ」


「いいの?」


「何がだ? それがあれば色々な所にいけるじゃないか」


「これ、作ったら戦争の道具になるよ」


エイブリックに制空権の説明をしていく。


「そうか、弓や魔法が届かない所から攻撃されるのか・・・」


「どれくらいの魔力でどれくらいの高さやスピードが出せるか作ってみないとわからないけどね。で、問題はこれを知る人が他にもいるということ。セントラルだったら知ってる可能性がある」


・・・

・・・・

・・・・・


「それ、誰にもバレないように作れるか?」


「王都じゃ無理だろうね。こそこそ作るのは出来るけど、実証して試さないとダメだからテストで飛んでたらいずれバレるでしょ」


「そうだよな・・・ しかし、セントラルがそれを作り出してる可能性があるならこちらも対策が必要だな」


「うん、空から大規模魔法陣攻撃されたら大量に人も死ぬし、街も無事では済まない。恐らく大量の魔力が必要になるから一度の戦争で何度も使えるとは思えない。やるとしたら、そこそこの街を攻撃して、相手を脅して屈服させる戦法を取ると思う」


「王都を直接攻撃しないのか?」


「戦争は相手の国から搾取するのが目的だからね。建物や人といった財産を残したまま相手を屈服させるのが目的。費用や兵士を使って勝って何も得られないんじゃ戦争する意味無いでしょ?」


「そりゃそうだな」


「ちょっと方法を考えてみるよ」


「うん?何か考えがあるのか?」


「相手が戦争を仕掛けても勝てないと思わせる方法があるんじゃないかと思うんだよね。空飛ぶ機械と攻撃魔法陣を作ってますよと公表すると、相手もそれに対抗しようとするでしょ。だから違う方法を考える」


「どんな方法だ?」


「ドラゴンをテイムする」


は?


エイブリックは俺の馬鹿げた構想にポカンとした。



後日、王城にて瘴気の森の浄化とディノを討伐した事を正式に報告し、ディノの死体を皆の前で献上した。


褒美に付いては後日ということになり、祝賀パーティーに参加させられるはめになる。


なぜ、自分の祝賀パーティーの演出を自分でやらにゃいかんのだ・・・



祝賀パーティーは褒章から始まる。


エイブリックと相談して金品の代わりに名誉を貰うことにした。みな金には困ってないし、その金は税金から出るからな。そんな莫大な報酬を税金から貰うのは申し訳ない。もらうならめぐみからだ。



「皆の者、此度の瘴気の森の浄化及びディノ討伐、誠にあっぱれである。未然にウエストランド王国の危機を防いだ功績を讃え、英雄の称号を与える」


おおー!


参加した貴族達から歓声が上がる。アーノルド達は以前から英雄パーティーと呼ばれていたが、今回正式に国から英雄と認められた事になる。


皆に英雄の称号バッジが胸元に付けられていく。俺は自分でデザインしたバッジなのでこっぱずかしくて仕方がない。


「続いて」


え? まだあるのか? と驚くダン。皆には話してあるので知らないのはダンだけだ。


「ディノを討伐した中心人物、アーノルド・ディノスレイヤ、並びにダン」


「はいっ」


「アーノルドはすでに辺境伯籍を持っているので称号のみであるが、ダンには特別功績として子爵位の籍を与える」


ざわざわざわざわ


「は? いらねーんだけど」


そう言うダンをスルーして話は進む。


「領地に関してはゲイル・ディノスレイヤの申し出により、ゲイル・ディノスレイヤが開発した領地を譲渡するものとする」


おおー!


ざわついた貴族達は自分の仕事や領地が奪われるんじゃないかと不安に思ったようだが、俺の領地が譲渡されると知って安心したようだ。一気に祝賀モードに切り替わったからな。俺の力も減るし、自分にも被害はない。万々歳だろう。


「ぼっちゃん・・・」


「なに?」


「はめやがったな。テメーっ!」


「何言ってんだよ。俺からの結婚プレゼントだよ」


「いるかっ! そんなもんっ」


ダンは憤慨するが皆の前で正式に発表されたのだからもうどうしようもない。


その後すぐにダンはエイブリックに貴族の誓いをさせられていた。いきなりでもちゃんと出来るじゃん。



パーティーが始まってまずジョルジオが挨拶に来る。息子に領主の座を渡すのはマルグリッドが結婚してからにしたらしい。


「おめでとうございますダン子爵」


「いや、めでたくねぇ」


つれない返事をするダン。


「失礼だろダン子爵」


「やめろっ!」


「え? 嫌なの?」


「当たり前だろうがっ」


「なら、軍統括の方が良かったかな? 今から王に進言を・・・」


「やめろっ!」


「おめでとう、ダン子爵」


やめろっつってんだろと怒るダン。


「あっはっはっは。相変わらず楽しいやりとりですな。実に羨ましい」


「ジョルジオさん、これからもダンの事を宜しくね」


「いや、こちらこそ願ってもないですぞ。ダン子爵、共に領地を発展させていきましょうぞ」


「ったく、あー、こちらこそ宜しく御願いします、ジョルジオ様」


ダンは抵抗を諦めたようだ。


「おう、ベントと上手く連携してやってくれ。ダン子爵」


「アーノルド様までやめてくれよ」


「そのうち、ダン子爵領とボロン村、ディノスレイヤ領と繋げていくから、新しく開発した場所はどっちが管轄するかベントと決めてくれ」


「ゲイル、領地をそんなに広げんのか?」


「ダンとベントに子供が出来たら分割してやればいいだろ? 領地がたくさんあるのに越した事はないよ。安心してバンバン子供を作れ」


俺はアドベンチャーワールドを作りたいのだ。


「景気の良い話で羨ましいですな」


「あ、ジョルジオさんは明日も王都にいるよね?」


「おりますが、何かございますかな?」


「ちょっと相談したいことがあるからうちに招待させてもらえないかな?」



ー翌日、ゲイル屋敷の応接室ー


アーノルド達にも参加してもらって打ち合わせ。


「防衛体制の強化ですか?」


「そう、もしかしたらセントラルがヤバい兵器を作ってるかもしれないんだ」


と、飛行機の事を説明していく。


「そ、そんな物が・・・」


「俺が作れそうだから、向こうが作っててもおかしくない。もしそれが出来たら真っ先に狙われのは東の領都だと思う」


「そんな・・」


「俺がセントラルの人間でウエストランドを手に入れようとするならそうする。領都を一瞬で壊滅させて降伏を要求する。防衛拠点を失ったウエストランドは降伏するか玉砕のどちらかになるだろうからね。普通はまず国民の命を考えて降伏する」


「そんなやり方で手に入れた国民達が素直にセントラルに従う訳がないでしょう」


「まず、特に仕事をしていない貴族を追放、それで国民の税を安くして生活を楽にする。次にセントラルの貴族を送り込み、領主交代を進める。その間は税も安くしてやると国民はセントラルの貴族が来ることを望むようになるよ。で、全て入れ替わったら圧政が始まるんだよ」


俺が説明することを信じられない様子のジョルジオ達。


「戦争で相手を壊滅させてもなんのメリットもないからね。こんなシナリオだと思うよ、戦争を仕掛ける側はね。目的はウエストランドをセントラルの傀儡国家にすることなんだよ」


「防衛強化とは何をするおつもりですか?」


「ドラゴンをテイムして防衛にあたらせる」


は?


「ドラゴンなぞ空想上の魔物ですぞっ」


「父さん達は見たことある?」


「いや、ないな」


「昔、神様がね、ドラゴンがいると言ってたんだよ」


「本当か?」


「うん。父さん達が知らないって事はこの辺にはいないんだろうけど、どこかにはいると思うんだよね」


「いるかどうかわからん奴を探してテイムするなんてどれだけ時間が掛かると思ってんだ?」


「ドラゴンは探すんじゃないよ。作るんだ」


は?×全員



ゲイルはエイブリックに話した内容を皆に説明していったのだった。
























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