第548話 ジョルジオの本音
「ゲイル殿、率直に申し上げる。何が望みだ?」
「ん? 皆が平和に豊かに暮らせること。仲間と美味しいものを食べて楽しめること」
「この国で覇を唱えたいとかそういうものは?」
「ないよ」
「政権の中枢、いや、王になりたいとかは?」
「まったく。今の領主もやめたいぐらい。まぁ、それは成人するまでやると約束をしてしまったからやるけど」
「なぜ、それだけの力を持ちながら更なる上を目指そうとせぬ。おかしいではないか」
「ジョルジオさんは王になりたいの?」
「当たり前ではないか。先祖が勝ちさえしていれば、この国は・・・」
「その歴史聞いたけど、なぜ皆王を夢見るの?」
「男として生まれたからには頂点に立ちたいと思うのが当たり前だろう」
「頂点に立って何するの?」
「それは、皆が豊かに暮らせる国を・・・」
「今、そうなって来てるじゃん。というか、領民さえ豊かに暮らせてなかったのに王になって皆を豊かに出来るの?」
「しかしっ」
「目的と手段ってのがあるんだけどね、王になるのは手段であって目的じゃないと思うんだよ。王になるのが目的なら、目的を達成したあとどうすんのさ?」
「それは・・・」
「小さい頃からずっとそういう風に刷り込まれて来てるだろうから俺の言うことわかんないだろうけど、王とかちょー面倒臭いじゃん。どこに行くのも護衛が付いてくるし、好きな時に好きな所にも行けない。旨い飯も毒味役が食べた後に一人でモソモソ食うような生活。俺はまっぴらだけどね。ジョルジオさんも俺と初めて会った時にあちこちへ行ってるのを羨ましいと言ったじゃない。あれは本音なんじゃないの?」
「王を目指すのはスカーレット家の悲願なのだ。今更生き方は変えられん」
「そうだろうね。ずっと正しいと思って生きてきたのを俺みたいな子供に否定されたらやってられないというのは分かるよ」
「なら、なぜこんな話をした?」
「いや、マリさんはそれに巻き込まないであげて欲しいかなぁって。マリさんの事は可愛いでしょ?」
「当たり前だ」
「マリさんてね、よくクスクス笑うんだよ。でもそのクスクスは自分を誤魔化して笑ってる時が多いんだ」
「自分を誤魔化す?」
「うん、全てを諦めているような感じ。ほら貴族ってさ、結婚とか政治じゃない? 元々ディノスレイヤ家は庶民だし、政治にも関わってないから、家の為に誰かと結婚とかないんだよ。父さん達は俺達が選んだ相手なら別に相手が庶民でも何にも言わないだろうし。マリさんはそれが羨ましいんじゃないかな? 口には出さないけど」
「結婚は家の為にするものだ。望もうと望まない相手であろうとな。それが家を守るためであり義務なのだ」
「そういう世界なのは理解しているよ。でもならなんでマリさんのわがままを聞いたのさ? 例え2年間とはいえ、付き合いのない他領の領主の家、しかも男も多い。護衛を付けてるとはいえ、普通は許可しないよね? 他の貴族からは傷物にされたとか言われんじゃない? 貴族風に言えば価値が下がるってやつ?」
「あれはマリが命を駆けての一生のお願いだというから仕方がなく・・・」
「そうだったとしても、家の為だ我慢しろとか言うよね? なんか矛盾してない? 俺にはどうもそこが引っ掛かってたんだよ。マリさんをうちのスパイに使ってんのかな? とか。でもそんな事はぜんぜんなかったし。ジョルジオさんの本音はどこにあるのさ? このままだとマリさんは一生心から笑うことなくなるよ。娘が心を閉ざして一生を過ごしていいの?」
「そんな事はわからんだろうっ。私も妻とそのような形で結婚をしたが、それなりに幸せだ。妻も笑って過ごしているではないかっ」
「相手がドズルじゃなければね」
「なっ・・・ どうしてそれを・・・ まさかマリが・・・」
「いや、マリさんは婚約の事は何も言ってないよ。俺って意外と情報通でね。なんやかんや知ってるんだよ。あと、クーデターを考えてるなら止めておいた方がいい」
・・・
・・・・
・・・・・
「俺がエイブリックさんに進言して全て手を打ってある。だから100%失敗する。というかもし成功してもスカーレット家の悲願は達成出来ない。他国だけが利する事になるからね。反逆者の烙印を押されて終わるだけ。だから止めておいた方がいい」
「なぜそのような事を私に言うのだ? クーデターなんぞ企んではおらん」
「いや、俺はマリさんが幸せになって欲しいだけなんだよ。マリさんの幸せはジョルジオさんを始め、マリさんの家族や使用人達の幸せも含まれてるからね」
・・・
・・・・
・・・・・
「家同士の結び付きの為にする結婚の良し悪しは俺が口を出すことじゃないけど、ドズルは止めた方がいい。あいつはシルフィードを上から下まで品定めをするような嫌な目付きで見ていた。女性をああ言う目で見る男に嫁いで幸せになれるはずがないと思うよ」
「私はマリが成人する時に領主の座を長男に譲る。実権はほぼ息子に渡しているから今さらこの流れは変えられん」
「そうかな? 領主じゃなくて父としてやれることは残ってるんじゃない? あと、さっき言った事も事実だからね。もし、ダッセル達と何か約束をしているなら信頼しない方がいいと思うよ。マリさんは家の結び付きじゃなくて人質になるから」
「そんなはずはっ」
「マリさんがうちに住んでるの知ってるはずなのに何も言って来ないのがいい証拠だよ。普通婚約するのが決まってる相手が他の男の家に住むなんて絶対に許さないよ。プライドにかけてね。でも何も言って来ないのはマリさんを物としてしか見てないんだよ」
「そんな・・・」
「もう一度言っておくけど、クーデターは100%失敗する。あと、ダンって元々他国の人間でね、ある国の裏切りにあって滅ぼされたんだよ。そう、偽物作ってる国にね。ずいぶんと狡猾らしいよ、その国」
「お前はいったいどこまで・・・」
「何も知らない。でも想定はしている。自分で止められないならエイブリックさんに相談したら? そうじゃないと失敗した時に全ての責任を擦り付けられるよ。というかそれも織り込み済みだろうから。成功しても良し、失敗しても良し、どっちにしろいずれスカーレット家はなくなる。悲願を達成するどころじゃなくなるね」
「マ、マリは・・・」
「マリさんだけなら助けてあげられるかもしれないけど、マリさんがそれを望むかどうかはわからない。全部救えるのはお父さんだけじゃない? なにせ、相手はブランクス家というより、エイブリックさんのお姉さんだと思うから」
・・・
・・・・
・・・・・
「ゲイル殿・・・」
「なに?」
「マリを貰ってやってはくれぬか・・・」
「それは無理。マリさんの事は好きだけど恋愛感情じゃないし、そもそも俺は誰とも結婚する気はないからね」
「エルフの姫と婚約されているのでは・・・」
「そんな形になっちゃってるけど、シルフィードにも結婚する気はないと伝えてある」
「領地は誰が継ぐのだ?」
「ちゃんと領営してくれる人なら誰でもいいよ。もうその準備も始めてるし。初めに言ったけど、成人までは約束があるから領主をやるけど、その後は誰かに任せるよ」
「あれほど急速に発展させて何も未練がないのかっ?」
「皆が楽しく暮らせるようになったら未練はないよ。領主とか面倒だから早く手放したいくらいだよ。もう勝手に色々と進みだしてるから予定通りかな。まぁあと5年でなんとかしてみせるよ」
・・・
・・・・
・・・・・
「ゲイル殿・・・」
「今日話した事はこうなったら嫌だなという俺の想定だから。あと、これお土産。マリさんからお酒が好きだと聞いてるから各種持ってきたよ。まだ市場に出てない南の領地のお酒とかもあるから、飲み比べしてみてね。このチョコレートは奥様達に。マリさんはチョコレートが好きだからお母さん達も好きかなって。娘って小さい頃はお父さんに似ててもどんどんお母さんに似ていくでしょ」
「・・・そうですな。妻の若い頃によく似てきましたな」
もう、ジョルジオは父の顔だ。後はうまくやってくれればいいな。
ジョルジオが立ち上がり、外に出た後しばらくしてからダンとマルグリットが戻って来た。
「ずいぶんと長いお話しでしたわね、お父様」
「あぁ、ゲイル殿の博識ぶりに夢中になってしまってな。待たせてすまなかった」
「どんな話でしたの?」
「お前がどんどん、母親に似てきたという話だ」
「まぁ、小さい頃はお父様に似ていると言われて嫌でしたのよ」
クスクスクスクス。
「父と似て嫌とは酷い言い種だ。なぁ、ゲイル殿」
「マリさんのお父さんハンサムじゃん。どこが嫌なのさ?」
「こう、プライドの塊みたいな所ですわ」
「それはそっくりじゃん」
「まぁっ、酷いですわっ。ゲイルの意地悪っ」
プクッとむくれるマルグリッドを笑うゲイルとダンを見てジョルジオは思った。
あぁ、マルグリッドがこんな顔をするのは本当に小さな時以来だ。いつからだ? マリがこういう顔を見せなくなってしまったのは・・・
ジョルジオはこの3人の楽しそうな顔を見て覚悟を決めたのだった。
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