第573話 魔法陣を描いて実験
さて、まずはダンに買ってきてもらった小刀でコンパスを作ろう。と言ってもお箸みたいものを作って上で繋げるだけだ。グリグリッと穴を開けて繋げる。片方に万年筆をくくりつけて完成。ぐるっと回すと円が簡単に描けました。
魔導インクを新しい万年筆に入れて円を描く。まずはお手本通りに書いていこう。
《我神に望む我は偉大な神の恵みによってこの世を照らす灯りとなり賜らんことを願うものなり我魔力を捧げこの願いが神に届くことを願うライト》
これをレタリングされたローマ字で書くと結構長い。これを円に沿って全部がその円に触れているように書いて、内側にも文字に触れるように円を描いてそこから中心に向かって線を引いて、真ん中にダイヤその両脇にハートとスペードを描いて円の外にクローバーを描いていく。
よし、完成!
で、魔石はどこに置けば良いのだろ? ま、定石だと真ん中だな。
おりょ? 光らん。じゃどこに置くんだ?
あちこち置いてみるけど光らない。何か間違ってるんだろうか?
文字を一つずつ見直していく。どこも間違ってないな。校長もよく書けていると言ってたし。何が問題なんだろうか?
これはミグルの帰宅待ちだな。知ってるやつに聞く方が早い。魔法陣関係の物をしまって部屋を出る。
「あ、ぼっちゃま。休憩ですか?お茶でも淹れましょうか?」
今日は休みのミーシャだ。
「いや、ミグルが帰って来るまで視察しに街まで行くよ。一緒に来るか?」
「はい」
そう返事したミーシャは嬉しそうだった。シルフィードは部屋で勉強してるし、ダンもミケと出掛けている。俺は出掛ける予定にしていなかったからだ。
たまには二人で出掛けるか。
ダンの護衛は一応去年で終わりにはしたが、今までの生活とはあまり変わってはいない。
「二人だけで出掛けるの本当に久しぶりですねぇ」
「そうだな。それももう無なくなるしな」
そういうとミーシャは寂しそうだった。俺も寂しいけど仕方がない。
「ポットの店にお茶しにいこうか」
ということで少し並んで席に着いた。持ち帰り専門コーナーを作った事によって混雑がずいぶんと解消されたのだ。
「ゲイルさん、ようこそ。お店に来られるの珍しいですね」
「ミーシャとデートだからな。新作はある?」
はいと目の光が消えたポットは微笑んだ。
ミーシャはロイヤルミルクティーとフルーツのケーキ、俺はストレートティーと新作ケーキだ。
「お待たせ致しました」
まず新作ケーキを食べてみる。お、ソルティなやつだ。ほんのり甘じょっぱくて旨い。よく思い付いたな。アンコに少し塩入れるのを聞いたのかな?
「よく思い付いたな。旨いよ」
「ハハハ、有り難うございます。考え事をしていたら偶然思いついたのです」
「どうした? 元気ないな」
「いやぁ、毎晩マルグリッドさんにケーキを届けるのも迷惑かなぁとか思ってしまって・・・」
あー、ジョンと正式に婚約したからな。そうか、このケーキのしょっぱさは涙味なのか・・・ それに気付くと物凄くしょっぱく感じてしまった。
「マリさん喜んでるからいいんじゃない?笑顔見られるだけでもいいだろ?」
永遠の初恋ってやつだ。叶わなくてもずっと心の思い出として生きていく。今は辛いだろうけど、それも悪いもんじゃないぞ。年寄りになった時にそれに気付くさ。
ミーシャはケーキを口いっぱいに頬張って、おいひいでふよポットふぁんと褒めていた。
そのままマンドリン達の所へ行き、社交会の準備が大丈夫か聞きに行く。
「ゲイル様、このような誉の場をこんなに早く頂けるとは思っておりませんでした。みな張り切って練習しております」
こんなに連れて行くのか・・・ まぁ、あの会場広いし、今回の社交会の目玉は料理より演奏だからな。
エイブリックが登場する時はワイルド◯ングを提案しておいた。今からほとんど時間がないけど良かったら練習してみてくれ。ワイルド◯シングの所をエイブリッィック♪に変えたら盛り上がるだろ。やるなら念のために様付けなくていいか確認だけしとけよ。
「ぼっちゃん、勝手に外をうろつくなよ。今日は部屋でずっと実験してるって言ったじゃねーか」
ダンは俺が勝手に出掛けた事に不機嫌だった。
「実験が行き詰まってね。気分転換にミーシャとデートしてきたんだよ。そんなに怒るこっちゃないだろ? もうダンは護衛じゃないんだから」
そう言うとますますむくれてしまった。言い方が悪かったな・・・ 話題を変えよう。
「家は見つかったか?」
「いくつか候補地はあるんだがな。仕事場に近い方がいいだろ? その仕事をどうするかまだ決めてねぇからよ」
そう、ダンは今無職なのだ。結婚即無職って・・・
「ミケはなにするんだ? どの店も引く手あまただろ?」
「うちは何でもええから、ダンの仕事が決まったらその近くで働くわ。ここにおったら金使わんし問題ないやろ?」
いや、普通は二人っきりで過ごしたいとか思わないのかよ・・・
ダンもミケも寂しがりやだから、二人っきりより皆と過ごせるこの屋敷の方がいいのかもしれんけど。
そんな話をしているとジョン達が帰って来た。すぐにマルグリッド達も帰ってくる。冬の間は人が減るから仕事も落ち着いてきたようだ。
「ジョン、家どうすんだ? エイブリックさんからの話はマリさんと相談したのか?」
「いや、それがな・・・」
「ゲイル、相談がありますの」
おいっ、と止めさせようとするジョン。
「何?」
「私に投資しませんこと?」
「投資?」
「はい、貴族街の結婚式場をお作りになるのでしょう?」
「今、場所を探してる所だけどね」
「なら、ブランクス家を頂いて、そこに建てれば宜しいのですわ。土地は私達が提供して、建設はゲイルの投資。運営は私がやりますわっ」
なるほど、かなり広い屋敷らしいから、部分的に取り壊して作ればいけるか。場所も貴族街の中でも高級地みたいだし、貴族の結婚式をするのには持って来いだ。パーティー会場もドレスショップも併設出来るだろうし、いいことずくめじゃん。
「乗った!その話」
「という訳でジョン様。陛下のお言葉に甘えましょう」
「ゲイル、本当にいいのか?」
「商売的にも利益出ると思うから大丈夫だよ」
「ね、私の申し上げた通りだったでしょ?ゲイルならすぐに理解してくれるって」
「う、うん・・・」
ジョンのやつ、結婚前からもう尻に敷かれてやがる・・・
住む屋敷の建物はスカーレット家が考えるらしい。これはブランクス家の屋敷全部取り壊すつもりだな。ブランクス家というより、ドズルの痕跡を全て消し去りたい心理もあるかもしれない。やつが寝てた部屋とか呪われてそうだし。
ジョンは嫁をもらったというより、婿養子にいったみたいだ。これでジョルジオ夫妻が一緒に住むようになったら国民的アニメになりそうだ。
式場のイメージはマルグリッドが自分で考えたいとのことなので全部任せることに。俺は投資するだけだ。エイブリックへの返事も自分達でしてもらおう。社交会へも出席するらしいから。
晩飯を食い終わる頃、ミグルが帰って来た。
ミグルが飯を食い終わるのを待って応接室に来てもらう。部屋に呼ぶのはシルフィードからなんか言われそうなのでミグルと二人で話すのはここにしている。
「発動せんじゃと?」
そう言って俺の魔法陣を見るミグル。
「どこもおかしくないの? どれ、魔石を貸してみよ」
ミグルは魔石を中心に置く。やはり置場所はそこの様だ。
「あの魔道具屋でインクを買ったのじゃな?」
「そうだよ。ミグルの紹介で来たと言って学生証を見せたら売ってくれたんだよ」
「ワシの名前を出したやつに偽物を売るような事をせんじゃろし・・・ お主、ちゃんとインクを振ってから使ったんじゃよな?」
「あっ・・・」
「馬鹿者っ! あれはちゃんと振ってから使わなんだらただのインクと変わらんのじゃっ」
「魔力を通す成分が下に溜まるってこと?」
「そんなのは知らん。魔道インクの作り方は極秘じゃからの。この国ではあの婆さんしか知らんはずじゃ。元々はセントラル王国の技術じゃからな」
「ということはあの婆さんはセントラル王国出身?」
「そうじゃ」
「あの婆さんが死んだら魔導インクはどこから手に入れるの?」
「セントラル王国から仕入れるしかなかろう。他国を経由するじゃろうから死ぬほど高くなるぞ」
えらいこっちゃ。あの婆さんいつ死んでもおかしくないぞ。
「あの婆さんは弟子とかとらないのか?」
「どうじゃろうな。昔からあんな感じじゃったから人付き合いもなさそうじゃしの」
「そんな昔から知ってるのか?」
「あやつの旦那が魔法、婆さんが魔法陣をワシに教えたのじゃから知っとるぞ。ここで出会ったのはたまたまじゃがな」
は?
「ミグルって200年近く前に魔法を教えてもらったんだったよな? あの婆さんいくつだ?」
「さあ? 歳は知らん。あやつは隠してはおるがエルフの血を引いておるのじゃろ」
なるほど、あの暗い店はそういうのを隠す為でもあるのか・・・
「しかし、エルフの血を引いてても婆さんになったらもう長くはないんだよな?」
「そうじゃと思う」
ということはヤバいのは同じだ。魔導インクの作り方教えてくれないかな・・・ というより、自分で作ってみてもいいかもしれない。なんとなく作り方は思いついてしまったけどまだ黙っておこう。ミグルが教えぬかーーっ! と叫ぶだろうからな。
万年筆のインクを瓶に戻して、よく振ってから描き直す。
ミグルはコンパスに驚いていたが無視だ。
で、魔石をセットすると今度はちゃんと光った。意外と眩しい。魔法陣を隠匿するとその影響で明るさが落ちるのかもしれん。これは隠匿方法の改善が必要だな。
「うむ、成功じゃの」
次にここの言葉で同じように魔法陣を描くとやはり光った。
「ミグル、思った通りだ。古代言語でなくとも発動するぞ」
「な、なんと・・・ これは革命的ではないか。一気に魔法陣が簡単になってしまうのじゃ・・・」
そう、問題はそこだ。魔法陣を簡単に作れるようになってしまうとまずいかもしれない。
「ミグル、この事は内緒だ」
「うむ、わかったのだ」
ミグルも危険性に気付いたのか自分の魔法陣が組めるといったアイデンティティーの優位性が薄れるのを恐れたのか素直に頷いた。
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