第597話 ピンクの扉

「うわーっんっっ」


「どうしたのよめぐみ?」


「ぶちょーがね、私に汚ったない魂ぶつけたのーーっ!」


自分の世界に戻っためぐみはゲイルの所業をゼウちゃんに言い付けていた。


「で、怒ったゲイル君に説教されたのね?」


「そーなのっ! 今からプチってしてやるんだからみてなさいっ」


「やめなさいよっ! どう聞いてもめぐみが悪いでしょ?」


「なんでよっ! 私が作った星なんだから何してもいいでしょっ」


その後、ゼウちゃんからもこんこんと説教をくらうめぐみ。


「わかった? 悪いのはめぐみなのっ」


「はひ・・・」


「それにプチっとしちゃったらもうお菓子もお酒もお供えしてもらえなくなっちゃうわよ。せっかくこんなにたくさんお供えしてくれるのに」


「なにそれ?」


ゼウちゃんの所にはたくさんのお酒とナッツが届いていた。めぐみの所にはチョコレートが少し来ただけだ。


「ゲイル君がお供えしてくれたのよぉ。ほら、こうやってお酒の名前まで書いて、気に入った物をリクエストしてくれだって。気が利くわよねぇ」


「ズルいっっ! 私の世界のやつなのにっ」


「あら? 元々は私の所の魂じゃなーい。私にもお供えしてもらう権利はあるわよ」


「私もぶちょーにリクエストするっ!」


「じゃあ、私はこのリンゴのお酒とそれに合うものをお願いしようかしら?」



「おい、ぼっちゃん。起きろ。また死んでんじゃねーだろうな? もう丸3日経ってんだぞ」


ダンにペシペシとほっぺたを叩かれて起こされる。


ん?・・・・ 目を開けるゲイル。


ぼやっした視界がだんだん晴れてくる。


(知らない天井だ・・・)


「何言ってんだ。ここはエルフの国のグリムナさんの屋敷だ」


あ、そう言われたら見たことあるわ。


「どれくらい寝てた?」


身体中が痛い。バッキバキだ。


「全速力で離脱っていうからよ、あそこからここまで寝ずに走り続けて2日、ここに到着してから丸1日だ。一度も起きないからまた死んだのかと思ったぞ。まだ眠いか?」


「いや、もう大丈夫」


と立ち上がろうとするとふらつく。丸々3日も寝てたらそりゃそうなるわな。それよりも前からずっと何も食べてないし。


ほれとダンに渡されたコップの水で水分補給をするのと同時に回復するために回復水にする。


ゴトンっ


あっ、指輪してないや。一瞬で回復の魔石になる水。


バッグから指輪を取り出してはめてからもういっぱい水を貰った。


回復水を飲むと身体に染み渡っていく。もういっぱいは自分で回復水を出して飲む。


うん、元気出た。


ピーピーっ


目が覚めるなりめぐみからかよ・・・


「何?」


「もしもしって言うんじゃないの?」


「いいから早く用件を言えよ」


「ゼウちゃんはリンゴのお酒とー、それに合う食べ物だって。私はねー、」


ピッ


ムカつくから切ってやった。


ピーピーっ


「なんだよっ!ゼウちゃんにはお供えするから。もう切るぞっ」


「なんでゼウちゃんだけなのよーっ!」


「お前はまだ俺の言ったことやってねーだろっ! さっさと青ダヌキのアニメ見ろっ」


「もしもし、ゲイルくーん」


「あ、ゼウちゃん。お酒は無事に届いたようで良かったです。今手元にリンゴのお酒がないので、帰ったらお供えしますね。今から代わりの物をお供えしますんで。食べ物は何でもいいですか?」


「わー、ありがとうっ。楽しみに待ってるわね」


「後はお願いがあるんですけど、めぐみに青ダヌキのアニメを見せてやってくれませんかね? あのピンクのドアを使えるようになりたいんですよ」


「あー、あれね。わかったわよ。で、めぐみには代わる?」


「いや、めぐみにはさっさとやれとだけ言っておいて下さい」


「わかったわ。またねゲイルくーん」



電話の向こうでめぐみがギャーギャー言ってたけど無視して電話を切った。もう魔話でなく電話でいいや。


「また神様からか?」


「そう。こっちに来るより電話の方が楽らしい。こんな事なら電話なんて渡すんじゃなかったよ」


便利な機械は自由を奪う。それは生前も同じだ。


「で、何の用だったんだ?」


「お供えの催促。ご飯って何かあるかな?」


「もうみんな食ったぞ。マスのムニエルだったけど、今から作ってもらうか?」


「お願い。それと塩焼きがいいな」


料理を作ってくれてる間に魔道バッグから酒類を出していく。


蒸留酒とラム酒、日本酒と麦焼酎か・・・

ワインはいらなかったんだよな。



砂糖を溶かしてガムシロップを作る。で柑橘類を用意して氷も必要かな? 氷はクラッシュしてと。


蒸留酒とラム酒をチョイスして飲み方をメモする。


サンプルにラム酒、柑橘類を絞ったものとガムシロップを入れてクラッシュ氷も。それを混ぜてと。


お供え魔法陣を出して、ゼウちゃんに切り替え。蒸留酒とラム酒、メモ、氷、柑橘類と。で魔力を流す。ポっと光ったので成功だろう。


「母さん、味薄いと思うけどお下がり飲んで」


次に運ばれて来たムニエルをお供えっと。


さて、俺も頂きましょうか。


回復水で体調が戻ったとは言え、久しぶりの食事だ。ゆっくりと噛んで食べよう。


マスの塩焼きをむぐむぐすると塩味を強く感じる。何も食べてなかったから舌が敏感なんだな。


ムニエルを食べると味が薄くなった分ちょうどよかった。


その後に塩焼きを食べてごちそうさました。




「きゃー、このお酒も爽やかで美味しいわぁ。あっ、また来た。何かな?あっ!美味しいっ。お酒と一緒に食べたら本当に美味しいわねぇ。えーっとこのメモはお酒の飲み方ね。本当によく気が利くわぁ。今度会いにいってみようかしら・・・」


ゼウちゃんがゲイルからのお供えに舌鼓を打っている頃、めぐみは青ダヌキのアニメにはまっていた。




俺は瘴気の森で何をやっていたのか、どういう状況だったかを皆に説明する。


「ずっとそんな事をしていたのか?」


アーノルド達も俺が何かをやっているのは知っていたが具体的には解っていなかった。


「魔物はこれまで通り出てくるけど、瘴気はもう大丈夫だと思う。あそこは強烈に魔力が出てる場所だから魔物を出なくすることは無理だね」


「いや、瘴気が無くなっただけで十分だ。ここにも時折流れて来てたからな」


グリムナはそれで十分と言ってくれた。


魔物は脅威であると共に資源でもある。完全に駆逐してはダメなのだ。


めぐみとの魂のぶつけ合いとかの下りは伏せておいた。皆に幻滅される神様とか可哀想だからな。口喧嘩になったとは言ったけど。


皆には俺が日本語で話してたのがバレてしまったけど、内容が理解されてなくてよかった。


その後、朝に出発して俺達は帰ったのであった。



ディノスレイヤ領に戻ってからバイクを回収しようとしたら死ぬほど抵抗された。


「こんなの人目に付いたらまずいでしょ?」


「大丈夫よっ!」


トンファーをくるんと回すアイナにそれ以上何も言えなかった。


晩飯はバルで食うことに。


チュールにリンゴのお酒をたくさん持って来て貰う。


ゼウちゃんにお供えしてからチュールに返す。ちゃんとお金は払うけど。


「これ、味が薄くなってるけど、神様が飲んだやつだからご利益あるかもしれないよ。常連にサービスで出してやれば?」


ご利益なんてないだろうけど、そう信じて飲むとプラシーボ効果とかもあるからな。本当に良いことがあるかもしれん。


ついでに料理も色々とお供えしておいた。それは俺が責任持って食べよう。良いことがありますように。



アーノルド達に礼を言って王都に戻る。近々ディノを研究所に寄付しに行こう。



そろそろピンクのドアを作ってみるか。


大工達にドアを作って貰い、ロンにピンクに塗って貰う。


そこに魔法陣をセットしてと。魔石を使わずにドアノブに魔力を直接流すようにしてみた。これで他の人には使えないはず。


実験は夜にしよう。人目があるとヤバいからな。


これで使えなかったら、めぐみには見た目はケーキだけど、中は激辛のケーキでもお供えしてやる。


さて、どこに行こうか。バレても問題ない所は実家しかないな。



夕食後に魔道バッグからあのドアを出す。


「テッテケテーテーテー♪」


何で脳内に効果音がなるんだよっ!


しかも初期の頃の効果音だ。


あの効果音を言ってみてというとだいたいの年齢がわかる。時代によって効果音が違うのだ。多分・・・



「ディノスレイヤ家のやーしーきー」


うん、似てないな。


ドアノブを握りしめてそう言ってガチャっと開ける。


「きゃーっ! ゲイルさんのえってぃぃぃ」


バタン。


アイナの入浴シーンを覗いてしまった・・・


お約束と言えばお約束だが、なぜアイナがあのセリフを知っているのだ・・・


これ、めぐみのイメージが相当働いてんな。


ゲイルはその後、魔法陣を組み換えて細かな設定をしていったのであった。


しかし、アイナのあの腹。弟か妹が・・・いでででっ



どうやら違うようで良かった。








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