第560話 起きなさいゲイルっ

「ゲイルは朝ごはんも食べないつもりかなぁ?」


「ったく、いったい何やってやがんだぼっちゃんは? 昨日から完璧に気配消してやがるしよ」


「起こしに行こうか?」


「まぁ、昼飯食いに来なかったらそうするか。まさか、こっそり抜け出してどっかに行ってやがるんじゃねーだろうな?」


「やっぱり見に行こうよ。こっそり覗いて寝てたら昼まで待てばいいし」


「しょーがねぇ、そーっと見るだけだぞ。気付かれんなよ?」



「かんっぺきに気配消してやがる。ドアの前からでも感じないほど気配消せるようになってやがんのかよまったく・・・」


カチャ


(やっぱり寝てるみたいね?)

(あぁ、しかしなんだよあの頭。真っ黒じゃねーか。何をやってんだぼっちゃんは?)

(さぁ?受験にあんなの出るのかな?)

(お前も受けるんだろ?)

(私はポーションコース。魔法陣コースはほとんど合格者出ないみたいだから、私には無理だよ。ゲイルもテスト内容知らないって言ってたんだけどなぁ)

(あー、それでなんか色々試してやがんだな。もう昼までほっとけ)

(うん)



「もう起こそうか?いくら何でも寝すぎだよね?」


「まぁ、ミシンの時の事もあるしな。起こしてみてまだ寝たいなら寝かしておけばいいか」


昼飯の時間が過ぎても起きて来ないゲイルを起こしに行く二人。


「ぼっちゃん、いい加減起きろっ!昼飯の時間も過ぎてんだぞっ!」


「ゲイル起きて。 ・・・ゲイル?  ゲイルっ! 起きて、ねぇ起きてゲイルっ! 起きてってばっーーーー!」


シルフィードがゲイルに近寄って起こし始めた時にパニックを起こす。


「どうしたっ?」


「ゲイルがっ ゲイルが息してないっ!」


「何っ?  ぼっちゃんっ! ぼっちゃんっ! どうしたんだぼっちゃんっ!」


バシっバシっ とゲイルのほっぺたを叩くダン。


「ダメだっ。シルフィ、ここを頼むっ。俺は治療院に行ってくるっ。お前は治癒魔法をぼっちゃんに掛け続けてくれっ」


クソッ! あれは気配を完璧に消してたんじゃねぇっ!気配が無くなってやがるんだっ!


俺はなぜ昨日シルフィードが疑問に思った時に見に行かなかったんだっ!!!!


ダンは馬に乗らず、身体強化を最大限にして走って西門近くの治療院まで走った。


シルフィードは必死に治癒魔法をゲイルに掛けるが反応はない。


シルフィードは髪の毛だけでなく眉毛やまつ毛も真っ黒に変わってしまったゲイルの異常を恐怖に感じた。


息はしていないが死んでる様には見えない。絶対に助けるっ。この命に掛けてもっ!


シルフィードは全魔力を治癒魔法に込めてゲイルに注いで行く。ゲイルがいつも貯めている魔法水を飲みながらそれを延々と続けた。自分に出来る事はこれだけだ。真っ暗だった世界から自分を助けてくれたゲイル。いつも優しく守ってくれたゲイル。絶対に死なせないっ!


「ゲイルっ!お願いっ!目を覚ましてっ」


ダンは治癒院に行った後、王城に向かう。


「止まれっ!ここは王城であるぞっ」


「どけっ! 一大事だっ! エイブリックに用があるっ!」


ダンを止めようとする衛兵を吹き飛ばし、王城に駆け込むダン。


騎士達が槍を構えたが、この男はと気付く・・・


「ダン殿っ! ここは王城にございますっ」


「どけっ! それどころじゃねぇっ 。王をエイブリックを呼んでくれえっ! ぼっちゃんが死ぬかもしれんっ!」


ダンはそのままエイブリックの前まで来て叫ぶ。


「ぼっちゃんが死ぬかもしれんっ! 助けてくれっ! 頼むっ」


「何っ? ゲイルが? 場所はどこだっ。何があった」


「屋敷だっ。ぼっちゃんが息してねぇっ!」


「じいっ、ミグルを呼べっ! 後はアーノルド達に死ぬ気で屋敷へ来いと伝令を出せっ。行くぞっダンっ!」


エイブリックもありったけの魔力で身体強化をしてダンと屋敷に向かった。



「なんだ・・・この髪の毛の色は・・・」


エイブリックはまったく動かないゲイルを見て愕然とする。黒髪の人間なんて見たことがない。しかもダンの言う通り息をしてない。


「シルフィードっ! 治癒魔法の効果はどうだっ?」


「ダメっ!何度掛けても反応がないのっ! ゲイルっ! お願いっ目を覚ましてっ!目を開けてよーーーーっ!」


「ぼっちゃまっ!  ぼっちゃまっ!  お願いですっ目を開けて下さいっ!!!」


使用人達が関係者を呼びに行き、皆が続々と集まって声を掛ける。


「ミグルっ! どうだっ!! ゲイルはどうなっているっ!!」


ミグルが到着し、ゲイルを鑑定させたエイブリックが大声でミグルに問い掛ける。


ミグルは何も答えずポロポロと涙を流す。


「早く答えろっミグルっ!!」


「わ、分からん・・・」


「何っ?」


「ワシには何がどうなっているのか分からん・・・」


「ならなぜ泣くっ!」


「恐らく、ゲイルはもう・・・」


「ミグルってめぇっ。分からんと言った癖に何を言いやがるんだっ! ぼっちゃんが死ぬ訳がねぇだろっ!」


「魔力が・・・」


「魔力がどうしたっ!」


「恐らく、あれは魔力の項目・・・ それが0なのじゃ・・・」


「どういうことだっ」


「総魔力も現魔力も0なのじゃーーーーっ」


そう言ったミグルは大声で泣き出し、ゲイルにしがみ付いて激しく揺さぶる。


「お主はいったい何をしたのじゃーっ。 髪の毛が真っ黒になるなんて何をやったのじゃーーーっ!」


ミグルに揺さぶられたゲイルの身体は壊れた人形のようになんの抵抗もせずぐらぐらとするだけだった・・・



泣きじゃくるミーシャ、諦めないシルフィード。


ダンとエイブリックは下唇を噛み、目の前の出来事を受け入れる覚悟をし始めていた。



「ゲイルっ!ゲイルはどうなっておるっ!」


ドン爺は部屋に飛び込んで入った時の光景を見て絶望的であることを悟る。


「誰じゃっ。誰がゲイルをこのようにしたのじゃっ!  エイブリック、総力を上げて犯人を探せっ。そいつを一族ごとこの世から消しされっ!」



「シルフィード、もう止めろ・・・ 治癒魔法は効果がない・・・ ぼっちゃんの腕輪を見てみろ。治癒の魔石は少しも減ってねぇ・・・」


「だって だってっ! これしか出来る事ないんだもんっ!  イヤーーーっ! 目を覚ましてよーーーっ!」


皆、すでに涙が枯れる程泣き、ゲイルはもう・・・  その覚悟を決めていた。


「ぼっちゃま、ぼっちゃま、皆心配してますよ。早く起きて下さい。ミーシャはここにいま・・・すよ・・・」


ダンがこのままではシルフィードまでどうにかなってしまうとゲイルから引き離す。


ミーシャはずっとゲイルの側でぼっちゃま、起きて下さいと話し掛けていた。


皆、その様子を見ていられなくなり、部屋から出る。



「ダン、アーノルド達が到着したらゲイルを焼かねばならん・・・」


「あぁ・・・ ぼっちゃんがアンデットになっちまうかもしれん・・・からな・・・」



アーノルド、アイナ。早く来いっ。それまではなんとしてもゲイルをアンデットにはさせん。ゲイル・・・ 頼むからアンデットになってくれるなよ・・・




翌日、アーノルド達が到着した。


みな焦燥仕切った顔でアーノルド達を迎える。


「ゲイル・・・・ お前どうしちまったんだ・・・」


「皆、そこをどけて頂戴。私がやってみるわ」


アイナがゲイルの周りにいる者達を離し、長い詠唱に入る。それは誰もが聞いた事がないとても長い詠唱であった。


「起きなさいっ! ゲイルっ!!」


魔法が見えない者達でもアイナの治癒魔法が見えるんじゃないかと思うぐらいの強大な治癒魔法がゲイルの身体を包んでいく。


皆、その魔力に合わせるように祈る。



ゲイル、目を覚ませっーーーー!



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