第557話 瞬殺
「ゲイル様、ジョルジオ・スカーレット様がお越しになられました」
「え? すぐに応接室に通して」
「突然申し訳ない、ゲイル殿」
「うちは色々な人が出入りしているから気にしないで。あと、ジョンもマルグリッドさんも出ちゃったけどいいかな?」
構わないとのことでジョルジオはビーブルを紹介し、アーノルドと話した事を説明してくれた。
「うちの父さん、動き出したら早いからごめんね、心配かけて」
「いえ、あのような手を考えられたとは感服致しました」
「まぁ、ジョンが負ける訳ないから心配はしないでね」
「ジョン殿はそれほどまでにお強いのですかな?」
「剣の勝負で言えば、父さん、エイブリックさん、ダン、その次くらいじゃない? アルとはタイプが違うからどっちが強いか分からないなぁ。まぁ、マルグリッドさんが掛かってるからね。絶対負けないと思うよ。相手が何人であっても」
「何人であっても? 決闘は1対1では?」
「あの通知にはそんな事は書いてなかったからね。4~5人出して来るんじゃない?なんかズルしそうな感じのやつだから。父さんもそれはわかってると思うよ」
「こちらはジョン殿だけでなのですよね?」
「剣の勝負なら相手が何人いても大丈夫だよ。そういう訓練続けて来てるから。多分全員瞬殺されてジョルジオさん達には何が起こったか分からないうちに終わると思う。もし、魔法使いを観客席に配置して邪魔するようなら俺が排除するから」
「は?」
「向こうは父さんに嵌められて家の存続が掛かってるでしょ? 何してきても不思議じゃないよ」
「貴族同士の決闘にそんな事をする訳が・・・」
「相手は軍人。勝てば官軍って言葉があるんだけど、勝ったら後はなんとか誤魔化せばいいんだよ。魔法使いはうちの父さんが手配して、たまたま誤爆したとか言ったりとか。証拠残さないだろうからなんとでも言えるよ」
「それはアーノルド殿のお考えなのか?」
「いや、こんなの誰でも解るでしょ。用意周到に決闘を申し込んだならもっと色々な作戦練っただろうけど、嵌められて決闘になったからこれくらいしか小細工出来ないと思うよ」
ゲイルの言うことに言葉が出ないジョルジオ。
「ジョン殿はどのような訓練を続けてこられたのかご存知か?」
「騎士学校に入るまでは父さんと毎日稽古。ズタボロにやられても母さんが治すから結構手加減無しだね。学校時代はしらないけど、卒業してからは魔物相手に命がけだったよ。エイプとかゴングって猿の魔獣がいる森で何日も不眠不休で襲われたり、闇の洞窟で気配だけを頼りに魔物と戦ったりとか。まぁ、うちは普通じゃないから、他の人にこんな訓練オススメしないけど。あれに比べたら闘技場での試合なんて何人いても目を瞑ってても勝てると思う」
声が出ないジョルジオ達。
「か、仮にゲイル殿が決闘をすることになったらどうされる?」
「どうしても受けなければいけないなら、何でも有りで受けるよ。殺さないとダメなら相手によっては断るけど」
「相手が何人であってもか?」
「父さんとエイブリックさんが相手なら1対1でも無理かなぁ。本気で立ち合ったら気が付いたら自分の首が落ちてるだろうからね。それ以外なら何人でも大丈夫かな」
「ぼっちゃん、俺とならどうなんだ?」
「剣のみならやめとく、何でもありならやる」
「ようし、なら試そうぜ。久しくやってないからよ」
ダンはちょっとカチンと来たようだ
「げ、ゲイル殿何を・・・」
「ジョルジオさん達は俺達の立ち合い見たことないでしょ? ジョンのじゃないけど、見た方が理解出来ると思うよ」
との事で稽古場へ移動。
「シムウェルさんも混ざる?」
「いや、見学させてもらう」
もう主人の前で無様な姿を晒す事は出来ないと判断したシムウェル。
「じゃ、審判お願いね」
ということでシムウェルを審判に。
さて、剣はどこまでダンに通用するかなぁ。まぁ勝てないだろうな。ただ何でもありだから負けるとは思わないけど。
一応木剣で立ち合う事に。俺が持ってるの魔剣だからな。
「始めっ」
ダンは気配を消し、高速で動く。目を強化してなかったらやばかったな。こちらも同じように気配を消して構える。ガコッとダンの剣を受けて力負けするが問題ない。ダン、悪手だよ身体強化するのは。気配を消しても強化してると光るから分かりやすいのだ。いくら高速で動かれても追いやすい。が、俺の剣も当たらない。やっぱりダンは強いな・・・
ジョルジオとビーブル、そしてシムウェルさえもなにが起こってるのか解っていない。ガコッ ガコッと剣が交差する音がするだけだ。
ダンのパターンが読めて来たので反撃に入った瞬間光りが消えた。こいつ嵌めやがったな。そう、悪手と思った身体強化を嵌め技として使ってやがったのだ。でも大丈夫。自分を土柱で隆起させて全方位からの攻撃を避けてファイアボールを浮かべる。とっさにバックしたダンの後ろから土の弾をどーん。
ゴスンっ
「痛ってぇぇぇ。汚ぇぞっ」
「何でも有りっていったじゃないか」
「うるせぇっ!」
ダン激オコ。俺が初めは魔法を使わずに剣で対応することを読んでたダンはそこで決着を付けるつもりだったのだ。俺が対応出来るスピードギリギリでまだいけると思わせておいてからのフェイントだ。ダンと付き合いの長い俺はそういうのを警戒していたのだ。
「シムウェル、勝負付いたよ」
「えっ、あっ」
「ダンの負けと大きな声で宣誓して」
「え? あっ、はい。敗者 ダンっ!」
勝者じゃなく敗者を宣言したシムウェルにダン激オコ。
「シムウェル、次はお前だ!」
あっという間にシムウェルはコテンパンにやられた。
八つ当たりでズタボロにされたシムウェルに治癒魔法をかける。
「まぁ、こんな感じ。決闘は真剣だから気付いたらドズルの首落ちてるよ。ジョンも今の俺くらい動けるから」
ジョルジオ達は聞いてもわからなかったけど見てもわからないままだった。しかし、何が起きたかわらかないというのは理解したようで、丁寧にお礼言ったあと王都の屋敷で決闘まで滞在するとの事であった。
ー決闘当日ー
ざわざわざわざわ
決闘を見学する貴族達は多対1の対決になんて卑怯なとか声を上げている。
「ほー、6対1か」
ゲイルが予想した通り、ドズルは他に5人連れて来ていた。アーノルドは呑気に6対1としか言わない。
「ダッセル、お前、貴族の決闘を汚すつもりか?」
エイブリックも解っていて尋ねる。
「汚すとはなんのことですかな? エイブリック陛下。申請には人数制限は書いておりませんぞ。1対1と勝手に勘違いしたのはアーノルドですからな」
「アーノルドどうする?」
「思ってたより人数が少ないから驚いただけだ。いいのかダッセル、あの人数で?」
「何を強がりを。あの者どもは軍の精鋭中の精鋭。小僧相手に十分過ぎるくらいだ」
「ダッセルよ、軍の精鋭をむざむざ失った場合の責任はどう取るのだ?」
「そうなった場合は私の首を差し出しましょうぞ。ガッハッハッハ」
・・・アーノルド殿も多数で来るのは想定済み。しかも軍の精鋭と聞かされても動揺すらしていない。こんなのが敵になっていたらと身震いするジョルジオ。
「ジョン様、どうかご無事で・・・」
観客席で両手を前に組んで祈るマルグリッド。
「マルグリッド、大丈夫だ。ジョンはあんなのにやられはしない。見てやってて欲しいが恐らく相手の首が飛ぶ。怖かったら目を閉じておけ。終わったら教えてやるから」
アルはマルグリッドにそう言った。
「大丈夫ですわアル様。最後まで見届けます。ジョン様が私の為に戦って下さるのですから」
ー決闘前ー
「ジョン、いいか。
「相手はドズルですよね?」
「何人連れてくるか分からんが、多対1になる。ドズル以外は軍人だろう。軍人は死ぬのも仕事の内だ。情けは無用。もし、お前が情けを掛けたら相手を侮辱することにもなるし、私怨を残す。その私怨はやがてマルグリッドに向くと思え」
「分かりました父上」
ー決闘開始寸前ー
「ジョン、あんな女に惚れたのか?」
「ますます醜い顔になったなドズル。それにまだお守りが必要とは笑わせる」
「はっ、こいつらは軍の精鋭だ。今敗けを認めるならマルグリッドを差し出すだけで許してやらん事もないぞ」
「そこの精鋭とやら、今なら離脱を認めてやる。このまま決闘に加わるなら命は無い。どうする?」
ニヤニヤ笑う精鋭達。
「良いことを教えてやろうかジョン。こいつらは俺が勝ったら褒美にマルグリッドを味わわせてやるんだよ。離脱する訳ないだろうが。あーはっはっはっ」
ゲスめ・・・
「ドズル。礼を言う」
「は?」
ジョンはほっとした。アーノルドに言われても同じ国の人間を斬るのにはどうしても躊躇いがあった。命令されて無理矢理ここに連れてこられたのではないかと・・・
「では、ドズル・ブランクスより申請された決闘内容を確認する」
エイブリックが宣誓前に通知書を読み上げ内容を確認し、決闘する本人、立ち合い人はそれを認める。
アーノルドを見てニヤニヤ嗤うダッセル。アーノルドは知らん顔をしていた。
ざわざわしていた会場がシンと静まり返る
「始めっ」
シュパン
ブシャーッ
開始の合図と共に軍の精鋭達の首が飛ぶ。観客達は何が起こったのか分からない。いきなり精鋭の首が落ちたのだ。
しばらく血を噴き出し、そのまま立っていた首無しの精鋭達の身体が崩れ落ちた。
それを見たドズルが腰を抜かす。
「待てっ! 待てっ! この勝負無効だっ」
「寝言は死んでから言え。マルグリッドを愚弄した罪の重さを思いしれ」
ドシュッ
ドズルは縦から真っ二つにされ死んだ。ダンが切った特変異のオーガの様に。
「勝者、ジョン・ディノスレイヤ!」
観客達はあんな斬られ方を見たことがないため、目の前で起こった事が現実かどうか解っていない。
おっと、今さら魔法使いが光ってやがるので魔力を吸って倒す。そうそうハーフエルフがいるわけもなく、人間の魔力を吸うなんてこれだけ距離があっても問題無い。
みなぐおぉっと言いながら倒れて行った。
「ドズルーーー! 許さん、許さんぞぉっ アーノルドっ!」
「恨むなと言っただろダッセル? なんならここで俺に決闘を申込むか? エイブリックがいるから面倒な手続き無しで受理されるぞ。お前なんか知らんが俺の事を恨んでるんだろ?」
まともにやって勝ち目の無いことが解っているダッセルは観客席にいるはずの魔法使いに目をやった。
「魔法使いはもう無力化されてるからあてにすんな。やるなら自分の力で来い」
アーノルドに言われて全てを読まれていたことに気付くダッセル。
「クソッ覚えていろアーノルド、いつか必ず貴様を俺の前で無様に跪かせてやるっ!」
ダッセルはその場を走って逃げ出した。
別にそれをアーノルドもエイブリックも追うことはしなかった。
大勢の貴族の前で卑怯な手を使っても負けたブランクス家がもう陽の当たる場所で活躍することはない。後はエイブリックが手を打つだろうとアーノルドは動かなかったのだ。
ドズル達の亡骸が係によって運び出された後、エイブリックが宣言する。
「ジョン・ディノスレイヤ、お前に求婚の権利と軍事統括の職を与える」
大きくざわつく観客達。これでディノスレイヤ家が国の中枢に食い込む事が決定付けられたからだ。今まで、成り上がり者とか田舎者と影で馬鹿にしていたもの達の顔が青くなっていく。
「陛下」
「なんだ?」
「軍の職位は謹んで、陛下にお返し致したく存じ上げます」
「そうか、なら受け取っておこう」
アーノルドもエイブリックも驚きはしない。別にジョンは軍の地位が欲しかった訳ではないのだ。
「マルグリッドっ!」
「はいっ!」
マルグリッドは観客席の一番前まで走り、ジョンに応える
「俺は誓うっ! この剣にかけてお前の全てを守るっ。だから俺と婚約してくれっ!お前の事が好きだぁぁぁぁぁっ」
大声で叫ぶジョン。
「はいっ! ジョン様。マルグリッドもジョン様をお慕いしておりますっ」
凄惨な闘技場から一転、大声でのプロポーズに観客はうわっーーーっ! と盛り上がった。
おめでとうっ!おめでとうっ!
あーあー、ジョンの奴、決闘で興奮した勢いをそのままにプロポーズしやがった。後で振り返ったら今度こそ顔からファイアボールが出るに違いない。
それを見ていたアーノルドとジョルジオはがっしりと握手をして、アイナは手を叩いて喜んでいた。ご満悦のようだ。
エイブリックはラブラブの二人にケッと面白くなさそうにしていた。羨ましいんだな・・・
「アーノルド、軍の責任者の席があいちまったんだがな、お前やれよ」
「やるかバカっ。前王にでも預かってて貰え」
「ダンはどうだ?」
「いらねー」
「ちっ、たくお前らは。ゲイル頼んだぞ」
「受ける訳ないだろっ」
王から直々に軍の責任者を打診されて、それをあっさりとため口で断る俺達にジョルジオとビーブルはアワアワしていた。
結局誰も受けない軍の責任者の席はアーノルドが言った通り、しかるべき人材が見付かるまでドン爺預りとなったのであった。
「クソッ クソッ、絶対にどんな手を使っても這い上がってやる。覚えていろアーノルドっ!」
(ダッセル・ブランクス様、首を置いていかれるのをお忘れでございます)
「誰だっ! ぐふっ・・・」
ダッセルは人目の付かない場所で密かに隠密に処理された。
その後、ダッセルはこのまま失態を犯して失踪となり、申し開きの呼び出しに来ることもなく、ブランクス家はお取り潰しとなったのである。
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