第577話 魔法学校に飲み込まれる
休憩が終わった後、ダンは生徒達に説教を始めた。
「そもそも、お前らは勘違いしているんだ。剣士と魔法使いのどちらが強いかとかじゃねぇ。役割が違うんだ。確かに魔法使いは強ぇが、単体だとくそ弱ぇだろ?」
ムカッとする魔法コースの生徒達。
「魔法使いは単体で戦ったり、接近戦で戦うのには向いてねぇんだ。これは冒険者の理屈だが・・・」
と戦術の話をしていく。
「うちのぼっちゃんは魔法が使えなくなっちまったが、それまでは本当に凄かった。あれくらい出来るなら単体でも接近戦でも戦える。さっきみたいに剣も使えるからどんなポジションでも可能だ。それに比べたらお前らは詠唱が遅い、単発でしか撃てない、動けない、なんかあったら動揺して詠唱を止める。全く使えねぇんだ。相手がゴブリンでも死ぬぞ」
ここの教育はどうやら、戦術とかは教えてないらしい。だから攻撃魔法が使えるようになっても上手い運用が出来てない。運用方法がわからないからそれを身に付けようとしないんだな。
魔法コースの先生もダンの言うことをなるほどと感心している。
「でも、数の戦いになったり、距離があったりすると魔法使いの方が強いですよね」
シャキールが言ってたくそ生意気な生徒はこいつか。何度やられてもへこたれんやつらしい。その心意気は素晴らしいが、勘違いしたままだと厄介というかすぐ死ぬだろう。
「だから、どっちが強いととかじゃねぇっつってんだろ。役割が違うんだっ!」
まだしかしとかいうのでダンぶち切れる。
「解った。お前が俺に勝てると思うやり方で俺に挑め」
「本気でやりますよ」
「その代わり、お前も死を覚悟しておけ。デカイ口叩くんだからな」
ダンが静かに威圧を放ちながら生意気な生徒にそう言う。
少し怯んだ生徒はそれでもそちらも死を覚悟して下さいねと言い返した。なかなか勇気があるというかバカというか・・・
しばらく生徒同士で話し合い、上級生20人程でチームを組んだ様だ。
「ではこちらはこれで。あなたには一番後ろまで下がってもらいます。構いませんね?」
「その人数でいいんだな?」
「少し多いですが予備みたいなものですから気にしないで下さい」
こいつ、さっきの6人を主軸にして他のは人垣にするつもりか。俺もダンも即座にその狙いに気付いた。戦術としては有りだけど、少し見込み違いだな。ダンも少しがっかりしたようだ。
戦いの陣形を取るとやはり想像通り。こいつが大将で人垣を作る。まだ女の子を後ろにやっただけマシか。
ダンも生徒達も一番後に下がってスタンバイ。
「始めっ」
ダンは動かない。詠唱を待ってやるようだ。
詠唱が終わってファイアボールが飛んで来るが数は少ない。一斉に撃たずに連発のようにタイミングをずらして撃つつもりだろう。ダンは剣も使わずに熊腕でファイアボールを振り払った。
すげぇ、あの熊腕あんなことも出来るのか。
気配も消さず素手でファイアボールを振り払いながらズンズン近付く熊。生徒達に恐怖が走り始める。
何をしても効かない相手がズンズン近付いてきたらさぞ怖いだろう。
「ヒッ」
と一人が怯えた声を出した瞬間にダンは咆哮を上げて威圧を放つ。
生徒達パニック!
その隙を見計らったように気配を消して全員を蹂躙する。といっても軽く剣を当て痛みを与えただけ。それでもパニックに陥っている生徒は突然の激痛に更なるパニックを起こす。ついに大将になった生意気な生徒の前に仁王立ちになるダン。
「覚悟はいいな?」
ダンは木剣を捨て、炎の魔剣を抜く。
他の生徒はダンの迫力に負けて詠唱どころか動くことすら出来ない。
魔剣を上段に構えるとゴウッと炎を纏わせた。
「ヒィィィィィッっ」
「死ねっ」
ゴウッと剣の振る音と炎の音が重なり轟音となる。
「うっぎゃぁぁぁあ」
生徒は焼き殺され・・・・ることはなく、髪の毛が燃やされ、顔は真っ黒、服も正面は焼け焦げた。
「な、お前らの実力じゃどっちが強いとかの話にすらならん。まずは自分が弱くて使えねぇことを理解しろ」
今回はさすがに心が折れたようだった。
「ダン、弱いもんいじめしたったらあかんやん。その子らウチより弱いねんから」
は?
「ミケ、お前まで煽ったらいかんがね」
なせがニャゴヤ弁っぽくなるゲイル。
「いや、そやかてあの子らウチより弱いやろ? トロいからシャシャってやったらしまいや」
確かにミケは運動神経もいいし、追手から逃げ延びた素早さもある。が、戦闘経験ないだろ?
「そこの獣人っ! 聞き捨てならんぞっ」
心が折れたであろう大将が真っ赤か黒か分からん顔で怒る。
「弱いねんから吠えなっ。それにウチは獣人ちゃうでハーフ獣人でダンのお嫁さんや」
「どうでもいいわそんなことっ。ならばお前も戦ってみろっ」
「あぁ、負けコボルトはよう吠えるってホンマやな」
ミケ参戦。しかし、そんな言葉をよく知ってたな。犬じゃなくコボルトだけど。
ダンは止めようとしたけど、ミケは人を盾にしてイキッたあの大将が気に食わなかったらしい。やっぱり煽ってたのか。
「始めっ」
しかし、ここの先生も止めないのには驚きだ。
ぶつぶつ詠唱して飛んで来たファイアボールをひらりとかわしてシャシャシャシャー。
ミケ圧勝。
「よっわっ。弱すぎてびびるわ」
剣も持たない女の子にあっさり負けた大将は今度こそ完璧に心が折れた。
「お前、結構強かったんだな」
「そやで。ウチ結構強いねん。逃げんのはもっと上手いけどな」
魔法コースの先生達に礼を言われる。魔法が上達した生徒の鼻を折るのは毎年苦労するらしい。あの生徒は特にその傾向が強く、その為にシャキールを呼んだが、それでも鼻が折れなかったので困っていたらしい。
どうやらあいつはそこそこ身分のある貴族の息子らしく、小さい頃から天才だ、世界一強いと育てられたらしい。シャキールは宮廷魔導士のトップということもあり、まだ敵わなくて当然だけどすぐに立場は逆転すると親に言われてたようだ。
「ダン殿、このまま臨時講師として来てもらえませんか? 校長には私から話をしますので」
「ダン、俺がここの生徒の間は暇だろ? 仕事探す気もまだないなら受けろよ」
という事でダンの無職は解決されたのであった。
給料も思ってたよりずっといい。初めは月に銀貨50枚。あとは生徒達の成長具合に応じて上げてくれるだろうとのこと。
食堂に移動するとシルフィードとチャームは先に待っていた。
あっ、ダン達の弁当ないや。シャキールもニコニコして座ってるけど、今日は普通の弁当だから分ける程ないんだよね。
「ダン達の弁当なかったわ。食堂でなんか頼めよ。安いぞ」
チャームもシャキールもがっかりして食堂に注文しに行った。
「ゲイル、ここの食堂美味しないな」
「だろ? だから弁当なんだよ」
「昔の飯はこんなんだったけどよ、これ毎日食ってる奴が可哀想になるぜ」
「ゲイル君達のお弁当ってとっても美味しいけど、いつもあんなの食べてるの?」
「ゲイルのおるとこは全部飯旨いねん。なぁ、ここの食堂にも料理教えたりぃな」
「いや、ここは俺の管轄じゃないし。そんな勝手な事する訳にはいかんだろ? 俺は勉強にしに来てんだぞ」
「そやかて今日も勉強してないやん」
痛いとこ突くなよ・・・
「ゲイルは上級魔力ポーションも安定して作れたよね? もうすぐ最上級も作れるんじゃない?」
こら、余計な事を言うなシルフィード。
「えっ? 上級魔力ポーションを安定して作れる? まだ教えてないわよ?」
「昨日、作ってたもん」
「どういうことかしら?」
「いやぁ、色々試したら条件見つけちゃって・・・」
「はぁ・・・ あれ卒業試験になるのよ。しかも1本作れたら合格。もう来月から治癒ポーションの授業を受けなさい。魔力ポーションの授業は合格にしておいてあげるから」
俺はシルフィードの初級合格を待たずに次のステップに進めさせられてしまった。プクっとほっぺたを膨らませるシルフィード。お前のせいなんだからな。
ちなみに最上級魔力ポーションは上級を作る時に偶発的に出来るものらしく、特別な何かを入れる訳ではないらしい。魔法草の品質に左右される説が有力だそうだ。夏場に作ると出来やすいとの噂もあるから気温が関係している説もあるとのこと。
「ゲイル君、来月まで暇でしょ? 食堂の改善お願いね。校長には言っておくから」
俺はせっかく魔法学校に入学したというのにまた飯の仕事をするのか・・・
「ゲイル、ほならウチも手伝うたるわ。ここをバルみたいにしたらええんやろ?」
いや、学食と飲み屋は違うぞ。
「ミケ、学食っていうのはなぁ・・・」
「バルって何かしら?」
「バルっちゅうのはディノスレイヤ領にある飲み屋でな、めっちゃ人気あんねん。ウチはそこで働いてたんやで。色んな料理と酒があってな、ほとんどゲイルが考えたやつやねんで」
「へぇー、いいわねぇ。ゲイル君、やって、それやって」
「先生、ここ学食だろ? 酒なんか出すとこじゃないじゃん」
「あら、ここは夜にはお酒も出すわよ。生徒はほとんど成人してるし、遅くまで勉強した子とか寮生も食べに来るからね。先生もここで食べる人達多いのよ。授業が終わってご飯食べてすぐに帰るのあなた達だけよ」
マジですか・・・
「自炊するより安いもの。当然じゃない?」
チャームに聞くと学校に補助金が出ていないのは授業に関係するものだけで、寮費や食堂には補助が、教師の給料は国から出ているらしい。魔法学校の教師はエリートであると共に金に困って悪さしたりしないようにとの配慮らしい。
ということで俺は食堂に通う事になった。
なんでやねんっ!
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