第539話 ヤキモチ

楽器が入ると宴会が一気に盛り上がるな。いまもウラウラやってる。よく同じ曲だけで飽きてこないもんだ。


俺も十八番の天城を越えてやりたいが、皆なんのこっちゃわからんだろうからやめておこう。ここはタンバリンでも作って盛り上げるか。


土魔法で枠作ってちっちゃいシンバル付けていってと。振るとシャンシャンと鳴る。こんなもんだな。


よし、狙い撃ってるところに参戦だ!


「イェーーーイっ!」


シャンシャンシャンシャン


俺の変わりように皆は一瞬ビクっとするがそこは元宴会ぶちょー、シラフでも乗り切ってやる。人はこれをスイッチと呼ぶのだ。カチっとONされたら違う人にならなければならない。


歌ってる人のリズムに乗せてタンバリンを叩いたり、合いの手を入れて盛り上げるのは営業マンの鉄則だ。歌っている人の演奏の邪魔にならないように強弱を付ける。そう、決して自分は次に何を歌おうかと選曲しててはいけないのだ。



・・・・い・う・ちっ♪


シャランシャランシャンシャン


「ヘイッ!」



だんだん皆もスイッチONされた俺に慣れてますます盛り上がっていく。


「ゲイル、なんだそれは?」


「タンバリンって楽器だよ。こうやってシャラシャラならしたりするんだ。歌が盛り上るだろ?」


「ねぇゲイル、イエーイとかヘイって何?」


「なんだろね? なんでもいいんだよこんなの。意味はないよ」


「ふーん」


なんか納得いかないシルフィード。


「別に意味無くても盛り上がればいいんだよ。俺が言ったことを同じように繰り返してみ」


「繰り返すだけでいいの?」


「そう。同じ様にね。初めは俺があゆれでぃーって言うから、シルフィはイエーイって返して。その後は俺が言ったように繰り返して」


「わかった」


「あゆれでぃーっ!」


「イエーイ」


そのあとヘイヘイとやっていく。


「あ、なんか楽しい・・・かも」


なにやってるんや? とミケも来たので、掛け合いを教えていく。


「めっちゃおもろいやん。これの続きないん?」


「あるよ」


ということで吟遊詩人も交えて曲と歌を教えていく。


♪ ♪ ふふん♪さまっよー ♪♪ ♪ ふふふんふふん うぉうぉうぉうぉうぉうぉー


「イエーイ!!」


こうして、宴会場の盛り上がりソングが増えていく。


ミケは歌が上手くて盛り上げ上手だ。ノリノリのリンダのダンスとミケの歌はアイドルみたいになっていく。


賑やかな宴会場に何事だ? と見知らぬ人も寄ってきた。もうゲリラコンサートみたいだ。


リンダにはイナミンが近くにいるので観客の男どもは見ているだけだが、ミケはノワールの本物ということもあって、人だかりが出来てチヤホヤされている。モテモテだなミケ。


ふとダンを見るとエルフの綺麗どころに酒を注がれたりしてベタベタされている。ダンはこういうシュッとした美女にモテるのだろうか? ボロン村の美人さん達にもモテてたからな。


シルフィードは人だかりに怯えて俺の後ろに隠れ、ミーシャはザックとばくばく肉を食っている。


そんな盛り上るなか、ミケはチラッとエルフに囲まれているダンに目をやり、ダンはモテモテのミケを見てあまり面白くなさそうだ。俺は俺でザックと仲良く肉を食っているミーシャがなんか面白くない。ドワーフは酒に夢中だ。


なんだよこのカオス?


誰かがリンダに近寄ろうとしてイナミンがそいつを威嚇した所で観客達を解散させた。


「はい、見せ物は終わりだよー。解散 解散」


パンパンと手を叩いて人々を追い払った。


これ、壁作らないとダメだな・・・


「ゲイル様、大変盛り上がりましたね。演奏と歌にこれだけ人が集まって下さるのは嬉しい限りでございます」


マンドリンを始め、吟遊詩人達は嬉しそうだった。



「ゲイル、お前達どこで飯食ってきたんだ?」


ジョンとアルは北の街を視察に行って戻って飯を食い終わったところのようだ。暇だったミグルも同行していたらしい。


「ドワーフ達の宿舎だよ。宴会になっちゃったんだよ」


「森の小屋みたいだな」


「住民達もいるから酷い事になったよ。これから毎晩あんな感じになるかもしれないや」


どんな宴会だったか説明すると、


「よし、明日は俺達もそこで宴会に加わろう。酒も飲める年齢になったしな」


そうか、成人したから飲んでいいんだな。俺の感覚からするとまだまだなんだけど・・・


「軽いのしか飲んじゃダメだよ。二日酔いになって明日仕事出来なくなるから」


「ところで、ダンとミケはなんかあったのか?」


「いや、別に何もないよ。盛り上がり過ぎて疲れたんじゃない?」


ダンとミケは顔を合わせず、お互いそっぽを向いたままだ。ダンはチビチビ飲んで、ミケは氷の入った水を指でくるくる回し続けてる。時々チラッとお互いを見ては何か言いかけてやめるを繰り返している。


先に口火を切ったのはミケだった。


「ダンてモテるんやね」


「そんなんじゃねぇ。エルフ達は人間の男が珍しかっただけだ。俺の事を里で見たことあるやつもいるから話しかけやすかっただけじゃねーか」


「そうやろか? みんなベタベタしてたやん」


「ミケこそモテてたじゃねーか、男どもがワンサカと寄って来てただろ?」


「ウチのはゲイルの板芝居のせいや。ウチやなくノワールとして見てただけやっ」


「いや、ミケちゃーんとか言われてたじゃねーかっ」


周りの皆はなんか険悪な雰囲気にハラハラしているが、俺には甘酸っぱくて仕方がないので、火に油を注いでやる。


「ダンってボロン村の美人さんにもキャーキャー言われてるよな。野性味あって男って感じがモテるんじゃないか?」


「ほら、みてみぃ、モテてるんやんか」


「ミケもバルとか他の店でもミケ目当てに男の客増えるよな。そのうち誰かに付き合って下さいとか言われそうだよな」


「ほぉら、お前目当ての客とかいるんじゃねーか」


「そんなんちゃうわっ」


お互いにエキサイトしてくる二人。まるで中学生カップルを見てるみたいだ。こうなんて言うんだろ? まだ熟してない果実とでもいうのだろうか? あおいレモンってやつ?


「やめろよ二人とも。モテるなんていいことじゃないか。どうして二人はお互いがモテてるの怒るんだ?」


ジョンのストレートがど真ん中に入る。二人ともいい球過ぎて打ち返せない。


「お、怒ってなんかねぇっ」


「ウチも怒ってへんわっ」


「そうか?」


クックックック。めっちゃおもろい。


マルグリッドはクスクスしながら二人を羨ましそうに見ている。


「ウチ、もう知らんっ」


「あぁ、俺ももう風呂入って寝るわっ」


あ、ゲームセットになってしまった。



「ゲイルはアイナの息子じゃと言うのがよく分かるの。わざとやったじゃろ?」


ミグルも気付いてたか。


「だって面白いじゃん」


「どんどん意固地になるやも知れんぞ?」


「大丈夫だよ。ミグル、お前も明日宴会に来るか?」


「変な男に囲まれてはかなわんからな。遠慮しておくのじゃ」


「ミグルに囲む男なんてアレな奴らだろ?」


いらぬツッコミをするアル。


「アレな奴らとはいえなんじゃ? アルなんぞ誰も寄ってこんじゃろが?」


「うるさいっ! 俺は理想が高いんだっ」


「ほぅ、どんな女が好きなんじゃ?」


「こう、背が高くてだな、胸ももっとこう・・・ 後は女らしい言葉使いをする人だ。ワシとかのじゃとかいうやつは女じゃないっ」


「なんじゃとっ」


「ほら、それだ。ミグルは本当はドワーフのオッサンじゃないのか?」


「誰がドワーフのオッサンじゃーーっ!」


この二人も相変わらずだな。


さて、俺も風呂に入ってくるか。



風呂にはダンとイナミンが居て、先に入っていたイナミンがお先にと出ていった。


俺に無言のダン。怒ってやがるな。


素知らぬ顔をして風呂に浸かって声にならない声を出して俺もダンをスルー。

ほら、何か言いたい事があれば言えよ。


何か言いたげにしているダンだったが、そのまま無言で出て行こうとする。


「なぁダン」


「なんだよ」


「人の気持ちって面白いな」


「ん? ぼっちゃんは何が言いてぇんだ?」


「自分の事なのに自分で上手くコントロール出来ない時があるだろ? 不思議だよな」


「だから何が言いてぇんだよっ」


「どうしてそんなにイラついてんだ?」


「イラついてなんかねぇっ」


「そうかな? めっちゃ怖い顔してるぞ。自分でも分かってんだろ。どうしようもないイライラしたものが心にあるのが」


「うるせぇっ」


「まぁ、自分の気持ちはコントロール出来ないかもしれんけど、そのイライラの理由はちゃんと考えた方がいいぞ。自分が何にイライラしてるのかって事をな」


「はんっ、してねぇっつってんだろが」


ダンはそう言い残して風呂から出ていった。



ー女湯ー


ミケは湯船でブクブクして沈んだり、顔を出したりしながらなんとも言えない気持ちを持てあましている。


「あら、泳ぐ練習でもされているのかしら?」


マルグリッドが風呂に来てミケを見てそうクスクスと笑う。マルグリッドはミケから見ても自分より美人だ。でも胸は勝っているとミケは自分に言い聞かせる。


「泳ぐ練習なんかせぇへんわ」


「あらそうですの」


そういって、髪の毛をアップにしたマルグリッドは湯船に浸かる。


「なぁ、マルグリッドって美人やな。オカンも美人なんか?」


「あら、ありがとう。ミケさんに褒められると嬉しいですわ。使用人達は母も私の事も綺麗ですとは言ってくれるけど、本心かどうかはわかりませんわ」


「え? フツーに綺麗と思たからそう言うんちゃうん?」


「貴族社会は建前で出来てるものなのよ。本音で話すことなんてほとんどありませんわよ。例え親子や兄妹であってもね」


「そうなんや。しんどい世界やな」


「そうですわね・・・」


「あーあ、ウチも美人に生まれたかったわー」


「あら、ミケさんは可愛らしくてよ」


「それって建前っちゅうやつやろ?」


クスクスクスクス


「本音ですわよ。ゲイルの所で建前なんて不要ですもの」


「そやろか? マルグリッドはよう笑ってるように見せてるけど、ホンマは笑ろてへんやろ? いつもどっか寂しいとか悲しいとかあるんちゃうか?」


「そんな事ありませんわ。ここは毎日が楽しいのは本当ですのよ。ただ・・・」


「ただ、なんや?」


「それが後1年も続かないというのは寂しいですわね・・・」


「あー、成人するまでしかここにおらんのやったな。ここが気に入ってるならずっとおったらええんちゃうん? ゲイルはアカンと言わへんやろ?」


「そうね、ゲイルは優しいからきっとそう言ってくれるでしょうね・・・」


「ならええやん。戻って当主になる訳でもないんやろ?」


「いえ、私の人生は生まれた時から決まっていましてよ。ここに居られる2年間は籠の中から出られたほんの束の間の自由。しかも鎖付きの・・・」


「そんな鎖、自分でちぎって逃げたらええねん。ウチみたいに」


そう言ってわっはっはっはと笑うミケ。


「残念ながらこの鎖は結構丈夫ですのよ。私の力では無理ですわ。それよりミケさんは心の鎖も切られた方が宜しくてよ。時間と共に切れ難くなる厄介な鎖かもしれませんわ」


ミケはマルグリッドの言った事が難しくてよく理解出来なかったが、なんとなく檻に繋がれている自分を想像していた。


ウチにも鎖ついてんねやろか?





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