第586話 褒美をねだる

王家の馬車にエアコンの魔法陣を取り付けに行くとエイブリックが見学に来ていた。


「ゲイルよ、これはいかほどの魔法陣であるか?」


「こちらは献上品にございますので、お気になさらぬよう」


(いい加減請求しろっ! お前の献上品に対する褒美が貯まってんだよっ。他の貴族の目もあるだろうがっ)

(これに値段付けたら発注来ちゃうだろ。いいよ褒美なんて)

(だから、他の奴らの目があるっていってるだろうがっ)

(・・・・じゃ後でこっそりお願いするよ)


ということで、王城の別室へ。



「で、欲しい物が出来たのか?」


「物じゃなくて、者なんだけどね」


「は? 人の事か? 誰だ?」


「隠密の二人を俺にくれない?」


「あの双子か?」


「そう。あの娘達も多分年頃だろ? 普通の生活を送らせてやりたいんだよね。ミーシャは嫁に行って新しい生活を始めたからもう護衛は大丈夫だと思うんだ。俺は魔法が使えなくなったから昔ほど利用価値無いし、シルフィードは俺とずっと一緒にいるからね。護衛はそろそろ必要ないんじゃないかと思ってる」


「まぁ、そうだな。で、あの二人を解放したらどうするつもりだ?」


「二人に希望を聞いてみるよ。家とか働き口なんてどうにでもしてあげられるから」


「ふむ、隠密か・・・」


俺は王家の隠密が最後どうなるのか知らない。恐らく外に出せない秘密を握っている隠密達はその任務が全う出来なくなった年齢や身体になったときに消されてしまうんじゃないかと思っている。影に生まれて影として消えていく。一度も陽の当たらない人生ではないかと思ったのだ。


あの娘達にはお世話になった。出来ればその世界から連れ出してやりたいと思う。


「よし、わかった。あの二人はくれてやろう。しかし、もう護衛に付けてやれる隠密の代わりはおらんぞ」


「大丈夫。守りの魔法陣とか作るから」


「そんなものが出来るのか?」


「どうだろうね? 魔法陣ってなんでも出来そうなんだよ。完成したらエイブリックさんのも作るね」


「まぁ、楽しみにしておく。おい二人とも出てこい」


「はっ」


「ゲイルがお前達を欲しいんだとよ。どうする?」


「ありがたき幸せ。我らは本日より、ゲイル様の忠実なシモベとして存在したいと存じます」


「ったく、悩むことすらせんのかお前らは。ということだゲイル。とっとと連れていけ」



献上品の褒美を受け渡すと別室に行ったエイブリックとゲイルが出て来た。ゲイルと二人の女性が・・・


その二人はゲイルの後ろを嬉しそうに付いていく。


貴族達はゲイルが褒美に女を要求し、王がそれを与えたと認識したが誰もその場では口に出さなかった。



後日、めかけの申し込みがゲイルの屋敷に殺到したのは言うまでもない、



屋敷に戻ったゲイルは応接室で二人と話をすることに。


「ゲイル様、我らをご所望頂いた理由をお聞かせ頂けませぬでしょうか?」


時々会いに来た時はもっと子供らしい感じだったけど、ずいぶん大人になったな。口調も仕事モードだ。


「いや、今までありがとうね。お陰でミーシャも無事に嫁に行ったし、シルフィードは学生生活を送っている。二人がいてくれたから安心して過ごせたよ」


「もったいなきお言葉。我々も数々のお心使いを本当に感謝しております。我らはゲイル様の忠実なシモベなる存在。何なりとお申し付け下さいませ。あの・・・・、伽の方は経験がなく・・その上手ではございませぬが・・」


「だーーっ! そんなの命令するわけないじゃん。俺はただ二人に普通の生活を送って欲しいだけ。エイブリックさんとの話を聞いてただろ? もう年頃なんだからさ、良い相手を見つけて普通の暮らしをしなよ。家とか仕事とかはなんとかするからさ」


「良い相手・・・」


ボッと赤くなる二人。めちゃくちゃ初々しいな。


「あ、ごめん。二人の名前を知らないや。なんて言うの?」


「我らに名前なぞございませぬ」


それは不便だ。


「じゃあ、俺が名付けていい?」


「はっ、有り難き幸せ」


「じゃぁ、お姉ちゃんがキキ、妹がララ。これでいいかな?」


「なんと愛らしい名前を賜り、恐悦至極にございます」


すでに心の中でそう呼んでたからな。


「後さ、普通のしゃべり方にしてくれない? そのシモベってのもやめて。もう仲間なんだからさ」


「しかし・・・」


「俺はね、二人に俺の隠密になって欲しいんじゃないんだ。ただ普通の暮らしをして欲しいだけ。だからもうそんな態度を取る必要もないから」


「普通の生活・・・」


「そう、俺の仲間はみんな好きな事をしてるだろ? 二人にもそれをして欲しいんだ。それが俺の願い。どゆあんだすたん?」


「わ、わかりました」


「敬語もなしでね。じゃ何かやりたいことがある?」


ポロポロっと泣く二人。


「わ、私達がみなさんと同じような生活をしてよいとおっしゃるのですか?」


「そうだよ。で、敬語はなしね」


「私はゲイル様のお側にいたいです。お仕事を手伝わせて下さい」


俺の仕事か・・・


「じゃ、魔法陣の資格とポーションの資格を取ろうか。それで俺の仕事手伝って」


「はいっ」×2


という事で二人を屋敷に住まわせることに。学校から帰ってきたダンとシルフィード達に二人を紹介する。ダンとシルフィードには二人の存在を明かした。



「ぜんぜん知らなかった・・・」


シルフィードはキキとララに驚いていた。シルフィードには変な誤解を与えないように、キキがシルフィードを陰からずっと守っていてくれたことを説明する。


「キキさん。今までありがとう。これからも宜しくね」


「はい、シルフィード様。これからも宜しくお願いします」


シルフィードは二人に様付けじゃなく、シルフィと呼ぶようにお願いしていた。


「で、ぼっちゃんはこの二人に何をやらせるつもりだ?」


「とりあえず、魔法学校に合格してもらう。魔法陣コースとポーションコースにね。で、卒業したら魔道具ショップとポーション研究所を作ってそこを任せるよ」


俺は将来の構想を皆に話した。


「私達がゲイル様の代わりをするのですね。死ぬ気で頑張ります」



晩御飯時に屋敷の皆にも紹介しておいた。


今晩から二人に受験勉強だ。去年の試験を参考に勉強を教えていく。地頭は良いが、やったことがない勉強に苦戦する二人。是非とも今年に受かって欲しいので、受験までずっと教えてはテスト、教えてはテストを繰り返していった。その間、シルフィードのポーションとミグルとの魔法陣開発はお預け。二人は拗ねていたけど仕方がない。


魔法実技は問題ないので、ひたすら勉強だ。一応校長に今年の受験生に俺の秘蔵っ娘がいるので、ポーションコースと魔法陣コースのダブル受験をさせて欲しいとお願いしておいた。



その後、キキとララは見事に両方のコースに合格した。


「ゲイル様、やりましたっ!」


「おめでとう。これで来年から仕事手伝って貰えるね」


それと俺のメリットはもう1つ。二人がシルフィードと行動を共にしてくれるので、お迎えとかしなくて良くなるのだ。仕事が忙しくて手が離せない時に重宝するだろう。ダンも毎日学校に行ってるわけじゃないからな。


そう、俺はまた新しい魔道具を作らなくてはいけないのだ。カメラやビデオ、それと哺乳瓶を殺菌したりするものを。


実はミーシャが妊娠したらしい。来年の夏の終わりか秋の始めに生まれるんじゃないかとのこと。


あのミーシャが妊娠したとは信じられないないが、信じないとしかたがない。俺はミーシャの子供の成長記録を撮らねばならないのだ。


ビデオとカメラはなんとかなりそうなのだが、問題は記録媒体。撮影する魔道具、それを記録する魔道具、再生する魔道具。これを同時に開発していかねばならないのだ。


俺はミーシャの妊娠の知らせを受けてからますます狂ったように魔道具の開発をしていくのであった。











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