第554話 ジョンの決意とアーノルドの策略

皆がまだ飲んでいる食堂に連れて来られたジョンとマルグリッド。


アイナ、顔がにやけてんぞ・・・


「ちょっ ちょっっっ 父上、ここでですか? みんないるじゃないですかっ」


「かまわん」


「自分は構いますっ!!!  護衛団の先輩方もいるんですよっ」


「ちょうどいいじゃねーか。報告の手間が省ける」


「ほら、マルグリッド、あちらに立ちなさい」


「え?」


「早く行きなさい」


アイナ、どす効いてんぞ・・・


「は、はいっ・・・」


「アル? 今から何が始まるんじゃ?」


「さぁ? 俺も知らん」


「ほら、さっさとしろっ」


皆が固唾を飲んで二人を見守る。


「マ、マルグリッド・・・」


「は、はい」


「お、おりゃれは・・・」


噛んだけど笑ってはいけない。アイナに尻を叩かれてしまう。


「マ、マルグリッドっ」


「はい」


モジモジモジモジ・・・


「俺は・・・」


モジモジモジモジモジモジモジモジ

・・・・・・


アイナ、イラついてやるな、我慢しろ。この歳でプロポーズせにゃならんのだ。モジモジもするさ。


「あのな・・・」


「はい」


モジモジモジモジモジモジモジモジ


「早くしなさいっ」


アイナ我慢出来ず。酷い母親だ・・・


まぁ、モジモジし出してから30分くらい経つからな。


「マルグリッド」


「はい」


「俺は未熟だ。しかし、この剣に誓う。俺は全力で好きになった人を守る。この剣はまだ俺には重いがそれでも必ず守ると約束する。俺と婚約してくれないかっ! マルグリッド」


両手を口に当ててポロポロと泣くマルグリッド。


「あ、ありがとうございます。ジョン様・・・・ 私は・・・」


涙が止まらないマルグリッド。しかし、ぐっと堪えてジョンを見つめる。


「その話、お受け出来ませんわ。ごめんなさい・・・」


二人を見守っていた全員がええっと声に出し掛けて慌てて口を塞ぐ。


・・・

・・・・

・・・・・


「マルグリッド、それは本音かしら?」


アイナ乱入。


「アイナ様、本心でございますわ」


「本当にいいの?」


ジョンはぐっと唇を噛んで耐えている。


「ジョン様、私はスカーレット家の娘。ジョン様より頂いたお気持ちが私の宝となりました。もうこれで十分でございます。ありがとうジョン様・・・」


貴族社会の事をよく理解している護衛団やフンボルト達はマルグリットの言葉の意味が分かって涙した。ミーシャやミサはよく理解出来ていない。


「マルグリッド、家を捨てる気持ちはあるか?」


アーノルドがヘルプに入る。


「アーノルド様。私には領民の生活が掛かってますわ・・・ それに比べれば私の気持ちは些細なもの。貴族の娘はその義務を果たさなければなりません」


「だ、そうだジョン。お前、東の辺境伯領の領民を含めてマルグリッドを守れるか?」


「はいとは言えません・・・ 今は。しかし、必ずその力を付けてみせるっ! マルグリッド、俺が丸ごと守る。それでもダメか?」


「ジョン様・・・・」


ぼろぼろと涙が止まらないマルグリッド。


「マルグリッド、素直に答えなさい。あなたはジョンを信じられるのか信じられないのか。ジョンはやると言った事は実現するまでやる子よ。それでも信じられないかしら?」


「アイナ様・・・ でも」


「マルグリッド、いいから素直に答えなさい。あなたが自分で人生を選ぶのよ」


「・・・・ジョン様を信じ・・・ たいです」


「マルグリッド。約束する。俺は必ず全部守る力を付けるっ」


「ジョン様・・・・ ありがとうございます。マルグリッドはその言葉だけで幸せです・・・」


涙が止まらないマルグリッド。


「マルグリッド、安心しろ。ジョルジオ殿とは話をつけて了解は貰っている」


「えっ?」


「ブランクス家とも話は付けた。ジョン。お前、命を掛けてマルグリッドを守れるな?」


「もちろんです」


「アーノルド様、それはいったいどういう意味で・・・」


「ジョンは命を懸けてドズルと決闘をする。負けたら命どころかマルグリッドを失うからな」


アーノルドの言葉にざわっとする食堂にいる人達。


「ドズルと決闘ですか。望むところです。ドズルなんかにマルグリッドは渡しません」


「アーノルド様、決闘って・・・ どういう事かお分かりになってるんですかっ」


「当たり前だ。向こうから決闘を申し込ませた。ジョン、お前は勝ってマルグリッドを守ると共に軍のトップの地位を手に入れろ。それがマルグリッドと東の領民を守る手だ」


ざわざわざわざわ


「いけませんっ! もし負けるような事があればジョン様の命がっ」


「マルグリッド。ジョンがドズルごときに負けるようであればアルの護衛も勤まらん。心配するな」


「ダン、どういうこと?」


「俺も貴族の決まりごとには詳しくねぇ」


「ゲイル様。貴族同士の決闘は王家に申請して行われます。申し込んだ側は初めに望んだもの。申し込まれた側は1度は断れます。それでも尚決闘を申し込まれた場合は相手が差し出せる物であればそれを望めます。恐らくアーノルド様は1度断ってから受けたのではないかと・・・」


護衛団の一人がそう教えてくれる。ほー、そんな仕組みがあるのか。プライドを優先する貴族らしいシステムだな。しかし、惚れた女を守る為に戦うと言えばカッコいいが、決闘とは賭事と同じ。女性を賭事の対象にするかね? まぁ、こういう世界だから当たり前の発想なのかもしれんが。


「ゲイル、その説明に少し追加だ。俺は2回意思確認をした。それでも決闘を申し込んだのは向こうだ。こちらが何を望もうがもう取り消せん」


「どういうこと?」


「1度断っても再度申し込めばこちらが望むものを要求することが出来る。が、その望みを聞いて利に合わないと思えば申し込みを取り消せるんだ。しかし、それでも決闘を申し込んだら取り消せない。どんな条件であってもな」


なるほど、アーノルドはブランクス家を嵌めたのか。そんな事も出来るんだなアーノルドは。


「ジョン様っ、お止めくださいっ。もしっ、もしもの事があれば・・・ 私がこの身を捧げればすむ話なのですっ」


「マルグリッド。父上の言った通りだ。ドズルに負けるようではアルの護衛なんぞ出来るはずもない。それに父上、もうその決闘を受けたのでしょう?」


「当たり前だ。俺は自分の息子を信じてるからな」


「マルグリッド、俺はこの決闘に勝利し、自分の力を証明してみせる。その時は改めてマルグリッドに誓おう。返事はその時に聞かせてくれ」


「ジョン様・・・・」


ジョンのプロポーズは決闘後に持ち越しとなった。



後日、決闘が受理された通知をジョンは受け取った。


【日時】7月1日 昼

【場所】王都闘技場

【内容】ドズル・ブランクスが勝利した場合、マルグリッド・スカーレットとの婚約締結。

ジョン・ディノスレイヤが勝利した場合、マルグリッド・スカーレットへの求婚及び軍部最高指令部の統括権を得る。

【試合方法】真剣。勝敗は生死を持って決する

【立会人】エイブリック・ウエストランド/ダッセル・ブランクス/アーノルド・ディノスレイヤ/ジョルジオ・スカーレット


貴族同士の決闘は内乱を防ぐ為のシステムとして取り入れられた。領地をめぐって大人数で戦うより、個人戦で決着を付けさせる為のもの。実際はアーノルドが説明したシステムにより、ほぼ決闘が行われる事はなく、話し合いで決着が付くようになっていった。また、決闘を申請しても望んだ内容が国への影響を及ぼすような物は受理されない。が、今回はエイブリック王が直々にその内容を受理した。


決闘の事が貴族達に通知され、貴族達に激震が走る。


事実上、これまで政治とは無関係であったディノスレイヤ家が表舞台に参戦し、軍を丸ごと手に入れる可能性が出てきたからだ。これでディノスレイヤ家は一気に国の中枢に君臨する可能性がある。



ーアーノルド達が帰った後のブランクス家ー


「ドズル、貴様何をしたか分かっているのかっ!!!」


「もし負けてもマルグリッドが手に入らないだけでしょう? それに俺が稽古しかしていないジョンに負ける訳がない。今まで何人斬った事があるか父上が一番ご存知のはず」


バゴンっ!


ドズルを殴り飛ばすダッセル。


「もうマルグリッドなぞどうでもよいわっ! 馬鹿だ馬鹿だとは思っておったが、ここまでの大馬鹿だとは思わなかったわっ! お前はブランクス家から除籍するっ! 勝手に死んでこいっ!」


「ち、父上、何をっ・・・」


「アーノルドは俺の地位を望ませると言いおった。お前が負けること。すなわちそれはブランクス家がなくなるということがまだわからんのかっーー!」


「賭けたのはマルグリッドの・・・」


バコッ べきっ


「貴族の決闘の内容も知らんで軽々と決闘を口走った貴様はもう許せん。この場で始末をしてくれるっ」


剣を抜き、我が子のドズルを斬ろうとするダッセル。


「ヒッ」


「ダッセル止めなさい。今さらドズルを殺そうが無駄よ。もう決闘は申し込まれたもの。決闘を申し込んでいないと嘘の証言をしたら、アーノルドは王の前でお互いの証言を審議してもらうでしょうね。それを判断するのはエイブリック。あなたに勝ち目はないわ。望みはドズルが決闘に勝利すること。今ドズルを殺したらその目すらなくなるわよ」


「クソッ!」


「せいぜい決闘申込が受理されないことを祈っておきなさい」


申込が不受理になる可能性がないことが分かっているアランティーヌはすでにこの二人を見限り、次の手に思いを巡らせていた。


翌日、決闘申込の前にブランクス家から除籍申請をしたアランティーヌであった。





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