第576話 ポーションの実験とか
ザックの店に寄って実験に必要な材料と道具を買って帰る。ザックはちょっと顔が引きつってたけどそのうち元に戻るだろう。
あとギルドで魔法草を大量に買って帰った。学校で買うのと同じような値段だった。学校は利益取ってないんだな。国からの影響を受けないように補助金みたいなのも受け取ってないみたいなので、どうやって利益を出してるのだろうか? 先生達も名誉職みたいな感じで給料安いのかもしれんな。卒業したら寄付してもいいかもしれん。
屋敷に戻ってまず蒸留水を作る。ここの水は味的に硬水だと思うからな。まずはフラットな状態で試そう。
圧力鍋を加工して・・・って、出来んやないかいっ。
自分で突っ込んでしまった。
「ダン、ドワーフのとこ行ってくるわ」
一応報告すると案の定付いてきた。
ドワーフに圧力鍋を蒸留器に加工してもらう。鮮やかなもんだね。
帰ったらもう晩飯だ。
ちゃっちゃと食べて部屋に戻る。
早速蒸留水作りを開始するとシルフィードが部屋にやって来た。
「魔法草の見分け方のヒント欲しいなぁ・・・」
直接教えるんじゃなければいいか。
「シルフィ、魔法草の絵を描こうか。下手でもいいけど、特徴をちゃんと捉えて描いてみて」
蒸留中は目を離さない方がいいからここで描いてもらう。
「絵を描くの?」
「そうだよ。ちゃんと描けたら合格。はいこの石板に描いて」
これで特徴を覚えさせたら大丈夫かな。
その間に魔法草を薬研で擂り潰していく。それを100グラム単位で計って小分けしていこう。
「何をしてるの?」
「はい、こっちの事はいいから自分の事に集中して。ちゃんと細かい所まで見て描くんだよ」
圧力鍋から伸びた管からシューっと蒸気が出だした。ちょっと管が短かかったな。管を水に浸かるようにして冷やしてやるとぼとぼとと水になったので良しとする。
「これはお酒作ってるの?」
「はい、自分の事をちゃんとやるっ!」
シルフィードはどうしてもこっちが気になるようだ。
ドアをノックしてミグルが入って来た。
「せっかく早く帰ってきたのに魔法陣の実験はせぬのか?」
「いや、まだライトが消えないんだよ」
「何っ? まだ点いとるのか?」
ライトの魔法陣は引き出しに入れてあるがそこから光が漏れている。
「思ったより差が出てるね。そのうち消えると思うから今日はポーションの研究をするよ。シルフィに魔法草の絵を描かせてるから見てやってくれないか。冒険者の訓練ということで」
これならばポーション授業ではないと言える。ミグルとシルフィードには応接室でやってもらうことにした。
出来た蒸留水を1リットル単位で計量し、6リットル分作る。
そこにクエン酸を小さじ1~6と分けてクエン酸水を作成。これで準備オーケーだな。
水を沸騰させてからカウントダウン。 ・・・水温計欲しいな。水銀でドワンに作ってもらえるかな?
など、考えつつ授業で一番良かったカウントで止め、100gの魔法草をクエン酸水1に入れてかき混ぜながら様子を見る。
赤くなっていき、普通ポーション相当に。
2の水と魔法草は同じ分量で試して行く。
3が一番濃い色になったが4、5は変わらず6は逆に薄くなった。
全部舐めてみると4、5、6は酸味があった。なるほど、魔法成分と酸が結合すると魔力ポーションになるのかもしれない。
次はこれを推測として、6のクエン酸水に魔法草200gで試すとより赤くなった。これ上級に匹敵してるよな?
ということで、魔法草300gにクエン酸9で試す。
上級よりは濃い色をしているが成分を増やしたほどの差ではないような気がする。酸味も残ってるし、この水の量だと魔法成分が飽和しているのかもしれない。
でも最上級のがあるんだから飽和させない条件があるはずなんだよな。まだ他に混ぜる物があるのだろうか?
ここまで終わってうんうん考えているとミグル達が入って来た。
「む? それは上級ポーションではないか?」
「これを作れる条件は解ったんだけどね、最上級の条件がわからないんだよ」
「なんじゃとっ? もう上級ポーションが安定して作れるのか?」
「うん、でも上級ポーションは作れる人が多いだろうから最上級のを安定して作りたいんだよね」
俺の言葉を聞いて唖然とする二人。
「で、絵は描けた?」
「うむ、合格じゃ」
「じゃ、ミグル、偽物の絵を描いてやってくれないか?」
なぜそんな事をとぶつぶつ言いながら描くミグル。
「ほれ、これが偽物じゃ」
「どこが違うの?」
「自分の描いたやつとよく見比べてみよ」
細かい所を確認するシルフィード。
「あっ、ここが違う」
「そうじゃ。これで見分けがつくじゃろ」
「ミグル、それちょっと違うぞ。偽物はここがこうなってるんだよ。あと、見分けが付きにくい奴は少しかじるとすぐにわかる。甘いのが本物だ」
今の俺にはわからないけどね。
翌日、学校に行くと門のところでシャキールが待っていた。ニコニコとダンにお久しぶりですと挨拶をしてから、
「はい、これがお二人の入校許可証です。明日からはこれを見せてご自身で入って下さいね」
ダン達には何も説明していない。
「ささ、こっちですよ」
と、シャキールに案内される。
ざわざわする魔法コースの生徒達。
「ダンさん、真剣ではなくこちらの木剣でお願いします。これはゲイル様のです。では、あいつらの相手をお願いしますね。クックック」
悪い顔をして笑うシャキール。
「ぼっちゃん、まさか俺達は魔法使いと戦うのか?」
「魔法使いが一番強いと思ってるやつらを叩きのめすのがダンの仕事だ。多分給料出ないけど暇潰しにいいだろ? 俺が学校に来る日はこれやっててね」
「なんか企んでやがると思ったらこんなことか。これは立ち合いってことでいいんだな?」
「はい、治癒士の先生がいるので遠慮なくどうぞ。ただ即死はさせないで下さいね」
こっちは二人、向こうは男3、女3の6人か。
「シャキール先生。二人は剣士ですよね?しかも、そっちの小さいのは魔法が使えない魔法陣コースの新入生と聞いてますけど、何かの悪ふざけですか?」
かなり頭に来てるみたいだけど、シャキールには敬語を使う上級生。
「やってみれば解るわ。というか解らない間に終わるかしらね。クックック」
クックックの次はあーはっはっはっと笑うシャキール。どうみてもこっちが悪役ぽいな。
「ダン、女の子お願いね。俺は男をやるから」
さらっと嫌な役をダンに押し付ける。
さ~、全国の上級生のみなしゃ~ん、今週のビックリどっきりクマをポチっとな
開始の合図と共に
俺はどれくらいの詠唱をするのかしばし待とうとすると。ダンは容赦なく女魔法使いを気絶させていた。何が起こったのかわからず詠唱を止める男魔法使い達。
ダンが叫ぶ。
「何、詠唱止めてんだ? そのくっそ遅い詠唱をまたやり直すのか? 実戦なら全滅してるぞお前ら」
ダン素敵! もう指導モードに入ってるじゃん。明日からは一人でやらせよう。俺は訓練とはいえ女の子をやっつけたくはないのだ。
慌てて詠唱し直すのを待ってやる。色は見えないけどファイアボールだろう。ミグルに詠唱を聞いたから口の動きでなんとなくわかる。
「ファイアボールっ」
うん、大きさはそこそこだけど遅いな。結局これ、どういう理屈で飛んで行くんだろ? 初めは風魔法を併用してるのかと思ったけど、詠唱にはそんなの含まれてなかったから、ファイアボールとはこういうものと認識されてるのかもしれない。
ファイアボールを斬るまでもないのですり抜けて3人をぶちのめす。正面から単発で飛んでくるファイアボールなんて無意味だ。
「これ、俺達2人も要らないよね?」
とシャキールに聞き、ダン一人で続ける事にした。
「シャキール、ファイアボールってさ、連発して撃てる詠唱とかあるの?」
「あるのはあるのですが、使い勝手が悪いのです」
「どういうこと?」
「詠唱が長くなるのはもちろんですが、上手く魔力を止められないと、魔力が尽きるまで撃ってしまうんですよ」
なるほど。俺も初めの頃は魔力が流れ出したら止められないことあったからな。
「じゃあ、連発出来ないの? シャキールは闘技会で連発してたよね?」
「普通のファイアボールでも一度詠唱すれば次は詠唱を省略出来ます。訓練を続ければ最後のファイアボールだけで撃てるようになるのですよ」
それ、無詠唱と同じ理屈だと思うんだけどな・・・
その後もダンは容赦なく叩きのめしていく。上級生達は治療されては叩きのめされるの繰り返しだ。
「ファイアボールを飛ばすスピードを調節するのはどうやってるの?」
「魔力の込め方を変えるのですよ。より強く込めれば威力が上がり、こうグッと込めたらスピードも上がります」
要するにイメージを強く持って撃つわけね。それ出来るなら無詠唱で出来ると思うんだけどなぁ・・・
「お前らくっそ弱ぇぞ。それで上級生なのか? 新入生の間違いじゃねぇのか?」
周りはダンが上級生を煽ってるように聞こえたみたいだけど、あれは本気でそう思ってる顔だ。
「シャキール、ダンは物足りないみたいだから相手してやって」
「いいのですかっ?」
シャキールめっちゃ嬉しそう。
「開始の合図がある前に心の中で詠唱しとけ。開始と同時にファイアボール発動だ。おもいっきりスピード上げて撃て。その後は間髪いれずに連発するんだぞ。ダンも最初は様子を見るはずだから、1回しか使えない手だけどな」
シャキールにアドバイスして送り出す。
「ダン殿、我らで手本を見せましょう」
おおーっと生徒達から歓声が上がる。悪の女親玉vs今週のビックリどっきりクマの対決だ。特別編みたいな内容だからおもしろそう。
ダンは呆れた顔でシャキールを見ている。俺がけしかけたとは気づいてないようだ。
「始めっ!」
ボフゥンっ
「危ねっ」
いきなり予備動作無しで撃ち出されたファイアボールをギリギリで避けたダン。さすがだな。
すかさず連発するファイアボールにダンの顔が本気になる。闘技会で見せた流星とかはダンには通用しない。あんなに長々と詠唱をさせて貰えないからだ。
ダンは強化してスピードを上げると共に気配を消した。
「うっ・・・」
シャキールがダンを見失った隙に首に剣をあてられて終了。やはり魔法使い単体で剣士と接近戦は剣士に分がある。
「それまでっ!」
大きくざわつく生徒達。宮廷魔導士のトップが無名の剣士に負けた事に驚く。ダンは知る人ぞ知る剣豪って奴だからな。
ここで休憩。
「ぼっちゃん、シャキールになんかアドバイスしたろ?」
「さあね」
「やり方がぼっちゃんそっくりだったんだよっ!」
「勝ったから良かったじゃん」
「やっぱりアドバイスしてんじゃねーかっ! おしおきだべぇ~」
なんでそんなの知ってんだよと心の中で突っ込んでおいた。
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