第546話 アーノルドに相談

「ゲイル、ちょっといいかしら?」


「な、なに、マリさん?」


屋敷に戻った後、マルグリッドから話しかけられる。ドズルとの話を聞いたところだからドキッとしてしまった。


「ゲイルが忙しいのは理解しているのですけれども・・・」


なんだろ?


「出来ることなら聞くよ。楽器作りもだいぶ任せられるようになってきているから」


「実は父から招待状を預かって参りましたの・・・」


マルグリッドは先日、王都のスカーレット屋敷に顔を出しに行ってたからその時に預かってきたのか。俺がバタバタしてたから言い出せなかったんだな。


「私的なパーティーってやつ?」


「いえ、お礼とお話をしたいと」


「なんのお礼?」


「ここにお世話になっている件と農業の件ですわ」


「別にいいのに。農業の件は話してなかったんでしょ?」


「えぇ、初めに言えば借りを作る事になるからやめろと言われるに決まってましたから」


「なんで今回言ったの?」


「もう、隠しておく必要がないからですわ。各地で収穫量が上がりましたのよ」


あー、米とかトウモロコシとか収穫終わってるからな。米もだいぶ浸透し始めてるし。


「効果出て良かったね」


「ゲイルのお陰ですわ。それで是非お礼を伝えたいと招待状を渡されましたの」


これ、断る方が悪いよな・・・


招待状を見ると来月の頭か。まだまだ調整利くな。


「他の貴族は誰が来るの?」


「いえ、今回はパーティーではなく、個人的なお誘いですの。他の方はいらっしゃいませんわ」


一人か・・・ これ、罠じゃないよね?

最近、嵌められっぱなしだからなぁ。


「ダンを同席させてもいいならお誘いを受けるよ」


「本当に宜しくて?」


「マリさんのお父さんも心配してるだろうからね。その報告も兼ねるよ。この前は立ち話しか出来なかったから」


そういうとパァっと笑顔になるマルグリッド。


「やっぱり、ゲイルは優しいですわ」


と抱き締められるとシルフィードがプクっと膨れていた。



「ぼっちゃん、なんか裏があるんじゃねーか?」


今はダンと風呂に入ってるところだ。


「んー、まともに敵対してくれるならやりようがあるんだけど、貴族って裏が読めないんだよね。だからダンの同席を条件にしたんだけど」


「俺もそんなに得意じゃねーぞ?」


「いや、なんかあったらダンのせいに出来るじゃん」


「なんだよそれ?」


「言ったままだよ」


けっ、とそっぽを向かれるけど、お前に甘えられんのもあと少しだけだからな。


「でさ、近々もう一度ディノスレイヤ領に行こうと思ってるんだけど、一緒に行くだろ? すぐに戻って来るけど」


「おぅ、一緒に行ってくれんのか?」


「俺は父さん達に話があるだけ。おやっさんの所には二人で行けよ」


「なんだよそれ? 一緒に行こうぜ」


ダンには『お父さん、娘さんを僕に下さい』がない代わりにドワンの試練を受けて貰おう。


「俺が一緒だったら同じ事の繰り返しになるだろ? 二人で行った方が誠意が伝わるんじゃないか?」


「しかしなぁ・・・」


「避けて通れない道なんだから、さっさと済まそう。ずっと気になってるのも嫌だろ? それでダメなら俺もまた一緒に行くから」


ということで、まずはダン達で話をしに行くことに決まった。



楽器を作ってるドワーフと大工達にマーチングバンド用のドラムを優先して作ってくれと指示を出した翌日にディノスレイヤ領に向けて出発。スピード重視なので3人で馬で行く。



「あら、また帰って来たの?」


「父さんと母さんに相談とお願いがあってね」


到着したのは夜だったけど、ダンとミケはそのままおやっさんの所に向かった。アーノルド達への話は別に食堂でもいいけど執務室で話すことに。


「ほう、即位の知らせを庶民街でもやるのか」


「うん。貴族街と両方ね。多分大通りだけになると思うけど」


「で、護衛を俺達にということか。エイブリックは承諾してんのか? 護衛団の面子もあるだろ?」


「まだ言ってない。弓で狙われるくらいなら対応出来ると思うんだけど、魔法で攻撃されたら対応難しいと思うんだよね。ドン爺とエイブリックさんの奥さんも同時に守らないとダメだし」


「俺達が顔出してたら他の貴族からなんかあるんじゃないか?」


「鎧付けてたらいいんじゃないかな? 母さんは俺の馬車に乗って待機すればいいし」


「お前の馬車も出るのか?」


「隊列に加われって言われてるから出すよ。父さんはエイブリックさん、ダンはドン爺、アルはジョンが付くから」


「狙われるとしたら、エイブリックかアルじゃないのか?」


「もしアルが狙われて殺られたら、エイブリックさんは俺の身分を王家にすると思うんだよね。そしたら俺に王位継承権が生まれるだろ? だから狙わないと思うんだよ。ドン爺とエイブリックさんが権力を楯にごり押すのは敵も分かってるだろうし。アルを倒しても競争相手は減らない事になるからね」


「なるほどな。前王が狙われる可能性はあるのか?」


「まだ全部の権力をエイブリックさんに移行したわけじゃないから、ドン爺が殺られたら混乱が発生するでしょ。その隙に何かするかもしれないかなって。だから一番狙われるのはエイブリックさん、次がドン爺、で最後がアルってわけ」


「お前はどうすんだ?」


「馬車に乗ってるフリをして、外から警戒する。魔法の遠距離攻撃があったらすぐに狙撃出来るし、魔法が見えたら先制攻撃も出来るから」


「なるほどな。で、万が一の時にアイナが待機か。良く考えたなお前」


前世にテレビで見たとか言えない。


「治癒の腕輪もあるから即死だけ免れたらなんとかなると思う」


アーノルドには言わないけど、一番恐いのがパレード中に軍部がクーデターを起こすことだ。まだ隊列の詳細を聞いてないけどこういう時は軍も参加するからな。


もしくは脱け殻になった王城を占拠されるとかか。もし軍部がクーデターを起こすなら同時進行で行われるだろう。これはエイブリックに要報告だな。


「ゲイル、ドワンにも協力を仰ぎなさい。アルの護衛も強化しておいた方がいいわ。あの子達、エイブリックや前王に何かあれば飛び出すでしょ。抑える役目もあるし、それに楯役は本職にさせた方がいいわ」


なるほど。


「分かった。明日おやっさんの所にいって来るよ」



ーその頃のダン達ー


「おやっさん、俺達結婚することになった」


「そうか。いつから一緒に住むんじゃ」


「まだ正式に決めてねぇが、1年後くらいになるかな」


「そうか、わかった」


・・・

・・・・

・・・・・


「なんじゃ? 話は聞いてやったじゃろ? まだ何かあるのか」


「いや、もうねぇ・・・」


「なら、さっさと帰れ」




トボトボとダンが帰って来た。


「どうだった?」


「一応報告は出来た」


「それにしては元気ないね?」


「わかったとしか言ってくれなかったんだ。俺はいいが、ミケがちょっとな」


ミケは二人の結婚を喜んでくれなかったドワンにショックを受けた様で前に住んでた使用人の部屋へ行ってしまったとのこと。


ったくドワンの奴、いつまで拗ねてんだよ。


「俺は明日おやっさんの所に用事があるから行って来るよ。ダンはミケに付いててやって。あいつ感受性が豊かだからショックも強いだろうし」


「大丈夫かよ?」


「おやっさんの所にしか行かないからね。大丈夫だよ」



翌朝からドワンの元へと向かう。


「おやっさん、話があるんだ小屋に行こう」


「なんじゃ藪から棒に」


「いいから早く。シルバーに乗って」


ドワンに有無を言わせず森の小屋に移動。



「で、話しとはなんじゃ?」


「話は2点。一つ目、エイブリックさん達が即位の御披露目を王都内で行う。その時に護衛をお願いしたい。これは父さん達にもお願いした。で、2つ目、ダン達になにしたんだよっ!」


俺は怒っていた。いい歳したじじいが拗ねてミケを悲しませた事にだ。


「何をそんなに怒っておるんじゃっ」


「ミケがおやっさんに冷たくされてショックを受けてんだよっ! いったいどんな対応したんだよっ!」


ドワンはちょっと気まずそうな顔をして逆ギレする。


「ワシのせいかっ! さっさと言いに来んのが悪いんじゃっ」


「おやっさんが報告させなかったんだろっ!」


「アーノルド達に言うた次の日でも言えたじゃろうがっ! それにアルの祝いの場でもなっ」


「父さん達に報告した次の日の朝に言おうとしたんだよっ! そしたらおやっさんがバンデスさんとずっと喧嘩してたから言う暇なかったんだろっ! ジョンの祝いの時は主役がジョンだから遠慮しただけだ。ちゃんと次の日もその次の日もダンとミケは報告しようとしたのに、聞こうとしなかったのはおやっさんだろ? 歳食ってボケたのか自分でやったことを!」


「誰がボケたんじゃっ」


「よーく、思い出してみろよ。ダンは何度もおやっさんに話しかけてただろ? それを拗ねて無視したの誰だよっ? よくそれで報告せんとか言えるよなっ」


ぐぬぬぬぬっと反論出来ないドワン。


「その話は後じゃ。先に護衛の件を聞かせろ。エイブリックがワシに依頼したのか?」


興奮した俺も大きく息を吸ってパレードの説明をする。感情はともかく重要度はこちらの方が上だ。


「エイブリックはその話を飲むのか?」


「飲んで貰うよ。国の為に」


「国の為か・・・ わかった。護衛団の鎧は変わっておらんな?」


「変わってないと思う」


確認しておけとのことなので、調べて手紙を出すと約束する。


「商会へ帰るぞ」


「ダンの話は?」


「そこでする」


ということでまた商会へ。



「これじゃ」


ドンとダンの為に作った魔剣を取り出して俺の前におく。


「ワシはアーノルドにダンの事を聞いて、こいつを慌てて取りに帰ったんじゃ。祝いにくれてやろうとな。それがいつまでたっても言いに来ん。腹が立つのも解るじゃろ」


あー、すぐにおめでとうと言ってやりたかったのか。あれだけ欲しがってた魔剣も祝いにやるつもりで。


「おやっさん、俺の説明は理解しただろ?ダンはすぐにおやっさんに報告したかったんだよ」


「む・・・ワシが悪かった。ダンにそう

伝えておいてくれ。それとこれを」


「いや、直接言ってあげて。それとその魔剣はしかるべき時に渡してあげて欲しい」


「しかるべき時とはいつじゃ」


俺は自分の構想を話した。


「なるほどの、それはダン達は知らんのじゃな?」


「言ってない。極秘裏に進めるから言っちゃダメだよ。絶対嫌がるから」


「ふむ、わかった。確かにその時に渡した方がいいの」


こういうのは早いうちの方がいいし、俺も戻らなければならない。


ドワンは自分の馬に乗り、屋敷に移動する。



「おやっさん・・・」


ダンの隣にいるミケは少し悲しそうに笑って手を振る。


「ダン、ミケ。すまなんだ。ワシはちと虫の居所が悪くての。お前達に八つ当たりをしてしまったんじゃ。めでたい話じゃというのに申し訳ない。今更じゃが、結婚おめでとう。心から祝うぞ。幸せになってくれ」


ミケはそれを聞いてパッと明るくなる。


「おおきにっ。ドワンのおやっさん!!」


ミケはドワンに飛び付いてお礼を言った。よさんか、くっつくなと照れるドワン


「おやっさん、ありがとう。俺が救われるきっかけを作ってくれたのはおやっさんだからちゃんと報告したくてよ・・・」


ダンも涙を浮かべている。


「ダンよ、本当にすまなんだ。今まで辛い思いをしてきた分をちゃんと取り戻せ」


「あぁ、勿論だ。ありがとうおやっさん」


よかった。やっと元通りだ。


しばらくそのまま歓談しながら、ダンが俺の護衛をするのは今年までになることを報告する。


「相変わらず生き急いどるの。しかし、坊主がしゃべれんフリをしてた時が昨日のようじゃわい」


「あとね、成人したら遺跡探索に出ようと思ってるんだよ」


「シルフィードと二人でか? 危険じゃぞ」


「俺もそう思うんだよね」


「どうする気じゃ?」


「おやっさん付いて来てくんない? リッチーの居た遺跡に何があるか興味があるんだよね。それに場所も知らないから連れてってよ」


「ワシに二人のお守りをさせるつもりか?」


「おやっさん、盾役だろ? ちょうどいいじゃん。俺達を守ってよ」


「けっ。虫の良いことを考えておるの」


「ダメなら二人で行くけど」


「だーっ、解ったわい。考えておく」


「じゃ、宜しくね。俺達はもう戻るから」


「は? 泊まっていかんのか?」


「結構忙しいんだよ。鎧の件は手紙出すから宜しくね」


俺はそう言い残してディノスレイヤ領を後にした。



「ったく、坊主はいつも勝手じゃのう」


呆れたように言うドワンの顔は笑顔だった。


「ドワン」


「なんじゃ、アイナ」


「王都に店を移したら?」


「なんじゃ藪から棒に?」


「ゲイルが居なくなって寂しいんでしょ?」


「そんな訳あるかっ! いっつも急な用事ばかり持ち込む奴がおらんようになってせいせいしとるわっ」


「あら、そうかしら?」


「当たり前じゃっ」



ドワンはバンデスにゲイルはもう一人立ちして、お前の力はさほど必要とされておらんのではないかと言われたのがきっかけで大喧嘩をしていたのであったのだ。薄々それを感じていたドワンは逆上して今に至っていたのだ。


それがまだ必要としてくれていることが解って嬉しいのが顔に出ていたのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る