第592話 庶民街領主達との戦い

今年の感謝祭は更に盛大だ。


ミーシャの子供が無事に生まれた感謝の気持ちを込めて花火も盛大に上げる。ひそかにマリアとかの文字花火とかアニメっぽい赤ちゃん模様の花火、魔女っ娘花火とかも上げていく。


みんな大喜びだ。


パレードの歌劇団の衣装も電飾びかびかの派手な物に改造し、ピエロなんかも登場させ飴玉を配らせた。


宿はどこも満員御礼。他の街の宿まで人が溢れて宿泊難民が出てしまう有り様だった。


ただ、西の街に泊まれずに他の街の宿に泊まった人や食事が出来なかった人達から不満が溢れ出して問題になってしまった。


始まりの日に餅付きをしているとゴーリキーの使いが来たのだ。お誘いの手紙はまだ学生だからと嘘を吐いてずっと断っていたのだが、それももう通用しない。手紙だとラチがあかないと使いを寄越したのだ。しかも儚げな少女を・・・


「あ、あの、あの・・・ こちらの手紙をイバーク・ゴーリキー様より預かって参りました」


歳は俺と同じぐらいだろうか? メイド見習いっぽい。ゴーリキーの奴、こんな娘を使いに寄越しやがって・・・


ゲイルがむげに断れないタイプの娘を使いに寄越したゴーリキーはゲイルの性格を的確に把握していた。


「ありがとうね。一緒に食べていく?」


ついそういってしまう俺。なんかオドオドしている女の子には保護欲が出てしまうのだ。この使いがデーレンならとっとと帰れとか言えたのに・・・


「いえ、旦那様に叱られますので」


「大丈夫だよ。今から返事を書くから食べていきな、たくさんあるから。キキ、ララ。この娘になんか食べさせてあげて」


その場で雑煮をたべながらゴーリキーからの手紙を読む。


ふむふむ、社交会ではなく、庶民街担当者で今後の発展に付いて話し合いたいか・・・


「ゲイル、それは俺も誘われてるからな。一緒に行こう」


アルは呑気にそう言って来た。アルは北の街の改善に何度もゴーリキーと打ち合わせをしていたのだ。


ジョンはセバスにアドバイスをもらって職安を始めているので、働く気があるものはちゃんと職に就いていた。問題は働く能力があるのに働かない者達だ。それは改善されずに炊き出しを続けている。街も相変わらず荒れたままだ。飢える者はいなくなったみたいだが、そのまま続けても発展の見込みはない。


子供達のアルバイトは俺から発注しているので、炊き出しとおやつくらいは食べられるようになっていた。望みはあの天才少女か。めきめきと実力を付けてフンボルトが驚いていたからな。あの子を育てて魔法学校に入れて俺の魔道具店に引き抜きたいくらいだ。


そんな事を考えながら、ふとあのお使いのメイド見習いを見るとぜんざいを口いっぱいに頬張っていた。ミーシャみたいだな・・・。というか、ミーシャみたいな娘をあえて寄越したのだろう。ゴーリキーの奴め・・・


仕方がない。これ以上搦め手を取られる前に一度ちゃんと話しておくか。アルは度々ゴーリキーのアドバイスを受けているみたいだが、北の街が改善されないところをみると、発展させる能力はないのだろう。ただゴーリキーの人心把握能力はかなり長けている。下手に敵に回すより、味方に付けておいた方がいいかもしれない。


俺は参加する旨の返事を書いた。



メイド見習いの娘に話し掛ける。


「美味しいだろ?」


「うんっ! あっ・・・ 申し訳ございません。とても美味しいです。ありがとうございます。えへへへ」


あー、これ演技だったらどうしよう? 100%引っ掛かるわ俺。


「ゴーリキーさんに返事を書いたから持って行ってくれるかな?」


「ありがとうございますっ!」


満面の笑みだ。


「お土産にこれ持っていきな。ゴーリキーさんのじゃなくて、使用人の皆で食べるやつだからね。ゴーリキーさんへの手土産は俺が行くときに持って行くから」


「いっ、いいんですかっ」


渡したのはチョコレートの詰め合わせだ。買うとなかなか高いのでメイド見習いの給料では買えないだろう。ミーシャもハチミツの巣を買うのがぜいたくだと言ってたのを思い出す。


「ありがとうございますっ!」


使いのメイド見習いは満面の笑みでチョコレートを受け取った。



始まりの日の翌日。俺は13歳になった。まだまだ成長期。声変わりも始まりへんな気分だ。


膝が痛かったり、立ちくらみがするのはまだ続いてるけど、めぐみと会ってからは頭痛と耳鳴りはぱったりなくなっていた。


今年はジョンとマルグリッドの結婚式もあるし、魔道具ショップ、ポーション研究所開設、王邸からの抜け道作成、瘴気の森の浄化などやることが目白押しだ。


というより、目白押しでなかった年がない・・・


まずはゴーリキーとの話し合いだ。


アルと一緒にゴーリキー邸に向かう。エイブリック邸とゲイル邸の中間くらいだな。思ってたより大きい。メイド見習いに渡したチョコレートだと数が足りなかったな・・・


執事に案内されて会議室のような所に通される。土産の酒は執事に渡しておいた。


会議室にはすでに二人座っている。髭を生やした偉そうな親父とがっちりした気難しそうな親父。おそらく東と南の領主だろう。軽く会釈して適当に座る。アルは俺の隣に座り、ダンとジョンはその後ろに立つ。



「ようこそ皆様。ご機嫌麗しゅうございます。お忙しい中、こうして庶民街を管轄する方々が揃われた事、大変喜ばしい事でございます」


くどくどしたゴーリキーの挨拶から始まり、皆を紹介していく。


髭の偉そうな親父は東の街の領主、サンラー・トウゴウ伯爵。がっちりした親父が南の領主、ナッチ・ナントウ子爵。


続いて一昨年の税の報告がされる。ずっとゴーリキーが担当する大通りに面した場所の税が一番多く、東、南、西、北の順番だったらしい。ちなみに北はずっと赤字だ。


一昨年から既に西が一番の税を納めるようになっていた。去年の税はもっと差が開いているだろう。その煽りを食らってるのが東の街だ。南は職人が多く、西からの発注もあるから税は伸びているらしい。


サンラーが嫌みを込めて俺を褒める。


「さすがはエイブリック王の秘蔵子と申しましょうか。その若さで強烈な後ろ楯をお持ちの事だけのことはございますな。少し、そのお力を分けて頂きたいものですな。ワッハッハッハ」


まぁ、西の街を任されたのはエイブリックの力だ。が、発展に関しては特に援助は受けていない。


「いやぁ、長年なにもせずに税が転がり込んでくるお力の方が凄いと思いますよ。アッハッハッハ」


嫌みで返してやった。


「ところでゲイル様。西の発展は喜ばしい限りなのでございますが、少々問題が発生しておりまして」


「どんな?」


「はい、西の街の評判を聞いてお越しになられた者達が他の街で文句を言うようでございまして・・・ 料理が美味しいと聞いて来たとか温泉があると聞いて来たとか・・・」


「それ、うちの責任じゃないよね?」


「いやはや、ゲイル殿。外から来た者達は王都の庶民街は西も東もございません。同じところだと思っているのですよ。それを西の街だけで独り占めするような・・・」


「あー、サンラー・トウゴウ伯爵。俺を殿呼びするのには何か意図があるのかな? ゴーリキーさんにはゲイルと呼んでいいよと許可はしたけど、お前には許可した覚えないんだけどね?」


ムカついたからお前呼ばわりしてやった。年上だから別に呼び捨てにされてもかまわないけど、これは貴族としての戦いの場でもある。友好的に出ればレシピを無料で出してもかまわないつもりでいたけどね。


「し、失礼致しました」


苦虫を噛み潰したような顔をするサンラー。


「で、利益を独り占めするような事を言ってるけど、なんのことかな? 飯と宿は競合しているだろうけど、他の店はわざわざ競合しないように違う商品を販売するように気を使ってるんだけどね?」


「その、宿と飯が問題なのですっ! 新しい食材はロドリゲス商会を通さないと買えないし、料理のレシピも買わないといけない。それを独り占めしていると言っているのですっ! ですなっ? ゴーリキー殿っ!」


「サンラー・トウゴウ伯爵。独り占めというのは他に卸さない事を言うんだよ。どこにでも適正価格で卸してるだろうが?」


「西とは卸し価格が違うのではありせませぬかっ! しかもレシピ代を払ってあの値段で売れる訳がないっ! それにどんどん人を引き抜いておられるであろうがっ」


「まず、卸価格が違うのは俺の直営店だけだ。個人店は他と同じ価格で卸している。レシピは俺が作った奴だから直営店がレシピ代不要なのは当たり前だ。人は引き抜いてはいない。勝手にこっちへ来ているだけだ」


「そんな言い訳は通用しませんぞっ」


「言い訳でもなんでもない。お前も同じ事をすればいいだろ? 仕入れ先を開拓してレシピを開発すればいい。温泉に関しては2~3000m掘れば出るかもしれんぞ。すでに西の街で成功してるのを真似るだけなんだから簡単だろ?」


「それが出来ぬからこうしてお願いを申し上げているのだっ」


「それがお前のお願いの仕方か? 単に言い掛かりを付けられただけだと思うがね。それに俺は庶民街全体の発展を任された訳じゃない。西の街の発展だけを任されたんだ。それぞれの領主に権限委譲されてるだろ? 全体を任されてるのはゴーリキーだ。文句はゴーリキーに言うのと、何もして来なかった自分に言え」


俺にぼろかすに言われたサンラーは顔を真っ赤していたのであった。




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