第558話 ゲイルはそろそろ受験
「マルグリッドさん幸せそう」
シルフィードがマルグリットを見てそう呟く。確かにそうだよな。こうなんか全体的に雰囲気が柔らかくなった気がする。
決闘が終わった後、日常生活が戻ってきてマルグリッドのここでの生活はこのまま続く事となり、年明けにジョンとマルグリッドの婚約の儀というのをディノスレイヤ迎賓館でやるらしい。結婚自体はまだまだ先。マルグリッドが18歳になった時にするらしい。あと3年ちょっとだ。それまでにここで子供作んなよと心配になり、ビトーにも伝えておいた。
この屋敷に出入りしている護衛団の何人かは密かにマルグリッドに憧れていた者もおり、ちょっとジョンへの当たりが強くなっていた。
バタバタしている間に楽器はだいぶ出来てきていて、板芝居と交互に公演をしだした。その影響もあり、マンドリンパレスにもお客さんが入り始めるもまだまだ赤字だ。焦らなくて良いと言ってあるからスタッフはおろおろしてはいない。そのうち死ぬほど忙しくなるから覚悟しておけよ。
ミサ達は歌劇の衣装作りも忙しくなっており、次の南の領行きはパス。マルグリッドも同じくだ。エイブリックの視察もブランクス家の件でバタバタしているので今年は諦めた。これで今回の南行きは少人数になりそうだ。
南へは歌劇の初公演が終わってから、8月中頃に行くことにした。今回の仕事内容はエビの養殖をしないといけないのでヨウナを連れて行こう。マスの養殖とは違うけど何か良い案をくれるかもしれない。
後、しばらく姿を見せてないドン爺はどうしてるのだろうか? ちょっとエイブリックの所に聞きにいこう。
「エイブリックさん、ドン爺は最近どうしてるの?」
「あぁ、ちょっと今までの反動が出たみたいでな。静養中ってやつだ」
「大丈夫なの? 回復魔法をかけにいこうか?」
「いや、本当に気にすることはない。飯も食ってるし、仕事もしているからな。時間が空くことに身体が慣れてないんだろ」
と、言われても心配なので、回復魔法水を作って渡しておいた。
「ゲイルは魔法学校を受けるんだよな?」
「そのつもり」
「どのコースにするんだ?」
「魔法陣のつもりなんだけど、早くに卒業出来そうなら、ポーションと魔法コースにも通いたいなとは思ってる。魔法陣もポーションも資格いるでしょ? それは持っときたいなとか思って」
「魔法コースは今さらいらんだろ?」
「人に教えることがあれば詠唱で教えた方がいいでしょ? 無詠唱で魔法使えるのやっぱり危ないかなって」
「そりゃそうだな」
「どっちにしろ受験してからだね。内容はどんなのか知ってる?」
「内容は毎年変えるみたいだが、魔法コースは魔法実技が150点、学科が50点。ポーションはどちらも100点、魔法陣は魔法実技50点、学科が150点だ。どのコースも150点が合格点になる」
「合格点決まってるんだね。だとしたら合格者0人とかの年はあるの?」
「あぁ、魔法陣コースは合格者が出る年の方が少ない。留年する奴も多いからそれなりに学生はいる。だから年齢層がバラバラだ。魔法コースは初級を覚えてやめていく奴も多いからそれなりの数の合格者を出すけどな」
エイブリックの話を聞くと魔法実技の点数は比較的取りやすく、学科が難しいんだろな。まぁ、過去問とかあるわけでもないから対策の立てようもない。受験勉強とか不要だな。
ー王家宝物庫ー
しかし、あのエイブリックに王を引き継ぎ、それをこの目で見れるとは思わなんだな・・・
・・・のう、死しても威圧を放つディノよ。お前はこの国を脅かす為に生まれたのではなく、エイブリックいや、この国を救う為に生まれたのであろう?
仕事の大半をエイブリックに引き継いだドン爺は時間が空く度に宝物庫のディノを眺めに来ていた。もし、ディノが現れなかったら不始末を犯したエイブリックが王になれなかった可能性が高い。自分が死んだ後に王位が引き継がれるのであればアランティーヌがあらゆる手を尽くして女王となっていただろう。あの二人は良くも悪くも似ているのだ。
しかし、アランティーヌよ。いくら能力や力があっても自分以外の者を愛せないお前には王は無理なのじゃよ・・・
こうして日々王位を無事にエイブリックへと引き継げた事をディノに感謝するドン爺であった。
ドン爺がアーノルドに辺境伯領と領主の地位を与えたのはディノの脅威から国を救ったことではなく、王になるべき者を王へと導く光を作ってくれたことへの感謝なのである。
ーゲイルの寝室ー
魔力アップ訓練を続けていたゲイルはその訓練をパレード強襲事件からしばらくやめていた。
自分を改めて
魔力9066か・・・
あの時にハーフエルフの魔法使いを殺したゲイルの総魔力が一気に伸び、目標としていた9000越えを果たしていた。殺す必要が無かったかもしれない人を殺した事によって伸びた魔力に喜びはない。それに、エルフやハーフエルフが人間に殺された理由はこれなのかもしれないと思ったからだ。
大昔に鑑定魔法を使える者がこの事実に気付いたらどうするだろう? 手っ取り早く魔力を伸ばすのにエルフやハーフエルフを殺せば簡単に魔力が伸びる。やってもおかしくはない。人間の身でありながらエルフと同等の魔力を持てるとしたら・・・ 自分の利益の為に人を殺す奴はいつの時代にでもいる。過去のエルフ狩りの本当の理由はそういう奴らが先導したのかもな。
今となっては確認しようもないけど・・・
やってしまったことは悔やんでも元には戻らない。俺はこの力を正しく使おう。あのハーフエルフを殺した事で得た魔力を無駄にするのではなく、正しく使う糧にすればいい。うん、その方が報われるな。
ゲイルは自分の思考回路を繋ぎ直し、改めて0→1の魔力アップ訓練を続ける事にした。直前の目標は9500。それを越えたら10000だ。よし、面倒臭いけどがんばろっ。
0→1→0→1→0・・・・・・
8月初旬に催された歌劇の初公演はなかなか良かった。まだ演奏と劇という感じでイメージしていたミュージカルっぽくはなかったが、これはこれで有りだ。
演目名は《美女と魔獣》
元の世界によく似た題名の物語があるけど、中身は全然違う。ある小国の心優しいお姫様が子供の頃に森を散歩していて怪我をした小熊を見付けて助ける。美しく育った姫様は騙されて大国の醜い王子に嫁ぐ事が決まる、王子にむりやりキスされそうになった時に熊の獣人みたいな魔獣が姫を助けにくるといったストーリーだ。3歳児の絵本に出て来そうだけど大ウケだった。
キャストは全員女性。理想の男性像を演じろといったらダンをモデルにしたのか・・・
今年は熊男の決めセリフ、
「借りを返しに来たぜ!お嬢さん」
が流行語大賞をとりそうだな。ちなみに去年は「領主に代わってお仕置きよ!」だったのだ。
まぁ、俺の心の中の出来事だけど。
歌劇の初公演を見届けた後、南の領地へ。南の領地でお魚天国のミケはダンとイチャイチャしながら食べまくっていた。今回はからかう人がいないのでお構い無しだ。
漁村の皆と車エビの養殖について話し合う。俺もよく知らないので、海から水路を作り、浅い池、中くらい、深いと3パターンに分けて養殖池を作る。皆で砂を運んで底に入れ、エビを放し飼いにして実験だ。
ヨウナは海の魚とエビに興味を持ち、ここで養殖をしばらくやると言い出した。これはすぐに結果が出なくていいので、エルフが研究してくれると助かる。
王都に戻りたくなったらロドリゲス商会の馬車で帰って来ればいいからね。
ちなみに、ドラムセットを持ってくるのをすっかり忘れていてイナミン達に怒られ、王都に戻ったら、ドワンから恨みがましい手紙が届いていた。一緒に行こうと言ったのすっかり忘れてた・・・
受験が終わるまでディノスレイヤ領には行かない事にしよう・・・
ゲイルは魔法学校の過去問とかないので受験対策を取れない代わりに魔力総量を上げることにしていた。
0→1→0→1→0・・・・・・
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