第559話 目を覚ませっ

さて、受験まであと10日か・・・


もし落ちたらどうしようかな? と思うと不安だったので、魔力増加で対応することに。少し前から仕事はちょっと顔を出すだけで何もやっていない。


魔法実技は満点の50点を狙えるだろうと思い、相変わらず0→1を延々と続けていた。


その努力が実を結び、魔力は無事に9500を越え、今は9900まで持ってきた。


まー、ここまで持ってくるのにどれくらい0→1を繰り返したことか。特に9500を越えてからはまったくと言っていいほど増えない。1万回くらい0→1を繰り返して1増えるとかそんなんだ。やはり、魔力7000を越えた後からは500刻みで魔力増加条件が厳しくなるようだ。


魔力10000まで達成したらこの修行も終わりにしよう。時間を食いすぎる。それにもっと魔力増加条件が厳しくなるに違いない。


いつものように部屋のベッドに寝転びながら続けていく。


0→1→0→1→0→1・・・


ピコン9997


・・・・


ピコン9998


・・・・・・・・・


ピコン9999


・・・・・・・・・・・


あと、1だ。よしっいけっ!


・0101010101・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






プツンッ




えっ?


突然目の前が真っ暗になり何も見えなくなるゲイル。


あれ?・・・なんだ・・・これ・・・・意識が・・・・・・身体も・・動か・・・・ 声も・・でな・・・・




「ゲイル、晩御飯食べないのかな?」


晩御飯の時間になっても食べに来ないゲイルを心配するシルフィード。


「夜中にダーッとか叫んでたりするから部屋にこもってなんかやってんだろ。ほっとけ」


昔から何かやりだすと部屋から出ずに延々とやるゲイルに慣れているダン。


「ご飯くらい食べればいいのに」


「魔道バッグに色々入れてんだろ? 腹へったら勝手に食うから心配すんな」


「だと良いけど・・・」




「先生っ、主人はっ、主人はどうなんですかっ?」


「最善の手は尽くしましたが意識が戻るかどうかは本人の頑張りによるかと。脳に溜まった血は全て取り除きましたが、倒れられてから時間が経っていたようなので・・・」


「いっ、命は助かったんですよね?」


「それも本人の頑張りしだいです」


「そ、そんなっ」


「お父さんっ! お父さんっ! 目を覚ましてっ」


「おいっ、親父っ、目を覚ませよっ」



ん? な・・んか・・声・が・・聞こえ・・る


だ・・れだ・・?



「お父さんっ お父さんっ! 目を覚ましてあなたっーーー!」



ん・・、その声は・・母さん・・か?  あぁ・・あなた・・なん・・て呼ばれ・・たのは・・何年ぶり・・だ・・・ろうな・・


「親父っ!!  孫娘の顔を見るんじゃなかったのかよっ!!!!」


孫・娘・・・?  何を言っ・・てるんだ・・・ 俺・・は結婚なん・・てしないと・・言ったじゃ・ない・・・・・か? あ・れ?・・・なんだこれ・・?


俺を呼んで・・るのは妻・と、息子の声?


そう・・だ。母さん・と息子達の声だ。なんだこれは?  目も開かないし声も出ない。手・・も足も動かん・・・


・・・あぁ思い出した。俺は広瀬と飲んで帰った日に頭が割れる様に痛かったんだ・・・ きっと俺は脳溢血かなんかで倒れたんだな・・・ ここは病院か・・・。で、俺は意識が戻ってない状態なんだな。皆の声は聞こえてるけど意思表示が出来ん・・・


そんなに泣くなよ母さん。もうこの酸素吸入を外せ。そうすれば余計な治療も看病も必要なくなるから・・・


あぁなんか長い夢を見ていたような気がする・・ 多分、治療で頭をいじくられてたんだな。


どんな夢だっけか・・・。


そうだ異世界に生まれ変わってた夢だ。


大変だったけど、楽しかったな・・・ しかし、この歳で異世界転生の夢って・・・ クックック、息子達が見てたアニメやマンガの影響を受けるとは老人手前の俺が笑わせる。


しかし・・・ どんな夢だっけか? そうそう、貴族の息子になって、魔法が使えたんだよな・・・。 そう言えば剣も使えたとかなんだよそれ。なんて都合の良い夢だ。まさか、この歳でそんな願望あったとはなぁ・・・


「あなたっ! あなたっ!  めぇを覚ましてやっ!」


お前・・ 関西弁出てるぞっ ママ友にからかわれてもう嫌や言うてやん。


あぁ、せめてこの口が動いたら最後に礼くらい言うてやれたんやけどな、すまん、なんぼ頑張ってもなんも動かへんわ・・・。


なぁ、もうそない泣きな・・・ こっちまで泣けてくるやろ。


そういや、ミケが泣いてたな・・・ 良かったなちゃんと思いが叶って。ダンのやつグズグズしやがって、ほんまに世話の焼ける・・・ っていつも世話焼いてもらってたん俺やんな・・・


ん? ダンとミケって誰やったっけな? ああ、夢の中で俺をずっと守っててくれたやつやん。あのまま夢見てたら熊猫パンダ見れたんやろか?


「父さんっ! 孫娘見るまで頑張れよっ!目を覚ましてよっ」


いや、俺は孫娘より娘が欲しかったんや・・・ お前らみんな男やったけどな。お前らに不満があったわけちゃうから誤解はしなや。そやけどもう一人頑張ってたら娘出来てたんかなぁ・・・ そうミーシャみたいな娘が・・・


いっつもニコニコしとって、寒なったら布団に潜り込んで来よる。大きなっても風呂に一緒に入りに来るし、そんなんいつまでもする娘なんて普通おらんやろ? それにお留守番言うたら悲しそうな顔しよるし、ハムスターみたいに口いっぱいに放り込んで食べたり・・・ ちゃんと幸せになりや・・・


アーノルドは凄かったな・・・ キャラクターセレクト出来るんやったらアーノルドを選んでたな・・・ 可愛いらし奥さんもろて無敵チートキャラやんけ。エイブリックを選んでたら、アイナと結婚するルートを選んだかな? いや、甘い想いを持ったまま天下を握るとか歌劇にしたらおもろそうやな・・・


ジョンとマルグリッドの物語を歌劇でやったら絶対にウケるやろし、ベントの嫁さんはどんな娘になるんやろな・・・ 物語にするには内容薄そうやから相手次第やな。

ドワンを選んだらどうなるやろか?

<ドワーフに生まれ変わったので、物作りで世界最強を目指します>とかラノベの物語書けそうやな・・・


シルフィードには可哀想な事したなぁ。これからええ人見付けられるんやろか? お前の俺に対する想いはインプリンティングみたいなもんやから、それに早よ気付きや。恋とかちゃうねん。刷り込み現象ってやつや・・・


あの釣り公園よう出来てたなぁ・・・ ほんまにあんな場所あったらええのに。


ミグルはおもろかったなぁ。今度、夢に出て来たらデコピンしたんねん。ふんぎゃぁぁとか抜かして怒りよるやろな。あいつも辛い人生歩んで来たんやから幸せになって欲しいわ。


隠密の双子はあの後どうなんねやろ? 普通の人生歩ましてやりたかったな・・・ 他の皆もどうなって行くんやろ?


ドン爺も王様辞めてんから遊びに来たらええのに・・・


そやけど、神様もいけずやなぁ。もう助からんのやったら、あのまま夢見せてくれてたらよかったんちゃうん・・・ めっちゃ続き気になるやん・・・


「あなたっ!  あなたっ!  目を覚まして言うてるやんっ! はよめぇ覚ましいなっ!」


もう会議とか行かんでええねんから寝かせといてくれてもええやん。何で休みの日にはよ起きなあかんねんな。


昨日、受験に向けて魔力アップをずっとしてたからまだ眠たいだけやねんって。なんでそない泣いて起きろ言わなあかんねん・・・


俺、魔法陣がどんなんか見たいねん・・・


でも、もうめぇ開けられへんわ。ごめんな、最後になんも言うたられへんかったな・・・


今までありがとうな。ちゃんと幸せやったで・・・


お前らちゃんと母さんの面倒見ろよ・・・


あと頼んだで・・・・



ピッ ピッ ピーーーーーー


「あなたっ! あなたっ!」


「親父っ!  親父ーーっ!」



「誠に残念ながら・・・・・」



「あなたっーーー!」




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