第543話 ジョンのお祝い

朝からぶちょー商会にむかうとタンコブと目の周りを青く腫らしているドワンとバンデス。治癒魔法を掛けてやろうとすると、タバサが不要だと言うので止めておいた。このみっともない顔でパーティーに参加して恥を掻けばいいとのこと。


「で、坊主。今回は何を作らせる気じゃ?」


「親方いる?」


「ワシじゃなくて、ミゲルに用があるのか?」


「そうだよ」


「がーはっはっは、ほれ見ろ。ゲイルにまで愛想を尽かされよった。お前になんぞ用はないとよっ」


「なんじゃとーっ」


バンデスがいらんことを言うからまた始まったじゃないか・・・


暴れる二人を放っておいてタバサがミゲルを呼びに行ってくれた。


「ワシは今から仕事に行くんじゃぞ、どんな用件じゃ?」


「木の加工が得意な大工を派遣してくれない? 楽器作りを手伝ってほしいんだよ」


どんなのだ? と聞かれたので説明していく。太鼓関係だけでなく、ギターやバイオリン、チェロとかも作って欲しい。あとは松ヤニとか硬い木とかの手配をお願いする。


「ワシはいかんでいいのか?」


「親方は忙しいでしょ? 職人を派遣してくれるだけでいいよ」


「ほーれ、ミゲルも用無しじゃ」


ドワンもいらんことを言うので、3人で暴れだす。ほんとコイツらは・・・


呆れるタバサに夜のパーティーでねと言い残してその場を去った。付き合ってられん。



俺達は森に移動して蒸留酒作りをしていく。スライムも元気だ。あとはシャンパンを濾過して瓶詰め。少し今年のしわくちゃ葡萄のワインを足しておいた。これでシャンパンになるだろう。俺が成人するときが楽しみだな。


ダンに初年度に作った蒸留酒を試してもらったらかなり旨くなっているとのこと。匂いを嗅ぐと香りも柔らかくなって良くなったな。


ドワンの所で上等な瓶を作ってもらおう。エイブリックの王位のお祝いにしたら喜ぶかな? なんせ初出しだからな。おっと、ドン爺が拗ねるかもしれないから2本必要か。ミサにボトルの装飾を発注しなきゃな・・・


「ぼっちゃん、そろそろ帰ろうぜ」


全部終わらなかったのでまた明日来よう。



夜に迎賓館でジョンの祝いだ。アルも成人なので一緒に祝うことに。


マルグリッドは正装というかパーティー用の服を用意してきたのか。俺達は普段着だからちょっとマルグリットだけ浮いている。平服でいいからと言われてたのに、一人張り切ってパーティードレスを着てきてしまったような違和感が半端無い。


「ジョン、アル。成人おめでとう。あと叙爵もな。これからお前達の新たな門出だ。行動には責任が伴うということを自覚して、自分達の道を歩んでくれ」


ジョンとアルに木槌を持たせて、ワインの樽の蓋をせーので割らせる。日本酒の鏡割をワインでやらせたのだ。


カンパーイ


おめでとう!!


和やかな雰囲気で始まった成人の祝い。アーノルドは大勢呼ぶか迷ったそうだが、アルも居るし、ジョンの知り合いはほとんど居ないので身内だけですることになった。



「ジョン、アル。これは貴様らへの祝いじゃ」


タンコブだらけで目の周りを青くしたドワンが二人に成人の祝いの剣を持ってきてくれたようだ。


ジョンには少し黒み掛かった鈍く光る剣。光輝いて華麗に見える剣ではない。礼を言って受け取ったジョンはズシッとした重さに少々戸惑う。


「これは・・・」


「お前にはこういうのが向いておる。まだ重く感じる間は修行不足じゃ。普通の剣と同じように扱えるようになれ。そうすればどの攻撃でも一撃必殺の剣になるじゃろう」


ジョンは遊撃タイプじゃない。手数より一撃への重きを置いた剣か。


「アルにはこいつじゃ」


アルのは炎の魔剣。ジョンのより細身で薄く、手数を優先したような感じだ。攻撃力の少なさは炎を纏わせる事でカバーするんだな。ドワンは自分の魔銃から炎の魔石を取り出しただろうから、また作って渡しておこう。


「ありがとうドワン」


「お前はこれから国の為に働くのじゃ。まずは己を守る事を優先して戦え。有事の際には敵を倒すより己が助かる道を切り開け。敵を倒すのはジョンに任せるんじゃ」


将が討ち取られたら勝負は負けだ。ドワンはその事を言いたいのだろう。


ドワンが二人に伝えた言葉はジョンとアルを成人と認め、お互いの責任を実感させるものだった。



「では俺からも祝いの一曲を・・・」


ポロロンポロロンと演奏を始める。思い入れのある俺と違ってメロディだけを聞かされる皆はぽかんとしていた。


あ・・・これ、忘年会でオッサンが自慢気に覚えたての楽器を弾いたやつと同じだ・・・


やっちまったな・・・



「あはははは・・・ ジョン、アルおめでとう・・・」


盛り上がると思ってウキウキしていた俺の心は砕かれてしまった。新入社員時代に見たあの上司と同じ事をしてしまったのか・・・


「ゲイル、見事だったぞ。ありがとう。バイクとはなんなのか良くわからんかったが、お前が言うのだ。きっと大切なものなんだろう。その言葉は胸に刻み込んでおくぞ」


あ、自分で演奏してて気持ち良くなってサビとか歌ってたのか・・・ ジョン、バイクがお前にとって大切な言葉になってしまったことを申し訳なく思う。君にとってはなんの意味も無い言葉なんだよ・・・


「ねぇゲイル、人の大切な物を盗んでいいの?」


「いや、今の時代はコンプライアンス上良くないかもしれないね・・・」


シルフィードは俺が訳の分からない返答をしたことで頭に? マークが浮かんでいた。


ベントも何か祝いの品を渡していたがなんなのかよくわからない。あいつなりの精一杯の気持ちだろう。


あと、マルグリッドが大きな包みを渡している。なんだろうか?


ジョンがガサガサと袋を開けて中身を出すとパーティーに着ていくような服一式だった。しっとりと落ち着いた黒の服。フォーマル服だな。


「服?」


あまり服には興味のないジョンが? マークを頭に浮かべる。


「アル様はこれからパーティーに参加することも増えますわ。護衛の方もそういう服が必要になりましてよ」


「それねー、マルグリッドがデザインしたんだよー。で、ショールの所で作って貰ったんだ。サイズ直しも出来るから今着てみせてー」


そうだったのか。やるじゃん。


部屋に行ってその服に着替えてくるジョン。おおー、似合うじゃないか。華やかではあるが主役より目立たないバッチリのデザインだよマルグリッド。


「サイズは大きいが直すほどでもないな。ありがとうマルグリッド、ミサ」


ミサは私はなんにもしてないよーと言っていた。


「まだ背が伸びてらっしゃるから大きめで作ってもらいましたのよ。よくお似合いですわ」


「うん、着心地もいいよ。剣を振っても邪魔にならない」


全員普段着の所に正装のジョンとマルグリッド。もしかしてこれを狙っていたのだろうか? とてもお似合いに見えてしまう。


アーノルドよ、頼むからいらんことを言うなよ。お似合いじゃねーかとか。


「お前ら、お似・・・ぐふっ」


案の定いらん事を言い掛けたアーノルドに土魔法の弾を腹に撃ち込む。二人の立場を考えろってんだ。


祝いの席で俺に怒鳴るのを堪えたアーノルドはニッコリ微笑んでつかつかと寄ってきて頭をグリグリしやがる。お前の余計な一言がゴタゴタを巻き起こす種になってる事に気付けよ。そう心の中で呟いた俺もアーノルドの腰骨をグリグリ仕返す。


「うひゃひゃひゃひゃ、やめろっ。くすぐったいじゃねーかっ」


痛みを与えたつもりがアーノルドのくすぐりポイントに入ってしまったようだ。


それを見てクスクスと笑うマルグリッド。


「仲が宜しいですわね」


なんか親子でベタベタしているのをからかわれたみたいで恥ずかしい・・・



ビュッフェ形式の食事を楽しみながら、それぞれが歓談しているなか、ふとダンを見るとブツブツと何か不満を漏らしている。


「どうしたんだよ?」


「俺には魔剣をくれないくせに、アルにはあんなに簡単にくれてやってよ・・・」


それで拗ねてたのか。


もうダンは魔剣より大切な物を手に入れたんだからと言いかけて気付く。


「ダン、もうおやっさんにミケとの事を報告した?」


「昨日しようと思ったらバンデスとあんなんだったろ? まだだよ」


あー、ドワンがずっと苦虫を噛み潰したような顔で酒飲んでるのはそのせいか。アーノルド達に聞いたんだろうな。でも自分の所に報告に来ないダンにイラついているに違いない。


「ダン、ここで報告したら?」


「今日はジョン達が主役だろ? 明日おやっさんの所に行って報告するわ」


それもそうだな。来賓が主役より目立ってはいけないからな。



こうしてジョン達の祝いはお開きとなった。




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