第595話 瘴気の森の正体

「俺も行こう」


ということでグリムナも瘴気の森に同行することに。ここからは木々が立ち込めているのでバイクには乗らずに徒歩で向かう。


その気になればこの辺りの森を消す事も出来るがエルフの国の防波堤でもあるからそれはやめておく。


「この辺りから瘴気が濃くなって来たな」


アーノルド達が瘴気に犯されたら大変な事になるので、クリーン魔法で浄化しながら進む。絶えず瘴気が流れ込んで来るので瘴気を0にすることは出来ないが、これくらいなら問題無いだろう。


バンバン魔物が出てくるが俺の出番はない。アイナなんか率先して魔物の群れに突っ込んで行くからな。あんた治癒士だよね? ミグルも無詠唱で魔法が使えるようになったのが嬉しくて仕方がないみたいで、わーはっはっは、見よ我が偉大なる魔法をっ! とか喜んで戦ってやがる。


そういや、まだ魂を見れるかどうか試してみて無かったな。


《温玉っ!》


魂オンを唱える。


うわっ! 臭っさ! なんだよこれ?臭っさ!!


あまりの臭さにキラキラを出してしまう。


「オフっ!オフっ!」


慌ててオフしたら臭いのが収まった。


ここでこんなに臭く感じるのか。めぐみが嫌がるはずだ・・・


もう、玉ねぎと玉子と牛乳が腐って発酵したような臭いというのだろうか? 吸った瞬間に吐いてしまう激臭だ。こんなの綺麗に出来るのかよ?


「ゲイルっ! 大丈夫? もしかして魔力切れ?」


「いや、もう俺に魔力切れの心配はない・・よ。魂の腐った臭いをモロに嗅いでしまっただけ」


曲がった鼻を元に戻しながらシルフィードに答える。


「魂の腐った臭い?」


「そう。魂が見える状態にしたらこの瘴気が臭いに変わるんだよ。浄化しながらでこれってヤバいよな・・・」


恐らく腐魂の近くまで行ったら臭いで気絶するか死んでしまうかもしれない。


瘴気が濃くなるに連れて魔物は全て変異種になり強さも増している。ミグルがデバフを掛け、皆が倒す。ドワンはミグルの盾をしている。


エイプより強い魔物がエイプの数と同じくらい襲ってくるのだ。流石に皆疲れて来たようだ。


皆を俺の周りに寄らせた後、指輪を外して一気に土のドームを作る。瞬時に覆われる俺達は真っ暗闇に包まれたので、ライトを付け、地面もおもいっきり強化した。


「ふう、これで一息付けるわね」


という事で飯タイム。防具類も外してリラックスだ。久々にエイプの肉を焼き、ピリ辛味噌で香ばしく焼いてやる。出る煙はクリーン魔法で消しながら焼くから大丈夫。人間無煙ロースターってやつだ。うん旨い。



「ゲイル、さっき吐いてたのはなんだったんだ?」


腐った魂がとてつもなく臭く感じる事を説明する。念の為にドーム内と皆にクリーン魔法を掛けておいてからもう一度温玉してみた。


皆の心臓近くに魂が見える。


うん、やっぱり魂が温泉玉子みたいに見えるな。俺のイメージがそうさせているのだろう。


皆、綺麗な色をしている。ほう、人族とエルフ、ドワーフの魂は色が違うんだな。やはり、シルフィードもミグルもグリムナと同じ色をしている。ん? 何やら細かな模様か文字みたいな物が刻まれているけど読めないな。これ、才能とかのスペックが書かれているんじゃなかろうか?


神語ってやつか?


魂の裏側にもなんか書かれているのだろうか?


そう思って魂に手を伸ばすとふにょんとした手触り。


「キャッ。ゲイル・・・ こんな所で恥ずかしい・・・」


はっと気が付くと俺はシルフィードの胸を掴んでいた。


「ごっ、ごめんっ!」


魂ってふにょんとした手触りなんだなと思ったのはシルフィードの胸の感触だった。俺は皆の前でおさわり行為をしてしまったのだ。


「まだ早いっ」


とアーノルドとアイナからげんこつを食らってしまった。


「ちっ、違っ! 魂を触ろうとしたんだよ」


「は? ぼっちゃん魂って触れんのかよ?」


「ふにょんとしてた」


そう答えるとシルフィードが真っ赤になってしまった。


その後は必死に弁解したのは言うまでもない。


しかし、シルフィードもちゃんと育ってんなとか思ったのは内緒だ。



飯食って休憩も終わったので中心部に向かうことに。


だんだんと見たことがない魔物達が出始める。魔法攻撃を仕掛けてくるやつまで出てきた。


「なんじゃこやつらはっ?」


ミグルも知らない魔物達。しかも強烈に強い。


何せ数が多すぎて段々と倒す数より出てくる魔物の方が増えて来た。


俺は皆を下がらせて指輪をはめた手でサイコガンの様にファイアボールを発射。


ドウンっと地響きするような威力で目の前の魔物が吹き飛ぶ。


皆からもうお前がやれとの事になり、後方と左右の魔物は任せて正面の敵は俺がドウンドウンと撃ち殺して行く。


益々濃くなる瘴気。


その瘴気の影に隠れて一際威圧を放ってくる魔物の気配がっ!


「ゲイルっ! 下がれっ!」


アーノルドが叫ぶと共にばっと全員が後ろに飛ぶと太い腕とデカい爪が俺達を掠めた。ふわっと治癒の光が飛ぶ。ドワンが作ってくれた胸当てを引き裂き、俺の胸まで到達していたのだ。


今の一撃で散らされた俺達は体勢を整える。


あの姿は見覚えがある。ディノだ。追撃を避けながら鑑定すると【ディノ】変異種と見えた。


グリムナが一気に蔦で動きを止め、ミグルがデバフを掛けた隙にダンとアーノルドが斬り込んだ。


ズババババババンっ


アーノルドの神速の刀とダンの炎の魔剣がディノを蔦ごと斬り裂いて仕留めた。


まだ動くディノにアイナがトンファーで止めを刺す。その隙に土のドームを作った。


「いやぁ、また俺達強くなったんじゃねーか?」


アーノルドはホクホク顔だ。


「そうじゃな。あんなにあっさりとディノを倒せるとはな」


ドームの中には今倒したディノが居る。


「やったぜっ! 俺もディノを倒した一員になれるとは思ってもみなかったぜ!」


ダンも嬉しそうだ。


炎の魔剣でディノを倒したんだ。エイブリックと同じ役割だからな。


しかし、俺には引っ掛かる物がある。


「ミグル、お前も鑑定てくれ」


【ディノ】変異種

【状態】死亡


二人の鑑定は同じ結果だ。


「父さん、このディノは前に倒したのと同じ?」


「多分な」


「こんな色だった?」


目の前のディノの死体は黒っぽい。俺が宝物庫で見たのはどす黒い紫色をしていた。そして死して尚威圧を放っていた。こいつからはその威圧を感じない。見た目は恐ろしいけれども・・・


あの時はまだ俺の経験値が足りなかったからそう感じただけなのだろうか? 今、こいつに襲われた時も怖くて動けないとかなかったからな。成長して感じ方が違うのかもしれん。


「どうだったかな? こんな色だったとは思うが」


この死体に保存魔法を掛けて何年も経つと少し色が変わるのかもしれんな。魚とかも生きてる時と死んだすぐ、その後は柄が消えたり、模様が変わったりもするし。死にたてのこいつは黒光りしてるからな。


取りあえず保存魔法を掛けて魔道バッグにしまう。自作した魔道バッグはエイブリックから貰った物とは比較にならないくらい大量に物が入るのだ。


これはエイブリックとドン爺のお土産にしよう。ダンに爵位を貰う理由に十分になり得るからな。


念の為にドーム内にクリーン魔法を掛けて今日はここで寝る事にした。



ドコンっ ドコンっ


大きな音で目が覚めた。かなりごつい壁のドームが衝撃音と共に揺れる。


「何が襲ってきてやがんだろな?」


今ドームを解除するのはまずい。確実にこのドームに攻撃している奴は強そうだ。


「どうする? まだこの壁は耐えられると思うけど、このままここに居るわけにもいかないよね?」


「まぁ、出るしかないわな。皆覚悟はいいか?」


と、アーノルドが臨戦態勢を整える。


アーノルドの言う通り、じっとしてても仕方がないから皆で体勢を整え、いきなり攻撃を食らってもいいように気合い入れた。


「さ、解除するよ」



サーッとドームを解除すると一気に瘴気が立ち込めてくるのと同時にそいつが姿を現したのだった。










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