第583話 ゲイルとミーシャ
釣り場に到着したゲイル達。
ゲイルは元気になったのは良かったのだが今度は元気すぎる。酔っ払いかと思うぐらいにテンションが高いのだ。
かと思ったら笑顔がなくなってほとんど動かなくなったり、些細な事で怒り出したりする。
「アーノルド様・・・」
「あぁ、思ってたより相当ヤバいな。アイナ、治癒魔法で何とかならないのか?」
「やってみてもダメだったわよ」
ゲイルの感情の起伏が大きく、どうして良いか皆わからない。
今は夕方のチャンスタイムだというのに、風呂に行くと屋根の上に上がっていってしまったのだ。
「もし、風呂で溺れてたりしたらまずいから様子見てくるわ」
アーノルドが様子を身に行くとゲイルは屋根に座ってただ夕日を見つめていた。
「ゲイル、大丈夫か?」
「あ、父さん。うん、まだ時々頭が痛かったり、耳鳴りしたりするけど大丈夫だよ。レバー食べてるし」
「いや、そっちじゃなくて、心の方だ」
「心? 別に何にもないよ」
「お前、自覚してないのか? ずっと変なんだぞ」
「そう? いつも通りだよ」
「なら、なんで釣りをしないんだ? この時間はチャンスタイムなんだろ?」
「あぁ、そうだね・・・ でも夕日が綺麗だなぁって」
「なぁ、ゲイル。ミーシャが嫁に行った事がそんなにショックだったか?」
「いや、心配なのは心配だけど、もう結婚するのもちょっと遅いくらいだから良かったと思うよ」
アーノルドは少し安心する。ミーシャが嫁に行った事は認識しているようだ。
「なら、なんでそんなにボーッとしてるんだ? 皆、心配してるぞ」
「そういや、なんでだろうね? 自分でもよくわかんないや。俺達があちこち行くようになって、ミーシャと離れてる時間が増えてたのにね・・・ 今思うとミーシャもお留守番している時はこんな感じだったのかなぁって。俺がもっとちゃんとしてたらどこにでも連れてってあげても問題無かったんだけどね・・・ 今更だけど」
「お前がちゃんとしてなかったら誰がちゃんとしてるって言うんだ。お前はミーシャの安全を最優先しただけだろ? だからミーシャはちゃんと嫁に行けたんだ。胸を張れ」
「そうだね・・・ 良かったよ。無事に幸せになれて・・・」
ーロドリゲス商会 王都西の街店ー
「おいっ、早くしてくれよ。何ボーッとしてんだ?」
「あっ、すいません。合計で金貨27枚です」
「はぁーーっ? なんで肉とエール2本で金貨27枚もするんだっ」
「す、すみませんお客様。ミーシャちゃん、疲れてるみたいだから奥で休んで来て。ここは俺がやるから」
「あ、ごめんなさい・・・」
「ミーシャちゃん大丈夫?」
「ごめんなさい。またボーッとしていたみたいで・・・」
「いいよいいよ。慣れない生活に気持ちが付いて来てないなかもしれないから、しばらく仕事は休んで。もう人はなんとかなるから」
「ごめんなさい・・・」
翌日休みをもらったミーシャはゲイルの屋敷を訪ねる。
ぼっちゃまはミーシャが居なくなって寂しがってるに違いありません。私がこんなに寂しいんですから・・・
ゲイルに会えると思うと心が晴れるミーシャ。ゲイルが結婚式の時に号泣したり、パーティーの時にミーシャの祝いの席で仕事の話をしに来るなと怒鳴ったのがとても嬉しかったのだ。
きっとぼっちゃまは今も寂しくて泣いているかもしれませんね。大丈夫ですよミーシャが会いに来ましたから。
ゲイルが物凄く喜んで出迎えてくれるのを想像して屋敷に到着。
「ゲイル様は南の領地に釣りに行かれました。お戻りはいつになるか不明でございます」
「ソウデスカ・・・」
カンリムからゲイルが釣りに行ったと聞かされたミーシャは屋敷からとぼとぼとザックの店へと戻った。
「あれ?今日は休んでいいと言ったよね?」
ぐすっぐすっ。
「どうしたの?」
うわぁーーん。
店先でいきなり号泣するミーシャ。
「うわっ、ちょっとちょっと。誰かっ、ここをお願いっ」
ー釣り公園ー
「しかし、いくら海の魚が旨いというても塩焼きばかりじゃと・・・」
「塩焼き旨いやん」
「私がなんか作ってあげましょうか? ドワン」
「いや、やっぱり魚は塩焼きが一番じゃな。ガーハッハッハ」
ゲイルはまたフリーズしたりはしゃいだりを繰り返し、ほとんど釣りも料理もしていないのであった。
(アーノルド様、これ以上ここに居ても無駄だな)
(そうだな。そのうち海に落っこちでもしたらまずいから帰るか・・・)
釣り公園には2日も滞在せずに王都へ戻ることにしたアーノルド達だった。
ーザックの家ー
「だからこんな所に脱ぎっぱなしにしないでっ。何回言ったら分かるのっ!」
「あ、ごめん・・・」
「いつもザックさんはそういう所がダメなんですっ」
今までミーシャが怒った事をみた事がなかったザック。最近すぐに泣いたり、怒ったりする事にどうしていいかよく解らなくなっていた。
ー王都の屋敷ー
「アーノルド様、ちょっとザックの所に行って来るわ。ミーシャが来ればぼっちゃんも元に戻るんじゃねーかと思うんだ」
「しかし、もう嫁いだんだぞ」
「そんな事言ってられねぇだろ? ぼっちゃんが本当に壊れちまったら元に戻せねぇだろうが」
「なら、私も行くわ。アーノルドはゲイルの様子を見てて」
アイナとダンがザックの所に行こうとすると、カンリムがザックが来たと伝えに来た。
「応接室に通して頂戴」
「ザック、どうしたの?」
「はい、お恥ずかしい話なんですが、ミーシャちゃんの様子がおかしくてご相談をと思いまして」
「ミーシャが? どんな感じなの?」
アイナがザックの話を聞くとミーシャもかなり情緒不安になっているようだ。
「ザック、ミーシャを連れて来てくれないからしら?」
「わ、わかりました」
「その代わり覚悟はしておいてね」
「なんの覚悟ですか?」
「ミーシャはあなたの元へ戻らないかもしれないわ」
「えっ?どどどどど、どういうことですかっ!」
「ゲイルもミーシャが居なくなってから様子がおかしいの。きっとミーシャも同じような感じになってるのよ。ここで二人を会わせたらもうザックの所に戻らない可能性が高いわ」
「そ、そんな・・・」
「どうする?」
「連れて来なかったらどうなります・・・か?」
「しばらくしたら落ち着くかもしれないし、本当に壊れちゃうかもしれない。実は私達もミーシャにここへ来てくれるようにお願いしようと思ってたの。でもミーシャも同じ感じだとは思ってなかったわ。二人を会わせたらどうなるか想像がつかなくなっちゃったわね」
「でも、このままだと本当に壊れちゃうかもしれないんですよね・・・」
「そうね。それはゲイルも同じね」
「わ、わかりました。まずはミーシャちゃんとぼっちゃんが元に戻るのが先決です。もし、それでミーシャちゃんが戻ら・・・・なくても・・・仕方がありませ・・ん」
「分かったわ。明日、ミーシャを連れて来て頂戴」
翌日、なんでぼっちゃまの所に行かないとダメなんですかっ! と怒るミーシャを無理やり連れて来たザック。
「アイナ様、宜しくお願いします」
「ミーシャ、ゲイルを起こして来てくれないかしら?」
「もう私はぼっちゃまのメイドではありません。シルフィードさんに起こしに行ってもらえばいいじゃないですかっ!」
ヒステリックに怒るミーシャに皆驚く。
「ミーシャちゃん、私じゃダメなんです・・・」
「えっ?」
泣きそうな声でそう言うシルフィードにミーシャは我に返る。
「だって、ぼっちゃまは私が居なくなっても釣りに行ったって・・・」
「あれはゲイルの様子がおかしかったから私達が無理矢理連れて行ったの。でもダメだったわ。今もぜんぜん起きても来ないし。だからミーシャに呼びに行ってほしいの。あのままだとゲイルが壊れちゃうわ」
「ぼっちゃまが壊れる・・・?」
「そうよ、ミーシャが居なくなってからおかしいの。だからお願い、ゲイルの様子を見てきて頂戴」
アイナにそう言われてミーシャはゲイルを起こしに行く。
「ぼっちゃま、ぼっちゃま。起きて下さい。もうお昼前ですよ」
「まだ寝かせておいて・・・」
「ぼっちゃま、起きて下さい。ミーシャですよ」
えっ? ミーシャ?
ガバッと起き上がるゲイル。
「ぼっちゃま、お早うございます」
ミーシャを見てボロボロと泣くゲイル。
それを見たミーシャもボロボロと泣く。
ガバッと抱き合う二人。
「ミーシャ、お前どうしたんだよ? 嫁に行ったんじゃなかったのかよ・・・」
「はい、ぼっちゃまが寂しがってると聞いて戻って来ましたよ」
「アホかっ、誰が寂しがってんねん。寂しがってんのはミーシャやろがっ。嫁に行ったらこんなに簡単に帰ってきたらあかんやんか」
「はい、でもミーシャは寂しくて寂しくて・・・」
うわぁーーんと大声で泣くミーシャ。
「ほんましゃあないな、ミーシャは大きなっても子供の頃とかわらんやん・・・」
ミーシャはしばらくゲイルの胸元で大きく泣き続け、ゲイルはミーシャの頭をよしよしし続けたのであった。
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