第575話 ポーションコース
「ほら、ちゃんと学校に行け。シルフィ後宜しくな」
俺が逃げ出さないようにシルフィードに手を繋がれてポーションコースの教室へ。手繋ぎラブラブ登校してきた異分子の俺に刺さる視線が冷たい。
この中でシルフィードが同級生の二人を俺に紹介する。
「この人がカール君、こっちはスタップさん。この人はゲイル・ディノスレイヤよ。魔法陣コースに入学したんだけど、初級がもう終わったから次の授業が始まるまでポーションコースも学ぶの」
お互い宜しくと挨拶をするけど、カール君の目はニコやかながらも敵意を感じる。スタップちゃんはなんか疑惑を生み出したりするんじゃないよね?
鐘が鳴り、チャームが入って来た。俺を見てウィンクするとまた他の男子生徒が殺気立つ。
「じゃあ、おさらいするわよ」
と、一番初めの説明から戻ってしてくれる。申し訳ないねみんな。
ふんふんと聞いていると、シルフィードのノート通りの説明だった。とても熱い、ややぬるめとか感覚で覚えていかないとダメみたいだ。まるで職人の世界だな。
初級コースはまず魔力ポーションを作れるようになること。作ったポーションを自分で飲んで効果を確認するらしい。鑑定も出来ないのに回復したかどうかわかるのか?
と思ってると、どうやら魔力切れをするまで魔法を使って自作ポーションを飲むらしい。魔法が使えるのに越した事がないというのはこの事か。
まずは魔力ポーションの元となる魔法草と偽魔法草の見分けから始まる。
ドサッと様々な草の山から分別作業だ。意外とこれが出来なくて躓いているようだった。偽物混ざってるからな。俺は知ってるから余裕。
しかし、チャームも見分け方教えてやれよ。
魔法草はこれですよとしか教えない。もしかしたら理由があるかもしれないので見分け方は黙っておく。
シルフィードも苦戦しているので帰ったら教えてやろう。
「もう出来たの?見せて」
チャームに結果判定をしてもらう。
「完っ璧よ!さすがだわっ」
抱き付かないで、みんなの殺気が刺さるから。
「どうしてこんなに簡単に出来たのかしら?」
「冒険者の採取クエストにあるからね。冒険者登録もしてるから」
「あらー、そうなの。新人冒険者だとまぜこぜに持ってくるから信用出来ないんだけど、今度ゲイル君に指名依頼だそうかしら」
南の領地に行ったら採取して来よう。だが今は無理だ。幼稚園児並みに過保護にされてるからな。
仕分け出来た者から次の作業へ。シルフィード拗ねるな。帰ったら教えてやるから。というか君もダンが教えてくれたの聞いてたよね?
魔法草を薬研で粉にして、ややぬるめの温度で抽出か。魔法水を入れる前にレモン汁を入れる。酸性に溶け出すのだろうか?
水の量はこれくらい、草の量はこれくらいとめっちゃアバウト。全てがだいたいだ。
これで品質を安定させて販売するんだからある意味凄い。
突っ込まずにチャームの手本を見ていくと段々と赤くなっていくポーション。お手本だからか小さい小鍋で作って濾す。それをポーション瓶に入れて、最高級、高級、普通、下級と4段階のサンプルポーションと色を見比べて判別するらしい。
まぁ、魔法水の鑑定でも濃度低とかしか見えなかったからこんな分け方か。あいつが作った世界らしいわ。
ちなみに今チャームが作ったのは普通品質。最高級は滅多に出来ないらしい。テストは普通品質が出来たら合格。
チャームはそれぞれやってみてねと言うと共に、魔法草の値段を提示していった。魔法草は一塊で銅貨10枚。さっきの分量に当てはめるとポーション3本分くらいだろう。
これ、俺には余裕だけど、他の学生は大変だろうな。適当な説明を自分で実験しないとダメなんだから。
まぁ、言われた通りにやってみよう。薬研で魔法草を粉にしてから湯を沸かす。沸騰させてからカウントダウン。これで3パターンの冷める温度を試す。
1つ目にレモン汁を入れて魔法草を入れる。少し赤くなるけど、普通にはほど遠いな。温度が高いのかもしれない。
2つ目、さっきよりカウントを増やして冷めるのを待って同じようにと。
赤みは増したけど、まだダメだな。
3つ目、さらに増したけど、低品質くらいだな。
もう一塊購入
4つ目、3つ目のカウント数より更に長くカウントすると色が出にくくなった。
カウントは3つ目だな。
5つ目、カウント3の奴にレモン汁2滴入れると普通クラスになった。これで取りあえず合格は出来るな。
6つ目、カウント3にレモン3滴入れると更に赤くなった。
続け様に魔法草を買って次々に作っていく俺はジト目で見られているのに気付き、3回目の購入は見送った。
もう合格は貰えるけど、黙ってよ。ポーション瓶には移さずに毎回失敗したフリをして捨てていたのでバレてないだろう。皆、自分のことで必死だったし。
それにもう今日の授業も終わりそうだ。実験してると時間が経つのが早いね。
今日のシルフィードは魔法草仕分けは合格できずに終わり、昼飯を食うことに。
今日の昼飯はホットドッグ。俺の好きなカレーキャベツのやつだ。それも大量に・・・
今日はすでにシャキールがスタンバってるのでそこに行く。続いてデーレン、その後にチャーム参上。お前ら自分の飯くらい持ってこいよ。
仕方がないので皆に分け与える。
「で、ゲイル君。どうして成功したポーション捨てたの?」
チャームはしっかり見てたようだ。
「え? ゲイルはもう成功したの?」
「ま、まあね・・・」
シルフィードの視線が痛い。もうちょっとでズルいと言いそうだったからな。
「たまたま出来たのか、必然的に出来たのか分からなかったからね。安定して作れるようになれば提出しますよ」
「それ、次の課題よ」
そうなのか・・・
「先生、質問なんだけど、どうして詳しく教えてないの?」
「どういうことかしら?」
「魔法草の見分け方をちゃんと教えてあげればみんなすぐに出来るんじゃない?」
「あぁ、そういうことね。魔法学校は自分で考えて自分で気付く事を重視してるの。それが出来る人は新しい物を作れるようになるかもしれないし、品質を向上させたりとか役立つのよ。教えられた通りにしか出来ない人は不要なのよ。それに簡単に教えられたら簡単に人に秘密を漏らすでしょ。どゆあんだすたん?」
どゆあんだすたん? って、こいつ、中身めぐみじゃないだろうな?
「じゃあ、俺が最高品質の物を安定して作れるようになっても教えちゃダメって事だね?」
「そうよ」
シルフィードよすまんな。帰ったら教えてやろうと思ってたけどダメらしい。
「昨日もだったけど、このパンとっても美味しいわね。どうやって作るのかしら?」
「さぁ、自分で気付かないとダメなんじゃないかな」
「んもう、ケチっ!」
いや、あんたが言うたんやがな。
「ゲイル様、もう普通ポーションは作れるということですね?」
「まぁ、そうだね」
「なら、明日はくそ生意気な奴をコテンパンにしに行きましょう。私の魔法を食らってもへこたれないんですよ」
「いや、俺は魔法使えないし」
「剣で叩きのめしてやって下さい。あいつは魔法使いが一番強いと思ってるのですよ」
あんたもそうだったよね?
「ゲイルくん、いいわよ。臨時講師してあげなさいな。校長には私から言っておくから」
「え? ポーションコースは?」
「シルフィードちゃんと一緒に進みたいんでしょ? シルフィードちゃんが出来るようになれば一緒にテストを受ければいいわよ」
とチャームはウィンクした。
俺が待ってると聞いてシルフィードはめっちゃ嬉しそう。さっきまでの仏頂面がどこへやらだ。
「あなた魔法コースにもくるのね? 私が見事倒して見せるわっ!」
デーレン参戦。
「あなた初級コースでしょ? 無駄よ」
シャキールからめっちゃ冷たい空気が飛んで来る。
「たっ、たまたま初級コースなだけですっ」
そんなたまたまはない。
「シャキール、いつ行けばいいの?」
「明日朝にここでお待ちしていますわっ」
「チャーム先生。魔法コースの相手役にいいやついるんだけど、連れて来ちゃダメかな?」
「部外者よね?」
「まぁ、俺の家族みたいなやつなんだけど、これから毎朝夫婦で俺の送り迎えするって言ってきかないんだよ」
「ゲイル様、どなたですか? それは」
「ダンだよ。父さん達と一緒にいた熊みたいなの。俺といつもセットだったろ」
「あ、わかりました。陛下もかなりやるとおっしゃってましたから。チャーム、校長に許可とっておいて」
「わかったわ。シャキールの推薦ってことね」
チャームに嫁さんが同行するのも一緒に確認をしてもらうことになった。ついでに万年筆も渡しておいてもらおう。値段はいくらか忘れたから銀貨1枚と言っておいた。その分はシルフィードの魔法草代に充当してもらった。
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