第581話 もう学ぶことがない

あれから半年、まだ時々耳鳴りや頭痛、たちくらみはあるが貧血のようだった。ダンとか他の人に顔色悪いぞと言われて良かったと思う。高血圧なら青白い顔にはならないからだ。


レバーとか血が増えそうなのを毎日のように食べてたのが良かったのか、たちくらみとかだいぶマシになってた。


春にはドワンが工房を開き、まずは改良したライトを街灯に採用して順次入れ換えていった。


俺はポーションも魔法陣も夏休み前に全てマスターしてしまい、学校に行く必要がなくなってしまった。けど卒業課題はまだ出さない。せっかくの学生という身分をまだ放棄したくはないのだ。ちなみにシルフィードには学生生活を楽しんで欲しいので、ポーション作りに関してはあまり詳しく教えてはいない。なのでまだ授業を受けている。イジワルと言われ続けたが、そうではないのだ。



「ゲイル君、ちょっといいかね?」


学校に来ても授業に出る訳ではないので、食堂でランチメニューを一緒に考えていた時に校長から呼ばれた。


「なんでしょう?」


「卒業試験はどうするかね? 早く資格が必要なら卒業試験を実施するが?」


「いや、まだ学生でいたいなぁとかと思ってましてね。卒業しちゃうとここに来れなくなっちゃうし」


「いや、このまま来てくれても構わん。というより来てくれると助かる」


「ん? 来ていいなら、提出しようかな。その後は何か手伝えってことですか?」


「うちの教師達の先生をしてくれんかね?」


「先生の先生? 何を教えるんですか?」


「古代語じゃよ。ゲイル君は全て解読している。そうではないのかね?」


そりゃ、魔法陣を教えて貰ったその場ですぐに複製したからな。言葉を理解しているか瞬間記憶能力が無いと無理だ。


「校長先生、少し別室でお話をさせてもらえませんか?」



校長室へ移動して話をする。


「校長先生、古代語を皆に教えたらどうなると思います?」


「魔法陣への理解が進んで新しい魔法陣が組みやすくなるのでは?」


「その通りなんですが、それは誰でも魔法陣を組める事にも繋がるんです。これって危険じゃないですかね?」


「むむ、それはそうじゃが・・・」


「生活が豊かになる魔法陣がどんどん出来るのは賛成なんです。しかし、兵器も作れてしまう危険性が増すんじゃないかなと思うんですよね」


「兵器じゃと?」


「はい、すでに大規模攻撃魔法陣というのを各国で持ってると聞いたことがあります。しかし、大量の魔力というか魔石が必要になるから使用することはないだろうとも聞きました」


「そんな事まで知っているのかね・・・」


「で、入学の時に聞かれた回転する魔法陣ですけど、それを流用すれば兵器にも使えるんです。便利な物と兵器は紙一重ということですね。刃物と同じです。包丁や小刀で調理や何か木を削ったりするのに便利ですけど、それが剣になれば人を殺す道具になる。これが兵器になると何千という人を一瞬に殺せるようになる」


「それは攻撃魔法でも同じではないのかね?」


「誰でも出来る訳ではないですよね? この国でも数人しかそんな魔法を使えませんよ」


「誰でもそれが出来る可能性が出てしまうということだね?」


「そうです。先生達を疑ってる訳ではないんですけど、いずれそういうものに繋がってしまうんじゃないかと思いまして・・・」


「そうじゃな・・・ ではちと付いて来てくれんか」


と深刻な顔をした校長は図書館へと向かった。職員用の部屋から更に奥へと進み、本棚の後ろにある隠し扉を開けた。隠匿の魔法陣というのがあるらしくここの存在を知るのは校長だけらしい。


その扉を開けると宝箱みたいな物があり、保存の魔法陣が組み込まれているようだった。


校長がその宝箱を開けると本が入っていた。


「ゲイル君はこれを読めるかね?」


その本は魔法陣図鑑みたいな物だった。全部日本語で書かれた物。いわゆる遺跡から出た遺物と呼ばれるものだ。


「見てもいいんですか?」


「魔法陣の原典と呼ばれる物じゃよ。まだ誰も解読が出来てはおらん」


初めのページから見ていく。やはり、生活家電のような物が主体だ。俺が考えているものと仕組みはほとんど一緒。但し魔法陣に書かれている文字は草書だ。漢字やひらがなを繋げて書くと文字として認識されないのは確認済みだ。草書ならそれを防ぐ事が出来るのか・・・


「校長先生、確かにこれも古代語だと思いますけど、これは読めません」


「そうかね、ゲイル君でも無理なのだな・・・」


校長はこれを解読するのに古代語を教えて欲しかったのか・・・


他に読める物があるか見ていく。魔法陣関係は全滅だ。全て草書だからな。全て読めなかったことを伝えるともう1つの宝箱を開ける校長。


こちらの方には11冊入っていた。


こ、これは・・・


《年刊 人を呪おう》


年刊誌なんて初めてみた。創刊号は銀貨1枚。次号から金貨1枚で7冊目から金貨10枚。11冊目は金貨100枚。残念ながら全部で12冊みたいだが、最終巻はとてつもなく高くなって買えなかったのだろう。貨幣価値が今とどれぐらい違うかわからないけど、金や銀と同等の価値なのであれば同じくらいなのかもしれない。


ざーっと目を通したが、発動のさせ方と解除の方法は最終巻に記載されているようだ。全冊揃わないと意味がない。12年掛けて発行を待ち、最終巻が買えない値段設定とか詐欺みたいなやり方だな。


しかし、呪いがどんなものかはわかった。呪いは自分の生命力を使って行使するもので、誰かを呪っている間は他の人を呪えないらしい。


呪いというより呪術みたいな感じだな。


しかし、思わぬ所で呪いの情報を得られて良かった。最終的に呪いで人を殺した場合は呪った人も死ぬと書かれている。これが本当なら前の騎士隊長に呪いを掛けた人は死んでいる。そうそうこれを使える人がいるとは思えないからな。


「それは何か分かったのかね?」


「人を呪う方法が書かれています。ただ、発動のさせ方と解除の方法は12冊目に書かれているみたいで、12冊目がないので方法はわかりませんでした」


「呪い?」


「人を操ったり殺したりする物です。以前、呪いで殺された人がいます。事件は公にされてませんが」


「これはそんな恐ろしい本なのか・・・」


「はい、でも全部揃ってないと意味のないものです。歴史的価値はあると思いますけどそれだけですね」



という訳で秘密の部屋を出た。もう授業が終わる時間みたいだからな。


「ゲイル君、ありがとう。残念ながら魔法陣は今以上に発展させるのは難しいようだ」


「いや、仕組みその物は解明したので、発展させるのは可能ですよ」


「なんじゃとっ?」


「ただ、それを公表するつもりはないので教えることは出来ません。理由は先ほど話した通りです。生活を豊かにするものは自分で作って販売はしていきますけどね」


「うむ、ではゲイル君が作る魔道具を楽しみにしていよう」


「魔法学校には作った魔道具を寄付していきますよ。見た事がない魔道具が増えていけば生徒もやる気が出るでしょうし」


「いいのかね?」


「もちろん。工夫しだいで今の魔法陣で作れるような物とかもありますから」


「うむ、では卒業試験を受けたまえ。そしてその後も魔法学校に自由に出入り出来るように特別講師として登録しておく」



と、いうことで俺は夏休み前に魔法学校を卒業したのであった。なんて呆気ない・・・。



さ、この夏にはミーシャの結婚式があるからそっちも頑張らないとな・・・。


あー、とうとう嫁に行ってしまうのかと思うと寂しくて仕方がない。


しかし、ミーシャへのお祝いの魔道具をたくさん作らないとダメだから最後の追い上げだ。魔道具販売の資格を取ったから堂々と魔道具の発表も出来る。ここは遠慮なく作らせて貰おう。


洗濯機、掃除機、エアコン・・・あとは何がいいかな?


ミーシャの結婚式に向けてゲイルは最新家電ならぬ最新魔道具をドワンと共に毎晩遅くまで作るのであった。



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