第551話 アーノルド、後は頼んだ。
ーブランクス家寝室ー
「くそっ!何が最強の刺客だっ!何もせん間に殺られおって!」
「ダッセル、残念だったわね。あの子が
「あの子?」
「あの生意気なアーノルドの息子よ」
「あいつがやったのか?」
「そうとしか考えられないでしょ?」
「むむむ、あいつはそこまで強力な力を持っているのか・・・」
「しばらく大人しくすることね。もうエイブリックも気付いてるでしょうし。まだまだ時間はあるわ」
「くそっ!」
この男はやっぱりダメね。他国の力をあてにした段階で失格・・・ まぁ、動機がアーノルドを見返すとかクソみたいなものだからこんなものでしょうけど・・・
王とはもっと崇高な者がなるべきなのよ。エイブリック、あなたより私の方がふさわしいと思わなくて?
ー東の辺境伯屋敷ー
「父上っ!今さら何を言い出すのですかっ。スカーレット家の悲願をお忘れですかっ」
スカーレット家の跡継ぎ、ビーブルは父ジョルジオの言葉に激昂していた。
「ビーブルよ、ワシは届かぬ高みを見た。ワシもお前も王の器ではない」
「あの子供は確かに西の庶民街を発展させ、南の領地とも友好関係を結んだ。それだけではないですかっ! 身分は高いとはいえ、所詮は冒険者の息子ですよっ! あんな者のどこが高みなんですかっ」
「ビーブルよ、お前はなぜ王を目指した?」
「わが偉大なるスカーレット家の悲願だったからでしょうがっ」
「なら王になった後どうする?」
「そんな事決まっていますっ!良き国を作るのです」
「良き国とはなんだ?」
「皆が幸せに暮らせる国ですよ」
「お前はここの領民を幸せにしておるのか?」
「当然です」
「なら、なぜ村を捨てて逃げ出す者がいる? なぜ我が領地には盗賊が多い?」
「それは働かないやつらが・・・」
「ゲイルに言わせると、みな懸命に働いて尚、その努力が報われていないと言った。それらの者には領主が何がしてやらんとダメだと」
「昨年から収穫が改善されたではないですか」
「あれはマリがゲイルに請うて農業改革を教えて貰った結果だ。ゲイルは皆が食べられるようにと見返りを求めず指導をしてくれたらしい」
「なっ、マリが? それに見返りを求めずにですと? なぜそのような真似を?」
「この領地で発生している不作はそのうちに各地で発生する。しかし、新興領のディノスレイヤ領が改善提案をしてもどこも信じないだろうと。名門のスカーレット家が手本になれば他も信じて手を打つだろうとのことだ」
「あの子供がそれをするメリットは?」
「ない」
「は?」
「皆がちゃんと食えるようになることのメリットは不要だと。しかも、自分で発展させた街も新領も正しく運営出来る者に引き継ぐらしい」
「なっ・・・、なぜそのような利権を捨てるようなことを・・・」
「皆が楽しく豊かに暮らせるようになればそれでいいとゲイルは言った。それは王を目指すお前と同じ目的ではないか?」
「そ、それは・・・」
「王になるのは手段であって、目的ではない。王になって何を為すのかが重要だと。同じ目的ならすでにこの国は達成しかけておる」
ジョルジオはその後もゲイルと話したことを息子に説明した。今回のクーデターがすでに見抜かれ、その首謀者や内容も掴まれ、すでに手が打たれていること。それを知っていてもなお、東の領地を思いやって今後の対策を授けてくれたことを。
「そ、そんな馬鹿な・・・」
「ワシが遥かなる高みと言った意味がわかったか? ゲイルが予想したスカーレット家が滅ぶというのも現実のものになるだろう。だが、今ならまだ間に合う。お前の妻の腹にいる子供も助けられる。決断せよビーブル」
「し、しかし・・・ もう事は進みだしております・・・」
「それはワシが領主の間に始末を付ける。お前はその後のことをやれ。時間はない」
後日、ジョルジオがビーブルに言った通り、クーデター失敗の報告が入るも、スカーレット家にはお咎めはなかったのである。
ーディノスレイヤ屋敷ー
「で、相談ってなんだ?」
「これ、父さん達にしか出来ないんだけどね」
「だからなんだ?」
「ジョンのことなんだけど」
「ジョンがどうした?」
「結婚したいか聞いてみてくんない?」
「は? 誰とだ?」
「マリさんと」
「何っ? マルグリッドとジョンがそんな仲になってんのかっ?」
「いや、なってないよ」
「なら、そんなもん本人同士に任しとけ。もうなんかあったのかと思ってびっくりしたじゃねーか」
「このまま行くと、マリさんとドズルが結婚しちゃうことになるんだよね」
「はぁ? ドズルと? 何でだ?」
「今回のクーデターって、ブランクス家とスカーレット家が関わってる可能性が非常に高いんだ。で、マリさんのお父さん、ジョルジオさんにクーデター止めたらって進言したんだよね」
「お前、無茶するなぁ・・・ しかし、軍だけじゃなく、スカーレット家も関わってたのか」
「ジョルジオさんはエイブリックさんに今回のクーデター内容を報告することでお咎めなしにして貰ったんだけどね、それ以前からマリさんとドズルの婚約するのが決まってたから、その話はそのままなんだよ」
と、エイブリックは東の領軍を取り込む用意をしていること、ジョルジオが息子を説得しているだろうこと、それはブランクス家には悟られてはいけないことを説明していく
「すると何か? お前はジョンを政治利用するために俺に動けというのか?」
「いや、結果的にそうなるかもしれないけど、マリさんはジョンの事を好きなんじゃないかなぁって思うんだよ」
「本当か?」
「多分。で、もし、ジョンもマリさんの事が好きならばくっついてもいいんじゃないかって。だからジョンに確認してくれない? もしジョンにその気があるならスカーレット家に婚約を申し込んで欲しいんだ」
「俺がか?」
「俺がやるのもおかしいでしょ」
「そりゃそうだが、俺はスカーレット家と繋がりがないぞ」
「これから作ればいいじゃん。かわいいい息子の為に一肌脱いでよ」
「期限は?」
「マリさんが成人するまで。というよりそれより早く。スカーレット家がそれを受けてブランクス家に婚約予定解除の通知をしないといけないし、スカーレット家が寝返ったと気付かれない為には父さんがマリさんをジョンと結婚させたいと強引に押しきった事にしないとダメなんだけどね」
「俺を政治に巻き込むのか?」
「俺も巻き込まれてんだから、父さんも巻き添えだよ。当たり前じゃん」
「ったく、お前ってやつは・・・」
「まぁ、政治云々より、ジョンとマリさんが幸せになるのが優先。二人にその気がないならこの話はなかったことでいいよ。父さんも政治がどうとかでなくて息子の幸せを考えて動いて」
「この話はエイブリックには?」
「してない。政治メインじゃないから」
「わかった。近々そっちに行く」
俺はアーノルドに託して王都に戻った。
ーアーノルド達の寝室ー
「しかし、ゲイルは次から次へとよくまぁ思い付くもんだ」
「そうかしら? たまたま二人を見てて今回の事に繋がっただけじゃないかしら?」
「どうしてそう思う?」
「私もマルグリッドがジョンの事を好きなんじゃないかなって思って見てたのよ」
「そうなのか?」
「ジョンも気にはなってると思うわよ。ただ、マルグリッドの家の事も理解しているから顔にも口にも出さないようにしているみたいだけど。あの子純粋で真面目だから、あなたが背中を押してやらないとダメなんじゃないかしら?」
「背中を押す?」
「ジョンはアルの護衛という仕事にも就いたし、結婚は出来ないとか考えてるんじゃない? 同時に二つのものを守れないとか。あの子、自分の気持ちに不器用だけど、キチンと目標を持てばそれを達成するために頑張れる子でもあるのよ」
「あいつは小さい頃から騎士になるためにずっと剣を振り続けてきたからな。アイナの言う通りだ。仕方がねぇ。たまには父親らしいこともしてやらんとな」
子供の面倒をみてこれなかった事を自覚している二人はジョンの為に軍を敵にまわす覚悟を決めていた。
ーエイブリックの寝室ー
マルグリッドをうちの
あー、ゲイルがマルグリッドに惚れてりゃ済む話なのによ。あいつはいったい誰が好きなんだ?
いや、待てよ・・? もしかしてダンじゃねーだろうな? そういや、いつもイチャイチャしてやがるしな・・・
アーノルドがマルグリッドとドズルの婚約を阻止する手立てを考えている間に、ゲイルはいつの間にかダンとそういう関係に認定されていたのであった。
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