第538話 宴会場を作る
屋敷に戻ったらジョンとアルも帰って来ていた。
「アルも王子様だな」
「今までとそんなに変わらんぞ」
「これからが大変だと思うよ。エイブリックさんはやり手だったから同じような事をそのうちやらされるよ」
「何をしていたのだ?」
「さぁね、ドン爺が表の仕事、エイブリックさんは裏で色々と情報集めたり、先回りして手を打ってたんじゃない?」
「俺も父上が何をやっていたのかあまりしらんのだ」
「その内、色々と命令されると思うよ。取りあえずは北の街の改善だね」
「改善? 発展ではないのか?」
「発展よりまずしないといけないことたくさんあると思うよ。まずは隅から隅まで自分で見て回ることだね」
「うむ、そうだな。現状把握というやつだな」
「そうそう。で、アルの私邸はどこに作るの?」
「あぁ、その件だが、父上が使っていたところを貰う事になった」
「エイブリックさんは王邸に移るんだよね。そしたらドン爺はどこに行くの?」
「大公爵邸というのを作ると言っていた。場所はしらぬが、作るのに2年はかかるらしい。それまでは父上は今の場所に住むそうだ」
秘密裏に事を進めてた弊害だな。
「アルもここに住むから良かったよね」
「父上もそう言っていた。ちょうど良かったと」
「ゲイル、ここは不思議な屋敷ね。様々な人が出入りして特に問題が起こらないのですもの。居候している私が言うのもなんですけども・・・」
王子、準王家、文官、東の辺境伯ご令嬢、衛兵隊長、ハーフエルフ、ドワーフ、それに加えてあちこちの領主や護衛団とか入り乱れて出入りするからな。ここだけで一つの国を運営出来そうだ。
この屋敷を貰った時はここを使うとは思ってなかったけど、ずいぶんと思惑と変わったものだ。
「父上、母上、報告があります」
ジョンがアーノルド達に報告があるらしい。
「なんだ?」
「自分も爵位を頂きました」
「本当か?」
「子爵位です。アルが学校を卒業したあと自発的に護衛を行い、献身的に尽くしていることを評価されたとの事でした」
そうか、ベントは領主の跡継ぎで爵位を継ぐ事が出来るが、ジョンは貴族位があっても爵位が無くなってしまうからエイブリックが手を回してくれたんだな。自発的に護衛をしたぐらいで陞爵するわけないからな。まぁ、アルの護衛するのに爵位が無いのは問題になるかもしれないからなのかもしれんが。
「おめでとうございます、ジョン様。ご自身のお力で爵位を頂ける事なんて滅多にございませんことよ」
「ありがとうマルグリッド。実質はアルのお陰なんだがな、ありがたく頂く事にした」
「ジョン様ならもっと爵位が上がると思いますわ」
「そうなるようにこれからも頑張るよ」
マルグリッドはジョンを嬉しそうに褒めた。これは貴族としての振る舞いなのか本音なのかどちらなのだろうか? 今もジョンと嬉しそうに話しているのを見てると普通の女の子なんだけど、貴族ってみな役者だからな。
その後、ジョンの成人の祝いの話をして、日付は15日と決まった。スカーレット家の社交会と同じ日だ。マルグリッドは未成年だから実家の社交会に出ないので問題無いらしい。
翌日、アーノルド達はベントとサラを連れてディノスレイヤ領に戻っていった。少し寂しいなと思う間も無く、イナミン夫妻がやってくる。
「やはり、うちにも社交会の招待状が山ほど来ていたぞ」
「どうするの?」
「全て断る。面倒だ」
うん、シンプルだ。イナミンらしい。
俺達は祝いの日の前日にディノスレイヤ領に移動することにして、ここでの業務を行うことに。
イナミン夫妻は楽器作りを見たいと付いて来た。
手の空いた吟遊詩人達が楽器作りに参加しだした。エルフとドワーフの宿舎近くに楽器工房を作ってあるのを知った吟遊詩人達が自分達も住めないかと聞いてくる。
ミゲルの大工達も来るだろうから増設するか。
「土の建物でもいいかな?」
問題無いと言うことなのでディノスレイヤ領に作った集合住宅を作っていく。ゲイルゼネコン発動だ。作った事があるものは簡単に出来る。
ボコン ボコンと出来ていく建物に皆驚く。知らない人が見たら驚くよね。
魔道コンロとかの設備は後になるから中央広場を作り、バーベキューコンロや自炊出来るスペースを作っていく。
「ゲイルよ、お前本当に何でも出来るな」
「今の所、耐久性がどれだけあるか解らないから、高い建物は作ってないんだけどね」
「いや、十分だろう。それとここのスペースはなんだ?」
「魔道コンロとか手配するまでここで自炊してもらえるようにね。みんな集まって飲み会したりするのもいいだろうし」
「なるほど、宴会するための場所か。もう使えるか?」
「後で炭とか届けさせるから使えるよ」
「よし、俺が食材と酒代を出すからここで今晩宴会しよう。お前達、ここで今晩演奏してくれないか?」
吟遊詩人達も賛成し、ここで宴会をすることになった。これ、毎晩の様に宴会になりそうだな。
楽器作りは任せてロドリゲス商会へ買い出しに。
「ぼっちゃま、いらっしゃいませ」
「ミーシャも板に付いてんな」
「はい。もうどの商品でもわかりますよ。本日は何をお求めでしょうか?」
食材や酒を山ほど仕入れていく。
「あ、ぼっちゃん。いらしてたんですか?」
ザックもやってきた。
「今晩、バーベキューで宴会になってな。その買い出しだ。店は落ち着いたか?」
「はい。ありがとうございました。お陰様で体制を立て直す事が出来ました」
「それなら良かった。15日にジョンの祝いをディノスレイヤ領でやるからミーシャとミケを連れて帰るぞ」
「えっ・・・」
「月末には戻って来るけどな」
「あ、そうですか。戻って来ないかと驚いたじゃないですか」
「ん? もう人の件は大丈夫なんだろ?」
「あ、いや、それはそうなんですけど・・・」
「まだミーシャとミケの手伝いは必要か?」
「あの、出来ればお願いを・・・」
「ミーシャとミケはどうする?」
「大丈夫ですよ。ここのお仕事も楽しいですし」
「ウチもかまへんねんけど・・・」
「けど?」
「なんか、ちょっと物足らんかなぁって、アハハハ」
ミケは一度忙しくなりすぎると言われて帰って来たからな。ダンの故郷から戻って来てから復帰したけど、かなりセーブして接客してるらしい。
「なら、ミケには他の仕事を頼もうかな。ザックはそれでいいか?」
「はい。ミケさんの力を発揮してもらえないのは心苦しかったですので」
という事でミケはディノスレイヤ領に行くまでここで働き、その後はフリーとなった。何をしてもらおうかな。
「この食材とお酒はどこに運びますか?」
作った宴会場の場所を説明する。
「魔道コンロとか手配出来るか?」
「はい、出来ます」
ということなので宿舎の分の手配と設置を頼んでおいた。
「その食材と酒は夕方運んで貰うのにザックが来るならそのまま宴会に参加するか?」
「いいんですか?」
「いいよ。ならミーシャとミケも一緒に連れて来てくれ」
「はいっ」
これで宴会の準備はOKだな。場所も覚えておいてもらったら次から配達も楽チンだ。
ガチャポンプと温泉バルブは持って帰って今から設置しなければ。それと魔道ランプは宴会場と風呂の分もと。
魔力も大分回復したので、戻ってから共同風呂を作っていく。元の宿舎には風呂付けてあるけど、今作った宿舎には無いからな。
まず井戸の設置をしていく。
「ゲイル、これはなんだ?」
「ガチャポンプ。こうやってここを上下させると水が出るんだよ。魔道具で水出すのには魔石がいるけど、これなら不要だしね。今ある井戸にも設置出来るよ」
ポンプをガチョンガチョンするイナミン。
「これは流通してるのか?」
「ロドリゲス商会に言って貰えれば手配出来るよ。ここの宴会に呼んだから後で話してみて」
「わかった」
「ぼっちゃん、風呂作るんだろ?ここのバーベキューんとこにも足湯作ってやればいいんじゃねーか?」
「そうだね。湯をこっちに引けるようにしておくか」
まず風呂場を作ってと
どんどんと出来ていく宿舎の設備。
温泉も深く深く掘り進めていく。もう何本もやってるから手慣れたもんだ。
「ほう、そうやって掘るのか。見てるだけだと何をやってるかわからんな」
「これ、結構難しくてね。見えない所を想像しながら掘り進めないとダメなんだよ」
バルブからバシャッと湯が吹き出したので成功。もう一本は水が吹き出る所で止めてと。
風呂場から土のパイプを伸ばして足湯に引き込むと。
楽器用の真鍮を流用して風呂場と足湯の切り替えバルブを作って完成。
ダンとテストをしていく。
「これはなんだ?」
「足湯。靴を脱いでここに足を浸けると結構暖まるんだよ。歩き疲れて足がだるい時とかにもいいよ」
そんな説明をしながら魔道ランプをダンに取り付けていってもらう。
「ここにも魔道ランプを付けるのか。贅沢だな」
「暗いと犯罪を呼ぶから防犯の意味もあるんだよ。人が増えると犯罪も増えるから」
西の街は道路もどこもかしこも明るい。恐らく王都で一番魔石を使ってるだろう。使用済み魔石は回収して魔力を補充すればいいし、魔法水に浸けておくと一晩くらいで魔力が補充されるのだ。それは秘密にしてあるけどね。
街で使う魔石は街の予算で賄っているから魔石代が俺に支払われている。冒険者活動で大量の魔石を持っている事になっているからだ。嘘ではないよ。それを使わずに魔力補充しているだけで。
完成した頃にザックが荷馬車でやって来た。ミーシャとミケも一緒だ。
ドワーフ達も仕事を切り上げ、エルフ達も集まってくる。さ、宴会の始まりだな。食材はあるから自分達で仕込みたまへ。こんなに大勢の奴をやるのは嫌だからな。
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