第549話 北の街からアルバイト
屋敷に戻ってダンと風呂だ。最近二人で話すのはここになっている。
「大丈夫だったかぼっちゃん?」
「話をされる前に俺が色々と話した。やっぱりブランクス家と何かするつもりだったみたいだよ」
「で、何を話したんだ?」
「クーデターは失敗するから止めとけって言っておいた」
「ストレートに言ったのかよ。呆れるぜまったく」
「いきなり核心を付かれて顔に出ない人なんていないだろ?」
「いつその情報掴んだんだ?」
「砦の宿屋の人覚えてるか?」
「あいつ、ここに来てんのか?」
「裏通りに店出したよ。目立たない所にな」
「報酬は?」
「酒の仕入れを俺が持つ。依頼をしたら別料金だな」
「そいつから仕入れたのか?」
「挨拶代わりだってね。俺が想定してた内容とほぼ同じだったよ」
「向こうにはバレてねぇのか?」
「どうだろうね? 向こうにも人を置いてきたらしいからしばらくは大丈夫じゃない? 見た目は別人みたいになってるよあいつ」
「あんま危ねぇことすんなよ」
「情報は鵜呑みにはしてないよ」
「なら良いけどよ。どうやって止めんだ?」
「エイブリックさんに相談しろと言っておいた」
「大丈夫か?」
「まだ事を起こしてないから大丈夫だよ。エイブリックさんもその辺の事は理解しているだろうし」
だんだんと敵が絞られてきた。相手はエイブリックの姉さんだ。姉弟だけあって頭は良いだろう。どんな手を考えているかまだ分からないからな。今回はクーデターを未然に防げるだろうけど、それも織り込み済みのはずだ。どこまで罠を張られているか想像がつかん・・・ まぁ、黒幕が絞られたなら後はエイブリックに任せておこう。
翌日からも鼓笛隊の練習とパイプオルガンの制作だ。建物もなんとか間に合いそうだから、そろそろ服の手配とかしていこうか。
楽器と練習を任せてミサの店へ。
「あー、ゲイルくん。どーしたのー?」
「ちょっと皆いいか?」
ということで、ダンの衣装とミケのドレスを相談する。サイズは解っているからデザインして作っていくだけだ。
「うわー、やっぱりゲイルくん面白いこと考えるねぇー。やろうやろう」
男の衣装はシンプルだ。問題はドレスの装飾。パールとかないし、オーガンジータイプのベールなんて物はないから代用出来る物を作らなければならない。
「白い綺麗な玉がたくさん必要なんだねー」
「ミサは作れそうか?」
「石ならね。でもそんなに綺麗じゃないよー」
仕方がない。貝殻から作るしかないか。めっちゃ面倒臭そうだけど代用品が思い付かない。取りあえずベールはレースで何とかしてくれと頼み、貝殻を集めなければならない。誰か飲食店を毎日回ってくれないかな・・・ あっ、孤児達にアルバイトして貰おう。
その夜、アルに北の街の様子を聞く。
「アル、北の街はどうだ?」
「あぁ、炊き出しの費用を出してたくさん食べられるようにしている所だ。孤児以外にも飢えてる奴が多くてな」
「それ、いつまで続けるんだ?」
「いや、飢えがなくなるまでするつもりだけど」
うーん、口を出すべきか出さずにおくべきか迷うな
「いつその飢えはなくなる?」
「まだ分からんがそのうちなくなると思う」
「炊き出し食いに来てる大人は弱ってる人や怪我人ばかりか?」
「いや、普通の大人もいるぞ」
やっぱり。
「アル、その炊き出しは延々と終わらんぞ」
「なぜだ?」
「なぜ炊き出しを食いに来ていると思う?」
「腹が減ってるからだろ?」
「どうして腹が減ってるんだ?」
「食い物がないからだろ?」
「じゃあなんで食い物がないんだ?」
「働いてないから金がないんだよ。そんなの決まってるだろ?」
「なぜ働かないんだ?」
「仕事が無いからだろ」
「炊き出し続けてたら働かなくても食っていけるよな?」
「そうだな」
「楽だなそいつら。他の奴らが働いて納めた税金で炊き出し食えるんだから」
「ちゃんと食えて元気が出たらそのうち働けるようになるだろ?」
「どこで働くんだ?」
「そりゃ、色々と仕事があるだろ?」
「仕事があるのになんでそこまで腹ペコになるまで働かなかったんだろうな?」
「知らんよそんな事は」
「アルがやるのはそれじゃないか?」
「何?」
「そいつらが働かない理由だよ。怪我とか心が壊れて働けなくなってしまった者達には炊き出しを続けてやればいいだろう。でも働ける能力がある人が働かない理由を掴んでおく必要があるんじゃないか?」
「働かない理由?」
「そう。そのままだれかれ構わず炊き出しを食わせていたら、全員働かなくなるぞ。働かなくても食えるならその方が楽だからな。そしてそれが続くと本当に働けなくなる。いつでも炊き出しが食えると甘えが出るからな」
「どうすればいいのだ?」
「それは自分で考えろ。俺がヒントを出すのはここまでだ。あと孤児達にアルバイトをさせてやれ。この街の飲食店を回って貝殻集めをして欲しいんだ。大小関わらず買い取ってやるから」
「なんに使うんだ?」
「装飾に使うんだよ。仕事内容は俺が説明するから近いうちに何人か集めてくれないか?」
ということで働くやつらゲットだ。
いきなり貝殻回収に行かせたら汚いだろうから、クリーン魔法を掛けてやらないと。
日差しが随分と暖かくなり、イナミン夫妻は名残惜しそうにしていたが、そろそろ雪も溶けただろうからと帰って行った。次に来るときはドラムセットを持って来て欲しいらしい。俺も遊びに行きたいのは山々だけど、パレードが終わるまで忙しいのだ。
アルバイトに雇った孤児達は初めはおどおどしていたけど。慣れてくるに連れて元気いっぱいになり、毎日貝殻を集めてきてくれた。子供の手に持てる小さな籠満タンで銅貨1枚の買い取り。もっとあげてもいいけど、これが本業になってもダメなのでお小遣い程度にしておいた。ずっと続く仕事じゃないしね。
集めた貝殻をくりぬき、糸を通す穴を開けて砂と一緒に樽みたいな所にいれてゴロンゴロンまわしてやると、貝殻ビーズの出来上がりだ。めっちゃ面倒臭いけど仕方がない。穴をくりぬいたあとの貝殻は焼いて砕いて貝殻石灰にしておく。これは土壌改良にも使えるからな。
鼓笛隊も随分と様になってきたので、マーチングの練習もすることに。ふと、衣装をどうするのか気になる。もしかしてこっちで用意するのか?
「エイブリックさん、演奏する人達の衣装って用意してる?」
「しとらんぞ」
マジかよ・・・あと1ヶ月で全員分揃えんのか。間に合うかな?
「ところでゲイル、お前スカーレット家となんか話したろ?」
「俺の架空の話はしたよ」
「なるほど、架空の話か。まぁお陰で今回の作戦はだいたい把握出来た」
「スカーレット家にはお咎めないよね?」
「まだ何もしとらんからな」
「ブランクス家はどうするの?」
「あいつの証言だけで証拠は何もない。まだ事も起こってないからな。だから今回は作戦通りにやらせてみる」
「危険じゃない?」
「アーノルド達がいるから大丈夫だろ? その為に来てくれんだろ?」
「そりゃそうだけど。事前に父さん達には知らせておくよね」
「いや、襲撃されるだろうとしか伝えない。こっちが襲撃される内容を知っていると悟られたくないし、なまじ知ってると予想外の攻撃を受けた時に対応が遅れるからな。今回は泳がせてしっぽを見せるのを待つ。そうしないとスカーレット家が裏切った事も感づかれるからな」
なるほどね。
「お姉さんと争う事になるけど大丈夫なの?」
「血の繋がりはあるが、姉という実感はない。王族とはそんなもんだから気にするな」
なんか寂しいなぁ。しかしドン爺やエイブリックはそういう世界で生きているんだな。エイブリックの子供も他にいるらしいけど、構ってるのはアルだけかもしれん。
「あと欲しい物があるんだけど」
「なんだ?」
「小型で強めの風を送る魔道具を3つ」
「何に使うんだ?」
「楽器を鳴らすのに使うんだよ」
「今回に使うのか?」
「違うよ。完成して上手くいったら王城にも使えるかもしれないから宜しくね」
これで手配終わりと。
「待てっ。最後にもう一つある」
「何?」
「お前、マルグリッドを嫁に貰うつもりはあるか?」
「ないよ」
「そうか、ないか・・・ わかった。また相談させてくれ」
それは何度言われても断るからね。
夜にミサと屋敷で打ち合わせる。
「えーーっ! 間に合うかなぁ」
「間に合うようにデザインしよう。こんなタイプの服をお願い」
と、上着は赤、ズボンは白で発注する。装飾の刺繍とかは間に合わないので、胸に黄色のボタンとボタンを黄色のロープみたいなのを繋げたやつだ。イメージはおもちゃの兵隊だ。華やかさも出るし、そこまで凝った衣装じゃないからいけるだろ。
ブーツは新調するの無理だな。自前の黒い靴を履いてもらおう。
ショール達がまたゾンビになるかもしれないと思ったけど、職人とミシンを増やしたらしい。夏向けのシャツやらブラウスとか作るそうだ。ミサの店もリンダのお陰で流行り出しているそうだ。
これでなんとか間に合うかな。
あー、釣りに行きたい。早くパレード終わらないかな・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます