第572話 ゲイルの周りは敵だらけ
お弁当を持って学校へ。中学時代を思い出すな。今更ながらにお母さん毎朝ありがとうと心の中で礼を言う。
学校に着いたらシルフィードと別れて教室へ。
「では昨日のおさらいします。早く文字を覚えないと次に進めませんよ」
「先生、文字はもう覚えました」
「ワシはすでに知っておる」
ざわっとする教室。いや、あんたら今まで何やってたんだよ?
「本当かね? ・・・では、こちらに来て下さい。テストをします」
石板にすべての文字を書かされる。
「宜しい。さすがに満点をとるゲイル君ですね。素晴らしい。ミグル君はすでに知っているとは?」
「ワシは自分で魔法陣をすでに組めるのじゃ。他国の許可しか持っとらんからここの資格を取りたいだけなのじゃ」
「どこの・・・ いや、どこの国であっても秘匿しないといけませんでしたな。これは失敬。では魔法陣の模写を行いなさい。よく勉強して覚えて下さいね」
「覚えて来ましたよ。完全な円を描くのは今は無理ですけど、明日なら大丈夫です」
「取りあえず描いてみてくれんか?」
「ワシは明日にするのじゃ。ここのと少し違うのでの。他のを描くのはまずいじゃろ?」
「違う? 他の国の・・・ ミグル君はいったい・・・」
「ミグルはディノを倒したパーティーメンバーの一人で、今は王室の研究所員ですよ。身元はしっかりしてるので大丈夫です」
「王室の研究所員ですと? ならば先の授業を受けなさい。所員になれるぐらいの能力ですでに魔法陣を組めるならここの授業を受ける必要はない」
「いや、ワシはゲイルと同じ進み方で良い。こやつもあっという間に進めるとは思うがの」
ということで、俺だけ描く。
「良くできています。円がきちんと描けるようになれば合格です」
「じゃ、また明日描きますね」
「あ、待ちなさい。ゲイル君はポーションコースの授業も受けるのかね?」
「こっちが予定より早く終わればそうしたいと思ってます」
「宜しい。許可しますので、好きな時にチャーム先生を訪ねなさい」
あの美人先生チャームっていうのか。魅了されたりしないだろうな?
俺が魔法陣のほぼ合格をもらったことと、ポーションコースの授業も受ける許可が出たことに教室のざわめきが止まらない。
もう授業は良いと言われて俺とミグルは今日の授業が終わってしまった。ざわつく生徒の邪魔になるから追い出されたのだろう。食堂でシルフィードの授業が終わるまで待つのは暇である。
「ミグル、あの魔法陣に書かれている文言は詠唱と同じか?」
「いや、違うぞ。言葉自体は知らぬものばかりじゃ」
ん?
「知らない言葉? どういう意味だ?」
「自分で書いてて意味がわからんかったじゃろ? 何を言うておるのじゃ?」
ノートを見返してみる。知らない言葉・・・ あっ、これ日本語じゃねーか。全く違和感無く読んでたよ。漫画やアニメの魔法詠唱っぽいからこっちの言葉の詠唱と混同してたわ。
「ミグル、ライトの魔法の詠唱を教えてくれないか?」
ミグルがゆっくりと言ってくれた詠唱を書き出していく。なるほど。内容はほぼ同じだな。これ、もしかしたら言語は何でもいいんじゃないか? それに文字も・・・
なんか物凄く簡単に魔法陣が組めるかもしれないと気付いてしまった。
「どうしたのじゃ?」
「あー、実験してから話すわ。もしかしたら違うかもしれないし」
「良いから教えろ。詠唱を教えてやったじゃろ」
「確証もったら教えるよ」
「いいから早く教えぬかーっ!」
「大きな声を出すな」
「す、すまぬ・・・」
「俺が天才なの知ってるだろ?」
「自分で言うやつがおるかっ」
「いや、まじで」
「ぐぬぬぬ、それで何がわかったのじゃ」
誰も居ないけど、誰かに聞かれたらまずいのでミグルの耳元でヒソヒソと囁く。
(これな、魔法詠唱と同じ事が書かれてんだよ)
(何っ!)
(お前の言う古代語って奴だ。古代語を今の文字にしてあるだけなんだ。だからミグルには理解出来なかったんだよ)
ヒソヒソとお互いの耳元で囁き合う
「何やってるのよっ」
「わっ! びっくりした。いつの間に来てたんだよ」
シルフィードがワナワナして近くに立っていた。
「やっぱりミグルの方がいいのねっ。二人でこんな所でイチャイチャしてっ」
他の生徒達も食堂に入って来て、なんだなんだ? 三角関係のもつれか? とかヒソヒソしだして、あいつ、満点やろうだぜとか段々悪口を叩かれだす。
「単に人に聞かれたらまずい話だよ。大きな声で変な事を言うなっ。誤解されんだろっ」
早く座れとシルフィードに促す。
時すでにお寿司・・・いや遅し。もう周りのヒソヒソが止まらない。
無視してお弁当を取り出すと寿司ではなく焼肉丼に玉子焼き添えだった。冷めてるとはいえ、蓋を開けたら良い匂いが漂う。
皆は食堂の貧相な飯だからうらやましそうに注目を浴び、しかも3人お揃いだからどういう関係なんだあの3人はとかますます注目を浴びてしまう。
「美味しーねゲイル」
シルフィードは図太くなったよな・・・
食べ終わる頃に、
「ゲイルさま!? ゲイル様ではありませんかっ。まさか講師に?」
声を掛けて来たのはシャキールだった。
「久しぶりだね。どうしたの?」
「時々、魔法コースの上級クラスの指導に呼ばれるんですよ。どうしたんですか?その髪の毛は?」
「シャキール、ワシもおるんじゃがの」
「わっ! 師匠。ちっさくて見えませんでした」
「そんなわけあるかーーっ! ワシと先に目が合うたじゃろーがっ」
「すいません。今日はこれ以上イラつきたくなくて・・・って、あれ? あまり腹が立たない。いつもはデコピンしたくなるのに・・・」
俺は今もだ。
「お主はいつもそんな事を思うておったのか。後で折檻じゃ」
「嘘です嘘です。そんなこと思っておりませんっっ・・・ 少ししか・・・」
シャキール登場で尚注目を浴びる。シャキールは宮廷魔導士の最高峰の存在だからな。魔法コースの生徒からしたら神の如くの存在なのだろう。その憧れが俺に敬語を使いながら嬉しそうに隣に座ったのだ。
「俺、この前急に倒れてね、目が覚めたら髪の毛の色が変わってて魔法が使えなくなってたんだ」
「えっ? 魔法が使えない・・・?」
「そう、だから今は普通の人。魔法陣コースの生徒だよ。この前入学したばかりだけどね」
「もしかして学科満点の入学生って・・・」
「ゲイルじゃ。ワシも魔法陣コースの生徒じゃぞ」
「師匠は魔法陣組めますよね? 今さらなんで・・・」
「この国での許可証を持っておらんでの」
「あら、ゲイル君こんなところに居たの?いつ来るか待ってたのに」
ポーションコースのチャーム先生登場。男子生徒が浮わつき出す。やはり人気の先生みたいだな。
「で、いつ来るのポーションコースに?」
ざわ・ざわ・ざわざわざわ・・・
こんな所でやめろ。ますます注目を浴びんじゃねーか。
「チャーム、どういうことだ? ゲイル様は魔法陣コースの生徒だと伺ったが?」
知り合いなのかこの二人。
「ポーションコースにも来てもらうのよ。校長にも許可もらったし。楽しみねゲ・イ・ル・く・ん」
こんな所でウインクするな。周りが殺気立ったろうが。
「ならばゲイル様、魔法コースの指導を私と一緒にやりましょう。鼻っぱしらが伸びた上級クラスの生徒をコテンパンにしてその鼻を折ってやるのですっ」
その発言を聞いて魔法コースの生徒達も殺気立つ。
もうどのコースの生徒も敵になってしまった・・・ 入学2日目にして居心地が悪い。
「先生、ポーションコースは魔法陣コースが落ち着いてから。シャキール、俺は魔法が使えなくなったから魔法コースは無理だ」
残念という二人に挨拶して食堂を出た。もうあそこにいるのは嫌だ。そのうち絶対にデーレンが参戦してくるからな。
ミグルは研究所へ行き、俺はシルフィードと魔道具ショップにお買い物だ。
「ここだな」
「分かりにくい場所だね?」
大型家電みたいな店か、怪しげな魔女がいるような店、どちらだろうなと思ったけど、怪しげな店だったか。
蔦の絡まるドアを開けると真っ暗な店内にロウソクが灯されている。シルフィードは俺の腕にしがみつく。こら、胸が当たってるぞ。
「おや、ここは子供が来る所じゃないよ」
「ひっ!」
シルフィードが小さく悲鳴を上げる。
怖っ。婆さん怖っ! 暗闇に潜むなよ婆さんっ。
色んな意味でドキドキしている胸を押さえつつ、
「知り合いに聞いて来たんだけどね、魔道インクが欲しいんだ」
「知り合い? 誰じゃ?」
「ミグル」
「あのハーフエルフの知り合いか。まぁいいじゃろ。しかし、魔道インクは許可無き者には売れんのじゃよ」
「俺、魔法陣コースの生徒なんだけどダメかな?」
と、学生証を見せる。
「ほう、お前さんまだ10歳くらいなのに受かったのか。なかなか優秀なようじゃな。その学生証があるなら売ってやろう。この壺一つで銀貨10枚じゃ」
小さなインク壺で銀貨10枚か。なかなか高額だな。ライトの魔法陣10枚くらい描いたらなくなりそうだ。
「じゃあ、これ10個頂戴」
「そんなに何をするんじゃ?」
「こんなのすぐになくなるだろ?」
「ほう、何か企んでおるようじゃが・・・ まぁ、良いわ。他に欲しい物はあるか?」
「どんな物があるの?」
水や湯、魔道コンロ用とか、元になる魔法陣が売られていた。もちろんどんな魔法陣かはわからないように隠蔽されているが。これを業者が買って魔道具に加工していくとのこと。
物によっては魔法陣を組み込む作業も請け負うらしい。魔道テントとかはここに持ち込まれて加工されるみたいだ。空間拡張は何か設定が必要なんだろうな。
どれもそこそこ高いので取りあえず魔導インクだけを買って帰った。
「またおいで。ヒッヒッヒッ」
暗闇で笑うなよ婆さん。怖ぇよ。
帰り際にインクはよく振ってから使えとアドバイスされた。
さて、帰ったらコンパス作りと魔法陣の作成実験だな。
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