第589話 お供え

「なぁ、ダン。ちょっと相談していいか?」


「なんだよ改まって?」


また二人で風呂に入っている。


「実はまた魔法が使えるようになったと言ったら驚く?」


「いや、ぼっちゃんならなんでもありだからな」


「そう、なんでもありなんだよ。というか俺は本当に人間なのか? と思うぐらいなんだよね」


「ん? 意味がわかんねぇぞ」


「いや、自分でも人間離れしてきたなぁって思って。あとあのダムリンって奴、魔族だったんだよ」


「何? 魔族ってなんだ?」


「ダンも知らないか・・・ この世界の人じゃないというか種族というか」


「この世界の人じゃない?」


「そう。魔界って呼ばれる所に住んでる人間っていうのかな?  エルフ、ドワーフ、獣人みたいな感じで魔族ってのがいるみたいなんだよ。ダムリンはそれだった」


「よくわからんけど、なんでそんな奴がここにいるんだ?」


「通常は魔界に住んでるんだけどさ、時々こっちに来て魂を食うみたいなんだよね」


「え? それまずいんじゃねーか?」


「いや、魂を食うといっても汚れた魂だけしか食わないらしくてさ、めぐみもそれならオッケーとか言っちゃってさ」


「めぐみって神様か? 神様が魂を食うのを許可したってのか?」


「そうなんだよねぇ。汚れた魂を洗うの面倒だから食べてもいいって許可したんだよね」


「なんだよそりゃ?」


「だからさ、これから人殺しとかして魂が汚れた奴は魔族に食われるんだよ」


「なんだよ、それならいいじゃねーか?」


「そうなんだけどさ・・・ で、魂って腐るらしいんだよ」


「は? 腐る? なんだそれ?」


「あの瘴気の森ってあるだろ? あの瘴気ってどうやら腐った魂から出てるみたいなんだよね」


「あれはそういうことなのか・・・」


「でさ、その腐った魂を浄化してくれって依頼を受けたんだよ。一緒に来てくれるよね?」


「マジかよ・・・」



風呂から出て腐った魂の浄化をいつ頃にしに行くか相談する。


浄化にどれくらいの時間が掛かるかわからないので、取りあえずミーシャの子供が生まれて、シルフィード達が学校を卒業するまで待つことにした。



俺はまためぐみが来るのに備えて魔道具を作る。魔法が使えるようになったことで魔力が見えるから魔法陣も組みやすい。接触不良とかすぐにわかるのだ。


で、完成したのがコイツだ。通信機。いわゆる電話ってやつだ。いや、魔話というべきか・・・


魔話機に4桁の個体番号を持たせる。めぐみは俺にしか掛けて来ないだろうから、俺のは1番、めぐみのは2番にしておいた。本当は12桁くらい欲しいのだが、リソース不足で動かない可能性もあるからな。


あと、お気に入り登録機能も付けておいた。あいつ、間違えて他の人にかけそうだからな。


実験すると距離が離れれば離れるほど魔力を食う。俺は自分の魔力を使うから問題ないけど、普通の人には使えんかもしれん。魔石がいくらあっても足りなくなりそうなのだ。


公衆電話でテレホンカードを使って国際電話を掛けた事がある人はイメージが沸くだろう。あんな感じだ。


これをこの世界で使うなら受信側はさほど魔力を必要としないので、俺に用事がある時は掛けてすぐ切る。で、俺が折り返すとかそんな使い方だな。



「ねーねー、何くれんの?」


もう来やがった。1日しか経ってないぞ。


「ほら、これ」


と魔話機、すなわち携帯を渡して使い方を説明する。


「これ持ってゼウちゃんとこに行け。で、俺が説明したのをそのまま伝えろ。ゼウちゃんならすぐにわかるはずだ。めぐみはゼウちゃんが教えてくれたものを見て、この世界でも同じような物が使えるようにお前の意識をアップデートしてくれ。わかったか?」


「何これ、めっちゃ美味しい。こんなのあるのっ?」


コイツ・・・


人の話を聞かずに俺のケーキを食いやがった。


「人の話を聞いてたか?」


「ひぃふぇふぁよ」


嘘つけっ。


「ねーねー、これお供えしてくんない?」


「お供え?」


「お供えシステムっていうのがあってね、私にお供えしてくれたら、向こうに届くの」


「食いたきゃこっちに来れば良いだろ?」


「そんなの面倒臭いじゃない。馬鹿なの?」


コイツ・・・


「お供えってどうするんだ?」


「我神に望む・・・」


「面倒臭ぇぞ。毎回その詠唱すんのかよ?」


「じゃあ、魔法陣に書けばいいじゃない。めぐみちゃんのって」


「わかった。気が向いたらな」


これからしょっちゅうお供えさせられそうだな。なんだよお供えシステムって。


どうやら元の世界もゼウちゃんとやらにお供えする人がほとんどいないらしい。おそらくゼウちゃんに信者がいないのかもしれない。


めぐみに届くお供えは昔はあったらしいが、麦となんかの葉っぱがそのまんまだったらしい。こんなもん食えるかとムカついてプチっとしたとか聞かなきゃ良かった。神にお供えしてプチってされるなんて可哀想すぎる。それからお供えは来なくなったとのこと。


当たり前だ。



「ぼっちゃん、いいか?」


「いいよ」


「昨日の話なんだがよ、ミグルも連れて行った方がいいんじゃねぇか? あそこの調査をした方がこれからの為になるかもしれん」


「そうか、特変異とかまだ何か分かってないからね」


ピーピーっ


もうかけて来やがった・・・


「もしもし」


「何よ、もしもしって?」


「電話にはこうやって出るんだよ。今ゼウちゃんと一緒か?」


「うん、一緒、一緒。代わろうか?」


「じゃ、ちょっと代わって」


「初めまして。ゼウちゃんでいいのかな?」


「いいわよ。そっちの世界で上手くやってるみたいね。めぐみってほらあれだからさ。宜しくねぇ」


「はい、めぐみはあれだからゼウちゃんにお願いがありまして」


と、4K画像の録画機器とかをめぐみに見せてもらって、こっちでも使えるようにお願いする。


「わかったわ。でね、ゲイル君お願いがあるんだけどなぁ」


とても甘ったるい声でお願いされる。なんでも言うことを聞いてしまいそうだ。


「なんでしょう?」


「ゼウ、美味しいお酒飲みたいなぁ。たまにお供えがあるのワインだけしかないんだぁ」


「じゃあ、各種お供えしますから次からは気に入ったのを教えて下さい。お供えしますから」


「ちょっとぉ! ゼウちゃんと私に対する態度がずいぶんと違うんじゃないのっ?」


「だってほら、めぐみってあれじゃん」


「何よあれって?」


「ゼウちゃんに聞いてみ?」


ゴニョゴニョ


「ぶちょー、私あれなんだって」


「そう、あれだから大丈夫だ。気にすんな」


「そう? 私ってあれなのね?」


「そう。だから気にしなくても大丈夫」


「なぁ、ぼっちゃん。さっきから何を1人でしゃべってんだ?」


「めぐみ、ちょっと代わるからしゃべってみてくれ。ダン、ここに耳をあててしゃべってみてくれ」


???となるダンに携帯を渡す。


キィィィンっ。


「うわっ! ぼっちゃん。何やらすんだよっ! 耳鳴りがして頭が痛ぇっ!」


やっぱり・・・ あの頭痛と耳鳴りはめぐみの仕業か。


「めぐみ、お前の声は耳鳴りみたいだってよ」


「はぁ? なに失礼なこと言ってくれてんのよっ! プチっとするわよっ!」


やめろっ。


「じゃ、ゼウちゃんに宜しくな。酒はすぐに用意するから」


「ちょっと、私のはーっ?」


「お前が俺の要望に応えてからだ。じゃな」


ガチャ。


うるさいから切ってやった。


「ダン、悪いけど今厨房にある酒全部持ってきてくれない? あとナッツとチョコとか」


「飲むのか?」


「いや、お供えするんだ」


は? と言われたが持ってきてもらった。



酒にそれぞれ名前を書いていく。普通に日本語だ。


そして、魔法陣を組んでいく。めぐみとゼウちゃんに切り替え出来るようにしておこう。


で、ゼウちゃんに切り替えて酒類を置いて魔力を流すとポッと光っただけで物は消えない。あれ?失敗か?


今度はナッツを置いて魔力を流す。やっぱり消えない。


今度はめぐみに切り替えて残りのチョコを置いて魔力を流す。


やっぱり消えないな・・・


ピーピー


まためぐみからだ。


「何これー! めっちゃ美味しい。次も宜しくね」


がチャ


騒がしいやつだ。


ちゃんと届いてるのか。じゃこれはなんだ? 魔法陣に残されたチョコを食べると味が薄い。なるほど、こんなシステムなのか。確かにお墓とかにお供えしたお下がりってなんか味が薄かった気がする。


ダンに今の事を説明して酒を味見してもらう。


「確かに薄くなってんな。これ神様が飲んだってとこか?」


「まだ飲んでないかもしれないけど、神様の所に行ったのは確かだね」


「なるほどなぁ。ぼっちゃんやっぱり人間じゃなくなってんじゃねーか?」


「なんで?」


「普通、自由に神様と話をしたりできねーだろがよ」


確かに。


「他にも何かあるんじゃねーのか?」


「これ以上何があるってんだよ?」


いや、そのうちラムザとかいきなりくるかもしれん。あんなビキニ姿で来られたら絶対誤解されるからな。


自分でこんな事を考えてフラグになってしまうんじゃないかと不安になってしまったのであった。


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