第564話 お受験
「ゲイルも頑張ってね」
「まぁ、シルフィードは問題無いだろうから、俺が受かるように祈っててよ」
「うん」
魔法学校の講堂みたいな所に全員集められて試験をどうやって受けるか説明される。受験生は1000人くらいいるだろうか?思ってたより多いな。魔法学校は完全実力主義の学校だから身分とか関係ないからかもしれん。
まずは魔法実技の試験があるみたいだ。全部で3段階の試験。合格すれば次の試験へと進める。
1段階目はなんでも良いから発動さえすれば良いみたいだ。なんとそれで50点貰えるというサービス内容だ。
あー、俺はなぜ魔力1万にこだわってしまったのか・・・ 9999も10000も変わりないじゃないか。そう思ってもアフターカーニバル。後の祭りってやつだ。みすみす50点を捨ててしまったな。
試験を受けるだけ無駄なので、魔法実技は棄権した。
「あなた何余裕ぶっこいてんのよっ」
げっ!その趣味の悪い服はデーレン・・・
「お前、魔法学校受けてたの?」
「当たり前でしょっ・・・です」
イバーク・ゴーリキーからお仕置きされた事で反省したのか敬語を使おうとしてるデーレン。
あの後
また嵌められるかとイバークからのお誘いはずっと断ってるけどね。
「どうして魔法実技の試験受けないのよ?ですか?」
「俺、魔法を使えなくなったんだよ。だから学科を頑張らないとね」
「えっ?魔法コースじゃないの・・・ですか?」
「俺が受けるのは魔法陣コースだよ。魔法コースなら今ので不合格だろ?」
「そんなのわかんないじゃないっ」
デーレンは合否基準知らないんだな・・・
「ま、頑張れよ。お前なら受かるだろ」
「待ちなさいよっ! ですよっ」
なんだよ、ですよって、あーいとぃまてーんとか言うのか?
俺はデーレンの相手をするのが面倒臭いので、手をヒラヒラと振って学科の試験会場へと向かった。シルフィードは魔法実技は100点取るだろうから見るまでもない。
会場へは俺が一番乗り。まだ誰もいない。当然だな。
しばらくボーッと一人で待ってるとチラホラと受験生が会場へ入ってきてはヒソヒソと俺の事をなんか言ってる。身分もあるし、黒髪だから珍しいってのもある。それに魔法学校を受ける人で魔法が発動しない奴なんていないだろうからな。
「試しもせんで棄権したのかお主は?」
「げっ、ミグル。お前何してんだこんなとこで? もしや試験官とかか?」
「いや、ワシは魔法陣の事を知ってはおるがこの国の許可証を持ってはおらんでな。許可証を得るのに受験することにした」
「なんだよそれ?」
「まぁ、良いではないか。身近にお主を守れる者がおった方が安心じゃろ?」
なるほど俺を守る為にわざわざ試験を受けてくれるのか。申し込みが過ぎてたはずなのにエイブリックか誰かにねじ込んでもらったんだな・・・
「俺が落ちたらどうすんだよ?」
「なぁに、また来年受ければ良い。ワシだけ受かっても辞退するか、お前が合格するまでここで待っててやろう」
こいつ・・・
しかし、ドキドキしてたのが、また来年受ければ良いと言われた事で心が落ち着いていく。ありがとうなミグル。
会場に受験生が全員揃った所で回答用紙が配られるようだ。
受験生は200人ってところか。これで合格者が出ない年の方が多いというのは相当難しいのかもしれない。
150点満点中、みな100点で合格できるんだからな。
いや、もしかしたら魔法が使えなくても受けてる奴がいるかもしれんな。魔法陣コースのみ魔法が使えなくてもチャンスがあるからな。
受験生の年齢もマチマチだ。というか全員大人だな。俺ぐらいの年齢の奴の方が少ない。
回答用紙が配られる。
問題は前の大きな黒板に書かれたのを読んでこの羊皮紙に書くのか。黒板にかけられた布が外されたら試験スタート。回答欄間違えないようにしないとな。
始めっとの掛け声と共に布が取り払われた。
初めは計算問題。これは余裕だ。ここの問題は50点の配分だろう。
次は文章問題か。つるかめ算、面積の求め方、角度の問題か。これ、知らなかったらわからん奴多いだろうな・・・ それと理科系の問題。錘とバネ、力点支点作用点。思ったより高度だ。簡単だけど・・・
ここまで余裕。
おっと、確率なんて出るのか。まぁ、この程度なら余裕。
で、最後の問題が難解だ。これ、正解を選ぶのか、それとも裏の意図を読んで回答するのかどちらだろう?
問題内容が法律なのか道徳なのかどちらだ?
例えばこれだ。
・相手が剣を抜いた時は相手を斬っても良い。マルかバツか?
身分が対等もしくはこちらが上なら◯だ。しかし、こちらが庶民で相手が貴族ならバツだ。他に裏読みすると、相手とはなんだ? 対峙しているかどうかすらわからん。それに剣を抜いていい剣だろ? とか自慢しただけかもしれん。問題が曖昧だ。これ運転免許の試験みたいだな。問題の受け止め方でどちらでも正解になる。いや、深読みせずにここは◯にしておこう。
最後の問題はこれか。
・あなたはなぜ魔法陣を学びたいのか?
また、どんな魔法陣を作りたいのか?
これ正解あんのか?
えーっと、魔法が使えない人でも魔法の恩恵を受けて、豊かな生活を送れるようにするため。
作りたい魔法陣はたくさんあるけど、必須はモーターだ。あれがあれば作業が一気に工業化出来るからな。
えーっと、回転する魔法陣っと。
1問目から問題を見直して、答えを確認していく。何度も前の問題が書かれた黒板を見ては回答用紙を見る。むち打ちになるわっ!
よし、答えがハッキリしている問題はバッチリだ。
あの剣の問題はいくら考えても正解がわからないから◯のままでいいか。
回答用紙を提出して部屋を出る。まだ皆回答中だ。食堂に行ってよ。混む前に席確保してミグルを待つか。
まだ誰もいない食堂でオレンジジュースを飲む。あんまり美味しくない。水で薄めてんじゃないだろうな?
ポチポチと人が食堂に来はじめた。自信満々の人と落ち込んだ人とかそれぞれだな。
ぞろぞろと人が来た所でミグルもやって来た。
「出来たか?」
「なんなんなのじゃあの問題はっ!」
「簡単だったろ?1問だけ悩んだんだよね。剣を抜いた奴を斬ってもいいとかどっちが正解かわからん」
「何を言うておるんじゃ、バツに決まっておるじゃろ?」
「なんで?」
「人を斬って良いわけないじゃろが」
「だって、相手が剣を抜いたんだろ? やらなきゃやられるじゃん」
「それは冒険者の理屈じゃ。通常の奴には許されておらん」
「そんなの書いてないからね。ミグルが言う通りなら問題が悪い。それに俺に剣を抜いたら不敬罪で斬ることも可能だし」
「それはそうじゃが・・・」
「だろ? 問題の不備なんだからどっちを選んでも正解にするしかないと思うよ」
ガヤガヤと他の奴等もあの答えはどうだとか話し合っている。
「で、ミグルは100点以上取れてるっぽいか?」
「どういうことじゃ?」
「聞いてないのか?」
と、合格点の仕組みを説明してやる。
「ということは・・・」
「ミグルの学科テストが100点以上なら合格。未満なら不合格だ。俺が受かってお前が落ちてても俺は待ってやらんぞ」
「ぐぬぬぬっ」
「あ、ゲイル居た。どうだった?」
「魔法実技受けてたら余裕だと思うけどね。学科は微妙」
シルフィードのテスト内容を聞くと俺達がやった途中までの内容だった。でも落ちたかもと自信なさげだ。あのあたりの問題は義務教育で習わんだろうからな。
最後の道徳系の問題は魔法陣コースだけの設問か。あれで魔法陣を教えるかどうかの道徳心を試すテストだとしたら、俺は落ちてるな。あの剣の問題はバツにしとくべきだったか・・・
美味しくない昼飯を食べて、学科テスト会場に戻る。
「えー、合格発表になりますが・・・。その前にゲイル・ディノスレイヤ君。こちらに来て下さい」
俺だけ別室に呼ばれる。
「なんでしょう?」
「なぜ魔法実技のテストを受けなかったのかね? 君は偉大な魔法使いと聞いているが?」
「実は突然魔法が使えなくなりましてね。今は全く使えません」
「本当かね?」
「本当ですよ」
「それはいつからかね?」
「一週間前くらいかな?」
「では、魔法が使えなくなったから魔法陣を学ぼうと思ったわけではないのだね?」
「そうですよ。元々魔法陣は学びたいと思ってましたから」
「では次の質問だが、剣を抜いた相手を斬るかどうかの問題以外は全問正解だったのだよ。どうしてこれだけ間違えたのかね?」
「間違いではないですよ。俺は相手が剣を抜いたら不敬罪で斬ることが出来ますからね。もし、これが間違いなら問題設定のミスです。自分と相手の身分の件にも触れていませんし、通常の庶民と冒険者の区別も書いてないですし、◯でもバツでもどちらでも正解と言えます。道徳心の問題かと思いましたけど、それでも◯が正解かな。理由も無く先に剣を抜くような奴はろくなやつがいないし、周りにも被害が及ぶ可能性がある。死なない程度に斬ればポーションか治癒魔法で治療も出来ますしね。相手を無効化するには斬った方がいい」
「そこまで考えて◯を選んだのかね?」
「もちろん。剣を持つ者は斬られる覚悟も斬る覚悟も必要です。特に剣を抜いたからには斬られる覚悟が無いとダメだと思いますよ。力には責任が伴いますから」
「・・・うむ。君の言うことは一理あるな。問題が悪かったと認めよう」
良かった・・・言ってみるもんだ。
「最後に質問だがいいかな?」
「どうぞ」
「この回転する魔法陣とはなんだね?」
「それはまだ説明出来ないかな。有用にもなるし、悪用することも出来るから。俺は物作りに使うつもりだけど」
「物作り?」
「手作業でやってるものの大半がこれで機械化出来る。機械化出来るということは大量生産が出来て物が安くなる。つまり、色々な物が手に入りやすくなったり、作業が楽になって自分の使える時間が増えるってこと。使える時間が増えたらより稼げるかもしれないし、遊びに行ったりとかお金がより動くんだよ。それは皆の生活を豊かにするからね。それが魔法陣を学びたい一番の理由」
「うむ、そのような答えは初めて聞きましたな・・・ さすが西の庶民街をあっという間に発展させた領主様のお考えです。感服致しました。是非、魔法陣を学んで頂きたい」
「ということは?」
「合格です。しかも初の学科テスト満点で、最年少での合格です」
やった!
「では、会場へお戻り下さい」
「なんじゃったのじゃ?」
「あの剣を抜く問題のことだよ。ミグルの言う通りバツが正解だったみたいだけど、問題に不備があると説明したら◯でもバツでも正解になったよ」
「なら・・・」
「俺は合格だって」
「ワシは?」
「知らない。今から発表するの楽しみにしておけよ」
「ぐぬぬぬっ」
なかなか発表されない事にざわつく受験生達。
「では合格者の発表をします。ゲイル・ディノスレイヤ君。おめでとう」
おぉーーと声が出る。
「続きましてミグル君」
「やったあーーーーーっ! やったのじゃゲイルっ!」
「良かったな」
「本年の合格者は2名。以上」
ええーーーっとざわめく会場。
「そのゲイル様とやらはコネで受かったんじゃねーだろうなぁっ! 汚いぞっ。学校は身分とか関係ないんじゃないのかっ」
コネで合格と叫んだ奴に皆が反応する。
「そっ、そうだ。そのゲイル様は魔法実技受けてなかったじゃないかっ」
更にざわつく会場。
「えー、お静かに。魔法学校は身分問わず試験に合格すれば入学が可能です。それは庶民であっても王族であっても同じです。コネなどありません」
「おかしいだろっ! 魔法実技受けてなかったら学科が満点じゃないと合格出来ないだろ。そいつは一番始めにこの会場から出ていったじゃねーかっ。こんな難しいテストをあんな短時間で出来るわけねぇ」
「はい、おっしゃる通り、ゲイル・ディノスレイヤ君は学科テストは満点でした。魔法実技が0点であっても合格点に達しています」
「そんなの信じられる訳がないだろうっ! 満点なんてあり得ないんだっ! 高等教育とその上の学校でもあんな問題教えて貰わないんだからなっ」
「建築等の専門コースで学ぶ物も有りますからね。あなたが知らないだけです」
ざわざわ・・・
「そんなの魔法陣に関係あるとは思いませんっ」
「どう思おうが自由ですが、魔法陣を組むには様々な知識が必要となります。ただそれだけのこと。また来年頑張って下さい」
それでも納得のいかない受験生達。
「先生、毎年問題は変わるんですよね?」
「はい、その通りです」
「じゃあ、今回の問題の解説しようか? それなら皆信用するでしょ。俺は何を言われてもいいけど、学校に変な疑いが掛かるのは申し訳ないからね」
ということで、今回の試験問題を解説することにした。
俺の解説を熱心に聞く者、理解出来ない者と様々だったけど、俺が不正して合格したわけじゃないと理解してもらえたようだ。
解説ありがとうございます。助かりましたと伝えに来たのはさっき俺に質問してきたご老人。魔法学校の校長だったようだ。
シルフィードも無事合格し、俺達3人は年明けから魔法学校の生徒となった。
デーレンも合格したみたいだけどね。
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