第562話 一緒に逝ってやる

「シルフィード、ミーシャ。ゲイルをアンデットにする訳にはいかんのだ。お前達はゲイルがこの国を滅ぼすところを見たいのか?」


「ゲイルはアンデットになんかならないっ! まだ生きてるもんっ」


「アーノルド様、そうです。ぼっちゃまが皆を残して何も言わずに死ぬはずがないんです・・・」


アーノルドは二人の言う事に反論出来ない。自分でもそう思うからだ。


しかし、リッチーになってしまってからでは遅いと自分に言い聞かせて、二人を力ずくでゲイルの元から引き離した。


(大丈夫だゲイル。お前一人では逝かさん。俺が付いていってやるからな)



ゲイルは考え続けていた。


やはり幻覚だとは思えない。楽しかったりキツかったり、皆と触れあったりしたのは幻覚等ではない。現実だったのだと。


だとすると、やはりあの魔力が9999になった後が原因でこうなっているとしか考えられない。もしかしたら、俺は魂が身体から離れてここで浮いてるだけだとしたらとてもまずい。


魂が離れた肉体は死亡している状態と同じ。そのままにしていたら腐ってくるだろうし、アーノルド達が死んだ俺を見たら燃やすだろうからな。もし、そうなれば本当に戻れなくなる。前世の時はそれでも良いと思った。やり残した事はほとんどなかったからな。しかし、あの世界は違う。やり残した事がたくさんある。


それにアーノルドやアイナより先に死んでやるわけにはいかん。人はいずれ死ぬが出来れば順番ってもんは守ってやらないとダメだ。


ダンも俺を守れなかったと激しく後悔するだろう。せっかく取り戻した幸せをまた奪ってしまう事になる。


俺はまだ死ねない。いや死んだらダメなのだ!


強く生を意識した事でだんだんと感覚が戻ってくる。


目を開けろ! あのゾーン状態になれば目が見えなくても見えるはずだ。集中しろっ! まだ死ぬ訳にはいかんのだ。


ゲイルはゾーンに入るように精神を集中させていく。



アーノルドは無言で止めてとしがみつくシルフィードとミーシャを振り払い、ゲイルを抱き上げた。


(ゲイル、ほんの少しだけ待ってろ。すぐに追い付いてやるから)


心の中でそう呟いた。


「待って、アーノルド。私も逝くわ」


「アイナ、お前・・・」


「私達は親らしいこと何もしてあげてこなかったから。ジョンはお嫁さん貰うし、ベントが領主を継ぐわ。ゲイルにはまだ何も返してないわ」


「そうか・・・ なら一緒に逝くか」


・・・

・・・・

・・・・・


「アーノルドっ! お前らまさかっ」


「父上っ!」


「アーノルド様っ! 俺も一緒に・・・」


「エイブリック、後宜しくな。お前なら一発でいけるだろ? ジョン、すまんがお前とベントはこれからのことは自分でなんとか出来るだろ。ベントにもそう伝えておいてくれ。ダン、お前はミケを守らにゃならん。後は俺達に任せろ」


「アーノルド様、私も一緒に」


「シルフィード、お前はまだ若いからダメだ。それにゲイルのやり残した事を引き継いでやってくれ」


「私はぼっちゃまのメイドです。ご一緒します」


「ミーシャ、今回行くところは俺達も未知の所だ。そういう所にゲイルがミーシャを連れていくと思うか? いいから留守番してろ」


「アーノルド、未知の冒険か。それなら盾役も必要じゃろ。付き合ってやるわい」


「ったく、お前は・・・ 親子旅行の邪魔するつもりか?」


「ワシも義理とはいえ、親族じゃから構わんじゃろ」


「おい、俺も親族だっ!」


「エイブリック、お前んところは準じゃろ? 遠慮しとけ」


「アーノルドよ、ワシも行こう。もうエイブリックが後を継いだのじゃ。旅に付いて行っても問題なかろう」


「王・・・、前王よ。あんたはもうすぐ逝くんだ。慌てる必要ねぇ。後からゆっくり来てくれ」



意識を集中しろっ!


強く念じた事であのゾーンに入り、うっすらと光が見えだす。どこだここは・・・?


ゲイルに上から皆を眺めているような光景が浮かんできた。


ん? アーノルドが俺を抱き抱えている?それに全員揃って何やってんだ?



「もうすぐ逝くとはどういう事じゃっ! いくらアーノルドといえど言って良いことと悪いことがあるぞっ!」


「いや、順番から言ったらここで一番早いだろ?」


「そんな事はワシが一番解っておるっ!」


「そんなに怒ってたら、先に逝っちまって迷子になるぞ。落ち着いてくれよ」


「誰が先に逝くかぁぁぁぁっ」



ドン爺めっちゃ怒ってんな。声は聞こえないけど、見てるだけで頭から煙吹いてるのがわかる。頭の血管切れるぞ?


シルフィードもミーシャも泣いて目がパンパンになってる。俺の身体がぐったりしてるから死んだと思ってるんだな。悪いことしたな。早く戻ってやらねば。


あ、ダンも凄い落ち込んでる。俺がまた守れなかったとかになってんな。すまんな、何回もそんな思いをさせて。


しかし、見えたは良いけど、どうやって戻るんだこれ? あれ?アーノルドが俺を抱えたまま外に行くぞ?


地面に俺を下ろして・・・。げっ! 剣を抜きやがった。アイナはトンファーを振り回しはじめて、ドワンは特大のファイアボールを浮かべた?


これ、俺の身体を滅するつもりだっ!


ヤバいヤバいヤバいヤバいっ!


本当に逝ってしまうっ!


戻れっ 戻れっ 戻れっ




そう強く念じた時に視点がいつもの視点に戻った。やった!


「さらば、ゲイルっ!」


ザシュッ!  ドゴンっ! ぼふうっっっう!


「ふんぎゃぁぁぁぁっ!」


俺が身体に戻った瞬間、アーノルドから斬られ、アイナのトンファーで頭を潰されかけ、ドワンのファイアボールで焼かれたのだ。


腕輪から治癒の光が出て、しゅうしゅうとゲイルの傷が治っていく。


「ちっ、腕輪を外すの忘れてたぜ。よし、もう一度・・・ って、いま、ふんぎゃぁぁぁぁっって・・・?」


「やめてよっ! 死ぬ所だったじゃないかっ!」


「ゲイル?」×たくさん


「あーあー、治癒魔石が空になってんじゃん。3回死んだのと同じだよこれ」


「くそっ、間に合わなかったのか。もうリッチーになりやがるとは。お前ら待避しろっ! ここは俺達で食い止めるっ! 早く逃げろっ」


俺をリッチーに認定して皆を待避させるアーノルド。そして剣を構える。やめてっ!もう治癒魔石空なんだからっ!


「なってない なってない なってないっ!」


大切な事なので3回繰り返した。


「俺はリッチーなんかになってないっ!ゲイルだよっ!」


そう叫ぶとシルフィードとミーシャが飛んで来て俺に抱き付く。


「やっぱり生きてたーーーっ!」


「ごめん、心配かけて・・・」


二人の頭をなぜなぜしてやる。もう涙や鼻水やらでグショグショだ。拭ってやろうにもハンカチがないな。クリーン魔法でえいっ!


あれ?



「ぼっちゃん、やっぱり生きてやがったか・・・ すまん、俺のせいで・・・」


ぐおおおぉっと泣いて俺を抱き締めるダン。そのまま怪力で締め付けられる。


「ギブ ギブっ」


ダンの熊腕をタップするも離さないダン。身体強化して対抗・・・・ ぐへっ


あれ?



その後、アーノルドやアイナからも抱きしめられ、ドワンからは頭をグリグリされて他諸々乱入してきてぼろぼろにされた。もう一回死ぬ・・・



ようやく落ち着いたので屋敷まで戻って、無事生還した事を他の皆にも伝える。


が、身体の調子がおかしい。内臓が痛いし息も苦しい。身体の中から衝撃波を食らったような感じだ。


「母さん、ごめん。治癒魔法掛けてくれない? 身体が中から痛いんだよ」


アイナは魔法水を飲んで、気合いを入れて治癒魔法を掛けてくれてる・・・よね?


アイナは詠唱して治癒魔法を掛けてくれたので痛みは止まった。


あれ?



「ゲイルよ、これを飲め。元はお前がくれた回復ポーションじゃ」


あぁ、ドン爺が静養してるというから念のために渡しておいたやつか。痛みは消えたけど、身体が相当ダルいから飲ませて貰おうか。


ごくっ


あれ?



しゅわーっと身体のダルさが取れていく。ちゃんと効いてるよな?


「ミーシャ、チョコを1つくれない?」


「はい、ぼっちゃま」


むぐむぐ。うんちゃんと味がする。甘いよな? 舌がダメになったわけでもなさそうだ。


「ゲイル、いったい何があったか覚えてるか?」


皆が落ち着いたのを見計らって、アーノルドが俺に聞いて来たので素直に答える。


「なんじゃと? 魔力が9999になったじゃと?」


ミグルは俺の意識の飛んだ状況を確認する。


「ちょっとどうなってるか鑑定てくれないか?」


ミグルは俺を鑑定しているようだけど、何も感じない。グローナに鑑定されているみたいだ。


「お主の魔力は0のままじゃ。多分な」


「0? それに多分ってなんだ?」


「ワシにはわからん、というか読めん」


は?


「どういうことだミグル?」


なんかヤバそうなのが見えたのかもしれないのでどういうことか別室に連れて行って内容を聞かせて貰うことにしたゲイルであった。




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