第545話 国の成り立ち
一週間後、エイブリック邸で色々な話を聞かされる。
「ゲイルの忠告があった通り、ダッセル達に不穏な動きが見られたから隠密を付けてたんだがな、お前のお陰で助かったんだ」
「どういうこと?」
「あの治癒の腕輪だ。ダッセルが放っていた草と呼ばれる隠密は相当優秀でな、うちの隠密達と戦闘になったんだ。こっちは3人、向こうは1人だったにも関わらず危うかった。腕輪のお陰で無事始末出来た。改めて礼を言う」
「腕輪預かってる?」
コトっとエイブリックが腕輪置くので治癒魔法を補充しておいた。完全に魔力がなくなってるから死にかけたんだろうな。
「これでダッセル達に情報が抜かれる事がなくなって無事戴冠式が出来たってわけだ」
「へぇ、もしもの為に持ってて貰って良かったね」
「そうだ。こっちが隠密3人を失ってたら相当不味かったからな。が、まだ安心は出来ん。証拠も何もないから処分も出来んから、次は何をしてくるかだ」
「何かしてきそう?」
「実はスカーレット家がダッセル側に付いた節がある。まだ証拠はないがな」
「マリさんち?」
「そうだ。前にお前から預かったこれを覚えてるか?」
「あぁ、ぶちゅー商会のやつね。なんか分かったの?」
「これを作ったのは他国だ」
え?
「セントラル王国が作ったの?」
「いや、大エヌ王国という小さな国だ」
ダンがその名前を聞いてピクッとする。
「うちの国とセントラルの中間近く、というかセントラル寄りにある国でな。ウチも付き合いがない事はない。王家と直接付き合いがある訳ではないが、スカーレット家とは貿易をしていたりするんだ」
なるほど、戦時中でも商人は取引してたりするからな。直接争っているわけでもない国なら取引あってもおかしくはない。
「で、なんでその国が偽物作ってんの?」
「スカーレット家がお前の所の商品を大エヌ国に流しているみたいだ」
「まぁ、輸出禁止商品でもないから問題ないよね?」
「そうだ。が、スカーレット家は偽物が出回り始めていた事を知っていた節がある。どういう意味かわかるか?」
「偽物作りに関与しているかもしれないってこと?」
「まだ疑いの段階だがな」
ふーん、大貴族のやることにしちゃセコイな。事実だとしたらなんのメリットがあるんだ?
「まぁ、もう売れないから無駄な仕掛けだったんじゃない?」
「今の所はな。が、そのうちお前の所で作っているものが全部真似されるぞ」
「そうすれば処罰すればいいじゃない」
「売り先はウエストランドじゃなく、セントラルにだ。他国が作って他国に売られたらうちはどうしようもない」
「まぁ、それはしょうがないね。防ぎようがないよ。軍事品じゃないし、調理器具とかだから。腹立たしいけど、うちはセントラルと取引しているわけじゃないから実損はないよ」
「調理器具とかならな。お前、これから戦闘用の機械とか作ったりしないよな?」
「その予定はないよ。なんで?」
「いや、もし作れても作るな。それが敵に渡ってしまったらどうしようもなくなる。まずイーストランドを抑えられ、中央から東が全部敵に回る可能性が出て来るからな」
作る予定はないけど・・・
「で、スカーレット家が調理器具を横流したのがそんなにまずいの?」
「娘のマルグリッドがいるだろ?」
「うん」
「あいつは成人と同時にドズルと婚約するようだ」
え?
「ドズルってブランクス家の息子と? なんであんなゲスいやつと?」
「スカーレット家、つまり東の辺境伯領は元々うちと遠い親戚関係に当たるのは知ってるか?」
「いや、この国の始まりの地というのはこの前聞いたけど」
「そうだ。この国は東の辺境伯領から出来たのだ。というより、全てはセントラル王国から始まっている」
「ん? どういうこと?」
「各地に人は住んでいただろうが、大国と呼ばれる3国はいずれもセントラルが由来と言われている」
「一番古くからある国がセントラルなの?」
「と言われているのだ。詳しい文献は残っていないから真偽の程は確かめようがないがな」
「で、この国の始まりは?」
「セントラル出身の者が元々東の辺境伯領に国を作り、それを潰そうとしたセントラルといざこざが続く、そこでより安全であるここに国の中心を移したのだ」
なるほど、国の始まりとはそういうことか。
「その時にここと東の辺境伯を治める当主のどちらが王になるのか内乱となり、勝利した我が先祖がウエストランドと名付けて今に至るのだ。その時にスカーレット家の先祖が勝利していたら立場は逆転していたかもしれんな」
「その時にセントラルに攻められなかったの?」
「向こうも内乱があったらしい。どこの国も似たようなもんだ。内乱で国が荒れた後、立て直す為にスカーレット家とは和解し、王家に次ぐ身分ということになった。それがこの国の成り立ちだ」
へぇ、スカーレット家のプライドはこういう歴史から来てるのかもしれんな。ウチが本家だとか言い伝えられてるだろうからそうなるよな。
「で、なんでドズルとマリさんが婚約するの?」
「スカーレット家の復興というか、本来あるべき姿に国を戻そうとしているなら、軍部と繋がるのはおかしい話ではない。お前が言っていた軍部のクーデターってやつだ。スカーレット家に付く貴族も多いから成功する可能性はある。内乱になったら軍部が付いてる方が圧倒的に有利だしな」
あー、クーデターを起こして国を乗っ取り、ドズルを王にマリさんを第一妃にとかならブランクス家とスカーレット家の思惑が一致するな。
そうか、調理器具とかの偽物は試験的に作らせて、クーデター後でも同じような物が手に入る仕組みを作ってると考えれば納得がいく。俺もディノスレイヤ領もエイブリック側に付くのは間違いがないからな。
「クーデターは本当に起こりそう?」
「今の所は大丈夫だ。細かな目も潰してある。父上に東の領地に出向いて貰ったのもその牽制の為だ」
これはエイブリックが南の領地に来た時のことだな。
「マリさんとドズルの婚約はどうするの?」
「それにはさすがに口を出せん。王が取り止めろと命令するならその理由が必要だからな。お前ら怪しいからやめとけとか言えると思うか?」
「無理だろね」
「方法がないわけではないがな」
「何?」
「お前がマルグリッドと先に婚約すればいい。お前ならやれるだろ?」
「やれるかっ! それにそんな事をすればグリムナさんが怒るに決まってるじゃないか。あの人はもう俺とシルフィードが結婚する気満々なんだから」
「お前は本当にシルフィードと結婚するつもりがあるのか?」
「いや、大切な人に変わりはないけど、恋愛感情とかそういうのは俺にはないんだよ。ミーシャとかと同じ。これは本人にもグリムナさんにも言ってあるんだけどね」
俺は前世の記憶があるのもあるが、この世界に子孫を残すつもりはない。もし、子供が出来て、俺と同じような魔力を持ち、元の世界での事を知っているなら耐えられるだろう。が、その可能性は低い。能力は魂に左右されるところが大きいからな。当然子供は自分が俺の後を継げると思うだろうけど、俺がやって来たことと比較される。それで領地運営の才能がないなら領民達が苦労するし、それを自覚した子供は尊大に振る舞って自分を大きく見せようと虚勢を張るかもしれないし、潰れてしまうかもしれない。大穴にベットするにはリスクが高すぎるのだ。
俺の考えは血の繋がりより、能力のあるやつが領地運営や商売を引き継げばいいと思っている。領民の事を考えたら血筋より能力だ。血統重視のこの世界で流れを変えることが出来るのは今の所俺だけだからな。
「おい、ゲイルっ 聞いてんのかゲイルっ」
いかん、またトリップしてた。
「ごめん、聞いてなかった。なに?」
「褒美は何がいいか聞いてんだ」
「なんの褒美?」
「今回のお前の助言に対してだ。あの時にお前がクーデターの話をせんかったらヤバかったかもしれんだろ?」
「それはいいよ。俺が何かしたわけじゃないし、実際に色々と動いてたのはドン爺とエイブリックさんだからね」
「お前には色々と借りが溜まってるからな、すこし精算する必要があるのだ」
「いや、もう十分色々と貰ってるよ」
「そう言うなよ」
「じゃあ・・・」
「じゃあなんだ?」
「いい王様になってね」
「なんだそりゃ?」
「俺が望む事だよ。エイブリックさんがこのまま平和で豊かな国を作っていってくれるのが一番の褒美だよ」
「ふんっ、生意気な口を利くやつだ」
ふてぶてしく笑うエイブリック。ここはイヤミで返しておこう。
「では、王様のご機嫌を損ねてしまったようなので、退席させて頂きます」
しばらくはここにいるから、普通に話をしに来いと言われて俺はエイブリック邸を後にした。
あ、パレードの護衛の件言うの忘れたな。次に来た時に話せばいいか。
「ぼっちゃん」
「なに?」
「大エヌ王国ってのは俺の国を滅ぼすきっかけを作った国だ」
え?
「やつらは狡猾だ。十分気を付けてくれ」
あ、これはやっぱりフラグだな。
嫌な予感がフッと脳裏を過ったゲイルであった。
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