第567話 結婚式と大事件

義務教育の卒業式でデーレンに絡まれたがスルーして卒業。まったく思い入れのない学校なのでとっとと帰った。アーノルド達も呼んでない。末っ子の卒業式に出たいかな? とも思ったけど、入学式と卒業式しか出てないからな。教室と玄関以外どこに何があるかも知らないのだ。魔法学校の入学式はどうするだろうか?



それからあっという間にダンとミケの結婚式だ。二人はただのパーティーだと思っているから楽しみだ。


総額をダンに請求する。結婚式代は俺持ちだけどそれは内緒。


「ぼっちゃん、高えぞ」


「何言ってんだよ。パーッと使う金取っておけと言っておいただろ? これがそれだ」


「あんときより高ぇじゃねーか」


「仕方がないだろ人数が多いんだから」


ウェディングドレス代や新郎用モーニング代、女の子達のパーティードレス代も入ってるからな。ついでに俺もフロックコートを着る訳には行かないのでタキシードを作った。あと婚約指輪と結婚指輪もあの高い店で買ったし。服とかは売値じゃなく原価しか請求してないから感謝しろよ。ウェディングドレスは本当は金貨10枚くらい貰わないと割に合わないくらい手が込んでるんだからな。



式当日、ダンとミケを別々の控え室にスタンバイさせる。


「ぼっちゃん、何を企んでるんだ?」


「なんも企んでないよ」


「何する気だ?」


「結婚式って言ってもわかんないだろ? 本番は俺が誘導するから安心しろ」


ミケの親役はアーノルドとアイナだ。よしよし、ちゃんといい服だな。これなら問題無しだ。


俺も牧師風の服に着替える。黒の服だ。なんかこれを着ると早口言葉いってみよーとか言いたくなるな・・・


タラッタラ タラッタラ タラッタラタラタラタッター


あの鐘を鳴らす人よーし、ドアマンよーし、オルガニストよーし、と人員がそれぞれスタンバっているのを確認していく。ドン爺とエイブリックにもお忍びで参加してもらった。その変装は余計に怪しいぞ。特にエイブリック、赤いひげのやつなんているかっ。



オルガニストのマンドリンが小さめの音でBGMを奏でていく。おー、結婚式って感じがしてきたな。


リングボーイは居ないので、このリングピローに指輪をセットしてと。うん、ちょうど綺麗にステンドグラスの光が差し込んで綺麗だ。


「おいおい、何をやらせようってんだよ」


ダンが連れて来られた。


「はい、ダンはここに立って。父さんがミケを連れて来て、ここまで歩いて来たらお辞儀をして父さんと入れ替わる。で、二人でここまで来て俺の話を聞いてくれ。簡単だろ?」


「だから何をやらせようってんだよ?」


「結婚式って言っただろ? この国で初めてやるんだからみんなにちゃんとお手本見せろよ」


と無茶ブリをしておく。これはきっとこの国の女性達の憧れイベントになるだろうからな。娘を持つお父さんはしっかり稼いでおけよ。死ぬほど金掛かるからな。


これは近々歌劇にも取り入れるからな。《きっとまた会える》のフィナーレを飾るのだ。


他にも数年後に実演させるジョンの《あなたの事が好きだからぁー》にも取り入れる予定だ。



「ダン、そろそろ来るからな」


ドアマンが扉を開けると列席者が入って来る。


(ぼっちゃん、前王とエイブリック様も呼んだのかよ?)

(しっ、もう黙ってて)


新郎側や新婦側とか関係なく一番前の席だけ開けて座ってもらう


全員入った様なので再びドアを閉める。お、アーノルドの気配だ。分かりやすいように気配を出してくれているのが助かる。アイナは横の扉から入って一番前の席へ。反対側の一番前にはドン爺、エイブリック、ナルディックが座っている。


俺がマンドリンに合図をするとタンタータタン タンタータタン♪とお馴染みの音楽が流れ出す。


ドアが開き、アーノルドと腕を組んだミケが登場だ。


ベールで顔を隠したミケは少しうつむいているが嬉しそうだ。アーノルドとミケはゆっくりとバージンロードを歩いてくる。


アーノルド、手と足が同時に出てんぞ。ロボットかお前は。


実の父親でもないのに緊張しまくるアーノルド。


ミケはすらりとしたAラインのドレスに長いトレーン。ベールは苦心したレースのものだ。手には白いブーケ。ちゃんとダンのブートニアとお揃いの花だ。


ダンはミケをポケッと見ている。惚れ直したか? 花嫁って綺麗だろ?


列席している女性陣は泣き始めた。そう、なんかこういうのは列席者の感情も揺さぶるのだ。


アーノルドとミケが前まで来たのでダンに合図を促しアーノルドと交代させる。


ミケはダンの腕に手をやり、二人揃って俺の前へ



「あなたはダンですね?」


「は、はい」


「あなたはミケですね?」


「はい」


「では、ただ今より新郎ダン。新婦ミケの結婚式を行います」


(ぼっちゃん、何すんだよ?)

(しっ!黙ってて)


「ダン、ミケ。結婚とは別々に生まれ、別々に育った二人が共に歩むことを意味します。慣れない二人での生活は好みの違い、生活習慣の違い、考え方の違い、様々な試練が二人に与えられるでしょう。また、人生は幸せな事ばかりではありません。今まで以上に困難な事や辛い事が起こるかもしれません。しかし、二人でその辛いことを背負えば悲しみは半分に、幸せは倍になります」


宗教は関係ないので、コリント人への手紙とか聖書関係の話は省く。


「ダン、あなたは辛いときも悲しい時も楽しい時も嬉しい時も病める時も健やかなる時もミケを愛し、守り、一生を添い遂げる事を誓いますか?」


「えっ?」


(馬鹿っ、早く答えろ)


「誓いますか?」


「あぁ、誓うぜ」


「ミケ、あなたは辛いときも悲しい時も楽しい時も嬉しい時も病める時も健やかなる時もダンを愛し、支え、一生を添い遂げる事を誓いますか?」


「はい、誓うで」


そこは誓いますだっ!


「では、指輪の交換を行います。ダンはミケの左手の薬指に、ミケはダンの左手の薬指にはめて下さい。まずはダンから」


そう言ってからミケの指輪をダンに渡す。


「自分ではめれんだろ?」


(いいから早くやれっ)


ダンはぎこちなくミケに指輪をはめた。ミケは素直にダンにはめる。


「宜しい。では、新郎は新婦のベールを上げて誓いの証としてキスをして下さい」


「えっ? マジでそんな事やらせんのかよっ」


いちいち逆らうダンにムカついてくる。


「お前、今誓っただろ! つべこべ言わずにさっさとやれっ!」


ついぶち切れてしまう。


(いいからさっさとやれっ。ミケに恥をかかすなっ)


ダンはどうやってベールを上げていいかわからずマゴマゴする。ようやくベールを上げてミケの肩に手をおいた。ミケは目を閉じて上を向く。


列席者達はごくっと唾を飲んで見守る。この時代というかここの人達は人前でキスすることなんてないのだ。


モジモジしてなかなかキスをしないダン。


(早くやれっ)


ダンは俺に急かせれてミケにキスをした。


列席者からはキャーと小さく声が上がる。


ダン、なに目を開けたままキスしてんだよっ!


・・・

・・・・

・・・・・


長い長い長いっ! いつまでキスしてんだっ!


俺が小さくコホンと咳払いしたらようやく離れた。



「ダン、ミケおめでとう。これで正式に二人は夫婦となりました。ダンとミケの魂は繋がっています。今の生を終えても時代が変わろうともお・・互いの魂は・・・互いを・・・ズルッ・・・ごめん、互いの魂はまた互いをもどめ・・がならずやむずばれ・・るでじょう・・・二人の愛は永遠・永遠ズズーッ ごめん、永遠なのです」


ダメだ。自分で言ってて、アンデッドになったフランや、ミケがダンを求めて西に来たこと、故郷で二人が皆の魂を見送ったものがフラッシュバックして涙が止まらない。


「おめでとう、ダン・ミケ。どうがごれがらば幸せな人生を・・ヒック おぐっでね・・・」


ダメだ。こらえられなかった。俺は号泣しながら手を叩いて祝福した。


ダンもうっすらと涙を浮かべて俺に頭を下げた。


俺が大きく拍手をするとそれに合わせて皆も拍手する。


おめでとうっ! おめでとうっ! おめでとうっ!


ぐっとこらえて次のセリフだ。


「では、ご列席の皆様、ドアの外に出て二人の門出を祝ってあげてください」


そういうとドアが開けられて皆外の階段へ。


アルバイトに雇った人が皆に花びらを渡して、二人が出てきたら頭の上に撒いて下さいと説明をする。



もう準備はいいかな?


「新郎・新婦退場!」


タタターン タタターン タタタタンッ

タタタンッ タタタタンッ タタタタンッ

タタタターンターンタタンタタンタン


と音楽が鳴り、二人は退場していく。


本当におめでとうダン、ミケ。


カランコロンカランコロンと盛大に鐘が鳴ると同時に合奏団が演奏を始める。ベタだけど虫が踊るサンバの奴だ。ややアップテンポで演奏してもらってるので中々に盛り上がる曲に仕上がっている。


何が始まるのかとヤジ馬も大勢集まっているので大盛り上がりだ。



俺も牧師風服を脱いで階段を降りたところで祝福に参加。遅れたけどフラワーシャワーを目一杯撒く。


「ミケさん本当に幸せそうですねぇ。羨ましいです」


シルフィードやマルグリッド達と二人を見ているミーシャが感心してミケを褒める。


周りの観客達もいいわねぇ。結婚式って言うんだって。へーいいなぁ。あんなの好きな人にしてもらえたらいいなぁとか口々に言っている。よしよし成功だ。



「ミケ、後ろを向いてブーケを投げろっ!それを受け取った人が次の花嫁だからなっ!」


俺がそういうとキャーっと女性達が集まる。


「行くでーっ! ほらっ」


あーあー、どこ投げてんだよ。群がってる女性の所に投げてやれよ・・・


ヒューッと飛んだブーケがスポッとミーシャの手の中に落ちた。


「えっ! 私ですか?」


うわーーっ!ミーシャちゃんが受け取ったぁ!!!


皆が騒ぎだしてミーシャと俺を交互に見る。おいっ!


まぁ、ブーケを受け取ったからといってもすぐに花嫁になれるわけじゃないからな。姉貴の友達は10個くらいブーケ受け取ってそのままだったらしいし。



「ミーシャちゃん!僕と結婚して下さいっ!」


げっ、ザック。お前ダン達の結婚式で何やらかしてんだよっ!


「ちょっと待ったぁぁぁぁあ」


おい、懐かしいな、それ。


誰だ今の? あ、フンボルトじゃねーか。こんな時に男気見せてんじゃねー。


「ミーシャさん、僕と結婚して下さいっ」


お前らなにやってんだよ。そのうちそんなイベントを開催してやるから今やるなよ。ほら、色々考えてあるんだよ、愛の丸太切り競争とかさ。ミーシャも困ってんじゃねーか。


「えっ えっ?」


ザックとフンボルトが頭を下げて手を差し出す。


ほら、ミーシャがごめんなさいって言ったら何か叫んでどっか行けよ。



「じゃあ、ザックさんで」


えっ? えっーーーーーーーーーーっ?


フラれたフンボルトはワナワナした後、あばよーっと叫んでどっかに走って行った。


帰ったらパトカーのモノ真似を教えてやろう。いや、それよりミーシャだ。


OKを貰ったザックも信じられない顔でぼーっとしている。


「おい、ミーシャ。今の何か分かってるんだろうな?」


「はい、私は次のお嫁さんでザックさんと結婚するんですよね?」


「あ、いや・・分かってて返事したんならいいけど・・・」




ダン達の祝福気分を吹っ飛ばす大事件となってしまった・・・




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