第570話 イベント目白押し

翌日アーノルド達と皆でディノスレイヤ領に移動する。ジョンとマルグリットの婚約の儀、翌日はベントの成人の祝いだ。それが終わったら魔法学校の入学式。イベントが目白押しだ。


スカーレット家は婚約の儀にジョルジオと奥さんだけで来た。次期領主のビーブルは子供が生まれたらしく、領地に残ったとのこと。


婚約の儀はあっさりと終わる。婚約しましたよというのと、いつに入籍しましょうねというものだった。両家と本人がそれにサインして終わり。あっけないもんだ。てっきり結納みたいなのを想像してたよ。


両家で飯を食って、翌日のベントの成人の祝いにも参加してもらった。


ベントの成人祝いにはディノスレイヤ領の役所の人間やロドリゲス商会を始めとする懇意にしている商会も呼ばれていた。


(ゲイル殿、この参加者達は・・・?)

(皆、この領の人だから庶民しかいないよ)

(他の貴族は招いておられんのか?)

(仲のいい貴族とかいないしね、イナミンさん達も今年は王都に来てないし、エイブリックさんとドン爺を呼ぶのも大げさだろ?)

(ドン爺?)

(あぁ、前王のこと。プライベートではそう呼べと言われてるんだよ)

(ははは、前王にして大公爵を爺さん呼ばわりですか)


ジョルジオは呆れたように笑った。


次に来たのはロドリゲスだ。


「ぼっちゃん、うちのザックがとんでもないことを・・・」


「いや、ミーシャを宜しくね。父さん達と話は付いた?」


「はい、お陰さまで」


「式はいつにするの? というか結婚式はするの?」


「結婚式とはダン様達が行われた催しですね? 息子から聞きました。ちなみにおいくらぐらいの費用でしょうか・・・」


「指輪を除いてダンには金貨30枚くらい払ってもらったよ。お色直しの衣装と宿の宿泊と二次会の費用は俺が払ったけど」


「えっ? そうだったのか?」


「俺からしてやれるお祝いはそれぐらいだからね」


「悪ぃなぼっちゃん。高ぇとか言っちまって」


「ぱぁって使うと言っても限度があるからね。まだ家も買ってないだろ? 残りは新生活に使ってくれ」


「いや、結構なお値段になりますな・・・」


「これでも原価でやったからね。あれ全部販売価格でやったら目玉飛び出るよ。と言っても高いのは料理と酒だから、式だけだと高くても金貨2~3枚ってところかな。ウェディングドレスって花嫁が式に着る服をミケと同じくらいの物を選ぶなら金貨2枚くらいになるよ」


「では、式と衣装で金貨5枚ですな?」


「だいたいそれくらい。春や秋なら花代とか安くなるだろうけど。ロドリゲス商会のパーティーは王都とディノスレイヤ領両方でやるならそこそこ高くなるね」


「かしこまりました。またその節はお願い致します」


ミーシャのウェディングドレスは俺がプレゼントしてもいいんだけど、どうするかな・・・


「ゲイル殿、娘に聞きましたが結婚式というものをされたのですな? いや、マリがとても羨ましがってましてな」


「ジョンとマリさんもするかな?」


「おそらく・・・」


「でもあそこは庶民街だよ。他の貴族も招くよね?」


「そうですなぁ」


「まだ時間あるから貴族街にも作ろうか? ちょっと場所があるかわかんないけど。あと値段は相当高くなると思う」


「ぜひ宜しくお願い致します」


これはエイブリックに要相談だな。貴族街の空いてる土地のことなんて知らん。



ベントの祝いの席でこんな話もどうかと思ったけど、あいつは領民達と触れあってるしまぁいいか。


ベントへの祝いは最高級の万年筆にしておいた。前のは実用品だから、今回のは契約とかそんな時に使ってくれたまへ。



祝いが終わってアーノルド達と話す。


「入学式来る?」


「もちろんだ。なぁ、アイナ」


「俺達も行ってもいいか?」


アルがそう言う。


「確か、同伴は二人しかダメなんじゃなかったっけ?」


「ミグルの保護者として行くから大丈夫だ」


「なぜ、貴様らが保護者なんじゃっ?」


「お前、小さいだろ? だからだ」


「歳はワシの方が上なんじゃぞっ」


「見た目は子供だろ? だからいいんだよっ」


「ぼっちゃん、俺とミケも行くわ」


「え? ダン達も来るの?」


「どんなところか見てみてぇじゃねぇか。シルフィードの保護者ってことにするからよ」


と言う事でまたぞろぞろと王都に戻ることになった。



ー入学式当日ー


「へぇ、魔法学校ってこんなんなんやな」


ミケは物珍しそうにキョロキョロしている。


「ぼっちゃん、なんか古臭くねぇか?」


そう、校舎は木造で古めかしいのだ。俺は学校らしくて好きだけどね。


「講堂とか魔法実技場、図書館とかは新しいみたいだよ。古いのは校舎だけ。古くからある学校みたいだからね」



講堂で全体の入学式が行われる。全部で100人くらいか。結構落ちたんだな。ここにいるほとんどの入学生は魔法コースだ。ポーションコースは3人。シルフィード、青年、前髪で目を隠した女の子か。リケジョって感じがするな。


魔法陣は俺とミグルだけ。


コース別に名前が呼ばれた後、各教室で学生証みたいな物を渡されるらしい。明日からはそれがないと学校に入れないとのこと。


他は魔法を悪用すると厳しく罰せられる事、学生の間は身分は関係ないこと、テストに受からない限り進級も卒業も出来ない事を説明される。


ちなみに俺とシルフィードは特待生扱いで学費は全額無料。寮費も無料みたいだけどそれは辞退した。ミグルは年間の授業料金貨1枚払わなければならない。


教材費は実費。但し、金利無しで学校が貸付してくれるらしい。授業は午前中しかないが、昼からバイトしてたらいつまで経っても卒業出来ないようだ。金は貸してやるからしっかりと勉強しろって事だな。まぁ、ちゃんと魔法が使えるようになったらいくらでも稼げるだろ。



講堂での説明が終わり教室へ。


アーノルド達も一緒にくる。シルフィードにはダン達が付いていった。


「えー、ゲイル・ディノスレイヤ君、ミグル君。入学おめでとう」


なんと俺達の担任というか受け持ちは校長自らするらしい。実際の授業は進級出来ていない生徒もいるだろうけど。順当に進級していけば学生期間は3年、卒業出来る人の学生生活の平均は10年くらいらしい。まだ3年で卒業したものはいないとのこと。途中で辞めてしまう人が大半と厳しい。入るのにも卒業するのも難しい学校か・・・ 魔法陣が発展していかないのもよくわかる。



学生証を受け取って入学式は終わり。俺は明日から学生生活を満喫することになった。


食堂でシルフィード達と待ち合わせ。


「早かったね」


「こっちも3人だけだからね。さ、帰ろ」



そのまま貴族街を皆でプラプラする。学校は貴族街の北側、庶民街に隣接する場所にある。馬は預けられる所がないから徒歩通学だ。


今もプラプラしながら東方面に向かっている。夜にエイブリックの所にダン達の結婚式に来てくれたお礼と魔法学校に無事入学した事の報告、ジョンとマルグリットが正式に婚約したことと、一応ミーシャとザックが結婚する事になったのも報告しておこう。


貴族街で高くて普通の食事をしてプラプラ。


「ジョン、金貯まってる?」


「使う事がないからそれなりにってところだ。しかし、貴族街に家を買ったりするのには全く足らんだろうな」


だろうな。ジョンは利権を持ってないし、護衛の給金だけだ。それだけで大貴族のお嬢様を嫁に貰うのキツいかもしれんな。婚約祝いにドカンと金貨をプレゼントしてもいいんだけど、ジョンは断るだろうし・・・


アイナとダン達のアクセサリーを買った宝飾店の前まで来た。ジョンは値段を見て驚くけど、それお買い得品だからな?



夕方にエイブリック邸に到着し、新しい執事さんに応接室に案内してもらった。歩くとやっぱり距離を感じる。


晩御飯の用意が出来た頃にドン爺参上。そのあとしばらくしてエイブリックが来た。


飯を食べながらダン達がお礼を言い、アーノルドからジョン達の報告が行われた。


「ジョン、お前、軍の職位俺に返上したろ? 代わりに何が欲しい?」


「いえ、特に望む物はありません」


「そうか・・・ ないか。結婚するのは3年後だったな。どこに住むんだ?」


「まだ決めてません。これからどうするかマルグリットと相談して決めようと思ってます」


「なら、ブランクス家の屋敷を代わりにやろう。ブランクス家は取り潰しになったからな。跡継ぎもおらんからちょうどいい」


「おい、エイブリック。ダッセルの屋敷は相当デカイぞ」


「なら、アーノルド達もそこを王都屋敷として使え。使用人達をクビにするわけにもいかんからそのまま居るしな」


「俺はいらんと言っただろうが」


「エイブリックさん、自分はあの屋敷を頂くような功績を上げておりません」


ジョンは自分で殺した相手の家に住むとか嫌かもしれんな。俺が言うのもなんだけど。


「ジョン、まぁ、焦らずに考えておけ。スカーレット家の者を娶るにはそれなりに金がかかる。護衛の給金だけじゃ賄えんだろう」


反論出来ないジョン。まぁ、ありがたい話だ。焦って断る必要もない。しかし、この世界の人はお取り潰しになった家を縁起が悪いとかの発想がないみたいだ。どちらかというと戦利品扱い。つまり勝者の証しになるみたいだな。



「あ、エイブリックさん。貴族街でどこか空いてる場所ないかな? 結婚式場を作りたいんだよね。西の街は庶民向けだから貴族達から申し込みが来たら困るんだよ」


「なるほどな。あれ良かったぞ。柄にもなく感動しちまったからな。父上も泣いてたし・・・」


「な、泣いてなんかおらんっ」


いや、ドン爺泣いてたよね? とは言わないでやろう。


「よし、場所は探しておいてやる。いつ頃完成させるつもりだ?」


「ジョン達の結婚式をそこで挙げたいから今年中に場所が見つかると嬉しい」


「えっ? 俺達もあれをやるのか?」


「マリさんの希望だって。ジョルジオさんからも聞かれたからね。覚悟しておいてね。めちゃくちゃお金掛かるよ」


ジョンは青ざめていた。


「分かった。じゃあ次はこっちの番だな」


エイブリックの番か・・・ 嫌だな。何を言われるんだろ?


「なに? 社交会は学校があるから手伝えないよ。魔法使えないからアイスクリームも作れないし」


「そんな事は分かってる。あの楽団を社交会に派遣してくれ」


「今年はいつ?」


「15日だ」


もう時間ないじゃないか・・・


でも仕方がない。王家の社交会で演奏出来るなんて楽団員にとっては誉れだからな。


「わかった。もう打ち合わせする時間無いから曲はお任せでいいね?」


リクエストして貰うほど曲数ないけど。


ミーシャの件は俺から報告した。ドン爺激オコでザックを王城に呼べと言い出したので、結婚式には招待してあげるからと宥めた。ザック気絶するだろうな。前王が参列するんだから。


どうやら、ドン爺は俺がシルフィードとミーシャを嫁にすると思っていたらしい。ミーシャの事も孫娘みたいに思ってるみたいだからな。とても残念がっていた。



さて、ぼちぼちと歩いて帰りましょうかね。明日からは何十年かぶりの学校生活だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る