第584話 復活

ゲイルもミーシャも落ち着いたので食堂で皆でご飯を食べる。


ダンから俺の様子がおかしくて皆が心配していたこと、ザックからはミーシャの様子がおかしかったことを説明される。


俺とミーシャはその自覚がなかったが改めて説明されると心当たりがあった。ミーシャも同じだったようだ。


「みんなごめん。そんな自覚無かったけど、言われてみればそうだよね・・・」


「私もザックさんになぜあんなにイライラしてたのかよく解りません。ごめんなさい」


お昼ご飯はステーキだ。パリスから肉を食って元気になれとの事だろう。


やっぱりここのご飯はおいひいでふと口にいっぱい放り込んでしゃべるミーシャに固まった心が溶けていく。俺の中のミーシャの存在は自分が思うより大きかったのだ。それはミーシャも同じだったのかもしれない。


「で、ミーシャ。今日はここに泊まるとして、明日からはどうするの?」


「えっ?どういうふことでふか?」


「ここにずっといるのか、ザックの所に戻るのかと言うことよ」


「え、もどりまふよ」


「うん、ちゃんとザックのとこへ戻れ。ここにはいつ来てもいい。ミーシャの実家なんだからな」


「へへへ、ご飯食べにきまふ」


落ち着きを取り戻した二人はもう大丈夫そうだった。二人とも嫁いだからには戻って来てはいけないと心の中で言い聞かせてたのだ。


実際にはそんな事はなく、ザックのところとここは近いのだからすぐに会えるし、屋敷は常に誰か出入りしているから突然来てもご飯の事も気兼ねすることはない。こうやっていつ帰って来てもいいのだと理解したことで、心の上の重いものがストンと無くなったのだ。


それからは二人ともおかしくなることはなく、普段の生活に戻って行った。ミーシャはしょっちゅうご飯を食べに帰ってくるようになったが、ちゃんとザックも付いて来ていた。



「ぼっちゃん、それ何を作ってんだ?」


「電飾だよ」


「電飾? なんだそりゃ?」


「ライトって明るく照らすだけのものじゃないんだよ。まぁ見てなって」


小さなライトの魔法陣を大量に描き、点滅したりするように工夫している。それをドワンが様々な色のガラスに嵌め込んでいく。そう、感謝祭に向けてエレクトリカルパレードを予定しているのだ。


デフォルメしたキャラクターの張りぼては中からライトアップ。それを電飾で飾り付けていく。先頭は鼓笛隊、次に歌劇団。その後に電飾馬車が続くやつだ。結婚式場の張りぼてには新郎新婦が乗って手を振る。完璧だ。


感謝祭から始まりの日までは毎晩。それ以降は売上の落ちる月半ばにパレードを開催。月末月初は元々人手が多いので開催しない。街に来る人達の平均化を促すのだ。


あ、あれも作っちゃお。どんどん悪のりして作る物が増えていく。今はミラーボールとレーザー光線みたいにビヤビヤと光が出まくる物を作っているのだ。


あとは花火があげられるといいんだけどな・・・


魔法陣で何とか出来ないものだろうか?


電飾などの魔法陣は出来たので、後の加工は任せていく。俺は花火の魔法陣の作成に取り掛かった。



「ったく、ミーシャのことで元気を取り戻したのはいいけどよ、また仕事をやり続ける生活に戻りやがった」


「でもやっぱり私じゃダメなんだってわかっちゃった・・・」


シルフィードは目を伏せてそういう。


「そやろか?」


「えっ?」


「ゲイルはシルフィードがおらんようになってもあんなに風になるんちゃうやろか?」


「そ、そうかな・・・」


「まぁ、ダンがおらんようになってもあないなるやろけどな」


「そんな訳あるかっ」


「いや、ダンもミーシャみたいになるやろ?」


「なるかよっ!」


「ゲイルの護衛は去年に終わっとるのに今でもやってるやん。それがええ証拠や」


ゲイルはそんな会話がされているとは露知らず、花火の魔法陣を延々と実験して行くのであった。



「うーん・・・」


「どうした?」


「いや、出来るには出来たんだけど、思ってたのと違うんだよね」


空中にパッといきなり花火模様の電飾が点くみたいにしか出来ないのだ。音もないからとても寂しい。昔のパチ屋のネオンみたいな感じだ。



ひゅードンッパラパラパラパラ~っとかの音がないとテレビで花火を見ているのと変わらん。音もなく、チカッ パッと消える花火に情緒もへったくれもない。


これは根本的に仕組みを変えないとダメだな。


細かな条件設定をしていくが上手く発動しない。めぐみがのーたりんなので言葉だけでイメージ出来ないのかもしれない。


花火を絵に描いてみるか。ひゅーっと上がって行くところから花火が開いてドンッ、消えていくときにパラパラと鳴るとか図で説明していく。ここで困るのが全ての絵の細かい所まで線をつなぐのが難しいのだ。全部糸を引いた納豆みたいな花火に成ってしまう。


ん? 待てよ・・・


めぐみというより、この世界のシステムが認識出来たら発動するのが魔法陣だ。魔法陣はそれを理解してもらうための説明書みたいなもんだろう。これ、こうやれば解決するんじゃね?


まず、魔道インクをベタ塗りした物を用意し、その上にロウ紙をセット。ガリガリとロウを削りながら文字と絵、それに解説を描いていく。勿論全て日本語だ。そこを魔道インクで上書きする。見た目は文字と文字は繋がってないが裏の魔道インクでは繋がっている。


今作ったのはミニチュアサイズの卓上型うち上げ花火。では魔石をおいてスイッチオン!



ぽんと音がして目の前で花火が上がる。やった!成功だ!


これ、大発明じゃね? いや、世紀の発見と言っても過言ではないだろう。しかし、ロウ紙でやるのは面倒臭い。なんせ2回書かないとだめだからな。


あっ!そうだ。ということで、サイトがようやく完成させてくれた紙にとても細かい穴を一面に開ける。それを魔道インクをベタ塗りにした紙に載せ同じように花火の魔法陣を描いていく。


やった! 成功だ・・・


ドワンに言って、元のロール紙を作る時に目に見えないくらいの細かい穴があいたものと、魔道インクを塗った紙を作り、それを圧着加工をしてもらう。これで超楽勝だ。魔道紙と名付けよう。ちなみにドワンにも魔法陣関係の話をしてよい許可はもらっている。


まったくお前は次から次へと文句を言われるがこれがあったら何でも出来るのだ。



さて、魔道紙が出来るまでは自分の欲しい物を作って行きますか。


作るのは新型魔道バッグだ。高効率の魔法陣なら魔法が使えなくなった俺でも大丈夫。一度魔石を入れたら1年近く持つからな。


次はモトクロスのバイクだ。シルバーはだんだん衰えてきている。もうあまり無理はさせられないし、次の馬を飼う気にもならない。コボルト達と遊ばせておいたり、子供達に乗馬体験とかさせてやるのもいいだろう。


本当はこれから作る乗り物はバイクよりバギータイプの車の方がいいけど、それはまた後だな。走る・曲がる・止まるを上手く作るには時間が必要だ。まずは手軽なバイクから作って行くのが正解だろう。宗一郎もそうしたからな。


しかし、これが完成しても盗まれるとヤバいよな。


使用者登録したものしか使えないようにするか。確か血で登録するやり方あったはずだ。明日はシルフィードと学校に行って図書館で調べよう。



シルフィードが授業を受けている間に使用者制限の仕組みの極秘資料をみて行く。俺は全て閲覧フリーなのだ。


ふむふむ、使用者登録は血と指紋の2タイプ。一度に何人まで登録するか事前に決めておくのか。後はマスター登録。これをしてしまえば他の者が変更出来なくなり、使用者の変更はマスターが魔法で行う。なるほど、今の俺には無理だから使用者登録だけでいいな。確実な血での登録にしておこう。


ズキンッ


ちっ、また頭が痛い。痛み止めポーションとか作れないかな? チャームに相談してみよう。後は化粧品や洗剤、柔軟剤とか色々作りたいのだ。


そうそう、毒消しポーションを作らないとダメだったんだ。すっかり魔法陣のことで頭がいっぱいで忘れていた。



こうしてミーシャの嫁入りの事を乗り越えたゲイルは益々精力的に様々な物を作っていくのであった。


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