第540話 青春はいくつになっても
翌日からのドワーフの工房にはエルフ達も参加し始めた。
こんな音がなるのはどう? とか希望が出てきたようだ。イナミンはドラムなら南の領でもすぐに取り入れられるかもしれないと参加している。
俺は唇をぶるぶるして鳴らす金管楽器系を諦めた。どうやら肺活量が足りないのが原因みたいだ。身体がもう少し成長するまでお預けだな。それならばとマンダリンみたいなギターみたいな物を演奏出来るように吟遊詩人達に教えてもらうことに。
今練習してるのはウクレレみたいな小さめのやつだ。ダンはトランペットやトロンボーンみたいなやつの試し吹きを手伝っている。
前世の俺は楽器はおろか楽譜を読めなかったが、吟遊詩人達と一緒にルールを作る事によって理解出来てくるようになる。
強弱の印はこうとか、和音はこうとかスピードを速く遅くなど、ウクレレを練習しながら決めていく。
若いこの身体は何事も習得するスピードも暗記力も長けている。一度初老を経験した自分にとって、これがどれだけありがたいことか身に染みてわかる。若さは武器だな。
ポロロン ポロロンとウクレレを弾く腕が上達していくのがわかるのが嬉しい。
「ゲイル様は本当に筋が宜しいですね。こんなにすぐに理解して頂けるとは驚きでございます」
マンドリンは教え上手だ。やはり子供は褒められて伸びると言うのが良くわかる。叱って無理矢理覚えさせるより、褒められてやる方が楽しいのだ。振り返ると自分は子供に怒ってばかりだったかもしれない。もっと褒めて育ててやるべきだったかなと今更ながら思う。もう取り返しがつかないけど・・・ あ、爺さん、婆さんが孫に優しく、なんでも褒めてくれるのはこういうことなのかもしれないな。もう俺はそれをしてやれないけれども。
夜になり、宴会が始まる頃にアル達がやって来た。ミグルは来ないと言った癖に、北の街から直接来たので連行されて来たらしい。ずいぶんと早いお帰りだ。宴会が楽しみで定時ダッシュをしたのかもしれない。
そのうちミーシャ達も来るだろうから、魔女っ娘メンバー勢揃いすることになる。これはまた一般客が来そうなので壁を作って目隠しをしておいた。
「お、ゲイルも吟遊詩人をやるのか?」
「練習してるんだよ。自分でもなんか弾いてみたいじゃない」
「そうだな、俺達もやってみたいぞ。な、ジョン」
いや俺は、とか言うジョンも巻き込み、二人はギターみたいなやつを借りて演奏の真似事を始める。
「なんだ簡単ではないか」
じゃーん じゃーん じゃーん
いや、アルよ、全部同じ音じゃないか。左手で弦を押さえずに鳴らすのは演奏とは言わん。
そうこうしている間に宴会が始まるが、ジョン達は吟遊詩人にギターを教えてもらって練習を続けている。まずは3音を正しく鳴らせるように特訓中だ。
ティロリン♪ ティロリン♪ ティロリン♪
やめろっ ポテトが揚がったかと思うじゃねーか
この音を聞くと無性にポテトが食べたくなってしまったので、ダンに屋敷へポテトを取りに行ってもらった。
ミーシャとミケは今日もザックと一緒にやってくる。
「ぼっちゃん、昨日ご馳走になってしまったので、これは差し入れです」
なかなか気が利くようになったザック。食材を持って来てくれた。
「いいのか?」
「はい、大番頭さんが持っていけと」
なんだ、大番頭の気遣いか。ザックを見直して損した。
そうこうしているうちにダンがぞろぞろとたくさん引き連れて帰って来た。
「こいつらも参加したいってよ」
ホーリックや護衛団の人達、ソドムやフンボルト、そしてパリス達コックもやって来た。
「パリス達も来たの?」
「皆様、こちらで召し上がるとのことなので、こちらで作らせて頂きます」
そりゃ、全員こっちに来たら屋敷で飯作る必要なくなるからな。
パリス達にもここで食えと言っておく。
また狙い撃ったり、あゆれでぃーが始まる。そればっかだとすぐに飽きるぞ?
なんか他の曲ないかな・・・?
次の曲を頭の中で検索していく。
ティロリン♪ ティロリン♪ ティロリン♪
まだやってんのアル・・・
「ゲイル様、ポテトが揚がりました。他にご注文はありますか?」
グッドタイミングだな、パリスよ。
「じゃ、スマイルひとつ」
は?
「あ、いや、ナゲットをマスタードソースで」
「ナゲットとは?」
「あ、唐揚げでいいや」
「かしこまりました」
この番号札をお持ちくださいとか言われなかった。
「ズルいよー! 自分達ばっかりー」
ミサとマルグリッドは屋敷に戻ってカンリムから皆がここにいると聞かされてやってきたようだ。
さっそく俺の隣に座ったミサは俺のポテトを貪り食いだす。全部食うなよ。まだ俺は食ってないんだから。
マルグリッドはジョン達の方に座った。
ダンは足湯に湯を入れ、俺から離れて座る。まだ怒ってるらしい。
フンボルトは勇気を出してミーシャの近くに行こうとするも、肉をリスのように頬張るミーシャをみて少し引いてしまったようだ。あいつはお育ちがいいからな。宴会場でのミーシャみたいな人を見たことがないのだ。あまり女性に幻想を抱いてはいけないのだよ。現実はそんなもんだ。
「ゲイル様・・・、僕も混ぜて下さいよ・・・」
誰かにここで宴会をやってるのを聞いたのだろう。ずたぼろになった紋章屋の原作神ロンがやって来た。おまえ、こんな所にまで仕事持ってくるんじゃねえ。描きかけの板とペンキみたいなものを手に持っている。まだ色塗りとかもやってるのかこいつ・・・
仕事道具を取り上げて飯を食わせる。宴会に仕事を持ち込むと皆がしらけるからな。
エルフ達が俺の所にやってきてなんか他の曲は無いかと聞かれたが、まだ検索途中だ。しかし、この期待の目に応えてやらねばならない。
「よし、他のものを見せてやろう」
今取り上げたペンキを使って土魔法で小道具を作っていく。何が始まるんだとワラワラ皆が寄ってくる。
エルフの縦笛を借りて適当に吹く。ソプラノ笛みたいのなら俺でも大丈夫。
ピーヒリャラッヒャッ
コンコンっ
「赤いヘビカモン」
魔法があれば一人二役もお茶のこさいさいだ。
客いじりをしながら赤・黄・緑の蛇を壷から出したり引っ込めたりして芸をしていく。
大ウケだ。マジックも考えたが魔法が使える俺がやっても不思議でもなんでもないからな。タネも仕掛けも分かって楽しめる方がいいのだ。
しかし、これは長時間やる芸では無い。皆で楽しめる物を何か与えなくては延々と何かをやらされるハメになる。
そうだっ、あれをやろうと思い出して吟遊詩人達を呼んで曲を教えていく。これに歌はあるのか?と聞かれたので、曲だけだけど全員参加出来るものだよと説明。本当は歌詞があるそうだがそんなのは知らん。
皆を呼んで躍りを教える。そうオクラホマミキサーだ。いや、オクラホマミクサーだっけか? まぁどちらでもいい。
男女に別れて輪になり、吟遊詩人達が演奏を始める。おい、同じ方向に動いたら相手が変わらんだろがっ
「そんな事をしたらリンダが他の男と手を繋ぐことになるだろうが」
イナミン怒る。
「そういうもんなんだから諦めて。皆が仲良くなるためのものなんだから。交流だよ交流。領主たるものそんな細かいこといちいち気にしちゃダメだよ」
「そうよ、あなたも他の女性と手を繋げるのよ?」
「う、うむ・・・」
何ちょっと嬉しそうな顔してんだよイナミン。
ということで仕切り直し。
踊り方が覚えられないとか言う人もいるけど、そんなのテキトーでいいから。取りあえずくるんと回しておけ。
ちゃらちゃっちゃっちゃららちゃっちゃっちゃ♪
初めはぎこちなく踊り始める人々。人数が合わないので一人で踊る人も出てくるけど気にしない。人数合わせに男を女の輪に入れたら悲劇だからな。延々と男と手を繋ぐハメになってしまう。俺は指導ということで見物だ。
おっ次はダンとミケか。
おーおー、初々しいのう。目線を合わせたり外したりとかホワホワした空気が流れてやがる。
あ、もう次だ。お互いに名残惜しそうに視線をふっと重ねたあと次の相手に変わる。他の男と踊るミケ、エルフと踊るダンを見てお互い焦れったそうだ。
「ふんぎゃーーーっ。これはそんなに回すもんじゃないじゃろーがっ」
アルがミグルをグルグル回したようだ。何やってるんだよお前ら・・・
ジョンとマルグリッドが踊る番だ。マルグリッドの上目遣いにジョンはドギマギしているのがここから見てても分かる。相変わらず手玉にとられてんなぁ。
フンボルト、ちゃんと手を繋げ。綺麗どころ揃ってんだからチャンスだろ?
ウブなフンボルトは真っ赤になって、手を繋ぐフリだけしている。男子小学生かテメーは。
2回目のダンとミケペアだ。しかし、ダンは30歳越えてんのに思春期みたいな感じだな。まぁ、その頃に大切な者を失って青春とかちょっとしかなかっただろうからな。せいぜいミケとそれを取り戻してくれ。
そういや、これの終わり方ってどうやるんだっけ? もう半世紀位前のことだからよく覚えてないわ・・・
俺が終わり方を教えてないから、それからも何周も踊り続けたみんな。
もう終わってもいいんじゃない?
とか思っても終わらなかった。よく飽きない事に嫌になるのと同時に驚きだ・・・
ポロロン ポロロン
俺は終わらないオクラホマミキサーの横でウクレレを弾いていた。
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