第563話 伝わる
「で、読めないとはどういうことだ?」
「ゲイルの鑑定で見えるのは古代文字じゃ」
古代文字?
自分で自分を鑑定しようと思ってもなぜか見えないのだ。
「ミグル、どんな風に見えてるか書いてみてくれないか?」
ミグルはコクンと頷き、鑑定結果を書き写す。
【名前】黒岩啓太
【種族】人間
【魔力】0/0
他の項目もあるみたいだが、今はこれだけで十分だから書き写すのをやめてもらった。
名前が生前の物になってる。魔力はミグルの言う通り0だな。というか、ミグルが読めないという意味が解った。全部日本語で表記されてるからか・・・
「ミグル、お前の言う通り俺の魔力無くなってるな。どうりでおかしいと思ったんだよ。魔法が発動しないし、さっき飲んだ魔法水もただの水と同じ味だったからな」
「なんじゃと? 魔法が発動しない? まことか?」
「今まで見えてた魔法の光も見えなくなってるからね。そもそも残量も0なんだから使えるわけないじゃん。よし、皆の所に戻って説明しておこう」
「待てっ! お主はあれだけ魔法を使えたのに、ショックではないのかっ?」
「あぁ、残念だよ。だけど無くなってしまったものは仕方がないからね。取りあえず皆に報告だ」
しかし、黒岩啓太か・・・。今の俺はどっちなんだろうな? あの病院らしき所で聞こえてた母さんと息子たちの声は幻覚だったとは思えなかったな。時間軸とか考えたらおかしな話だけど・・・ 今思うとやっぱりじいちゃんみたいに最後の別れをしてやりたかったな。今からでもやってみたら届くかな?
無駄だとは思うが、強く念じてやっておこう。
あ・り・が・と・う
届いたかな? もう一度やっておくか。
あ・り・が・と・う
よし、なんとなく届いた気がするからよしとしよう。さて、皆に説明しに行くか。
魔法が使えなくなったと言うと全員がええっ! と驚く。
「な、何か手はないのかっ」
ドン爺は魔法が使えるようになる方法を考えろと言う。
俺は自分の名前を見て諦めた。身体はゲイルの物だが、髪の毛色や目の色は生前の物と同じ色だ。魔力が無くなって生きてるのがおかしいというよりも、魔力が無いのが普通の身体になったと考えるべきだろう。どういう理屈かわからないが。
おそらく魔力が上がるに連れて条件が厳しくなるのはリミッター代わりだったのかもしれん。俺はそれを無理矢理クリアしてしまったんだな。 のーたりんのめぐみが作った世界だ。ショボいメモリしか搭載していなくても不思議ではない。
俺が死にかけたのはリソース不足によるエラーってところか。あの気配察知の修行がなかったら本当に死んでただろうし、魂が元の世界に戻ったりここに来たりとかして、バグを誘発したのかもしれん。この名前の表記とか日本語で表示される鑑定結果とかそんな感じだろ。
「ドン爺、俺の魔法は修行して得たものじゃない。魔法が使えるようになってからは努力はしたけど、元はたまたま使えるようになっただけだからね。そういう力はいつ消えてもおかしくなかったんだよ」
「しかし・・・」
「あー、魔法が使えない俺は価値が無いからね。エイブリックさん、準王家とかの身分とか解除してくれていいよ。今までみたいに魔法でなんとかするとか無理だし」
バシンっ
ドン爺に平手打ちを食らう。
「ワシがゲイルをそのような目で見ていると思うかっ! 見損なうなっ。魔法が使えようと使えまいと、ゲイルはワシの可愛い孫じゃ。そんな事を言うでないっ。ワシはゲイルが魔法を使えた方がお前が安全じゃからと・・・」
ぼろぼろと泣きながらそう言って俺を抱き締めるドン爺。
「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだよ・・・」
世の中を無双出来るほどの魔力がなくなったんだ。俺の商品価値がガクンと減ったのは事実だ。自分でもそう思う。が、それを抜きにして俺を可愛がってくれてるんだな。ありがとうドン爺。
「ぼっちゃん、すまねぇ。俺のせいで・・・」
「ダンのせいでもなんでもないよ。ほんっとに気にすんな。俺はいつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたから、剣の稽古をして来たんだし、それをダンがやっててくれたんだろ? ダンの教えてくれた剣がこれからも俺を守ってくれるんだ。まぁ、これでダンの便利屋はしてやれなくなったけどな」
「そんなもんどうでもいいぜ。また鍛え直してやるよ」
やっぱりダンは気にしてたんだな。今年で護衛を終わりと言ったけど、魔法が使えなくなってしまったことでそれも取り消しにすると言って来るだろう。すまんなミケ。
「ゲイル、本当にリッチーになったんじゃないな?」
「もし、リッチーになったとしても、魔法が使えないリッチーなんて怖くないだろ?父さん」
「ああ・・・しかし、本当に良かった・・・」
ブワッと涙が溢れたアーノルドは俺を抱き締める。アイナも同じように泣きながら本当に良かったと抱き締めた。
ごめん・・・。心配かけて。アーノルド達より後に逝くのは約束するよ。
「ふぇーーーん。ぼっちゃまぁ」
ミーシャは子供みたいに泣き、またグスグスと涙と鼻水をたらして抱き付いてくる。その反対側はシルフィードだ。この二人はしばらく離れなさそうだな。本当にごめん。
ズルッと鼻をすすったエイブリックが恐ろしい事を言う。
「お前が生き返って助かった。俺はアーノルド、アイナ、ドワンを斬らずに済んだからな。ったく、あいつら一番嫌な役を俺にさせようとしやがって」
「斬る? なにそれ?」
「お前一人を逝かせるのが可哀想だとよ。お前の身体を滅したあと、3人とも俺に斬られるつもりだったんだよ」
えっ?
アーノルドとアイナを見ると目を反らす。ドワンは・・・・
「おやっさん・・・」
「うるさいっ! 盾役はワシしかおらんじゃろっ。アーノルドが未知の所に冒険に行くというから仕方がなくじゃっ」
そんな死後の世界まで一緒に行ける訳ないだろうが・・・
「おやっさん、まだ逝くには早いよ・・・」
俺はドワンに抱き付いて泣いてしまった。まだ早いと言われたドワンは当たり前じゃっと怒ったふりをしていた。
ドン爺、ダン、シルフィード、ミーシャも一緒に逝くつもりだったらしい。
お前らそんなことするなら、俺はますます死ねないじゃんかよ・・・
皆の俺に対する思いが俺の心の奥深くに伝わった。ホントにお前らって・・・
「あー、ゲイル。お前が魔法を使えなくなったのどうでも良いが、任せてる事はちゃんとやれよ」
エイブリックは目の汗を拭ってそういう。
「分かってる。もうだいたい任せられるようにしてあるから問題無いよ。取りあえずは魔法学校の受験頑張るよ。まだ終わってないよね?」
エイブリックにもちゃんと礼を言いたいがそういうのが苦手だろうと、すぐにいつもの俺に戻ったように返事をする。
確か、意識が飛んだのは試験の10日前。さすがにその間身体の機能が全部止まってたら腐ってただろうからな。戻った時に痛かったのは腐りかけいてたのだろう。
お前、口臭いぞ。胃腐ってんちゃうか? を本当にやってしまったようなもんだ。俺、口臭くないよね? 念の為、クリーン魔法・・・・。
やっぱり不便だ。
「お前、魔法使えなくなったのに、魔法学校を受けるつもりか?」
「もちろん。合格は難しいだろうけど、受けなかったら可能性が0だからね。魔法陣コースは魔法実技が0点でも学科で満点取れたら合格できるだろ? それに魔法陣は魔法を使えない人の為にもなるから今の俺に必要だしね」
魔法陣コースは学科が満点なら合格出来る。他のコースは魔法が発動しないと無理だからな。頑張ろう。
その夜は復活祭と言うことで宴会となり、翌日、それぞれ戻っていった。
ピッ ピッ ピーーーーーー
「あなたっ! あなたっ!」
「親父っ! 親父ーーっ!」
「誠に残念ながら・・・・・」
「あなたっーーー!」
ピーーー ピッ・ピッ・ピッ・ピッ・ピッ ーーーーーーーー
「えっ?」
ピーーーーーーーーーーーーーーピッ・ピッ・ピッ・ピッ・ピッ ーーーーーーーーーーーーーー
「あ、あなた?」
「親父?」
「父さん?」
ピーーーーーーーーーーーー・・・・・・
「先生・・・ 主人はまだ・・・」
「稀にお亡くりになってからもこのように少しだけ反応がでる事があります。もしかしたらお別れをされたのかもしれません。ご家族様の悲しみは御理解致しますが、笑顔でお送りしてあげた方がお喜びになられるかもしれません」
医師にそう言われて亡くなった黒岩啓太の顔を見るととても満足そうな顔をしていた。
「ふふっ ふふふっ やぁねぇ、あなた。子ども達の前で・・・」
ぼろぼろと泣きながら笑う母親に子供達はおかしくなってしまったんじゃないかと心配する。
「母さん、大丈夫・・・?」
「父さんと母さんがまだ結婚する前のことなんだけどね」
「うん」
「歌が流行ったのよ。父さんよくそれを真似していたわ」
「どんなの?」
「家まで車で送ってくれた後に、ブレーキランプを5回点滅させるの」
「なんの合図?」
「歌は1回だけだったけど、父さんは2回やってたわ」
「父さんのさっきの心電図はそれをやったって言いたいのか?」
「さぁ、どうでしょうね。父さんはそういうの言わない人だったから。まぁ、何も言わずに突然逝って、こんなことするなんて父さんらしいわね」
泣きながらもクスクス笑う母親を見て子供達も少し安心するのだった。
お別れの合図・・・
ア・イ・シ・テ・ル
マ・タ・ア・エ・ル
こんなの恥ずかしくて子供達に言えないわよあなた。
そう・・・ また会えるのね、約束よ・・・
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