第547話 いよいよスカーレット家の屋敷へ

王都に戻った翌日エイブリック邸に行き、今回のパレードで危険な点を報告。それとアーノルド達への護衛を依頼したことを伝えた。


「アーノルド達はその話を受けたのか?」


「勿論。で、誰かわからないように鎧を着て他の貴族にばれないようにするよ。護衛団の鎧って変わってないよね?」


「同じだ」


「じゃ、父さん達の鎧はおやっさんにお願いしておく。対魔法用の鎧でも作るつもりなんじゃないかな? 弾かずに吸収するやつとか」


「あいつらにどんどん借りが出来るな」


「仲間なんだから貸しとか思ってないから気にしなくていいんじゃない。おやっさんにも国の為と言ってあるから」


「国の為か・・・ わかった。その話はありがたく受けよう。で、俺達が外に出ている間の王城の警備も強化が必要なんだな」


「軍事クーデターならね。俺がもしエイブリックさんの敵ならやらないけど」


「なぜだ?」


「軍事クーデターで国を奪っても長続きしないんだよ。圧政で苦しんでいる国で民衆の支持を受けてるならともかくね。ウエストランドはそんな事がないから大義名分がない。民衆が支持するわけないよ」


「なら、なぜそれを心配する?」


「他国からの入れ知恵の可能性があるからね。敵がクーデターでウエストランドを乗っ取るのではなく、弱体化させるのが目的なら良い手だと思うよ。内乱を起こさせて、疲弊した隙に乗り込めば楽勝になるからね。エルフもドワーフも内乱には加担しないだろうから、同盟が機能しない間にここは滅ぼされるよ」


「なるほどな・・・ もし、俺達が遠距離攻撃を受けるような事があればゲイルは国民を守る方を優先してくれないか?」


「ん? 俺は攻撃するやつらを捕らえるか狙撃しようと思ってるんだけど」


「いや、その役割は隠密にやらせる。お前の力は守るほうに使ってくれ。屋根とか壁とか作れるだろ?」


「解った。あと呪いのこと何か解った?」


「まだだ」


「じゃあさ、隊列に加わる護衛や騎士達をミグルに鑑定てもらっておいて。もし前みたいに呪いが掛かってる者がいたらヤバいから」


「解った。あと、明日に演奏するやつらをそちらにいかせる。もう準備は整っているだろうな?」


「ほとんどね」



これで打ち合わせは終わり。次はドラムだけの鼓笛隊の特訓をしていこう。


翌日からぞろぞろと鼓笛隊のメンバーが楽器工房の所に集まってくる。


まずは首からドラムを持たせて好きに叩かせてみる。ガタイの良い奴は大太鼓とシンバルに任命した。


スティックの持ち方を教えて、全員で1、2、1、2と音を合わせてみるもなんか想像してたのと違う。


なんか音が曇るよな?


「マンドリン、なんか音が曇るよね?」


「そうでございますね。こうやって大勢で音を合わせるとそれが顕著にわかります。何か音が曇る原因を探らねばなりませんね」


ドラムの一つをマンドリンと叩いて原因を探っていく。


「ここから音が出れば澄んだ音になるやもしれません」


マンドリンは横に穴を空けてみては? という。物は試しにやってみるか。


大工達に5つほど穴を付けて貰うとイメージに近い音になった。


「マンドリン、音が曇るの良くなったね」


「さようでございますね。これで宜しいですか?」


まだ何か足りない気がする。


小学生の時に叩いたドラムってどんなのだったかなー?


半世紀近い前の記憶を探っていく。ソプラノリコーダー、アルトリコーダー、ピアニカ・・・ 本当は鍵盤ハーモニカって名前だったのをうちの子供が小学生の時に初めて知ったよな・・・ おっといかんいかん。ドラムは確か・・・ なんか怒られた記憶があるな。なんで怒られたんだっけ?


あっ、裏側に付いてたバネみたいなのを伸ばして怒られたんだ! あれ?ということは皮を張るのは片面だけでいいのか?


という事で改良を続けていく。ドラムって単純な作りなのに奥が深い・・・。めっちゃ舐めてたよ。


もう訳がわからなくなって来たので吟遊詩人達に丸投げ。こんなのを付けてみてとドワーフ達に説明し、吟遊詩人達にはこんなリズムで宜しくねと放り投げた。餅は餅屋に任せるのが一番だ。


次はプライベートな楽器を作って貰いたい。ピアノとパイプオルガンだ。まずはパイプオルガンの仕組みを説明していく。


「空気はどうやって送るんだ? 何人もふいごみたいなのを踏む奴が必要になるぞ」


それもそうだな。


「風を送る魔道具を買ってくるからそれを取り付けるよ」


これはエイブリックに手配を頼もう。鼓笛隊の褒美にせびればいいか。


面倒臭いものを作らせよると文句を言いながら嬉々としてパイプオルガン制作に取り組みだすドワーフと大工達。ドラムの改良と平行して作っていって貰おう。

これが出来たら鍵盤とかピアノに流用出来るしな。


そんな作業と鼓笛隊達の特訓をしているとエルフ達も笛で参加したいと言い出し、吟遊詩人達もとなったのでエイブリックに許可を取りにいく。また王城に行くのか・・・



「陛下、本日はお願いがございまして参上致しました」


「何用じゃ?」


「はい、御披露目の隊列にエルフと吟遊詩人を加えさせて頂きたく存じます」


ざわっとなる貴族達。


「何故じゃ?」


「音楽を奏でる者を増やし、より華やかに御披露目をしたいのです。何卒ご許可を願います」


「その者達がいた方が良いのじゃな?」


「はい」


「では任せる。好きにせよ」


おーー、と歓声が漏れてくる。陳情をエイブリックが認めることは少ないらしい。


用件は済んだのでさっさと王城を出た。貴族達がすがるような目で俺を見ていたけどスルーだ。俺は忙しいのだ。



毎日楽器の調整を繰り返しながら、鼓笛隊の特訓は続いていく。


今日はスカーレット家にお呼ばれしている日だ。マルグリッドがスカーレット家の馬車で一緒に行こうという。俺の馬車がスカーレット家に行くと色々な噂が出るからかもしれないとの配慮だろう。



おー、さすがにデカいな。エイブリック邸に引けを取らない屋敷だ。マルグリッドが家族もいないところで一人でいるのは嫌になるのも解るな。知り合いは多くても友達とかいなさそうだしな。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


マリさんところの執事か・・・。マリさんの執事・・・ マリさんの羊・・・ ひっつじ♪


いかん、またいらぬメロディが頭を過る。


「ゲイル・ディノスレイヤ様。ようこそおいで下さいました」


「お邪魔します、羊さん」


「羊?」


いかん・・・


「いや、執事さん。お言葉に甘えておじゃましました。これお土産。皆さんで食べて」


チョコレートの箱を渡す。


「ありがとうございます。後程当主にお渡し致します」


「いや、これは皆で食べて。もしかしたら数が足りないかもしれないけど。あとこれはお酒。飲める人達で楽しんで」


「当主にではなく、我々にでございますか?」


「スカーレットさんのは別にあるから大丈夫だよ」


「我々にそのようなものは・・・」


「受け取っておきなさい。断られたらゲイルが困りましてよ」


「は、誠に申し訳ございません。ではありがたく皆で分けさせて頂きます」


うちはみんな同じもの食ったり飲んだりしてるけど、普通は違うみたいだからな。たまにはいいだろう。



羊さんもとい執事さんに案内されて応接室へ。


出されたジュースを遠慮無く飲みながら待っていると、マルグリッドの父、ジョルジオ・スカーレットがやって来た。


「ゲイル・ディノスレイヤ様。ようこそおいで下さいました」


「お招き頂きありがとうございます。あと俺の事はゲイルでいいです。マルグリッドさんのお父様に様付けで呼ばれるのがなんか気恥ずかしくって」


「では、私の事もジョルジオとお呼び下さい」


意外と素直に受け入れてくれたな。


「本来であればこちらから伺ってお礼を申し上げねばならない立場でありますが、お呼びたてするような形になってしまい申し訳ございません」


「いえいえ、そんなお気遣いは大丈夫です。ジョルジオさんは気軽にあちこちへ出向けるような立場でないことは理解していますので」


「は、そう言って下さると助かります」


その後、長々と礼を述べるのをじっと我慢して聞いていた。


「農業改革はゲイル殿の手解きを受けたとマルグリッドから知らされた時には驚きました」


「一番古くからある東の辺境伯領が一番初めに影響出てたみたいですからね。問題が大きくなる前に改善され始めたみたいでよかったです」


「ちなみに、何故、我が領にそのようななさけを? 特にゲイル殿にはメリットが考えられませぬが?」


だんだん敬語を使うのが面倒になり、素の話し方に戻していく。


「メリットとかは別にいいかな。商売でやったことじゃないから。農民達が苦しんでるのをたまたま通り掛かった時に見てね、ちゃんと食べられるようにならないかなと思っただけだよ」


「たまたま?」


「そう。以前、ドワーフの国へ行くことがあってね、この辺を通ったんだよ。盗賊は農民上がりの人が多いし、村全員が離村してディノスレイヤ領に来たこともあったでしょ? あそこも不作で税を払えないから俺達を襲おうとしたんだよね。で、理由を聞いたらそういうことだったから、ディノスレイヤなら食いっぱぐれないよと教えただけなんだ」


「そうでしたか・・・」


「同じ辺境伯領でも東と西の置かれている状況が違うから税率はなんとも言えないけど、領主が領民が飢えないようにしてあげないとダメかなぁとか・・・」


「いや、わたくしの不徳の致すところ、お恥ずかしい限りです」


そうだよね、とは言えないので黙る。


「まぁ、領民達が食べていけるようになったのは良いことだよ。同じ問題が他の領でも発生し始めてるみたいでね、それを改善した東の領がお手本になってくれればどこも改善しだすから。ディノスレイヤ領がいくらこうなるよと忠告しても他の領主は信じないだろうからね。名門のスカーレット家が手本になってくれた方が影響大きくていいんだよ」


「そのような仕事は国がやるべきことなのでは?」


「本来はそうだと思うけど、手の打ち方がわからないと出来ないからね。俺は魔法で植物を育てたり出来るから色々試すのに適してただけだよ。急ぎの事は誰がやるべきとかより、出来る人がさっさとやった方がいいからね」


「しかし、出来るからといってもやらなくても問題がないのでは?」


「いや、飢えて何も食べられない人の横で飯食っても旨くないじゃん。ただそれだけ」


「それだけであのような支援を?」


「うん、それだけ。全員が同じようになるのは無理だけど、せめて手の届く範囲はやった方がいいかな。サボって食えないなら放っておくけど、努力してもそれなら手助けは必要なんじゃないかな。もしくは出来る人に頼るとか」


「頼る? 借りを作るということですかな?」


「まー、心情的に借りを作りたくないというのも理解するけど、時と場合によるよ。プライドは重要だけど、プライドだけでは食えないからね。それに今回の件は貸しとも思ってないから気にしないで」


「貸しではないと?」


「俺とマリさん・・・ マルグリッドさんが勝手にやったことだから。マルグリッドさんとは仲間だから貸し借りなんてないよ」


「マリが仲間・・・ ゲイル殿の父上とスカーレット家は反目はしとらんが、付き合いがあるわけでもないのに、子供同士が貸し借りを気にしない仲間だと?」


「じゃなきゃマルグリッドさんもうちに住もうとか思わないだろうし、俺もうんと言わないよ。大貴族のご令嬢が他領の当主の家に住むなんて大問題になるだろうからね。実はそこが疑問でもあったから今回のお招きを受けたってこともあるんだよ」


「そうですな・・・。約束をたがえる事になって申し訳ないが、二人で話をさせてもらえぬだろうか」


ジョルジオはダンに向かってそう言う。ダンは俺の顔を見たので頷いた。今までの話を聞く限り、俺を嵌めようとしている節はない。俺が東の為にやった意図の確認がメインだったように思う。普通は見返りなしに他領に力を貸したりしないだろうからな。


「マルグリッド、別の部屋で休ませてくれねぇか? 緊張して疲れちまったわ」


「では、私の部屋でお茶でもお入れしますわ」


「なら、これ持っていって」


とマルグリッド用のチョコレートを渡しておいた。


ダンとマルグリッドが出て行ったことでジョルジオと二人っきりになる俺。おっさん同士なのでトキメキはない。


さてと、マリパパの顔を見ると重い話になりそうだな。鬼が出るか蛇が出るか・・・ 嵌められないように気を付けよう。


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