第550話 パレード

いよいよパレード当日。アーノルド達はこっそりと前日に王城に入り、護衛団に紛れた。アイナは俺の馬車に潜んでいる。エイブリックから敵を倒すのは隠密に任せろと言われているので、俺も馬車の中だ。アーノルド達が護衛に紛れていることを知っているのはエイブリックとナルディックのみ。ドン爺にも秘密にしてある。余計な心配をさせないためだ。


当初の予定通りの配置。午前中は貴族街、午後から庶民街だ。


ジャーーンとシンバルが鳴ったあと、タッタタカタッタタカと鼓笛隊の演奏が始まりパレードスタート。前情報では貴族街での襲撃はない。が、油断は禁物だ。


オープン馬車に乗り、皆に声援を贈られるエイブリック。背もたれに腰を掛けて手を振りそれに応える。


アーノルド達は気配察知全開だ。アル達にも今日の護衛の事は知らせていない。フルアーマーの護衛が各馬車の護衛に付いていても王家護衛団の物なので気付いていないようだ。


見たこともないオープン馬車に鼓笛隊。観衆は盛り上がる。エイブリックもご機嫌に振る舞っているが、気配察知をビンビンにしているだろう。


俺も気配を探るがまだ殺気は感じられない。


何事もなく貴族街パレードが終わり、一時休憩。さ、これからが本番だ。


エイブリック達が再度馬車に乗り、隊列も進み出す。否応なしに自分の緊張感が高まっていく。庶民街に入った時に自分の変化に驚く。馬車の中にいるのに周りが全部見える。修行の洞窟でなった状態と同じだ。目を開けても瞑っても同じように見える。


居た。魔法使いが攻撃魔法の準備をしている。アーノルドも警戒したし、距離もある慌てる必要は無い。


ハッキリとはわからなかったがその魔法使いは魔法を撃つ前に倒された。やったのは隠密だな。


その後も殺気のある気配は倒されていく。こんなに刺客を配置してたのか・・・


大通りのコーナー。前世の記憶が役に立つならここが一番危ない。エイブリックの後方に意識を集中する。いた、3人が後方向から、前方にも二人。隠密の数より多い。アーノルドがまず剣に手をやり、ワンテンポ遅れてダンとドワンが剣に手をやる。


ダメだっ! 隠密が間に合ってないっ!


隠密が間に合わず、魔法発動寸前の魔法使いが黄色っぽく光る。雷魔法? ゴロッという音と共に空が暗くなる。こいつ無差別に全員巻き組むつもりかっ。


どこに落ちるか分からない雷を防ぐのは難しい。避雷針を伸ばすには観客が邪魔だ。


間に合わんっ! 俺は黄色く光る魔法使いに至近距離から詠唱を止める為、顔目掛けて土魔法を連射した。


ズガガガガっ





手加減する暇も無かった・・・


フッとゾーンに入っていた気配察知が解けてしまう。不味いと思ってももうあの状況に戻れなかった。


多分、俺はあの魔法使いを殺した。盗賊はすでに何人も殺っているが、あの魔法使いは女の人だったような気がする。悪い奴に男も女もないと自分に言い聞かせる。しかし、殺気は感じたが人を殺したあの特有の嫌な感じはなかった。距離が離れていたからかもしれないがもしかしたら殺さねばならないほど悪い人でもなかったなかもしれない。それにあの魔法を使えるということは・・・


心に重いものが残る。



「ゲイルっ! ゲイルっ! 大丈夫なのっ」


「えっ、あぁ母さん。大丈夫。もう少しでパレードも終わるから大丈夫」


「パレード?」


「いや、このお披露目の隊列のこと」


「そんなことより何があったの。あなた凄い殺気だったわよっ」


「うん、これが終わったら話すよ。まだ油断出来ないし、母さんがこの馬車に乗ってるのは内密だから大きな声を出さないで」


「わかったわ・・・」


その後は何も起きることなくパレードは無事に終了した。



「ミグル、こいつらの死因やどこの奴かわかるか?」


「いや、何も鑑定えぬ。ただの死者じゃ。ただ・・・」


「なんだ?」


「こやつはハーフエルフじゃ」


「なんだとっ?」


「恐らくワシと同じセントラル王国の者じゃろう。他の魔法使いも同じやもしれん」


「そうか・・・」


今回パレードを狙った魔法使いは全員死亡。何も証拠を残していない。隠密は致命傷を与えないように魔法使いを倒したにも関わらずいつの間にか全員死んでしまったのだ。ミグルが見ても死因は不明。ただ1人顔を潰されたハーフエルフを除いて。



エイブリックの指示により、帰るふりをして王城に残る。俺の馬車は行きも帰りもパレード中もエイブリックが手配をしてくれた御者が行っているので馬車だけを屋敷に返した。


今いるのは王家の秘密の部屋。地下回廊を使って外に出られる非常用の回廊にある。王になった者しか知らないものらしい。


「エイブリック、いいのか? 俺達に王家の秘密通路を教えて」


「話をするのにここしかないからな。ここは姉上も知らんから安心だ」


「で、捕らえた奴らからは何か聞き出せたのか?」


「全員死んだよ」


「毒か?」


「ミグルが鑑定てもわからんかったから不明だ」


「ということは証拠は掴めなかったんだな」


「そうだ」


「エイブリックさん、事前情報になかった魔法使いはいた?」


「あぁ、1人だけな」


「こっちの防衛に当たってた隠密は4人?」


こくんと頷くエイブリック。


「じゃ、その存在を知ってる人が今回の黒幕だね」


「ぼっちゃん、どういうことだ?」


「最後の同時に攻撃しようとしてきたのは5人。それまでの魔法使い達は作戦が漏れててもいいように事前の計画通りと思わせる陽動だと思う。隠密は計画通りの4人に対応した。残り1人は誰にも知らされていない本命。それを俺が殺した」


「何っ?」


「恐らくハーフエルフかエルフの血をひく人だと思う。シャキールが以前見せた雷魔法を覚えてる? あれを使おうとしたんだ。観客が多くて避雷針を出せなかったから俺が殺した」


「そういうことだったのか・・・」


「あそこに居た観客も巻き添えになるかもしれなかったから手加減する暇なかったよ」


「ゲイルから物凄い殺気が出たから何事かと思ってたがそんなことになってたとはな・・・」


アーノルドもそこまで解っていなかったようだ。距離が離れてたし、俺もゾーンに入っていなければ解らなかっただろう。それに魔法が見えるのは俺だけだからな。


「ゲイル、お前は気にしているようだが、手加減して無効化だけしていてもそいつは他のやつら同様死んでいたはずだ。気にするな。お前に国民を守ってくれと頼んだのは俺だ」


「いや、気にしてないよ。無差別攻撃をしようとした奴だからね。ただ・・・」


「ただなんだ?」


「今まで人殺しはしてない人だったんじゃないかと思う。離れてたからかもしれないけど、特有の嫌な気配は感じなかったんだ」


「それでも俺達だけでなくあそこにいた全員を殺そうとしたんだろ? お前のやった事は正しい。お前は大勢の命を救ったんだ。胸を張れ」


エイブリックは俺の心にのった重いものを取り払おうとしてくれている。もうやってしまった事だ。今さら考えても仕方がない。今は気持ちを切り替えよう。



「王城への動きはあった?」


「いや、特にない。が、もしもの時の為にとダッセルが軍隊に装備を付けて待機させていた。まぁ、理由としちゃ正当だから咎める事は出来ん」


襲撃が成功したら動かすつもりだったんだな。



「アーノルド、今回の協力を感謝する。申し訳ないが、この通路を使って外に出てくれるか? 出口は王家の森に繋がっているから場所はわかるだろ? ゲイルはこのままここに泊まれ。明日お前の馬車が王城に来るように手配をしてある。それで王城に来たように見せろ。褒美を渡す」


「なんの褒美?」


「今回の演奏隊、鼓笛隊だっけか? あれの褒美だ」


「それならありがたく貰っておくよ」


ということでアーノルド達は夜中にここを出発することになった。


「父さん、母さん。またすぐに屋敷に戻るよ」


「まだ、なんかあるのか?」


「うん、相談事があるんだ」


「わかった。いつでも帰って来い」



アーノルド達が帰った後、エイブリックと話を続ける。


「軍が絡んでいるのは間違いなさそうだね」


「そうだな」


「これ、他国が攻め込んで来たら同盟もへったくれもないけどどうするの?」


「ダッセルを外す正当な理由が必要だが今はそれがない。秘密裏に別の軍隊を編成しておく必要があると俺は考えている」


「どうするの?」


「東の領軍をこちら側へ取り込んで強化する。スカーレット家をこちら側に密かに寝返らすってことだな」


「ジョルジオさんはそうするだろうけど、跡継ぎがどうするかだろうね? 俺が見た感じじゃ、他国と連係し出したのその跡継ぎみたいな感じがするから」


「そうみたいだな」


「ちょっと聞きたいんだけどね」


「なんだ?」


「ジョンはアル付きの護衛だけど、ナルディックさんみたいに護衛専門で考えてる?」


「どういう意味だ?」


「いや、あの二人の関係ってドン爺とナルディックさんみたいなものでなく、ニコイチっていうのかな? 二人で一つの役割を担ってるような感じなんだよね。今のジョンは護衛に徹しようとしてるけど」


「まぁ、学生時代から共に行動してるし、冒険仲間でもあるからな」


「アルは好奇心旺盛で勝ち気、ただ思慮がまだまだ足りない。ジョンは冷静でコツコツと目標に向かっていくタイプ。真逆だけどお互いの欠点を補うコンビだと思うんだよね。それが護衛だけに徹してしまうとジョンはアルのやることに意見を言わなくなる。勿体ないと思うんだ」


「ふむ、ではどうしろと?」


「護衛兼アルの補佐役に任命しない? アルがやることに対してジョンにも責任を追わせるみたいな感じで。一蓮托生ってやつだよ」


「それは構わんが・・・ 他に何か言いたい事があるだろ?」


「それをする代わりにまだ先でいいから、ジョンの身分を上げてくれないかな?」


子爵を与えただけでも相当無茶してくれたはずだけど言うだけ言ってみよう。


「今以上にか?」


「うん」


「何か考えがあるんだな?」


「まだどうなるか分からないから、進んだら改めてお願いする」


「あー、わかった。考えておこう。お前には借りが貯まってるからな」



その後、少し仮眠を取って、王城で褒美を受け取った。


金貨と風の魔道具だ。


経費は俺持ちかと思ってたけど、褒美として払ってくれたエイブリックであった。


褒美じゃねーーっ!










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