第574話 検証

「魔道インクを持参したのかね?」


「え?教材は実費でしたよね?」


「いや、そうなのだが・・・ どこで購入を?」


「魔道具店じゃ、ワシの紹介とここの学生証を見せて買うておるから問題ない」


「わ、わかりました。では、二人とも描きなさい。皆は早く描けるように練習を」


ミグルはフリーハンドで。俺はコンパスを使って円を描いていく。


「なんだねそれは?」


「コンパス。円を描く道具ですよ。先に付けてあるのは魔導インクを充填した万年筆です。これならしばらくインクが切れないので便利です」


「そうか、変わったペンを使っておるとは思っておったが、それが万年筆か。文官達がこぞって欲しがってたやつですな」


「これ、作るの結構苦労したんですよ」


「何?」


「これ、俺とぶちょー商会で作ったんですよ。実用品で良ければ屋敷に予備あるから、校長先生用にプレゼントしますよ」


校長はちゃんとお金を払うからお願いすると言った。生徒から金品をもらうのは不正に繋がるから禁止してあるらしい。万年筆は貴族向けに売れていて、なかなか手に入らないらしい。ドワンに増産するように言っておこう。


さらさらっと魔法陣を描いて魔石を置いてピカッ


「よ、宜しい。次の授業に進みなさい」


ミグルも成功だ。ただ、次の授業はもう始まっているので、来月からと言われてしまった。



誰も居ない食堂でミグルとどうするか話し合う。


「どうする? 俺はポーションコースが途中から入れるか聞いてみてOKならそっちの授業に出るけど」


「ならワシはどうするかのぅ」


「次の授業が始まるまで、研究所に専念したら? 毎晩遅くなってるだろ? 研究所に専念して早めに帰って来て一緒に実験した方がいいんじゃないか?」


「そうじゃな。なら、そうするか。しかし、ワシがおらんで大丈夫か?」


「ここにいるやつらが俺をなんとか出来ると思う? 剣は素人だろうし、魔法攻撃も詠唱してるより俺の方が速いと思うぞ」


「それもそうじゃな。しかし、気を付けろよ。ここのやつらはなぜかお主に殺気だっておるからの」


うん、知ってる。


「大丈夫だよ。俺はシルフィが来るまでここにいるから先に行け。飯は弁当だから向こうでも食えるだろ?」


「いや、お主一人で待たすのも可哀想じゃ。一緒に待っててやろう」


素直に寂しいと言えよ。


暇潰しに水や湯の詠唱を教えてもらう。


どの詠唱も《我神に望む》から始まるのか。これ、オッケーグー◯ルとかヘイ!◯リみたいなやつなのかもしれん。


まずはめぐみにこれから魔法を使うよみたいなものかな? 魔法はこれがなくてもイメージで発動するけど、魔法陣はこれがないと起動しない設定なのかもな。


そう考えると魔法の始まりは魔法陣からなのかもしれない。で、その文言を魔力を込めて言葉で言って発動したとか。初めは文章じゃなくて、口頭で伝聞しているうちにここの言葉になっていった可能性が高い。


エルフの長老グローナはエルフが人間に魔法を教えたと言ってたけど、それより昔にめぐみが日本から持ってきた魂が魔法陣を作ってエルフに伝授とかかなぁ?


めぐみに聞いても解んないだろうな。


そんなの知らなーいとか平気で言うだろうからな。あいつは。


「おいゲイルっ! ゲイルっ! しっかりせぬかっ! おいゲイルっ」


ミグルが俺をぐらんぐらんと揺さぶって泣いている。


「あ、ごめん。何泣いてんだ?」


「何がごめんじゃっ! 何度声を掛けても動かんからまた死んだのかと思ったではないかっ」


また考えごとしてフリーズしてたのか俺・・・ しかしまた死んだとか縁起でもない。


が、心配を掛けてしまったようだ。


ぐすぐす泣くミグルの涙を拭ってやり、ごめんと頭を撫でる。


「まっ、またイチャイチャしてるーっ!」


シルフィード登場。なんて間の悪い・・・


これ、シャキールとチャームが来る流れだな。さっさと飯を食ってこちらからチャームの所に・・・


「ゲイル様っ!」


もうシャキールが来やがった。


「昨日は臨時だったんじゃないのか?」


「しばらく来ますよ。生意気な奴がいるから心が折れるまで・・・ クックック」


そういや、こいつ負けん気強かったな。


「あらー、ゲイル君。もう魔法陣コースの初級終わったと聞いたわよ。明日からポーションコースにいらっしゃい」


今日のお弁当はサンドイッチ。パリスはいつもより多めにいれてくれてあるのはこれを予想してたんじゃないだろうな?


「いっ、一緒に食べる?」


3人では食べきれなさそうな量のサンドイッチを見てそう声を掛けざるを得なかった。


「あなた何やってるのよーっ。シャキール様は宮廷魔導士の中でもトップにいる方なのよ。馴れ馴れしくしてるなんて失礼だわっ」


あー、厄日だ。デーレンまで来やがった・・・


騒がしくて益々人の目を集めてしまう。


「まだあるからお前も食え。そして騒ぐなっ」


まだぎゃーぎゃー言いそうなデーレンの口にサンドイッチを突っ込む。


「な、何すんのよ・・・・ むぐむぐ、お、美味しい・・・」


女性5人に囲まれて飯を食う俺。宮廷魔導士、美人先生、美少女、マニア受け、大商会の娘。殺気アゲイン・・・


はぁ、もう気にしないでおこう。


「いやぁ、このローストビーフのサンドイッチ旨いよなぁ!」


開き直って大声でそう叫んでおいた。


飯を食いながらチャームと話して明日からポーションコースに通うことになったのであった。



「シルフィ、ロドリゲス商会に寄ってから帰るよ」


俺が買うのは魔線だ。銅とミスリルの合金で作られた安価で魔力をよく通すやつだ。それとヤスリ、インクを買って帰る。


屋敷に戻ったら実験開始。


魔法陣を描くインクは魔力を通す為のもの。恐らくその物質をインクに溶かしてある。よく振らないといけないということは完全に混ざりあったものでなくても大丈夫なのだろう。わずかな隙間があってもその隙間程度は魔力が飛ぶと推測される。


ついでにギルドに寄ってくず魔石を大量購入してきた。というかもらった。解体の時に出てきた捨てるやつだからな。相変わらずギルドに入ると受付嬢は顔が真っ青になりひきつってたけど。



ミグルが帰ってきたら魔石の魔力残存を鑑定(み)てもらって検証だな。


部屋にこもって魔道インクを作成する。魔線からゴムを取り除き、ヤスリでごりごりごりごりごりごりごりごり・・・・ 面倒臭いわっ!


ダンにやらせ・・・ いや、これも魔法陣の法律に触れてしまうかもしれん。


ごりごり・・・・・・・・・


結局晩飯まで延々とごりごりし続けた。ドワンにインゴットの依頼と削る機械作って貰おう。あと、ミーシャにマスク作ってもらうか。絶対にあの粉吸ってるからな。銅ってなんかの中毒になったと思うし。


削る機械を絵に描いて、依頼リストに加える。



「ぼっちゃん、帰ってくるの遅かったみてぇじゃねぇか。どこ寄り道してたんだ?」


オカンかお前は?


「ロドリゲス商会とギルドだよ」


「あちこちウロウロすんなよ。心配するだろうが」


ダンの愛は嬉しいけど、買い物ぐらい自由にさせてくれ・・・


「そんなに心配なら、学校まで迎えに来いよ。ただ授業が終わって飯を食ったらすぐに出てくるとは限らんぞ」


「解った。迎えに行ってやる」


は?


「冗談に決まってるだろ? 早くやりたいことと家を探せ」


「まだ先で構わねぇからな。それまでは暇だからな」



飯を食い終わるとミグル帰宅。


「何っ? ミグルは明日から研究所直行なのか? ならぼっちゃんの送り迎え両方だな」


という訳で、俺はダン夫妻の送り迎えをされる事になった。まるで幼稚園児だ。過保護過ぎるぞダン・・・



部屋に戻って作った粉をインクと混ぜる。これをよく振って予備のインクカートリッジに入れてライトの魔法陣を描く。魔石を置いたらちゃんと光った。これでもう魔導インクを買う必要がない。これ秘匿するか迷うな。一度あの婆さんに相談するか。秘密は守りそうだし。


ミグルを呼んで、インクの差を試してみよう。



「ミグル、このくず魔石の鑑定をして残存魔力をみてくれないか」


何も説明せずに鑑定をしてもらう。


同じ残存量の魔石を分別してもらった。大半が1、あと2と3だ。


「この二つの魔法陣は何がちがうのじゃ?」


「インクが違うんだよ。それでどれだけ違うか試すよ」


「違うインクじゃと?」


「さ、早くやるよ」


違いが出たら説明してやろう。


同時に1の魔石を置いて差を見る


むー、なかなか消えない。これ、いつまで待てばいいんだ?


その後もずっと灯りが点いたままなので寝てやった。


結局、朝起きると元のインクの方が消え、合金インクはまだ点いていた。もう学校に行かないとダメなので仕方がなくこのまま引き出しに鍵を掛けて放置するか迷う。帰って来て消えてたらどれくらい差があるかわからなくなるからな・・・


今日からポーションの授業だが別に急ぐ必要はない。これの結果を見届けてからでもいいかなと、学校に行かないと言ったら、約束してるんだからダメだと言われた。魔法陣の事は何が引っ掛かるか分からないので行きたくない理由を説明出来ない。


行きたくないっ! という俺をダン夫妻は無理矢理引っ張っていった。


「嫌だ! 行きたくないんだってばっ!


「約束したんだろが。ちゃんと行けよ」


イヤイヤする俺を引っ張るダン。


俺は幼稚園児返りをしてしまったのであった。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る