第568話 披露宴とミーシャ
なんとなく知ってはいたが見て見ぬフリというか、違うと自分に言い聞かせていた部分はある。
「ミーシャ、何歳になった?」
「明日で23歳ですよ」
そうか、もうそんなになったんだな。初めてミーシャを見た時は姉かと思うくらい幼かったのに・・・
「ザック」
「は、はい」
「お前、明日仕事が終わったら屋敷に来い」
日頃より低い声でザックに明日来いと伝える。
「はひ・・・」
「ミーシャ、今日はダンとミケの結婚式だ。帰ったら父さん達を交えて話そう」
「はい」
ダン達は皆に囲まれて幸せいっぱいだ。俺も切り替えよう。こんな仏頂面してたら二人に申し訳ない。
キャッキャする皆に囲まれた二人をパーティー会場に案内する。
ダンとミケは一旦控え室に。
バタバタとミサ達がミケのトレーンを外す。パーティーに対応するためトレーンは取り外し出来るようになっているのだ。
さ、俺は司会進行なので皆に指示を出さなくては。
会場で演奏が始まったのでダンとミケを登場させる。ビュッフェ形式のパーティーでテーブルと椅子は用意しているから好きな所に座ってくれ。料理はまだ出していない。こいつら絶対に先に食うからな。
二人に長いローソクを渡して各テーブルのローソクに火を点けていく。ローソクを点け終わったテーブルから酒とジュースを準備していく。アイナの好きなリンゴのお酒だ。料理が出されたら各々好きな酒を取りにいってもらおう。
全テーブルに火を点け終わったので、ドン爺に乾杯の音頭を取ってもらいパーティースター・・・・・スター・・・
ドン爺、長えよっ!
かんぱーい!
一斉に料理が運びこまれる。余興も考えたのだが、ろくな事にならなさそうなので止めておいた。
それぞれが料理を食べて順にダン達に挨拶をしにいく。ダンはめっちゃ飲まされてんな。おい、ミケ。新婦はそんなにガツガツ食うもんじゃないんだぞ。
ひとしきり料理を食べたので、アーノルドとアイナに祝いのスピーチをしてもらった。アーノルドらしく素晴らしく短い。が、ダンの事を良く知るアーノルドらしい良いスピーチだった。
次はドワンだ。
「ダン、その歳でようやく一人前じゃの」
「うるせぇっ、それならおやっさんはまだ半人前じゃねーかっ」
そう笑って言い返すダン。さすがになんじゃとぉっ。とはならず、ドワンもフンと鼻で笑った
「これは祝いじゃ、ちゃんと使いこなせよ」
「お、おやっさん・・・これ・・」
「ようやく渡せたわい。ったく、いつまで待たせるつもりじゃったんじゃ」
ダンはうぉぉぉおっと雄叫びを上げて剣を振ろうとしたので、魔法が使えない代わりにコップをぶつけておいた。こういう時は絶対に成功させるからな。火事になったらどうすんだ。
さ、二人は一旦退場だ。
二人に着替えさせる。ミケは赤いふわふわのミディ丈ドレス。セミロングのブーツは長靴を履いた猫とは言わないでおいてやろう。ダンには新調した冒険者服だ。お色直しの服は俺からのプレゼント。
二人が再入場する。新調した冒険者服と炎の魔剣はよく似合っててダンらしい。それにくっついて歩く赤いドレスのミケはとても可愛らしい。よくお似合いだよ本当。
ポットがウェディングケーキをワゴンで運んでくる。特大のスクエアケーキだ。フルーツがふんだんにあしらわれ、チョコで熊と猫が相合い傘をしている絵が描いてある。俺がリクエストしておいたのだ。
皆にそっくりーとか言われて見てもらった後にケーキ入刀。俺がこうするんだよと説明する。
ケーキに長いナイフを入れた後にファーストバイト。ダンの口がクリームまみれになるのはお約束だ。その後にケーキが切り分けられて配られる。熊と猫の相合い傘の所は二人のところへ。
ここでエイブリックにも挨拶をしてもらった。何にもなかったら拗ねるからな。
最後は二人の挨拶だ。
「えー、みんなありがとう」
ダンとミケはちゃんと二人で皆に心のこもったお礼と、これからの決意を語った。
「最後に・・・ ぼっちゃん」
・・・
・・・・
・・・・・
「なんて、こっ
「ダンっ!」
「なんだよっ!」
「・・・おめでとう」
「なっ、なんだよソレ・・・ いつものように言い返してこいよっ。ズルいぞ、ぼっちゃん・・・」
ダンは我慢していた涙がブワッと溢れ出した。ダメだ。俺もまた泣いてしまう。
「あー、尻に敷かれんなよ」
「うるせえっ」
会場の皆も半泣きしながら拍手して二人を祝福した。
(ぼっちゃん、本当にありがとう。俺達幸せになるわ)
ダンはポソッとそう呟いた。俺は聞こえないフリをしたけど、ちゃんと聞こえてたからな。
「宴もたけなわではございますが、ダンとミケの結婚パーティーはこちらでお開きとさせて頂きます。尚、お時間のある方は二次会もございますのでぜひお越し下さい」
場所は高級宿のロイヤルスイートだ。皆来たら狭いけどなんとかなるだろ。
ロイヤルスイートではいつもの宴会になり、ミケはここの魚めっちゃ旨いわとか言いながら食べていた。さっきもガツガツ食ってたよね?
「さ、そろそろお開きにしよう」
「まだいいだろ?」
アーノルド、お前本当にこういうときは気が利かないな・・・
「いいから。もうお開きなのっ!」
全員に帰るよーと促し、強制的に退場させる。
「じゃ、ぼっちゃんの屋敷で飲み直すか」
「お前は馬鹿か? ダン」
「は? もう終わりなんだろ?」
「ダンとミケはここに泊まるんだよ。帰るのは俺達だけだ」
「は?」
「何回も言わせんな。ここで好きなだけ二人でイチャイチャしてろ」
そういうと真っ赤になる二人。
「明日のチェックアウトは昼過ぎにしてあるから、ゆっくりしてていいぞ」
そう言い残して俺達は帰った。
屋敷に戻って応接室でミーシャとの話だ。
「え? ザックに求婚された?」
「はい」
「で、受けたのか?」
「はい」
「そうか・・・ それは良かったな。しかし、ミーシャもそんな歳か。俺達も歳を食うわけだな・・・」
「ミーシャ、あなた本当にいいの?」
「はい」
「そう・・・ ゲイル、あなたは席を外しなさい」
俺はアイナにそう促されて部屋を出た。
「ミーシャ、あなたの歳なら結婚してもおかしくはないから反対はしないわ。でも聞いて良いかしら?」
「なんでしょう?」
「ゲイルの事を好きだったんじゃないの?」
「はい、ぼっちゃまの事は好きですよ。結婚したいとかじゃないんですけど、ずっと一緒にいれるんじゃないかと思ってました」
「ザックと結婚したらそれは叶わないわよ?」
「ぼっちゃまが倒れられた時、私も一緒に逝きたいと言ったんですけど、アーノルド様にお留守番しろと言われました。ぼっちゃまが大きくなるに連れてお留守番することが増えて・・・ あぁ、きっとこの先はもっとお留守番することになるんだなぁって・・・」
「ゲイルはミーシャを一番大切にしてるのは知ってるわよね?」
「へへへへ、そうですね。いつも守ってもらってますよ」
「ならどうしてなの?」
「親離れです」
「親離れ?」×2
「はい。ぼっちゃまは私のお父さんなんです。でも、私ももうこの歳になりましたし、ぼっちゃまに心配ばっかりして貰う訳にはいかないんです・・・」
ポロっと泣くミーシャ。
「そう、ミーシャにとってゲイルはそういう感じだったのね・・・」
ミーシャは幼い頃に母、そして父を亡くしてディノスレイヤ家のメイド見習いになった。ゲイル付きのメイドになってからはずっとゲイルと一緒に過ごし本当の家族より長い時間を共にしてきた。ゲイルは子供だが、まるで父親のようにミーシャを気にかけ守ってきたのを二人は理解する。
「もう一度聞くわね。本当にいいのね?」
「はい。ミーシャはぼっちゃまが作った物を守れるようになりたいと思っています。ザックさんだけだとちょっと頼りない所もありますから」
と、少し笑って話すミーシャ。
「ザックの事は好きじゃないのか?」
「いえ、好きですよ。そうじゃなかったらお嫁さんにはなりませんよ」
「わかった。それならちゃんと祝福しよう。もうすぐジョンとマルグリットの婚約の儀があり、それが終わったらベントの成人の祝いをディノスレイヤ領でやるから、それにザックとロドリゲスを招待しよう。そこでもう一度正式に話そうか」
「わかりました。ありがとうございます。アーノルド様、アイナ様」
「いいのよ。私達はあなたの親代わりなんだから」
その後ゲイルは再び応接室に呼ばれ、ミーシャとザックが正式に結婚に向けて話を進めると聞かされた。
「ミーシャ、本当にザックでいいのか? フンボルトも将来有望だぞ」
「はい、フンボルトさんはもっといい人が見つかると思います」
「そうか・・・ どうして今回結婚を受けたんだ?」
「え? ミケさんの投げたブーケを受け取った人が次のお嫁さんなんですよね? だからですよ」
ミーシャ・・・ そんなことで決めるなよ。
まぁ、もう決まった話だ。とやかく言っても仕方がない。《まだ早いっ!》とか言ってみたかったけど、ミーシャの歳を考えるとぜんぜん早くないからな。
「父さん、明日ザックを呼んでるんだけど、俺が話してもいいかな?」
「あぁ、構わんぞ。俺達はロドリゲスを呼んだ時に正式に話すからな」
「わかった。一応父さん達もそれに立ち会ってね」
ミーシャ、まだここではおめでとうとは言わないからな。
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