第579話 模擬戦

エイブリックに許可を貰ったので堂々とシルフィードにポーションの作り方を教える。ついでにミグルも含めておいたのでやつも拗ねることないだろう。


翌日校長に報告し、もう許可が出たのかと驚かれた。


シルフィードも初級に合格し、これで魔法陣コースの個別授業に参加出来る事になった。


「ダン、ちょっとディノスレイヤ領に行こうと思うんだけどさ、臨時講師休める? 無理ならシルフィードと二人で行くけど」


「何しに行くんだ?」


「おやっさんにぶちょー商会の支店というかこっちに来てもらおうかと思って。前に来年と言ってあるんだけど、このままだとあっという間に習うことなくなりそうなんだよね」


「あー、なるほどな。もう作成に掛かるのか?」


「販売しなければいいみたいだから、ライトや魔導コンロとか店のやつ作り直したいんだよ。魚のコンテナとかも。このまま行けば魔石の数が絶対足りなくなるだろ?」


「毎月100個あそこで再生してもそうかもしれんな」


「だからおやっさんと直接話したいんだよね」


「なら一週間ぐらいか?」


「長くてそうだね。蒸留酒はうちの分も今年から任せないとダメだし、独自で作ってるやつも教えないとダメなんだよ」


「わかった。明日聞いてみるわ。あいつらまったく相手にならんから自己訓練させとけばいいしな」


という事でディノスレイヤ領に向かった。ミーシャも連れていこう。



「は?もう来いじゃと?」


「そう。おやっさんがいないと不便なんだよ」


ストレートに物を言う。


「ったく、店はあるのか?」


「物件は確保してあるから道具と釜は持って来てね」


ということで小屋に移動。ジョージにシャンパンの作り方を教えて後は頼んだ。俺用の蒸留酒も作ったらここへ運んでもらい、ドワンが居なくても小屋の管理をお願いしておく。荒れ果てたら寂しいからな。


翌日は鴨小屋に行き、羽毛を仕入れて布団に加工を依頼する。俺の新しいダウンジャケットも。去年のはもう着れないのだ。来年も着れるサイズにしておいた。


「もう帰るの?」


「やること終わったからね。母さん達も暇なら遊びに来たら? 魔法学校で治癒魔法の特別講師とかしたら喜ばれるよ」


「あらそうなの? じゃあ一緒に行こうかしら?」


「おいおい、アイナだけ行くのかよ?」


「父さんも来たら? 今ダンが魔法コースの生徒の鼻っ柱折ってるから一緒にやってみたらいいよ。校長には話を通すから」


入学してもう魔法学校を掌握しているゲイル。無料なら特別講師をねじ込むことは造作もない。



面白そうだと二人も付いて来ることに。ベントも屋台の様子を見るとのことで全員で移動。


予定より早く戻ったので、先に校長にアーノルド達の話をしてみる。


「それは是非ともお願いしたい。ポーションコースと魔法陣コースの者達にも見学を勧めましょう」


となり、翌日アーノルド達参戦。


ライトの魔法陣はようやく消えていたので、効率は10倍ってところだと推測する。



ガヤガヤと実技場に集まる生徒達。アーノルドが生徒をやっつけて、アイナが治療するらしい。シャキールもチャームから連絡がいったのか見学に来た。


「えー、本日の講師はアーノルド・ディノスレイヤ様。あのディノを倒した英雄として知っているものも多いと思う。我こそはというものは遠慮なく胸を借りなさい。もし大きな怪我をしても聖女様が治療をして下さいます」


おぉーと歓声が出る。今日は上級コースだけでなく、全生徒に見学が許可されているので満員だ。


ちなみにチャームから最上級魔力ポーションをいくつか作って欲しいと言われて持って来た。生徒で実験するとの事。


まず出てきたのはあの生意気な生徒。鼻っ柱を折られてもまた生えて来たらしい。褒めるべきか迷うな。


「英雄とやらの実力を見せて貰おうっ!」


アーノルドの剣は俺がダメにしてしまったので刀を持っている。アイナが治療するので木剣は使わないみたいだ。


「始めっ」


アーノルドは腕組みをしたまま動かない。


飛んでくるファイヤボールはひょいひょいと避ける。何発撃とうが無意味だ。魔力切れ寸前まで待ってその場から消えたと思ったら生意気生徒の腕が飛んだ。


一瞬間を置いてバシュっと血が吹き出て初めて自分の腕が飛んだ事に気付く生意気くん。


俺も目を強化出来ないのでアーノルドが見えなかった。


「うぎゃぁぁぁぁあ」


自分の腕が飛んだことで痛みを認識して叫び声を上げる。


観客から悲鳴が上がったと思ったらアイナが飛び出して治療。腕が生える魔法に皆は唖然とする。


先生も口をパクパクだ。まさかここまでやるとは思ってなかったのだろう。ディノスレイヤ家とはこういう一家なのだよ・・・


「お前、魔法使いの戦い方分かってねぇな? あんなファイヤボール何発撃っても無駄だ。食らうのは新人冒険者か一般人くらいだろ。何学んでんだ?」


何がなんだかわからない生意気君。チャームが俺のポーションを飲ませ様子を見る。


「こ、これ最上級魔力ポーションですか。魔力がいつもより増えた感覚が・・・」


あー、過剰に回復したのか。しかし、魔力の増減が感覚で解るのは凄いな。俺、魔力が切れるまでわからんかったからな。


「おい、ダン、シルフィード。こっちへ来い」


二人を呼び寄せるアーノルド。


「お前、魔法使い単騎で戦いたいんだろ?なら、シルフィードを見とけ。せめてあれくらいにならんと無理だ」


ダンとシルフィードの対決を生徒に見せることにしたアーノルド。


「シルフィード、本気出していいぞ。アイナ様もいるからな」


ダンはぐっぐっと屈伸して本気で来いとシルフィードに言う。といってもシルフィードがダンに攻撃を食らわすのは難しい。よし作戦を授けよう。


タイムを取ってシルフィードを呼ぶ。


ゴニョゴニョと作戦を伝えるとダンは嫌そうな顔をする。ここは俺とダンの心理戦だ。



普通の間合いで構えて立ち合いスタート


開始の合図と共にシルフィードは小さなファイヤボールを一面に撃ち出し高速移動。ちぃっとそれを受けずに避けるダン。さすがだ。見た目は小さいけど高温の玉だ。木剣で受けたら燃えてたのに。


でもそれも想定済み。シルフィードは気付かれないように高速移動しながら同じ攻撃をする。ダンはそれを掻い潜りシルフィードに近付く。今だっ!


誘い込まれたダンは蔦に絡まれた。


シルフィードは木剣で動きの止まったダンの腹を斬り見事一本!


「やったぁ! 初めてダンから一本取ったぁ」


俺の所に走ってきて抱き付いて喜ぶシルフィード。ダンはめっちゃ怒ってる。


「汚ぇぞっ! ぼっちゃんの作戦だろそれっ!」


ダンは蔦をフンっと弾き飛ばした。胸に7つの星ないよね?


「ダン、負けは負けだ。ったく情けない」


アーノルドに吐いて捨てるように言われるダン。


生意気君を初めとする上級生達はポーションコースの新入生があんなに強いと思ってなくてショックを受けた。先生も呆然だ。治癒魔法が使えるだけと思ってみたいだからな。


アーノルドは魔法使いの戦い方を説明していく。単騎で戦うなら身体能力を上げないとダメだと。それが無理なら仲間同士で補うのだと。ダンと同じ説明だ。


「ゲイル、シルフィード、アイナ、ダン。皆来い」


俺が前、ダンが盾、シルフィードが魔法使い、アイナが治癒士の即席パーティー。相手はアーノルド。


「通常このような特性の違った者でパーティーを組むのが定石だ。剣も魔法もお互い得意分野が違うからな。それを組み合わせてどんな敵でも対応していくのが好ましい。シャキール、お前は俺と組め」


という事で2対4の模擬戦だ。



「始めっ」


今の俺がアーノルドに1本入れるのは無理だからシャキールに突進。アーノルドが俺を止めに来たらダンとシルフィードがアーノルドを攻撃。先にシルフィードを無効化しに来たら俺はそのままシャキールを倒してアーノルドを後ろから攻撃だ。


シャキールは案の定先に詠唱を済ませてファイヤボールを撃って来た。それを避け・・・ げっ!俺を誘導するための攻撃じゃん。避けたら目の前にアーノルドが居やがる。


絶対腹に攻撃が来ると読んで受けるフリして下にスライディング。ちぃっとアーノルドが言って空振りしたところにダン強襲。


俺はスライディングからごろんと転がってシャキール討伐成功!


ダンとアーノルドが剣を交えた時にシルフィードがファイヤボール。甘いとばかりにそれをダンへ撃ち返す。ダンがそれを避けるのに離れた隙にアーノルドはシルフィードへ襲い掛かった。俺も間に合わない。ヤバッ


どごんっ


「痛ってぇぇ」


「勝者、ゲイルチーム」


「アイナっ!お前治癒士役だろうがっ」


「キャッハハハハ! 誰がそんなの決めたのよ」


酷ぇ・・・ トンファーでおもくそ旦那の頭を殴りやがった。


「いつつ・・・と、まぁ、人数の差があったとはいえ、宮廷魔導士でも盾が抜かれたら剣士にやられる。アイナのように魔法以外にも武器を使える奴だとそれを防ぐ事も出来る。魔法使いは基本サポート役だ。剣士が攻撃、魔法使いは相手の邪魔をする方が上手くいく。攻撃の要になりたいのであれば威力・スピード・連射全てを上げる必要がある。もしくは特大の奴を一発でも撃てるとかな。それは個人の能力や性格に合わせて進む道を選べ」


先生も生徒もふんふんと頷く。


「あー、最後に付け加えるわ。中途半端に魔法を使える奴が一番危ない。剣もそうだが、俺は強いと勘違いしたやつから死ぬ。俺に挑んで来たやつみたいにな。あれなら魔法が使えない方が良いぞ。生活系魔法を覚える方をオススメする」


アーノルドはそう言うが、皆あれよりダメなんだから全員非戦闘系の魔法向きになるだろうな。生きて行くには生活魔法の方が重宝するけどね。


その後はアーノルドは素手で挑んで来た生徒を倒して、アイナは治癒魔法を学んでいる者にこうするのよと教えながら特別授業をしている。


「ゲイル、お前が教えても良いと思った事は教えてやれ。ダン、シルフィードにやった稽古方法を教えてやれ。こいつらこのまま卒業して実戦に行ったら大半がすぐに死ぬだろうからな」


という事で、俺の話を聞きたい人は少数。ダンには大勢集まった。まぁ、魔法が使えない新入生の話を聞く気にはならんだろうな。


ダンはシルフィードを見本にして連射をさせる。詠唱しての連射はシャキールが教えている。


とても抽象的に教えるシャキール。皆理解してるのだろうか?



「どうしたの? 早く教えなさいよ」


デーレン・・・


「いいのか俺の説明で?」


「あなた今は魔法使えないけど大魔法使いだったでしょ。教えなさいよ」


「デーレン、教えて下さいだろ?」


ぐぬぬぬぬ。


「教えて下さいっ! これでいいのよねっ」


どうやら俺の所に来たのは新入生ばかりのようだ。


「魔法って魔力が関係してるよね?」


うんうん。


「魔力は簡単には増えない。おそらく同じ歳だとみなほぼ同じぐらいの魔力しかない。でも同じファイヤボールを撃てる数には差が出るんだ。何故かわかる?」


「才能?」


他の生徒が答える。


「ぶっぶー。元々の魔力の多さや増え方は才能。でも魔力が多いから数を撃てる訳ではないんだよ」


「じゃあ何よ?」


「練習」


は?


「魔法は最適化っていうのがあってね、同じ魔法をとにかく数を使う。そうすれば数が撃てるようになる」



「例えばここにいる全員が魔力500持ってるとする。で、初めてファイヤボールを撃ったら1発に付き魔力100だと何発撃てる? はい、デーレン」


「・・・5発よ!」


「正解! では何日もファイヤボールを撃って1発打つのに魔力50になりました。何発撃てますか?」


「・・・10発よ!」


「正解! 魔力ってね、だいたい1年間に20~30しか増えないんだよ。だから、同じ魔法を使うのに使用魔力量を減らす努力をするのが一番上達するよ」


「あんたは上級生達が使ってたファイヤボールなら何発撃てたのよ?」


「多分、あんなファイヤボールなら魔力が減らない。千発撃って使う魔力1とかかな? 撃ってる間に魔力回復するから延々と撃てるよ」


「なんですって?」


「父さんもダンも言ってただろ? あんなファイヤボール使い物にならないって。今シルフィードがやってるの見てみな。連射速度も移動のスピードも凄いだろ。あれが出来るようになるまでものすごく練習したんだよ。魔力ポーションを何回も飲んで毎日毎日ね。後は高速で動く魔物相手にやったりとか。上級生達のファイヤボールなんて絶対に魔物に当たらないよ。スピードが遅すぎるから」


「あんたは出来たの?」


「俺の本気の火魔法は飛ばない」


は?


「飛ばしたら避けられる可能性があるだろ? だからいきなり燃やす。だから避けられない」


「そんなの出来るわけないじゃないっ」


「そう。出来るわけないと思う人は出来ない。出来ると思った人が練習して出来るようになるもんなんだよ魔法って。俺が言えるのはここまでかな。後は自分でよくイメージして頑張ってね」


ヒントはあげた。後は頑張ってくれたまえ。



全ての特別講義が終わったあと、先生達が今日の話や訓練方法をもっと聞きたいと言うので、校長や先生達を屋敷に招待したのであった。





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